じめじめと不快な季節がやってきた。
所謂、梅雨だ。
この時期は、長く雨が振り続け外に行く事もできない。
全く、こんな時期に成功報酬の二週間の休暇を言い渡されても家でボーっと過ごすだけだ。
と、昨日まではそう思っていたのだが、今日になってふと面白い事を思いついた。
早速実行に移すべく、自慢の離れに食料を運んでいく。
一階は車庫になっているが、二階に若干の生活スペースが有る自慢の離れだ。
足りない分を近くも店で買ってきた時、離れの中で最早おなじみとなった声が聞こえてきた。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりできるね!!!」
覗き込むと、やはりゆっくりだった。
霊夢と魔理沙、それにパチュリーとアリス。
よく見かける、仲良しグループだ。
手間が省けた、と俺が一息つくとあっちも俺に気が付いたようだ。
「ゆゆ!! おにーさん!! ここはれいむたちのゆっくりすぽっとだよ!!!」
「おにーさんはゆっくりできるひと? できなかったらまりさたちにたべものをおいてさっさとでていってね!!!」
「「「「ここでゆっくりするよ!!!!」」」」
外は朝からシトシトと霧雨模様だった。
おそらく、昨日遊んでいるうちに降り出した雨の所為で帰るに帰れなくなっていたのだろう。
そして、近くでここを見つけた、と。
「いいぞ。ここはお前達にくれてやる。食べ物は二階においてあるから、好きなだけ飲んだり食べたりして良いからな」
「ちがうよ!! ここはまりさたちがさきにみつけたんだよ!!!」
「むっきゅ~♪ おじさんはばぁっかだねーーーー!!!!! ぱちゅりーのほうがあたまいいよ!!!」
「やっぱりいなかものはだめだね!!!」
「「「「「おじさんはばかだからゆっくりできないね!!!」」」」」
……。
オレンジジュースも二階にあるよ。
と伝えるとキャッキャ言いながら勢い良く二階にすっ飛んで行った。
「ゆ~!! ひろいよ!!!! ひろいよ!!!!」
二階に上がったゆっくり達の感想だ。
ロッジを思わせるような室内には、水道とガスが通っている。
向かいに有る棚には、洋酒がずらっと並んでいたが、これは危ないので撤去した。
「それじゃあ、食べ物はこの冷蔵庫の中に入ってるからね。一番下は凍ってるもので、その上は冷たいの、じゅーすは冷たい方に入ってるよ。 それから、他の美味しい食べ物はこっちね」
俺は、一つのカップめんと冷凍ピザを出し、調理を始めた。
といっても、ゆっくりに見えないようにお湯を入れることと温める事だけだが。
辺りに、食欲をそそる良い匂いが立ち込めてくれば準備完了。
一本だけ冷やしておいた缶ビールを手に取り、一気に麺を啜る。
麺と一緒に、スープの香りも口の中に入ってくる。
そうしたら、今度はピザだ。
ゆっくり達の所にまで匂いが届いているだろう、食欲をそそるサラミが載った部分を切り取って口に運ぶ。
とろ~んとチーズが糸を引き、ピザと口との橋を造る。
「ごく!! ごくっ!!!」
それを、一気にビールで飲み干す。
きりっとした喉越しが、今まで食べた分の喉の渇きを一気に消し去る。
「ぷっはぁ~~~!! しあわせ~~~~!!!!!」
最高の、デモンストレーションを行った俺は、それじゃあねと言って離れを後にした。
勿論、二回には鍵をかけて。
――
yukkuripart
男が出て行ってすぐ、ゆっくり達は今のとても美味しそうな食べ物の話題で持ちきりだった。
「すっごくいいにおいがしたね!!!!」
「とってもおいしそうだったね!!!!」
「とかいはのありすは、のみものがいっきゅーひんだとおもったよ!!!」
「ぷっきゅ~♪ ぜんぶぱちゅりーたちのだよ!!!!」
「「「「ゆっくりできるね!!!!!」」」」
「さっそく!! おいしそーなのたべようね!!!」
「「ゆっくり~~~♪」」
満面の笑みでキッチンへと向かっていく四匹。
目の前にはダンボール。
中には、先ほどのカップめんが沢山入っている。
「ゆっくりいっぱいあるね!!!」
「たりなくなったらまたおにーさんにかってきてもらおうね!!!」
「まりさおかーさんあったまいーーー!!!」
「ゆゆゆ♪」
全員で手分けして出していく。
全員分のカップめんを出し終えた所で、それ以上は出さなかった。
「みんなでゆっくりたべようね!!!」
「「「「「ゆっくりいただきま~~~す♪」」」」」
何時もの挨拶を全員で言うと、待ちに待った食事の時間。
ゆっくり達は一斉に蓋を開けようと顔を近づける。
しかし。
「ゆゆ!!! あがないよ!!!」
「つるつるすべるよ!!!」
しっかりとビニールで包装されているそれは、ゆっくりたちでは破けないようだ。
「ゆっくりだいじょうぶだよ!!! ぱちゅりーにまかせてね!!!」
パチュリーは、容器を転がして良く観察する。
「むきゅ!! ここからやぶけるかも!!」
裏側の、二重になっている部分を器用に噛み千切る。
見事、包装を解くことに成功したようだ。
「さすがぱちゅりーだね!!」
お礼を言って、他の三匹も同じようにビニールを破ってゆく。
そして、今度こそ蓋を開けていく。
「「「「ゆゆ!!!!」」」」
その中に入っていたのは、カチカチな塊と幾つかの袋。
その内一つは中に野菜のようなものが入っている。
「ゆゆ!! これはたべられないよ!!!」
「ゆっくりできないよ!!!」
「これはふりょーひんだよ!!! とかいはのありすはそくしってるよ!!!」
そう言って、ゆっくりアリスは他のカップめんを箱から出して、蓋を開ける。
ニコニコして開けるが、中身は先程と同じだった。
「ゆーーー!!! こっじもたべらないよーーー!!!!」
「むっきゅ!! どーじで!!! どーじで!!」
「さっぎのおにーざんはゆっぐりできでたのにーーー!!!」
「きっとおにーさんにはゆっくりさせて、れいむたちにはゆっくりさせるきがないんだよ!!!」
「そうだね!!! それならまりさたちもゆっくりさせてあげないよね!!!」
そう結論付け、箱に戻していくゆっくり達。
「ゆっくりできないたべものはそこでゆっくりしててね!!!」
「ゆっくりさせてっていっても、だしてあげないからね!!!」
「むっきゅ~~♪」
箱に戻し終えた四匹は、満足そうに息を溢し次の食事を食べようと考えていた。
「さっきのおーきくてまるいのたべようね!!!」
「あれなら、みんなでゆっくりたべられるよ!!!」
「かいしょくぱーてーだね!!!」
「ここにはいってるんだよ!!!」
冷凍室に体当たりしながら、ゆっくり霊夢が嬉しそうに報告する。
「そうだよ!! はやくみみんなでだそうね!!」
「「「「ゆっくりだそうね!!!」」」」
頭部に邪魔の少ない霊夢とアリスが、冷蔵庫に高等部を合わせて取っ手に噛み付く。
「「ゆーーーーー!!!!」」
そのまま重心を前に傾ければ、扉は簡単に開けることができた。
「ゆゆ!! ここはさむいね!!! はやくだそうね!!!」
「うん!! ゆっくりはやくだそうね!!!」
直ぐに、残りの二匹も中に入り込んできて運び出すのを手伝う。
「ゆ~みんなでたべようねーーーー!!!!!!」
大きなピザを目の前にして、霊夢が三匹の友人に尋ねる。
「「「ゆっくり~~~♪」」」
そして笑顔で霊夢に答えるゆっくり達。
「「「「いっただきま~~~す♪」」」」
先程の出来事もあり、ものすごい勢いでピザに食いついていくが今回も食べることはできなかった。
「ゆ!! かだい!!! つべたいーーー!!!!!」
「どーじてーーー!!!!! これじゃあてべらないよーーー!!!!!」
「とかいはのありすでもわからないよーーー!!!」
「むぎゅーーー!!! ごはんたべたいーーー!!!!!」
どうして自分達が食べる事ができないのか、幾ら考えてもゆっくりには分からないだろうが問題は、食事を取らないとゆっくりできなくなるといった事だ。
「ゆゆーー!! おなかすいたーーー!!!!」
「!! そうだ!! じゅーすをのもうね!!!!」
「そうだね!! じゅーすはありすたちでものめるもんね!!!」
「むっきゅーーー!!!」
冷凍庫の縁に体を乗せ、そこから冷蔵室に入り込む。
「ゆっゆ♪」
気分は知らない所に探検に逝くような気分。
中には、沢山のじゅーすが所狭しと並んでいた。
「ゆーーー!!いっぱいあるねーーーー!!!!」
「むっきゅ!! これがおれんじじゅーすたよ!!!」
自分達がゆっくりできるモノの名前を知っているパチュリーが、魔理沙に教えてあげる。
「ゆ!! ほんとうだ!! おれんじのえがかいてあるね!!!」
「むっきゅ~~~♪ はやくはこびだそうね!!!」
そこからは、下にいる二匹との共同作業だ。
「ゆ! っぱ!」
「はむ!!」
上の二匹咥えた缶を下の二匹に投げ落とす。
それを、下にいる二匹は器用にキャッチする。
「これでいいね!! ゆっくりのめるね!!!」
「むっきゅ~♪ やっぱりまりさはすごいね!! すごくうんどうができるね!!!」
「ゆゆゆ♪」
パチュリーに褒められた魔理沙は、不意をつかれたようで、顔を真っ赤にして照れている。
「ゆ!! ふたりともはやくきてね!! ありすたちがまってるよ!!」
なかなか戻ってこない二匹に、アリスが文句を垂れ流す。
「ゆ!! ごめんね!!」
「むっきゅーー!!! すぐもどるよ!!!」
てへへ、と笑いながら駆け寄っていく。
プクーっと頬を膨らませているアリスも、本気で怒っているわけではない。
この四匹は何時でもいっしょ。
子供のときからいっしょ。
だから、お互いの事は良く知っているのだ。
「ゆーー!! それじゃあみんなでかんぱいしようね!!!」
「ゆゆ!! かんぱいって?」
「かんぱいは、おめだたいことがあるときにみんなでいうんだよ!! そしてどうじにのみのもをのむの!!!」
「ゆゆ!! ありすはすごいね!!!」
「むきゅ!! さすがとかいはだね!!!」
「ゆへへ♪」
今度はアリスの顔が緩む。
「もう!! はやくじゅーすのもうね!!!」
「むっきゅ!! はやくはやく!!!」
今度は、食い意地の張っている霊夢とパチュリーが急かす。
「ゆゆ!! ごめんね!! ありすがかけごえをかけるね!!!」
「ゆ!! ゆっくりいってね!!!」
「ゆ!! かんぱーーい!!!」
「「「「かんぱーーーい!!!!!」」」」
缶を咥え、上へ傾ける。
中からは、美味しいオレンジジュースが流れてこない。
「ゆゆ! ふぁがれてふぉないおーー!!!」
「ほーしでーーーー!!!」
「ふぁんでーーー!!!!」
「無ギューーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
――
夕方、離れに戻ると、四匹が血相を変えて俺に駆け寄ってきた。
「おじさん!!!! はやくおいしーのたべさせてね!!!!」
「おいしいまるいのいっぱいたべたいよ!!!!!」
「じゅーすものませてね!!!!」
「むっきゅーーーーーーー!!!!! おながたすいたーーーーー!!!!!」
なんなんだ一体。
「おいおい。ここはお前達の家だろ。自分達で準備しろよ」
「ほら、冷してやるから」
転がっていた缶ジュースを拾って冷蔵庫に入れる。
そこから、に家から持ってきた缶ビールを数本入れておく。
「さーて腹が減ったなーー!! 飯食べるかなーー!!」
「ゆゆ!! おにーさん!! それはたべられないよ!! おにーさんだけゆっくりさせるんだよ!!!」
カップラーメンを取り出すと、確かにあけた跡がある。
しかし、ゆっくりできないって何の事だ?
昼間同様に、カップラーメンにお湯を入れる。
今度はゆっくり達に見える様に、だ。
「ゆゆ!!!」
「ゆ~~~!!!!」
さて、もう時間だな。
蓋を捲ってすする。
先ほどと同じく、辺りに醤油の香りが漂う。
「むっきゅ~~~!!!」
次に冷凍ピザ。
これもゆっくり達に見せ付ける。
程なくして、こんがりとパンを焼いた香りが。
同時に、サラミとチーズ、そしてコーンの匂いが追随する。
「それじゃあ、いただきまーーす♪」
四匹の前で缶ビールを開けてまず一飲み。
ゴクッ、ゴクッ。
「ゆ~~~~!!!!」
梅雨とはいえ蒸し暑い、渇いた喉に勢い良くビールが流れ込んでいく。
「プッハ~。うまい!」
ピザも良く焼けているなあ。
今度はタバスコをかけて食べよう。
ハラペーニョソースをかけていただく。
一ピース取ると、具の自重で先端が頭をたれる。
「ゆ!! ゆーーー!!!!」
パクッと一口。
ハラペーニョの酸味と辛味が心地よい。
塩気が多くなってきたので、もう一本ビールを取り出して流し込む。
「ゆくっくりーー!!!! おにーさんれいむもたべるーーー!!!!!」
ピザをもう一ピース。
「ありすにもちょーだい!!! とかいはならあっそわけしてね!!!!」
ビールを飲む。
「むっきゅーーーー!!!!! たべたいーーー!!! たべたいーーー!!!!」
「まりさたちにもたべさせてーーー!!!!!」
「イヤー美味い。おまえ達も自分で用意しろよ。ここはお前達の家なんだからな!!」
「「「「ゆっぐりしたいーー!!!!!!」」」」
雨は二週間降り続けるそうだが、なかなか楽しい休暇になりそうだ。
最終更新:2011年07月27日 23:32