ゆっくりいじめ系3084 一家離散:親子まりさ『役割』(後編)

青年が親まりさを連れて行ったのは台所だった。
今なら家族は誰も居ない。手短に済ませなければ。
青年はまず、親まりさの帽子を取り上げると、

「ゆゆっ! やめてねっ、まりさのおぼうしさんかえしてねっ!」

それを細かく手で破っていき、黒い布のゴミを大量に生み出した。
このゴミは後でありすが食べさせられることとなる。

「まりざのおぼうじざんがぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!! どぼじでごんなご────ゆぎゅっ!?」

帽子の処理はただの第一段階に過ぎない。
青年は続いて親まりさを床に押し付けて、膝で挟み込んでガッチリと固定すると、両手で親まりさの金髪を引っ張りあげた。
ただし、今度は持ち上げる動作ではない。膝の力も使った、髪を引き抜く動作だ。

「ゆ゛びい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!? いじゃい゛よ゛っ! いじゃい゛よ゛っ! ばりざのがみのげ、ひっばっぢゃだべぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」

ミチミチと音を立てて親まりさの体が縦に伸びていく。
両頬からかかる膝の力が親まりさの体を下に押しやり、髪を引っ張る腕の力が親まりさの頭を上へと持ち上げる。
額の面積が大きなり、毛根の埋まった頭皮が無理な形へと引き伸ばされて、尋常ではない激痛に親まりさの顔は涙と苦しみに歪んでいく。

必死に目を閉じて痛みに耐えながら、やめてやめてと体をよじって抵抗する。
その僅かばかりの抵抗を、青年は挟み込んだ膝の力で完封する。底部も動かせぬ非力な抵抗など、なんの障害にもなりはしない。
青年が全力で引き抜かんとする親まりさの髪は、力がある一点を超えた途端、ブチンと綺麗に頭皮から離れていった。

「ゆ゛んびゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」

頭皮はちぎれはしなかった。
綺麗に、金髪だけが親まりさの体から離れていった。
青年は引き抜いた親まりさの髪を、今はただのゴミとなった金髪を、同じくゴミと化した元帽子と一緒に山にしていく。
はらはらと青年の手から落ちるかつての自分の髪を、親まりさは呻き声をあげながら、名残惜しそうに見つめている。

「ばりざの……ゆ゛っ、ばりざの、がみのげが……」

しかし、まだ親まりさに髪は残っている。
青年は、速やかに、残りの髪も引き抜いていった。
その度に親まりさの口から絶叫が迸り、こぼれた涙がフローリングを濡らす。
青年が“先にあの処置をしておくべきだった”と後悔した頃には、親まりさの頭には金色のものは何も残っていなかった。

「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……かひゅっ……」

全ての髪を引き抜き終えた頃には、既に親まりさはあまりの激痛に意識を失う寸前であった。
帽子を失い、髪も失い、もはやゆっくり好きであっても個体の判別が不可能なまでの顔だけハゲ饅頭と化した親まりさ。
しかし、まだ終わりではない。最後の仕上げが残っている。

青年はある器具を取り出した。このために台所に来たのだ。
それを手に取った青年は、ゆっくりと床でのびている親まりさへと近づいていく。
親まりさは痛みで悶絶しながらも、まだ意識は保っていた。
だから、視界に青年と、青年が手に持っているそれに気づく事が出来た。

「ゆ゛っ……ゆ゛っ?」

親まりさは知識としてそれは知っていた。
見たことは初めてだったが、その形と、それが何に使うのかを知っていた。
だから、不思議だった。なんでそれが今出てくるのかと。
本来の用途どうりに使われるのであれば、それはもしかしたら親まりさにとっても良いことになるかもしれない。
しかし、一連の流れにはそうはならない。

“それ”は絶対に親まりさに向かって使われる。
どうやって使うのか。どこに使うのか。
それに思い至った時、親まりさはこれまで味わったどの恐怖をも超越した、もっとおぞましい何かを感じた。

ゾクリ、と餡が震え上がり、その想像を頑なに否定しようとする。
だが、青年が“それ”のスイッチを入れて、親まりさにゆっくりと近づけていくにつれ、親まりさは自分の想像が当たっていたことを確信した。




「や゛……、やべでっ、ごないでっ! やべでね゛っ! だべっ! いやだっ! ぞんな……っ!
 ゆっぐりやべでねっ! ごないでねっ! いだいよ゛っ! どっでもいだい゛よ゛っ! ぜっだい、やべ……っ!
 ゆ゛んや゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! やべぢぇよ゛っ! ゆっぐぢでぎないよ゛ぉ゛ぉ゛!! ばりぢゃ、いぢゃい゛の゛い゛やぢゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!
 でいびゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!! ばりぢゃ、いぢゃい゛のいや゛……ぢゃ───! ゆ゛……あ゛っ……ぎゃ…………!!!!」









ヴィィィィィィィィィィィィィ。
ビチュ。
グリュグリュグリュグリュ。
ガリガリガリ。
ミチュ。
ガリガリガリ。
モリュモリュモリュ。

























扉が再び開き、青年が姿を現した時妹まりさは親まりさが戻ってきたのだと思った。
だから、青年が抱えているキャベツ大のそれも、ゆっくりだと信じて疑わなかった。
しかし、妹まりさはその考えを改めることとなった。
何故なら、

「ゆっ! おかーしゃん、かえっちぇき────」

青年が抱えてきた、“ゆっくりと思わしきモノ”には、

「ちぇ…………ゆ゛っ……?」

顔が無かった。

「ゆみゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」

こんな大声を出したことなど、妹まりさは初めてだった。
同じ部屋にいるありすも、妹まりさと同じように叫び声をあげている。
だって、無理もない。

今、青年が抱えているモノは、大きさも、肌の色も、ゆっくりのものだ。
親まりさを抱えて出て行ったのだから、抱えて戻って来たのも、同じくゆっくりと思うはずだ。

しかし、しかしだ。
青年が抱えているモノには、髪も、飾りもなければ、あるはずの顔もない。
顔があるはずの場所には、混沌が広がっていた。

グチャグチャの、滅茶苦茶。
肌色も小豆色も混ざった混沌の広場。
まるで、顔面を何かで攪拌されたかのような破壊されぶり────。


いや、その表現は的確ではない。
“ような”ではない。

親まりさの顔面は、事実。
ハンドミキサーによって蹂躙されたのだ。
他でもない、青年の手によって。
生クリームを泡立てるかのような気楽さで。

小麦粉の皮の肌も。
中身の餡子も。
寒天の目玉も。
砂糖菓子の歯も。

皆、皆。全部が全部。
崩れ去り、混ざり合って、腐海となった。
顔の形に整えられていた菓子達はしかして、全てをゴチャゴチャに混ぜ合わせた生ゴミと化した。

普通の生物ならば致命傷。
しかし、ゆっくりはこれだけされてもなお、生きている。
グチャグチャになった顔面から餡子が零れて死んでしまわぬように、ラップが顔だったところ一面に張られてもいる。

これで、親まりさの名残は全て消えた。
飾りも、髪も、顔も全て無くなった。
声も出せないし、底部も動かせないから動くことも出来ない。
親まりさと固体認識させる要素は、全て無くなった。


「さて、ありす。さっきのまりさじゃなくて、今度はこいつを孕ませるんだ」
「ゆ゛っ!?」

ありすは唐突かつ突拍子もない青年の言葉に驚愕し、恐怖した。
一体、何を言うのだろうか、と。

こんな、こんな顔なしのバケモノと肌を合わせて子作り、しろと?

「や゛……ありじゅ……いや゛、じゃ……」

震えながらかろうじて拒否の言葉を零したありすを、青年は容赦なく蹴り飛ばした。

「黙れ。やれ。殺すぞ」

有無を言わせぬ青年の言葉に、ありすは震え、歯を打ち鳴らし、泣きじゃくりながら従った。
青年が床に置いた顔なしのバケモノに、体を擦り合わせ始めた。
ありすがすっきりー、して親まりさを孕ませるまでに、きっと何時間もかかるだろう。
その何時間の間に、ありすは一体どれだけ殴られることになるだろうか。

ありすが行為を始めたのを確認すると、青年は水槽へと近づいていった。
水槽の側に立ち、上から水槽の中の妹まりさを覗き込んだ青年は、先ほどとは打って変わって優しい口調で語りかけた。

「やぁ、まりさ。さっきはすまんな。君のお母さんはあまりにもかわいそうだったから、今は別の部屋でゆっくりさせてるよ」

青年のその言葉は、呆然としていた妹まりさを立ち直らせた。
青年は今、何と言ったか。

「……ゆっ!? おかーしゃん、べつのへやにいりゅの!?」
「あぁ、そうだよ。残念ながらすぐには会えないけど、ゆっくりしてるよ」
「ありぇは!?」
「あぁ、あの顔ナシのバケモノは別の所から連れてきたものさ。君や君のお母さんとは関係ないよ」
「おかーしゃんじゃないの!?」
「当たり前だろ。あんな気持ち悪いバケモノが君のお母さんなわけないだろ」

一度はそう思っていた事を、青年は否定した。否定してくれた。
アレは親まりさではない。自分の母親ではない。
その言葉に、妹まりさはすがりつくしかなった。

「ゆゆっ! そうだにぇ! おかーしゃんはもっときれーだもん!」
「そうだね」

妹まりさのその言葉を聞き、青年は内心でほくそえんだ。
これでお母さんお母さんと喚くことはあるまい。
上手くできればお母さんに合わせてやると言えば実験にも積極的に取り組むだろう。

お母さんに会いたいと言っても、別の場所にいると言い続ければいい。
妹まりさはそれが嘘だと証明する事はできないし、同じくあの顔ナシが自分の母親だと証明する方法もない。
嘘だと証明できない嘘は真実と同じなのだ。

「さっ、お母さんと会うために、練習頑張ろうか」

青年の水上まりさ製作実験が、ようやく開始された。























「やっ……まりしゃおちちゃうよぉ……!!」

遠くから、我が子の声が聞こえる。
頬に触れるにちょにちょとした感触を感じながらも、親まりさはじっと、妹まりさの声に神経を傾けていた。

「ちんじゃうぅぅぅぅぅ、まりしゃおちちぇちんじゃうぅぅぅぅぅ!!」
「落ちないための練習だろうが。ほら、ちゃんとやれ。寝る時以外は浮き島に乗ることを許さんぞ」

我が子の嘆きが聞こえる。

「たちゅけちぇぇぇぇぇぇ!!! おかーしゃん、たちゅけちぇぇぇぇぇぇ!!」

助けが、聞こえる。

「まりさが頑張って一人で水に浮くことが出来れば、お母さんに会わせてあげるよ」

ちょっとでも気を緩めれば、顔面を苛む激痛に意識をもっていかれない。
それでも親まりさは、気を引き締めて妹まりさの声を拾った。

親まりさはもう何も出来ない。本当に、何も。
何もせず、ただ黙って、じっとして、母体となる。
それだけが、親まりさに許された事。それだけが、親まりさの役割だから。

親まりさはもう、我が子のために出来ることは何も無い。何も出来ない。
出来るとしたら、ただ、祈るだけ。

妹まりさの声を聞き、まだ生きていると確認して、いつか幸せになりますように、と自分以外の何かに託すだけ。
その願いを聞き届けるものは、誰も居ないというのに。


























夜。眠りの時。
日が暮れて、青年が夕食を食べ終えて、夜の練習も終わって、ようやく青年が寝るという段階になって、ようやく妹まりさは浮き島に乗ることを許された。
それまでは、ずっと水に浮かべた帽子の上に乗ることを強制されていた。

落ちれば死亡。その事が妹まりさの精神を追い詰めて、なんとか一度も落ちずにすんだ。
落ちたら青年は助けてくれただろうか。
それとも、代わりはいくらでもいると言って助けてくれなかったのか。

それは分からないが、なにはともあれ、今はようやく、休むことが出来る。
妹まりさは水槽の中の浮き島から部屋の中を見回す。
ここは青年の部屋だ。だから青年もここで寝る。ありすは部屋の隅に置かれたゴミ箱の中に入れられるのを、さっき見た。

そして、水槽の横。
同じ棚の上に置かれた、それ。
ゆっくりならば額と思わしき場所から実ゆっくりを宿らせた茎を生やして、顔なし髪なしの丸いバケモノ。

額からはやした茎には、まりさ種しかいない。
ありす種は、ありすがすっきりー! して茎が生えた直後に、青年が全て潰してゴミ箱に捨てていた。
当然、その捨てられたゴミはありすが片付けた。

こんな、得たいのしれない気味悪いものの側で寝なくてはならない。
それは妹まりさにとって到底ゆっくりできるものではないが、かといってこの浮き島から逃れることも水槽の外に出ることも出来ない。
妹まりさは、仕方なく、目を閉じて視界から、意識から気味の悪い顔ナシを追い出そうとした。

そうして、目を閉じて、ゆっくりと、ゆっくりと意識を睡眠へと移行させていく過程で、妹まりさは、温もりを、欲した。

「ゆぅ……おねーちゃん……おかーしゃん……」

思い返してみれば、誰かと寄り添わずに寝ることなど、初めてかもしれない。
少なくとも、記憶の中では。ここに来る直前の睡眠だって、眠りに入る時は、そばに親まりさがいた。
妹まりさは想起する。
親れいむの温もりを。姉れいむの温もりを。姉まりさの温もりを。妹れいむの温もりを。

親まりさの、温もりを。


いつも、そばにいた。片時も離れなかった、愛しい母親の暖かさ。
今は、どこにあるのだろう。今はどこにいるのだろう。
感じたい。あの温もりを。
今だって、ほら。寸分違わず思い出すことが出来る、あの温もりを。

目を閉じて、夢の世界へと旅立ちながら、親の温もりを探した妹まりさは────。

「…………ゆっ?」

その温もりを、見つけた。
首を傾げた妹まりさの視線の先。そこには顔がグチャグチャに潰れたバケモノ。
だけど、けれども。

「おかー、しゃ……」

さっき感じたあの温もりは、間違いなく、親まりさのものだった。
離れていたのに。触れてもいなかったのに。
水槽を隔てているというのに。

錯覚でもなく、幻でもなく。
妹まりさは、今、確かに。
アレから、親まりさの温もりを感じたのだ。

「おかー、しゃん……」

信じられないといった響きを含んだ呟きが、妹まりさの口からこぼれた。
アレが自分の母親とは、俄かには信じられない。当然だ。

だが。
妹まりさの呟きに、顔ナシは確かに反応した。
自由の無いはずの体を、わずかに、しかし確かに身じろぎさせて、応えた。
妹まりさの呼びかけに、応じたように。

「おかーしゃん!」

それで、確信した。
アレは自分の母親だと。

髪がない。飾りがない。顔がない。
それがどうした。

間違いなく、アレは親まりさだ。自分の母親だ。最愛の肉親だ。
だって、間違いない。
あの温もりは、片時も忘れたことのないあの温もりは。

間違いなく、大好きなお母さんの物なのだから。

「おかーしゃ…………!」

妹まりさは、あれだけ求めた温もりに直に触れたくて、包まれたくて、身を乗り出して────。












ちゃぽん、と。
冷たい腕の中に包まれた。
























翌朝。
青年は水槽に浮かぶ、持ち主を失った帽子を見た。
水槽の中の水は、わずかに濁っていた。







つづく


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最終更新:2011年07月29日 02:46
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