俺が山で山菜を取っていると、ゆっくり魔理沙とゆっくり霊夢が近づいてきた。
「おじさんなにとってるの?」
「あぁ、これはさんs「あぁ、これおいしいたべものだ!!!」」
言うが早いか、俺の籠に迫り来る二匹、なす術もなく倒される俺。
「うめぇ、めちゃうめぇ」
「これ、なかなかとれないんだよね! おじさんまりさたちのためにとってくれてありがとう」
朝から苦労して取っていた山菜をどんどん食べられる。
こっちも苦労した身なので、唖然と居て座ったまま動けなかった。
「はぁ、おいしかった!!! おじさんありがとう! おかげでゆっくりできたよ!!!」
「また、まりさたちにごちそうしてね」
ゆっくりゆっくりと言いながら、二匹は山の中に消えていった。
『ゆっくりの住む山』
数分はそこに座り込んでいただろうか。
驚きが通り過ぎると、今度は怒りがこみあげてきた。
あれだけ苦労して取った山菜が、全てゆっくりどものエサになってしまったのだ。腹が立たない奴などいないだろう。
しかも、ご丁寧にまたよこせなどとほざいた日には、いたぶったあげくにずたずたに引き裂いてやりたいと思うのが人情だ……と思う。
ともかく、ぶち殺してやる事には変わりない。
座り込んでいてもどこの方向に逃げたかは分かっているんだ。俺は、慎重に二匹を追いかけた。
足音を立てない様、静かに二匹を追いかけると、ほどなく見つける事ができた。
ゆっくりゆっくり言ってどこにいるか合図を出している上、満腹のためか、極めて遅い速度で移動していたからである。
そのまま持ち上げて握り潰してやろうと思ったが、ふと別の事を思いついたため、そのまま二匹をつける。
しばらく追いかけていると、二匹は洞穴に入っていった。そこが奴らの住みかなのだろう。
同居しているとは好都合だ。無意識に、俺の口元が笑みの形を作る。
制裁の手段として考えている事をするためには、絶対に逃げられてはいけない。
辺りはかなり暗くなっているからもう眠っているだろうが、念のため入り口その他のすきまに石を詰め込み、絶対に出られなくしておく。
これからの事を考えながら、俺はニヤニヤしつつ家に戻った。
次の日、俺は昨日閉じ込めたゆっくり達の巣へと向かった。
奴らはまだ眠っていて「ゆ~、ゆぅ……」などと気色の悪い鳴き声をあげていた。
寝言のつもりだろうか。本当にふざけた饅頭どもである。
殴りつけたくなる衝動を抑え、静まり返って何も音が聞こえない巣の中を進むと、一番奥に食糧貯蔵庫らしき穴があった。
雑草や虫の死がい、花が大量に入っているその穴に、石を投げ込む。
ゆっくりどころか、人間にすら取り出せないほどびっしりと石が詰め込まれたのを確認してから、俺はその場を後にした。
無論、入り口その他のすきまに石を詰め込み直しておくのは忘れない。
そのまま入り口付近で待っていると、奴らが起きたらしく「ゆっくりおはよう!」などという声が聞こえた。
「ゆーゆーゆー♪ きょうのごはんはなんだろなー♪ ……ゆっ!? ゆっくりでれないよ!?」
「なにこれ! いしがいっぱいつまってるよ! なんでぇ!?」
「……ゆっ! ごはんもない! いししかないよぉぉぉ!!!」
「なにごれえええぇぇぇぇぇぇ!!!」
巣の中は大混乱に陥っているらしい。
俺は、もう二度と外に出られないゆっくりどもの悲鳴をしばらく楽しんでから、山菜を取りに行った。
ウドにアケビ、たらの芽にワラビ……この山は、食材の宝庫とも言える
(注1)。
だからこそあのゆっくりどもはこの周辺に住み着いたのだろうが、奴らにはトリカブトやドクゼリやハシリドコロで十分だ
(注2)。
しばらく探し続け、背負ったカゴが半分程度埋まった頃、あの忌々しい「ゆっくりゆっくり」の大合唱が聞こえてきた。
このままでは、昨日と同じ結果になりかねない。俺は、背を出来るだけ低くしてその場を去った。
帰る途中、ふと気になって閉じ込めたゆっくりどもの元へ行ってみる事にした。
念のためと、入り口を調べてみると、動いた形跡は全くない。
耳を近づけると「ゆっぐりおぞどにでられないよー!」「だれがだずげでー!」などと言う悲鳴が聞こえた。
ずっと叫び続けていたらしく、最初の時と比べてかなり声は小さくなっている。
狙い通りの結果になった。奴らは、このまま放置しておけば確実に餓死するだろう。
無駄に死体など見たいものではないし、ゆっくりなど食べる気にもならない俺にとっては、この方法が一番だ。
「だずげでえぇぇぇぇぇ!」
「ゆっぐりざぜでぇぇぇぇぇぇ!」
二匹が泣き叫んでいる。だが、奴らの仲間は助けに来られないだろう。周囲を見回って、絶対に出られなくなる様にと考えて閉じ込めたのだ。
こいつらの悲鳴を聞いていると、先ほどの大合唱でささくれ立った心が僅かに癒えた。
ゆっくりどもの助けを求める声を背に、俺は帰途についた。
無事に山菜を取って帰ってこられた後、鬱々とした感情が俺の心に淀んでいた。
山菜を食ったゆっくりどもへの仕置きは終ったが、それ以外にもたくさんのゆっくりどもがいる。
つまり、今この時も、ゆっくりごときに美味しい山菜が食われているのだ。
いや、ただ食うだけならどうにか許せるが、奴らは無計画に全てを食いきってしまうだろう。
ゆっくりのアンコ頭では、山菜がどれだけ貴重なものなのか、だからこそ一定以上の量は採ってはならないと教え込んだとしても、絶対に理解出来ないだろう
(注3)。
俺の頭に、山菜も雑草も何もかもが食いつくされて荒涼とした山の風景が、映像として浮かび上がってきた。
そうなってからではもう遅い。俺は、ほぞを固めた。
――あそこのゆっくりどもを全滅させる。一匹も残らずだ。
そうと決まれば、のんびりとなどしていられない。
俺は、急いで人間の里の有力者達の元へ走った。
ゆっくりは子供が思い切り殴っただけでも死ぬ程度の弱さだが、その分数が多い。
単純に駆除するだけなら道具を使う事で少数でも不可能ではないが、今回は山の環境にも注意せねばならないため、火や水は全く使えない。
つまり、一匹も残らず全滅させるためには、可能な限りの人員を集めなければならないという結論に到るワケである。
そのためには、有力者の手が絶対に必要だ。
何時間もかけて説得しただけの事はあり、人間の里の有力者のほとんど全員が集まってくれた。
中心となる部屋の入り口には『山のゆっくり駆除委員会』と書かれた立て札がかかっている。
俺が集めたためか、名だたる有力者を押しのけて視界進行役をおおせつかってしまった。
「本日は、お集まりいただいてありがとうございます」
まずは頭を下げる。大きくない部屋の中に拍手の音が鳴り響いた。
俺は、声が震えていないか気をつけながら、ゆっくりによって貴重な山菜が全滅しようとしている現状について訥々と説明した。
「……という事で、山のゆっくりどもから山菜を守りたく思い、今回お集まりいただきました」
「対策などがございましたら、皆様からのご意見を拝聴したく思います」
話が終わると同時に、ざわざわと相談がはじまり、静まり返った部屋が一気に雑然とする。
それを遮る様に、細く美しい腕が上がった。あれは、寺子屋の慧音様だ。
「皆様、お静かに。慧音様からご意見があるそうです。よろしくお願いします」
慧音様はうむと一つ頷いて、立ち上がった。
「今回の事を解決するには、私の能力が最も適していると考える」
「つまり、山の草木そのものの歴史を保護する事で、奴らを別の場所へ誘導する作戦だ」
「この場合、ゆっくりどもを皆殺しにする必要性はない」
「皆はどうやってゆっくりを殺そうか考えてる様だが、目的を履き違えてはならない」
「最優先すべきは山菜であり、ゆっくりを殺害する事ではないからだ」
「もちろん、この作戦ではかなりの人員を使う事になるが、それは皆も協力して欲しい」
以上だ、と締めくくり、慧音様は座った。
皆、目からうろこが落ちる思いで、慧音様をしばらく見つめていた。
この中の誰もが、どうやってゆっくりを皆殺しにするかという一点について考えていたというのに、慧音様は全く別の考えをお持ちだった。
その事に感銘を受けたのは、俺だけではないだろう。
事実、有力者も加工所職員も関係なく、皆が尊敬の眼差しを慧音様に注いでいる。
だが、慧音様は視線が恥かしいらしく、頬を赤く染めて咳払いをした。
「……えー、慧音様、ありがとうございました。他に、何か対策がある方はいらっしゃいますか?」
それでようやく立ち直った俺は、皆を見渡して意見がない事を確認した。
「ご意見がないようですので、慧音様の案を採用させていただきたく思います」
ありがとうございました、と頭を下げて、人員や具体的な方法について意見を出してもらう。
思っていたよりずっと早く作戦は決まった。これも、慧音様の案のおかげだろう。
数日後、ゆっくりの駆除作戦はつつがなく実行され、全てのゆっくりは山からどこかへと去っていった。
俺は、ゆっくりが消えた山の中で、以前の様にのんびりと山菜を採っている。
慧音様は凄い。今回の事件で、改めてそれを確認した。
だから、その情報を聞いた時、俺は激怒を通り越してあきれ返ってしまったほどだ。
『慧音様が追い出したゆっくりは、全てがとある研究施設の実験材料として使われている』
お優しい慧音様がそんな事をするはずもない。
いや、仮に一部を実験材料として提供したとしても、別に咎める事ではない。
少なくとも、あの山のゆっくりが害獣であるのは確かで、それを追い出したのは慧音様のおかげだからだ。
いずれにせよ、慧音様には一片の非もない。我々人間の里の者は、皆慧音様に感謝しなければならないだろう。
――そうだ、山菜を持って行こう。慧音様も妙な噂でお心を痛めているだろうし、美味しい山菜を食べれば元気になられるはずだ。
慧音様の笑顔を想像しつつ、俺はうきうきした気分で山菜を採っていった。
「こんにちは、元気かな」
「あぁ、元気だよ。そっちは?」
「私も悪くない……どうだ、奴らは?」
「知らないな。見に行きたいものじゃないし」
「そうか。ところで妹紅」
「なんだ、慧音?」
「山の中で面白いものを見つけたんだ。ゆっくりなんだが、石みたく硬くて、本当に興味深いんだ。そこは歴史を隠したままにしてるから、誰も来ないんだ。それで……」
「わかった、ちょっと見に行こうか」
「……ああ、見に行こう!」
妹紅の手を笑顔で引く慧音。
その姿は、外見年齢相応の少女の様だった。
こちらのSSは、ゆっくり十八番~ノンフライ~氏の
触媒をお借りしました。
お礼申し上げます。
もこけーねは正義。
by319
注1:ウド・アケビ・たらの芽・ワラビは食用の山菜で、人を選びますが、合う人は非常に好む味です。
注2:トリカブト・ドクゼリ・ハシリドコロは全て毒草です。絶対に食べてはいけません。
注3:山菜は自然に生えている草木なので、美味しいからと乱獲をしてしまうと、後々取れなくなる恐れがあります。資源を大切に。
最終更新:2008年09月14日 06:20