ゆっくりいじめ系192 あるゆっくり育成の記録

 春先。
 ゆっくり達にとっては、長く苦しい越冬が終わりを迎え、食料が不足する季節。
 何とか食料を確保しようと、森を駆け巡り、畑に侵入し、民家にまで忍び込む。
 あるゆっくり一家も、その例に漏れず人間の畑へ忍び込んでいた。
「ゆっくりできるくらい、おやさいさんがいっぱいだよ!!」
「ゆっくりたべようね!!」
「ゆゆ!! これまだちいさいね!!」
「でもおいしーよ!!」
「ここにいっぱいたべものがあってよかったね!!!」
 自分達で見つけた食料を、美味しそうに頬張る一家。
 畑の真ん中で、ささやかに行われている一家団欒。
 無理も無い、冬の間厳しい食事制限があったのだから。
 そのためか、荒々しく音を立てながらやってくる人間がいても気付く事はなかった。
「おい貴様ら!! なにやってるんだ!!!」
 すなわち、直ぐに人間に見つかったのだ。
 それでも、一家は食べる事をやめずに、未だ畑に居座り続けていた。
「ゆゆ!! ここはれいむたちがさきにみつけたんだよ!!! おじさんもゆくりしていってね!!」
「そうだよ!! このゆっくりすぽっとは、まりさたちが……」
「うるせーー!! ここは俺の畑だ!! おまいらが行かなきゃならねぇのは加工場だろうが!!」
 ゆっくりなりの理屈を並べ立てる一家だったが、人間に通じる訳も無く、男はお構いなしに一匹のゆっくり魔理沙を踏み潰した。
「ぶぎゃら!!!」
 少しだけ甲高い悲鳴を上げて朽ち果てた魔理沙。
 その一匹の姉魔理沙が潰されたことが引き金になり、一家は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってゆく。
「ゆ!! ゆっぐりしないでにげるよ!!」
 本当ならまだまだ宴会が続くかと思われた時間。
 その漆黒の闇の中を、命からがら逃げてきた一家が歩いていた。
「れーむのーー!! れーむのあがじゃんがーーー!!!」
「まりざのあがじゃんがーーー!!!」
 この、ゆっくり霊夢と魔理沙夫婦は三十匹もの子供達がいた。
 だが、それも先ほどまで。
 我先に逃げていった子供魔理沙が一番に捕らえられ、その後は助けようとした姉たちがズルズルと捕まっていった。
「ゆーー!! おねーーじゃーーん!!!」
「もっどゆっくりしちゃかっちゃー!!!」
 今残っているのは、つい最近生まれたばかりの赤ちゃんが六匹のみ。
 半数の魔理沙に、半数の霊夢。
 それと両親を合わせて八匹の家族。
 全員が、薄暗い洞穴の中へ入って行く。
 そこは、ゆっくり一家のお家だった。
 しかし、昨日までは三倍・四倍近くいたゆっくり達の楽しそうな笑い声はもう聞こえない。
 シーンと静まり返った音だけが、ゆっくりの家という場違いな場所で響いている。
「ゆーーーーーー……」
 お母さん霊夢が声を漏らす。
 大抵のゆっくりは直ぐに忘れてしまうが、いきなり大量の子供を失ったこの親はそうはいかなかった。
 自分達が見つけた食べ物を人間に略奪されて、その上子供達まで持っていかれた。
 しかし、力の無いゆっくりではどうすることも出来ない。
 自分達は、人間とは比べ物にならないほど無力な存在だから。
「おかーさんゆっくりげんきだしてね!!!」
「れーむたちがいっぱいゆっくりするからね!!!」
「まりさもゆっくりするよ!!!」
 お母さん魔理沙と子供達が一生懸命励ましてくる。
 すると、次第にお母さん霊夢の顔も緩んできた。
「うん!! のこっためんなでゆっくりしようね!!!」
「「「「「うん!!! ゆっくりしようね!!!!」」」」」
 その晩。
 残った一家は何時もより近寄って眠った。
 翌朝、まだ朝露が残っているうちから一家は人里に下りていった。
 目的は、以前聞いたことのあるゆっくりブリーダーの話。
 自分達が人間と一緒にゆっくり出来るように、色々なことを教えてくれる人がいるところ。
 ゆっくり達のおぼろげな記憶だが、これだけはしっかり覚えていた。
「れいむたちもゆっくりできるね!!!」
「あそこでいっぱいごはんがたべれるね!!!」
 昨日は、暗い気持ちで通ったゆっくり道。
 しかし、今日は希望を持って進んでいる。
「ゆ!! れいむ!!! どこかにおでかけ?」
「むっきゅ~?」
 ゆっくり道を抜けたとき、目の前に顔見知りのゆっくりアリスとゆっくりパチュリーが近寄ってきた。
 どうやら、体の弱いパチュリーが出来るだけ平坦な所に家を移していたらしい。
「うん!! あのね!! あのね!!」
 霊夢と魔理沙が、まるで漫才の掛け合いのように二匹に説明する。
 昨日、忍び込んだ所で人間に追い掛け回された事、家族を沢山失った事。
 そして、ゆっくりブリーダーの事。
 全てを話し終わると、真剣に聞いていた二匹が自分たちも付いて行くと言い放った。
「とかいはのありすは、もっときょうようをみにつけたいよ!!!」
「むっきゅ~♪ ぱちゅりーももっといろんなことをしりたいよ!!!」
 人間に襲われないように、と言う本来の趣旨とは外れているが、この二匹もそれぞれ思う所があったようだ。
「うん!! ありすもぱちゅりーもゆっくりしようね!!!」
「まりさと、れいむとこどもたちといっしょにぶりーだーのところにいこうね!!」
 仲間が増えて、喜ぶ一家。
 昨日減った分には及ばないが、馬鹿煩いアリスと、馬鹿へ理屈をかますパチュリーが加わった事で一家の笑顔も柔らかくなっていった。
「それじゃあ!! みんなでゆっくりぶーりだーのおうちにいこうね!!!」
「「「ゆっくりいこうね!!!」」」
 出発するその集団を見つめていた大きな花。
 まさに、その集団の賑やかさを象徴するような花だった。
 だが生憎と、その花はポッキリと折れてしまっていたが……

 ――

 言葉どおり、ゆっくりブリーダーの家へ到着したのは、お昼を回ろうかとした時であった。
「ゆっくりついたよ!!!」
「ここでれーみゅたちゆっくりできるんだね!!!」
「うん!! まりさについてきてね!!!」
 そういうや否や、隙間を見つけ勢いよく中へと飛び込んでゆく魔理沙。
 残されたゆっくり達も、一呼吸おいて中へ入ってゆく。
「ゆゆ!! ひろいおうちだね!!!」
「うわさどおりだね!! ここならゆっくりできるね!!!」
「「「ゆっくりできるね!!!」」」
「おや。どこからはいってきたのかな?」
 ゆっくり達の背後。
 家の中から優しそうな声が響いた。
 ゆっくり達が顔を向けると、そこにはニコニコとこちらに微笑んでいる一人の男。
「ゆゆ!! れーむたちねぶりーだーのひとにあいにきたの!!!」
「まりさたちゆっくりしたいからここにきたの!!!」
「「「おじしゃん!! ゆっくりしゃせてね!!!」」」
「ああ。そうか。うん、ここで過ごしたゆっくりは皆ゆっくりしてるよ」
 帰ってきたのは、希望通りの返事。
 それを聞いて一団の顔がニッコリ緩む。
「でも、君達は少し勘違いしてるみたいだね」
「ゆ~? かんちがい?」
 この人間はきちんとゆっくり出来ると言ってくれたのに、何処に間違いがあるのだろうか。
 どのゆっくりもそんな顔をしていた。
 それに気付いたのか、男はゆっくりとした口調で説明し始める。
「そう。ここはね、ゆっくりたちが人間達に襲われないようにするために、色々と教えているところなんだよ」
「ゆゆ!! じゃあ、さっさとまりさたちにおしえてね!!!」
「とかいはのありすがわざわざきたんだから、さっさとおしえてね!!!」
「むっきゅー!!! ぱちゅりーはすぐにおしえてほしいの!!!」
 三匹のゆっくりが男を急かす。
 しかし、男は一瞬苦笑を浮かべると、直ぐに元の笑顔に戻って話を続けた。
「そんなに直ぐには教えられないよ。前のゆっくり達も数ヶ月掛かってゆっくりできる様になったんだから」
「そんなことないよ!!! きっとそのゆっくりたちはばかだったんだよ!! まりさたちはすぐにおぼえられるよ!!!」
「そうだよ!! れーむたちにかかればすぐだよ!!!」
 聞く人が聞いたら一瞬で美味しい餡ペーストが完成しそうな台詞だが、男は慣れているようで微笑みながら話を続ける。
「じゃあね。
1.人間のお家に勝手に入らない。
2.もし、人間のお家に入りたかったらきちんと挨拶をする。
3.言葉遣いにも気をつける。
4.中に入っても人のお家を荒らさない。
5.勝手に自分の家と言ったりしない。
6.食べ物を貰った時はきちんとお礼を言う。
7.決して横柄な態度で催促はしない。
8.ここで言う言葉遣いは、丁寧語、謙譲語、尊敬語をきちんと使い分け、なお且つその場において適切な言葉遣いを話す。
9.人間の作った畑と自然に群生している野菜との区別をつける。
10.その際、人間の作っている畑だったら勝手に食べない。
11.もし、食べたかったら頼んでみるなり、お手伝いするなりして分けてもらう。
12.その場合も言葉遣いに気をつける。
13.モノを食べる時は綺麗に行儀よく食べる。
14.にんげんのお家に住めるようになったからといって勝手に子供は作らない。
15.人間の話も、他のゆっくりの話も最後までキチンと聞いて理解する、間違っても自分の勝手な考えを押し付けない。
と、簡単な所はこれくらいだね」
「ゆ? れーむたちはじぶんのおーちしかはいってないよ?」
「とかいはのありすはことばづかいもきれいだし、しょくじのまなーもただしいよ?」
「ここまでは分かったみたいだね。じゃあ今からきちんと覚えたかどうかテストをするから、覚えていなかったらゆっくりできないよ! まずは……きみから」
 男は、ワザと一番頭の良さそうなゆっくりパチュリーを指名する。
 指名されたパチュリーは、暫く考えた後に、何か閃いたように元気よく答えた。
「むっきゅー!! む~、もし……人間の横柄な態度の催促だったら勝手に行儀よくたべる!!」
「残念。全然違うよ。このままじゃゆっくりできないね。ここから出たら直ぐに人間に捕まって加工場に連れて行かれるか、その場で食べられちゃうよ?」
 予想通り、といった感じで、男はつらつらと文句を並べていく。
「ゆ!!」
 まさに、青菜に塩、馬鹿に加工場。
 一瞬で自信満々だったパチュリーの顔が青ざめり。
 頭がいいことで通っているパチュリーが間違えた事で、周りのゆっくり達も動揺を隠しきれない。
「かごーじょーはいやだよ!!! ゆっくりできないよ!!!」
「まりざもいやーー!!! おじざんたづげてーーー!!!!」
「あれあれ? 君達はさっきこんなの簡単だよって言ってなかったけ?」
 ワザとらしく、先ほどとは違う種類の笑みを浮かべながら、ゆっくり達に聞き返す。
「とかいはのありすでもおぼえられないよーー!!!」
「むっきゅ~~~~~~……」
「それじゃあ、ここできちんとゆっくりできるように頑張るかい?」
 飴と鞭を巧みに使い分け、ゆっくり達をコントロールする。
 その手際の良さは、流石ブリーダーといった所だろう。
「取り合えず。お昼は何も食べてないだろ? ご飯にしよう」
「!!! うん!! ゆっくりたべるよ!!!!」
「おじさん!! はやくまりさと、みんなのぶんもってきてね!!!」
「はいはい。っとそうだ、君達は何処から入って来たのかな?」
 室内に向けた体を外に戻して、ゆっくり達に尋ねる。
 対するゆっくり達はご飯を急かす。
「ゆゆ!! そんなことよりごはんをはやくもってきてね!!!」
「だめだよ! きちんと説明しないと。それとも、お外でゆっくりしようか?」
「ゆ!! おじさん!! おそとはだめだよ!! ゆっくりできないよ!!」
「じゃあ、どうやって入ってきたかおじさんに教えてくれるかな?」
「かんたんだよ!! あのすきまからはいってきたんだよ!!!」
 胸を張って魔理沙が答える。
 このゆっくり魔理沙は、早速人のご機嫌を取ろうとしているようだ。
「そうか。じゃあ君はご飯は半分だけだね」
「ゆ!! どーして? まりさはきちんとなかにはいれたよ!!!」
「うん。でもね、人間のお家に入るときは玄関で、今日はって言わないといけないんだよ。君達もお友達のお家に入るときに挨拶するだろ?」
「うん!! ありすのおーちはとってもおおきくてとかいはのおーちだし、ぱちゅりーは……」
「うん。わかった、わかったよ。ともかく、人間のお家でも挨拶をしないとだめなんだ。しかも、勝手に他の場所から入る事もいけないんだよ。わかったかい?」
「ゆ~~~。うん、げんかんでごあいさつすればいいんだね!!!」
「そう、挨拶の仕方は後で教えるよ。……それじゃあ、きちんと理解できたからご飯は一人前食べさせてあげるよ」
「ゆゆ!! おじさんありがとう!!!」
 既に太陽は西に動いていたが、ゆっくり達はようやく昼食を取ることができた。
「よし! じゃあこれからゆっくりできる様に君達に教えていくよ!!」
 舐めたように綺麗にした食器を見て、男はゆっくり達に声をかける。
 何匹か、ゆっくりお昼寝するといったゆっくりがいたが、お外に連れて行くと言うときちんとおじさんの元へついてきた。
 そしてその日は、基本的なことをゆっくり達に教えていった。
 人間のお家に勝手に入る事、畑、仕草その他もろもろ。
 勿論、一日で覚えることができたら苦労はしない。
 インコに言葉を教えるように、何日も何日も同じ説明を繰り返す。
 ゆっくり達も覚えるペースは遅いが、キチンと一個一個覚えていく。
 畑の事を覚えた時、ゆっくり霊夢と魔理沙は自分達のやった事を理解して号泣した。
 子供達が泣きながら励ましたが、それでもなかなか泣き止まない。
 やがてもらい泣きした男が、泣き出しながら二匹を抱きしめた所で二匹の後悔のメロディーは止んだ。
 そんな事が多々あったが、田植えが始まる頃になると、個人差はあるが最低限の事は理解できるようになった。
「きょうからはすこし外にでてみよう」
 これ位なら外に出しても大丈夫。
 男は長年の経験から判断して、野外学習に切り替えた。
「ゆゆ!! おじさんれいむたちおそとにでてもだいじょうぶ?」
「みんにゃでゆっくりできるにょ?」
 知識が付くにつれ、ゆっくり達も自分達がどのように見られているのか理解できた。
 そんな自分達が人間の多い所をうろついて大丈夫なのだろうか?
「大丈夫! おじさんといっしょだし。 君達はそこら辺のゆっくりよりはきちんとしているから」
 背中を押してやる。
 元々好奇心旺盛なゆっくりは、暫く迷っていたがおじさんと一緒なら安心だと言うことで外に出ることにした。
「ゆゆ!! おそとひさしぶり!!!」
「おかーさん、こっちでゆっくりしようね!!!」
「ゆゆ!! はなれちゃだめだよ!! まりさについてきてね!!!」
 久々の外の世界を見たゆっくり達は、出る前の不安な気持ちを一気に脱ぎしててはしゃぎ出す。
「おーい! こっちこっち。さぁついておいで」
「ゆゆ!! ぴくにっくだね!! とかいてきだね!!」
「むっきゅ~♪ これくらいならぱちゅりーもついていけるよ!!!」
 パチュリーのペースに合わせる様に男が向かったのは自分の田んぼ。
 田植えを終えたばかりのその田園はどこと無く、奇妙な違和感がある。
「ゆ? おじしゃんこれなに?」
「これなーに?」
 一番に好奇心旺盛な子供達が尋ねる。
「これはお米の子供だよ。ここから大きく育つと、おいしいごはんがとれるんだ」
「ゆ!! おこめ!! おじさん!! これみんなおこめになるの!!!」
「むっきゅ!! むきゅきゅ!!!」
 一番の食欲の霊夢とパチュリーが興奮気味に尋ねる。
「そうさ。そこで、君達にお仕事がある」
「ゆ? おしごと? まりさたちに?」
「ゆゆ!! アリスはとかいはだからおしごとがんばるよ」
 残った金髪饅頭組みが答える。
「ああ。この田んぼの中に、虫がいると育たないから虫を食べて欲しいんだ」
「ゆ? おむしさんがいるとだめなの?」
「ああ。むしは稲にとって害虫なんだよ。害虫はこの前教えたよね?」
「むきゅ!! お野菜とかをダメにするむしさんだよ!!」
 パチュリーが勢いよく答える。
 以前、全く覚えられなかったのを悔やんで沢山勉強していたのだ。
「そう。それで、君たちがキチンと働いてお米が取れれば、他の人間も君達をゆっくりさせてくれるよ」
「うん!! かんたんだよ!! れーむたちはむしさんもごちそうだもん!!」
「がいちゅーさんのむしさんは、まりさたちにまかせてね!!!」
 そう言いながら、皆次々に田んぼの中へ飛び込んでゆく。
 ためらうかと思ったアリスもすんなり入っていった。
「ゆゆ!! どろはとってもせいけつなんだよ!! とかいはのありすはにんげんともゆっくりしたいよ!!!」
 唯の孤独感と虚栄心に裏打ちされた結果だった。
 しかし、都会派都会派煩いアリスが、こうして自ら汚れてまで他の人の為にするというのはなかなかの進歩である。
 粗方虫を飛べつくすと、男の合図でこの日の野外学習は終わった。
「みんなキチンと働いて偉いよ!! 収穫の時まで頑張ろうね。そうすれば、皆も人間とゆっくりできるよ!!!」
「「「「!!!!」」」」
 ゆっくりできる。
 遠いが、確実に見えたその目標はゆっくり達にとって大きかった。
 人間達とゆっくりできるようになれる。
 もう、掴まって食べられたりすることも無くなる。
 ゆっくり達はおじさんから、ブリーダーに育てられたゆっくりは街のかなでお手伝いをしながら住んでいる、中には人間に飼われているゆっくりもいる、と言う話をよく聞かされた。
 今までは、半ば絵空事の様に聞いていたが今では確実な目標として存在している。
 その事が、ゆっくり達には嬉しかったのだ。
「それじゃあ、かえって体を洗ったらまたお勉強だよ」
「「「「うん!!!! ゆっくりできるようにおべんきょうするよ!!!」」」」

 ――

 稲もよく育ち、見慣れた田んぼが現れ始め、夏がやってきた。
 この頃には、男が熱心に教えた甲斐があり、多少たどたどしいがそれなりに挨拶ができるようになっていた。
「こんにちは。ゆっくりさせてくださーね!!」
「いらしゃい!! おじさんのおーちによこそ!!」
 近頃は、お互いのお家に来たという設定でゆっくり自ら勉強している。
 普段は飽きっぽい性格だが、自らがずっとゆっくりできる為に必死になっているのだ。
 しかし、その晩ちょっとした事件が起こった。
 みんなで食事を取っている時に、ゆっくりアリスの大群が押し寄せてきたのだ。
「まままままりざーーー!!!!」
「れーーーむうーーーーーー!!!!」
「ありすはみんなだいすきだよーーーー!!!!!」
 集団はそう言って、一番身近にいたゆっくりパチュリーに襲い掛かる。
「むきゅーーー!!! だずげてーーー!!!」
「ぱちゅりーー!!! ありすやめてね!! みんなをはなしてね!!!」
「れいむ!!! まりさ!!! ありすもいるーーー!!!」
「みんなだいすきだよーーー!!!!!」」」」」
 涎をダラダラ出しながら、一気に迫ってゆく洋菓子軍団。
 しかし、今は食事中であった。
 なので当然、男もここにいた。
「おい洋菓子饅頭!!」
「すすす、すっきr――んびゃ!!」
 近くに来たアリスを一匹捕まえて、籠に放り込む。
 その後も、必死になって交尾をしようとするアリス達を片っ端から籠に突っ込んでゆく。
 時間にして僅か15秒、捕まえたゆっくりアリスは15匹。
「ゆゆ!! おじさん!! とかいはのありすたちをどーするつもり!!」
「はやくそのこたちのこどもをつくらせてね!!!」
 散々わめき散らすアリス達をそのまま外に連れて行く男。
「君達はここでは教育できないね。明日になったら、加工場よりもゆっくりできる所に連れて行ってあげるからね!!」
「!! かこーじょーわやだよ!! とかいはのありすたちはいいゆっくりだよ!!!」
「おじさんたすけてね!! いまならみんなおじさんのるーむめーとになってあげるよ!!!」
 叫び声は一段と大きくなったが、男は気にせず家の中へ戻っていった。
 翌日から、そのアリス達はクレープ作りに従事することとなった。
「ぱちゅりー!! ゆっくりできる? ゆっくりしてね!!!」
 中では、一番酷くやられたパチュリーを囲むように他のゆっくりが心配そうに眺めていた。
「むっきゅ、ゆっくり、できるよ!」
 息は荒いが、心配はない。
 男がそう伝えると、お祭りのように騒ぎ出すゆっくり達。
 その中の、お母さん魔理沙を見つけた男は頭を撫でながら声をかけた。
「えらいな! 真っ先にパチュリーの元へ駆けつけて!」
「ゆゆ!! とうぜんだよ!! おともだちがゆっくりできてなかったもん!!! まりさはもうにげないよ!! こどもたちもおともだちもまもるよ!!!」
 さも当然、と言うように魔理沙は言ってのけた。
 直後に霊夢が魔理沙を呼んだので、直ぐにそっちに行ってしまったが、大抵我先に逃げる魔理沙が自分から向かって行ったのだ。
 これは、ブリーダーだったならば、誰しも涙を流して喜ぶ瞬間だった筈だ。
 男も、急いで台所へと足を運ぶ。
「よし! きょうはパチュリーが元気になるお祝いにしよう!!」
 台所から、沢山のお菓子を持ってきた男が宣言すると、ゆっくり達も元気よく賛成した。
「「「「うん!!! ぱちゅりーはやくげんきになってね!!!」」」」
「むきゅ~♪ げんきになるよ!!!」
 蒸し暑い、よどんだ空気も吹き飛ばすくらい、賑やかで晴れやかな夜となった。

 ――

 稲が黄金色に輝き、水田の水も抜けきった。
 この頃には小さかった赤ちゃんゆっくりも、体はまだ小さいが赤ちゃん口調は抜けてきた。
 この日、ゆっくり達は男に連れられて近所の家へ出かけた。
 ゆっくりできるかテストだよ。
 男にそう言われたゆっくり達は日頃の成果を存分に発揮した。
「こんにちは!! ゆっくりさせてもらえますか!!!」
 これはお家に入るときの挨拶。
「おじゃまします!!」
 中に入れてもらえるときの挨拶。
「いただきます!!」
 モノを貰って食べるときの挨拶。
「むしゃむしゃ」
 食べるときは、食べ溢さずにキチンと口の中に入れる。
「おいしかったです!!」
 食べ終わった後に言う台詞。
「さようなら!! またゆっくりさせてください!!」
 お家を出て行くときの挨拶。
 それを終えると、男と、その家の家族から拍手が送られた。
「うん。合格。後は明日収穫予定の米のでき次第だよ!!」
「いやー。一家全員で楽しみにして待ってるよ! ゆっくりがんばってね!!!」
「「「ゆっくりがんばるよ!!!」」」
 おじさんだけではなく、始めて会った人間からも褒められたことがゆっくり達には嬉しかった。
 そして、合格と言ってくれた事も。
 その日、ゆっくり達は興奮してなかなか寝付けなかったが、明日の為に随分早い時間から床に入ったので、結果的に睡眠は十分取れた。
 そして、今日は待ちに待った収穫の日。
 この日の為に毎日泥だらけになりながらもキチンと仕事を続けたゆっくり達には特別な日である。
「ほら、良い稲だ!! この束をあっちにはこんでくれ!」
「うん!! いっぱいなってるね!! ゆっくりすぐにはこぶよ!!!」
 自分達がキチンと働いた田んぼからちゃんとお米が取れれば、人間達とゆっくりできる。
「んーしょ! んーしょ!! ふう~」
 言われた場所に稲を運び終わったゆっくり霊夢は、他のゆっくりに聞こえるような声で叫んだ。
「みんなみて!!! れいむたちがおてつだいしたおこめがちゃんとできてるよ!!!」
「ゆ!! ほんとうだ!!!」
「やったねおかーさん!!!」
「これでみんなゆっくりできるね!!!」
 大きく育った子供達も、パチュリーもアリスも、その成功が意味する事を知っている。
 だからこそここまで嬉しくなるのだ。
 今まで苦労して、人間とゆっくりするためにこの日まで頑張ってきたのだ。
「おーい!! よろこぶのもいいけど、こっちもてつだってくれ!!」
 沢山の稲を抱えて佇む男。
 その元へ慌てて皆で駆け寄っていくゆっくり達。
 その顔はいつか見た花のように燦々と輝いていた。
「「「「おじさん!! いまゆっくりいくよ!!!!」」」」
 その夜。
 昇り始めた月には、はっきりとウサギの陰が映っているが、この家の住人だけはそんな事は関係なかった。
「ゆっゆ♪ まりさおいしようだね!!!」
 目の前には、
「ゆ~♪ れいむもがんばったもんね!!!」
 このひまで、
「「「おかーさんがんばったよ」」」
 泥だらけになりながら、
「「「れーむたちもがんばったもんね♪」」」
 がんばってお手伝いした、
「やっぱり、とかいはのありすはしんまいがにあってるね!!!」
 田んぼの新米が、
「むっきゅ~~~♪」
 大きなたらい入って湯気を立てていた。
 まさに銀シャリと言うに相応しいその米の輝きは、ゆっくり達がゆっくりできるように頑張った苦労を称えているかのようであった。
「おめでとう。君達は随分礼儀正しくなったよ!! これならもうだいじょうぶ!! 明日からは、このお家を出て、この街でゆっくりくらせるよ!!!」
 そう言う男の目に涙が流れている。
 余程この日が待ち遠しかったのだろう、嗚咽交じりになりながらゆっくり一匹一匹に声をかけていく。
「おじさん!! なかないでね!! 時々遊びにくるから!!」
「うん!! げんかんからこんにちはしてはいってくるよ!!」
「とかいはのありすは、おてつだいしてもらったたべものをもってくるよ!!!」
「むっきゅ~!! ぱちゅりーもおはなしいっぱいおぼえてあそびにくるよ!!!」
 一匹一匹、男の事を心から心配して、時々遊びに来ると口々に男に話す。
 まるで、小さい頃から育て上げた娘が嫁いでゆく時のようだ。
 おそらく、以前のゆっくり達を育てたときもこのようなやり取りがあったのだろう。
「……ああ。いつでもおいで!! ゆっくりまってるよ!!!」
「「「ゆっくりまっててね!!!」」」
 その後に訪れる笑い声。
 長く過ごした、ゆっくりと男だけが知っている笑いだった。 
「よし、ごはんが冷めるからさっさと準備しようか?」
「うん!! じゅんびてつだうよ!!!」
「よしよし。でもその前に、苦労して作ったご飯をちょっとつまんでみな!」
 そう言って、たらいのご飯を少量紙皿に移した男はゆっくりの前にそれをおいた。
 口の周りに付かないように注意しながら食べて言うゆっくり。
「おいしい!! おじさんこれすっごくおいしいよ!!」
「そりゃあ、君たちが苦労してお手伝いした田んぼだもんな!」
「むしゃむしゃ……。おいしーね!!」
「ねーー!!」
 どうやら、今年の米も上々のようだ。
 つまむ程度なので、決して多い量では無いがゆっくり達は文句も言わず笑顔で食べ終えた。
 少々もち米が混ざっているようで少しべたつきがある。
 これも、今夜のメニューに必要なものなのだろう。
「おいしかったよ!! はやくおりょうりつくろうね!!」
 そう、今は料理の途中だったのだ。
 以前は食欲だけが先走っていた霊夢もキチンと我慢することができるようになっていた。
 今日の献立は聞かされていない、しかしきっと最後の食事は豪華なものになるのだろう。
「うん。ところで皆前に話した害虫のお話は覚えてる?」
「むっきゅ!! かってに野菜とかを食べちゃうむしさんのことだよ!!!」
 パチュリーが元気よく答えると、周りからも似たような答えが返ってきた。
「うん。きちんと覚えていたね! それじゃあお料理を初めようか?」
 それだけ言って、男は今晩の夕食作りに取り掛かる。
「とかいはのありすはしってるよ!! こういうときはでなーっていうんだよ!!」
「ありすはものしりだね!! ……ゆ?!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!!!」
 突然、この家からは聞こえるはずの無い声が響いた。
 それは、よく加工場や紅魔館から聞こえる声。
「れ!! れいむのこどもがーーー!!!」
 そう、つまりはゆっくりの叫び声。
 対象は子供霊夢だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!! お、おじさん!!!! どうじてーーー!!!!」
 既に瀕死の重症を負った子供霊夢は、残った力を振り絞って男に尋ねる。
 きっと、何かわけがあるはずだと考えて。
「だって………………から」
「ゆ!  ゆっくりじだがっだーーー!!!!!! ……」
 そして、何時も通り男から何か理由をを聞かされると、そのまま息絶えた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!! れーむのこどもがーーーーー!!!」
「まりざのこどもがーーー!! おじさん!! どうしてこんなごとするの゛ーーー!!!」
 二匹目のゆっくり、子供魔理沙を引きちぎっている男に詰め寄る二匹。
「どうじだの!!! わるいものでもたべたの?!!!」
「それども、そのごだじはゆっくりできないの?!!!」
 生き残った自分の子供達を失ったことで親はかなリ動転している。
「そんなこと無いよ。この子は皆と同じだよ!」
 子供魔理沙の餡子をたらいの中へ移した後に、ゆっくり達に向き直って男は微笑んだ。
「だったらなんで!! なんでれーむのあがじゃんを……」
「なんで? だって君達は害虫だよ。勝手に畑を荒らすし、人の家も荒らす。唯の害虫の方がまだましだよ。生憎と、
害虫はキチンと教育しても害虫だからね。キチンと処分しないとね」
 場が凍った。
 湯気を上げ続けるたらいだけが、この異常な場から抜け出している。
「ゆ? おじさん!! れーむたちはぶりーだーのおじさんのところでがんばったよ!! ゆっくりできるんでしょ!!!」
「そうだよ!! まりさたちはがんばったよ!! おじさん、これもおべんきょうなんでしょ!! こどもたちもほかのばしょにいるんでしょ?」
「……」
 その問いかけに答えずに男は四匹の子供ゆっくりを掴んで。
「ゆゆ!! おじさん! ゆっくりさせてよ!!」
「ゆっくりできるんだよね!!」
「……」
「「「「ゆっびちゃ!!!! ……」」」」
 力を込めて、凍った場を一気に溶かす。
 溶かすと言うよりも砕くといったほうが良いのかもしれないが……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……れーむのこどもが……」
「まりさの……まりさのかわいいこどもが……」
 呆然と桶の中を眺める二匹。
 その横では、パチュリーが引きちぎられようとしているが、この二匹は助ける元気が残されていなかった。
 ただ、呆然と見つめているだけだ。
「むっきゅ!! おじさんはさいしゅうしんさをしてるんだよね?!! ぱちゅりーはゆっくりしたいよ!!!」
「良いとも。いったろ? ここで過ごしたゆっくりは皆ゆっくりしてるよって。君もずっとゆっくりできるよ。ほら、今処分してあげるから」
「いだ!! いだいよーーー!!! ゆっぐりざぜてーーー!!!!」
 暫く力いっぱい千切ろうとしたが、子供のようにはいかないようで包丁を取り出して頭の上を切りとる。
「はぁはぁ……!! むきゅ? ぼーじ!!! ぼーじがえして!! あ!! あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!」
 間髪いれず、しゃもじで中の餡子を掻き出していく。
「むっきゅ!! ごめんなざい!! おじさん!! ゆる!! じで!!! ……」
 男は、大量の餡子を桶の中へ移し、饅頭の皮はゴミ箱に捨てた。
「さてと、次はこっちを先に料理するか」
 男が向かったのは、呆然としている二匹ではなく、ゆっくりアリスだった。
「ゆゆ!! おにーさん!! ありすはとかいはだからきちんとゆっくりできるよ!!! だからもうさよならするよ!!!」
 慌てながら、出口に向かっていこうとするアリス。
 それを逃がすはずも無く、男は捕まえたそれをまな板の上へと運んだ。
「お、おじさん!! ありすはとかいだがr……」
「関係ないよ。君達は害虫だって言ったろ? 特にお前は、はつかねずみ以上に性質が悪い害虫だよ。かってに害虫の数を増やしちゃうしね」
「ゆ? ちがうよーーー!! ありずはがいじゅうじゃないよーーー!!!」
 沸騰したお湯の中へ袋ごとカスタードを入れる、そのままだと固まっているので調理し辛いのだ。
「あづいーー!!! おじざんあづいよーー!!! だじでーーー!!!」
 全体に熱が伝わるように、時々かき混ぜる。
 袋の開口部を下にすると、騒音も気にならない。
「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!」
 暫く経ったらお湯の中から取り出す。
「おじざん!! ありずはどがいはじゃないですーー!!! しゅーだんしゅーしょくでじだんでずーーー!!!!!」
 額に大きな穴を開け絞り出す、このとき中のカスタードは熱いので注意が必要である。
「あがっががあああああーーーー!!!!!!」
 取り出し終えた袋をゴミ箱へ捨てる。
 どうやら、これはクレープに使うようだ。
「よし、こっちも仕上げだ」
「……ゆ~?」
「……おじ……さん?」
 未だ呆然としている二匹の前に近づく男。
 それを見て二匹はここ数ヶ月のことを思い出した。
 勝手に人間の畑を荒らして子供達が沢山いなくなった。
 そして、残った家族でゆっくりしようとブリーダーのお家へ向かった。
 初めは大変だったけど、一緒に来たアリスやパチュリーと一緒に頑張った。
 色々覚えた頃、初めてお外に行った。
 そこで、人間の田んぼを手伝った。
 これが上手くいけばゆっくりできると思ったから一生懸命頑張った。
 アリスが大勢着たときも、逃げずにパチュリーを守った。
 以前の子供たちのように失いたくなかったから。
 テストもキチンとできた。
 その後、キチンとご飯ができた。
 それを、おじさんが食べれるようにしてくれた。
 がんばったご飯は美味しかった。
 これでおじさんのお家から、街へ出てゆっくりできる。
 その筈だった。
「いいかい? よーくきいてね!!」
 男は、今までゆっくり達にモノを教えているときと同じ口調で話し始める。
「おじさんはゆっくりブリーダーです。でもキチンと勉強したゆっくりを、おじさんはお外に出しません。田んぼを手伝って美味しいご飯ができたら
お外に行けると言ったのも本当です。でもおじさんはお外には出しません。それは、キチンと自分の事を理解した害虫が、最後に害虫として死んでゆ
く時の絶望した顔を見るのが好きだからです。そして、私はまだ二十台なのでおにーさんです」
「ゆー。れーむはゆっくりできるの? ちゃんとごはんもできたよ?」
「まりさも、ちゃんとごはんつくるのてつだえたよ。にんげんとゆっくりしたいよ!」
 幾分、表情が元に戻ってきた二匹は、再度男に尋ねた。
 今まで、頑張ってこれたのは人間とゆっくりしたかったから。
「できません。君達は害虫だから。害虫は害虫らしくゆっくり死んでね!!!」
 ゆっくり達の答えも聞かず、餡子の袋の上部を切ってゆく。
「ゆーー!!! いだいよ!! おじざんれいむだぢをゆっぐりざぜてーー!!!!」
「まりざたちはゆっぐりじたいよーー!!!」
 そのまま、餡子の袋から餡子を取り出す。
「あっががあああ!! やめでぇーー!!! れーむのながみだざないでーーー!!!!!」
「まりざのあんごがーーー!!! おじざん!! もどしで!!! もどしでね!!!」
 そういっている間にも、ドンドン餡子の量は減ってゆく。
「「…………ゆ!!」」
 絶望し途切れそうになる意識の中で、二匹は自分達を呼んでいる声を聞いた。
「おかーーしゃーーん」
「ゆっくりしよーーね!!」
「「……こどもたちだ……」」
 それは、失った子供達の姿。
「むっきゅーー!!」
「とかいはのありすはじかんにるーずなの!!!」
「「ありす……ぱちゅりー……」」
 そして、今まで苦楽を共にした友人だった。
「「っ!!!」」
 まっていまいくよ!!
 そこ言葉を、まさに発しようとした時だった。
「畜生に神はいないよ♪」
「「……ゆっぐりぎだがった!!!」」
 忽然と、周りからゆっくり達の姿は消えた。
 そして、最後の最後で完全に絶望した餡子袋も、ゴミ箱に捨てられた。
 今日の男の食事はおはぎとクレープ。
 しかし、一つだけ違うことがある。
 それは、おはぎを多く作った事。
 理由は簡単だ。
 米を無事収穫できたお祝いに、近所の人へおはぎを配るためだ。
 月が綺麗に夜空に舞う頃、おはぎを配り終えた男は、何時ものように一人だけの食事を取って床についた。

 ――

 一面、白い雪化粧で覆われる冬。
 田んぼは子供達の格好の遊び場になる。
 食事を支えるこの土地は、この間は子供が笑顔で過ごせるように、沢山の雪を蓄えた。

 ――

 それが、土に帰る春。
 村では野菜や稲の準備が始まる。
 それは、同時に男の仕事始めでもある。
「おや? 君達は何処から入ってきたのかな?」
 その日も男はペット一匹居ない家で一人で食事を取る。
 田んぼはまだ何もない。
 ただ、これからお世話をするであろうモノ、その餡子の様に黒い土に覆われているだけだ。


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最終更新:2011年07月27日 23:01
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