「ゆっくり整形手術」





クーラーの風が当たる位置で寝転がり、涼しい風を全身に浴びる僕。
幻想郷もずいぶん便利になったものである。やはり河童の技術力は幻想郷一だな。

コンコン…!!

「ん?なんだ?」

ベランダのガラスを叩く音がした。渋々起き上がって、カーテンを除けて外を見てみると…

「ゆ……し…、……ね!!」
「うわぁ!!ゆっくりだ!!」

一匹の野生ゆっくりが、ガラスに体当たりしていた。
犬や猫が自分の家のガラスに体当たりしてるだけでも驚くのだから、その驚きようは理解してもらえると思う。
ガラスを隔てているため、ゆっくりが何を言っているのかは聞き取れない。

ゆっくりというのは、幻想郷に広く生息している人間の頭によく似た饅頭のような生物のようなよくわからないモノだ。
一応幻想郷に実在する人物に似ていると言われているが、その造形を放棄されたような顔面パーツや傲慢な言動のためか、
本人達はものすごい勢いで否定している、という噂だ。
実際、人里の多くの村では害獣認定されており、発見次第殺されるか加工場行きとなるらしい。

僕の目の前に居るゆっくりは、黒い帽子を被っていることから…まりさ種だということがわかった。

ガララララ!!

窓を開けると、ゆっくりまりさが何を言っていたのかが聞き取れるようになった。

「ここをまりさのおうちにするよ!!ゆべっ!?」

ちょうど助走をつけてガラスに体当たりしようとしたところを、僕が窓を開けてしまったようだ。
まりさは勢いあまってそのまま家の中に飛び込み、顔面から床に落ちてしまった。

「いだいよおおぉぉぉ!!ゆっくりでぎないよおおぉぉ!!」

痛みにのたうち回るが、裂傷は無く餡子ももれていないので、ただ痛がっているだけだろう。
僕はそのまりさをむんずと掴みあげると、顔を近づけて会話を成立させようと試みた。

「ゆ!!おにーさん!!まりさのあたらしいおうちでなにしてるの!?」
「ここはお兄さんの家だよ。さっきだってここで昼寝してたんだから」
「うそつかないでね!!まりさがここにきたときだれもいなかったよ!!」
「それはカーテンで中が見えなかっただけだろ?」
「そんなのどうでもいいよ!!まりさがさいしょにみつけたんだから、ここはまりさたちのゆっくりプレイスだよ!!」

僕の努力も空しく、会話は残念ながら成立しなかった。よって、速やかに虐待モードに移行する…



…え?今…何と言った?

「ゆっくりできないおにーさんは、まりさたちのおうちからでてってね!!」

やはり聞き間違いではないようだ。僕の目の前にはまりさ一匹しか居ないのに…こいつは『まりさたち』と言った。
つまり、こいつは独り身ではなく家族が居るということ。
このまりさが成体であることから、おそらくこのまりさが親で他に子がいるのだと思われる。
そうだと分かったら作戦変更だ。こいつ一匹だけでは物足りないので、家族にもご登場願おう。

「ゆっくりはなしてね!!はなさないとおこっちゃうよ!!」
「お前、家族はどこに住んでるの?」
「ゆ!?わかった!まりさのかぞくにわるいことするきだね!!だったらおしえてあげないよ!!」

このまりさ、ゆっくりの平均以上の知恵はあるようだ。僕の顔と声色から、危険性を察知したらしい。
そう、そうでなくては困る。そうでなくては虐めがいが無いからな。

「教えてくれよ。お兄さんは君の家族と仲良くしたいんだよ」
「うそいわないでね!!おにーさんはゆっくりできないひとだよ!!」

一回目。僕はまりさの頬を強くつねり、そのまま捻り取った。

「ゆぎゃあぁぁぁああぁぁぁ!!!なにずるのおおおぉぉぉぉ!!??」
「これは命令じゃなくて提案なんだけどね、痛いのが嫌なら家族の場所を教えたほうがいいと思うよ」
「いやだあぁああああぁぁぁ!!ゆっぐじでぎないがらおじえないもん!!」

二回目。傷口から餡子を小さじ一杯分抉り取る。ある程度の恐怖を味わったので、そこそこ甘くて美味しい。

「いびゃあああああぁあぁぁぁ!!だじげでえええぇぇぇぇえ!!じぬううっぅぅあああ!!!」
「いや、本当にね、命令じゃないんだ。そうしたほうがいいよ、っていうお兄さんからの提案。
 痛い目にあいたくなければ、お兄さんに家族の場所を教えてくれないかなぁ~」
「いぎゅっ!!いびゃっ!!」

三回目。反抗的な目だったので、片方だけ目を抉り取る。にゅるんと潤いのある球体。イクラみたいで美味しそうだ。

「めぎゃあああぁあぁぁぁああ!!まいじゃのめがあああぁぁぁああぁぁ!!」
「どう?お兄さんの提案、聞き入れてくれないかな?」
「いいまじゅ!!いわぜでぐだじゃい!!かぞぐのばしょゆっぐでぃいいまじゅううううぅぅぅぅ!!!」

一つだけになってしまった目から大粒の涙を流し、餡子を吐きつつも言葉を紡ぐまりさ。
やっと提案を受け入れてもらえたので、僕はまりさの案内に従って草原へと向かった。



透明な箱に収まったまりさを連れて、まりさ一家の巣にたどり着いたのは家を出てから10分後だった。
こんな近くにゆっくりの生息地があったとは…今度からここを僕の“ゆっくりプレイス”にしようかな。

「ま、まりさたちのおうちはあそこだよ…!」

先ほどから元気の無いまりさ。その案内によるとここら辺の木の根元に穴があるはずなんだが…
と、探すまでも無かった。数メートル離れていても分かるくらいの大きな穴が、木の根元に開いていた。
これでもカムフラージュを施したつもりらしい。残念ながら、これだと一発でバレるだろうな。

「それじゃ、家族を呼んでくれ。お兄さんは君の家族と仲良くするんだからね」
「ゆぶ!やだよ!!まりさのれいむとこどもにゆっくりひどいことしないでね!!」
「そうか、じゃあまりさの目を貰おうかな。目がまったく見えない、ってどんな感じなんだろうね」
「いいまじゅ!!よびまずぅ!!」

まりさは僕の要望を快く聞き入れてくれた。
無知・無能であるゆっくりも、一生涯光の無い世界で暮らすことを想像すると恐怖を感じるらしい。

「ゆぐ、ゆっくりかえってぎだよ!!」

巣の中に聞こえるように、大声で叫ぶまりさ。
すると、巣の中から成体のれいむと子ゆっくり十数匹が一斉に飛び出してきた。
ぴょんぴょん跳ねる様がとても気持ち悪い。

「ゆっくりおかえり!!」「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくちしていってね!!」「おかーしゃんもゆっきゅりしていってね!!」

最初は笑顔だった一家だが、目の前の僕と箱に収まったまりさを見て、異変に気づいたらしい。
まりさの頬から漏れる餡子、そして抉られた目の跡を目の当たりにした瞬間、母れいむは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「おにーさん!!まりさをはこからだしてあげてね!!」
「れいむ!!まりさはいいからみんなはにげてね!!」
「おいおい余計なことを言わないでくれよ。お兄さんは皆と仲良くしたいだけなんだから」
「うそだよ!!おにーさんはまりさにひどいことしたよ!!だからみんなはゆっくりにげてね!!」

これだけ言っても僕の言葉を理解してくれない。甚だ不本意である。
箱の中でがたがた震えながら抗議の声をあげるまりさ。僕はそれを無視して家族に呼びかけた。

「お兄さんから提案です。まりさを助けたかったら、お兄さんについてきてね!
 あ、これは命令じゃなくて提案だよ。だから嫌だったら別についてこなくてもいいからね!」
「だ、だめだよ!!まりさのことはきにしないでいいから、みんなはゆっくりにげるんだよ!!ゆぎゃぁっ!!」
「まりさは黙っててね。お兄さんは皆と仲良くしたいんだから、邪魔しないでくれよ」

まりさの身の程を弁えない言動に、普段は温厚な僕も立腹する。
ガツンと箱を一発殴るとまりさは一転して無言になり、目を強くつぶって震え始めた。

「じゃあお兄さんは行くよ。まりさを助けたかったらついて来てね」
「ゆぐぐ…わ、わかったよ!ゆっくりおにーさんについていくよ!!だからまりさをたすけてね!!」
「OK!それじゃ皆はゆっくりついてきてね!」

僕が歩き始めると、その後ろを母れいむと子ゆっくりたちがついてくる。
その表情は、まるでお通夜のときのそれだ。

「みんなありがとう!!お兄さんは皆と仲良くできて嬉しいよ!」

僕は後ろからついてくる一家に優しく微笑みかけながら、来た道を戻り始めた。



空き部屋にゆっくり一家を連れ込む。
れいむと子ゆっくりを先に部屋の中に導いて、最後に僕がまりさの入った箱を抱えて中に入り、扉を閉めた。

「ゆ!!やくそくだよ!!まりさをゆっくりしないでだしてあげてね!!」

別にれいむの言葉に従ったわけではないが、箱からまりさを出してやり、家族のほうへ放り投げる。
ぼよんぼよんと鈍い音を立ててバウンドしたまりさは、自力で動きを制御できず…一家の目の前を通過して、壁にぶち当たって
やっと止まった。

「ゆぐううぅぅっぅ!!!いだいよおおおぉぉおおぉぉお!!!」
「まりさ!!ゆっくりだいじょうぶ!?」「おかーしゃんだいじょうぶ!?」
「いたいのいたいのゆっくりどんでけー!!」「いたいのがなおったらいっしょにゆっくちしようね!!」

そんな一家のやり取りに耳を傾けながら、僕は部屋全体を見回した。

この部屋の窓は嵌め殺しになっていて、ガラスも頑丈なものを使っている。
ゆっくりの力で何かを投げたり体当たりをしても、絶対に割れないようになっている。
そもそもこの部屋にはゆっくりが投げられるようなものなど無いのだが、念のためである。

そして…この部屋には、普通の部屋には無いものがある。
壁の、ちょうど僕の腰の高さのところから飛び出しているのは、水道の蛇口だ。
その下には青いホース。もちろん、蛇口に取り付けて使うものだ。
床は水をはじく素材で出来ていて、ちょうど部屋の中央には排水口も備え付けてある。
事が終わってから後始末がしやすいように…つまり、この部屋は“そのため”の部屋なのだ。

「ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」「ゆっくりちねええぇ!!」
「おかーしゃんにひどいことするおにーさんはゆっくりしんでね!!」

耳障りな声で我に返ると、足元ではゆっくり一家が僕に体当たりしていた。
ひどいこと…というと、頬を破ったことか?それとも目を抉ったことか?心当たりが多すぎて困る。
驚くほど威力の無いゆっくりの攻撃だが…どうやらこれが総攻撃らしい。
僕にとってはマッサージ以下の圧力しか感じないのだが、当のゆっくり一家は必死である。

「みんなでおにーざんをだおすよ!!」「きょうりょくすればたおせるよ!!」
「うぎゃああああ!!しねええええっぇぇえぇぇえ!!!」

全エネルギーを僕にぶつけようと、全力全開で僕の脚に体当たりしている。
そんな様子が微笑ましいが…あまりの力量差に、ちょっとかわいそうになってくる。

「ゆっくりしねえぇえぇ!!まりざのめをどっだおにーざんはゆっぐりじねええええええぇぇ!!ゆぶえっ!?」
「いびゃっ!!」「ゆげっ!!」「んがっ!!」

一番近くに居た片目だけのまりさを軽く蹴飛ばすと、周りの子ゆっくりはボーリングのピンのように弾き飛ばされた。
まりさはそのまま転がり続け、壁にぶつかると『ゆげへっ!』と鈍い声を上げて餡子を吐き、気を失った。

「わかったわかった、そいつを治す道具を持ってくるからゆっくり待ってな」

その瞬間、まるでスイッチで切り替えたかのように、一家の表情が変わった。

「ゆ!!おにーさんありがとう!!ゆっくりしないでまりさをなおしてあげてね!!」
「ついでにごはんももってきてね!!」「そしたられいむたちのおうちでゆっくちさせてあげるよ!!」

いつの間にか、ここが一家の新居になっていたらしい。そういえばあのまりさも、ここが新しい家だとか言ってたっけ。
…もういいや、こいつらと会話を成立させるのは疲れる。放っておこう。
僕は好き勝手に喚く一家を無視して、“道具と材料”を取りに台所へと向かった。



数分後、僕が部屋に戻ってくると…

「おにーさんゆっくりしすぎだよ!!」「さっさとおかーさんをなおしてあげてね!!」
「ごはんもだしてね!!そうしないとゆっくりさせてあげないよ!!」

僕の足元を這いずり回っているくせに、言動は徹底的に上から目線である。
でも、まりさを治すって約束しちゃったからなぁ。仕方ない、約束どおり直してやるか…僕好みに。

「よし、じゃあ治療するからまりさはこっちにおいで」
「ゆぐ!ゆっぐりしないでなおしてね゛!!そしたらとくべつにゆるしてあげるよ゛!!」

別に許してもらおうとも思わないけどな。
僕はまりさを脚の間に挟んで固定すると、傍らに置いた“ゆっくり治療セット”の中から餡子を取り出した。
スプーン一杯分の餡子を、目が抉られて出来た窪みの中に押し込んでいく。

「いぎゃああああぁぁぁ!!いだいいだいいだい!!!」
「おにーさん!!またまりさにひどいことしてるの!?」
「違うって。これは治療だよ。まりさは強い子だから我慢できるよね?」
「が、がまんするよ!!だからゆっくりしないでさっさとなおしてね゛!!」

餡子を収め終えると、ちょうどいい大きさの生地を穴に被せて、指を水で濡らして繋ぎ目を伸ばして定着させていく。
十数回同じ動作を繰り返せば、繋ぎ目は完全に消えうせ…もともと目が一つしかなかったかのような顔が出来上がった。

「ゆ!?どうしてふさいじゃうの!?ばかなの?さっさとまりさのめをなおしてあげてね!!」
「おかーしゃんのめをなおしてね!!」「そうじゃないとゆっくりできないよ!!」

僕の治療を見守る一家から、文句が飛んでくる。
今までの治療を見ていて、どうやら適切な処置がなされていないと感じたようだ。

「うるさいから黙って見ててね!!」

僕は一番近くにいた子ゆっくりを三匹縦に並べ、串で一気に貫いた。

「いぎゃああぁあぁぁぁぁ!!!」「いぎゃあおいいいいいいぃぃ!!」「ゆっぐじでぎなああいいいいぃぃぃ!!!」

身体のど真ん中を貫かれた激痛に三者三様の叫び声をあげる子ゆっくりたち。これが後の『だんご三兄弟』である。
適当に床の上に転がすと、れいむを始めとする一家が三兄弟の周りに集まってきた。

「ゆっくりがまんしてね!!いまたすけてあげるからね!!」「いたいのゆっくりとんでけー!!」

…うるさいのには変わりないが、注目を逸らすことが出来ただけよしとしよう。
視線をまりさのほうに戻すと、一つだけの目を血走らせながら死に物狂いで僕の脚から抜け出そうとしていた。

「こどもたちに゛ひどいことしな゛い゛でね゛!!これい゛じょうやったら゛ゆる゛ざないよ゛!!」

僕に噛み付こうとしているのだろうか、大きく口を開けて威嚇してくるまりさ。
残念だが、その口とはもうお別れしてもらうことになる。

僕は大きなお玉状の器具を使って、まりさの口とその周囲を勢いよく抉り取った。

「っ!?…んんーっ!!!??」

最初は何が起こったのか理解できていなかったまりさ。
だが、言葉を発する事が出来ないことに気づくと、んーんー唸りながら逃げ出そうと必死に身を捩り始める。
口を抉り取ったところから、さらに奥の餡子を適量取り出すと…

「………!!!」

まったく声を発する事ができなくなった。今や、このまりさの意思表示の手段は一つ残された目だけである。
口周辺の組織を全て摘出し終えたことを確認すると、僕は代わりの餡子を口だったところに押し込んでいく。

「ゆ゛!?おにいじゃんなにやっでるのおおおぉおおお!!??」

だんご三兄弟はもう助けたのだろうか、母れいむがこちらの様子に気づいて悲鳴を上げた。

「ゆぎゃああぁあぁぁ!!おくちがないよおおおおぉぉぉ!!」
「うん、邪魔だから消しちゃった」
「どうじでぞんなぎょどずるのお゛お゛お゛っぉぉぉぉ!!??はやぐなおじでねえええぇぇぇぇえ゛!!!」

治してね、と言っておきながら僕を邪魔しようと体当たりしてくる。
僕は空いた左腕でそいつを軽く払いのけると、その隙に口を埋める作業を終わらせた。
仕上げは先ほどと同じだ。適切な大きさの生地を被せて穴を完全に塞いでしまう。

「まいざのおおおぉぉ!!まりじゃのおぐぢをどこにやっだのお゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉ!!!??」
「おがーざんのおぐぢどおめめがないよおおおぉぉ!!??」「これじゃゆっぐじでぎないいいぃぃぃ!!!」

まりさの顔面を見た一家は、気の狂ったような悲鳴を上げた。
そりゃそうだろう、今のまりさの顔は…目が片方残っているだけで、他は何も残っていないのっぺらぼう状態なのだから。
口がないとだいぶ静かになるな。やはりゆっくりのウザいところと言ったら、傍若無人な発言内容だからな。
“まりさのこえきこえないの?ばかなの?”―――“はい聞こえませんよ。だって君、声を出してないじゃん”
…なんてやり取りを想像してみたりして。

「お口はゆっくりするのに必要ないからね!!邪魔だから取ってあげたよ!!」
「いやあぁぁぁぁあぁ!!おぐぢがないどゆっぐぢでぎないいいいぃぃ!!!」

一家は泣き叫びながら背中に体当たりしてくる。
正面から来ないのは…まりさの酷い顔を見たくないからだろうか。
やはり痛くもなんとも無いので、放っておいて治療を続けることにした。

「………!!」

まずは帽子を脱がせ、そこらへんに放り投げる。まりさは何か言いたそうにしているが、口が無いので唸ることもできない。
次に自慢の金髪をばっさりと切り落としていく。床にはぱらぱらと金色の髪が落ちていく。

「髪もゆっくりするのに必要ないからね!!邪魔だから取ってあげるね!!」
「っ………!!」

目に涙を浮かべ、それでも何も言えないのでただじっとしているしかないまりさ。
最後は、りんごの皮むきの要領で頭部の皮を包丁で薄く剥いて、別の生地を覆い被せて定着させる。
こうすれば、二度と髪が生えてくることは無い。こいつは一生涯ハゲのままということだ。

「まりざいっぎゃあああえrがえろぱおぺおかぽぱp!!!!???」

この悲鳴は、まりさの姿を見てしまったれいむのもの。
つるっぱげで口が無く、目もひとつだけ…今やクリーチャーとなってしまったまりさの姿によほど衝撃を受けたのだろう。
そこらじゅうを飛び回り、壁や床に体当たりし、終いには餡子を吐き出しながら気絶してしまった。
ゆっくりは精神的ショックでは気絶しないと思っていたが…どうやら僕の思い込みだったらしい。

「おがーじゃん!!おがーじゃんのぎれいながみがああぁあぁぁあ!!」
「おにーさんはじね!!ゆっぐりじねぶぎゅ!?」
「はいはい、邪魔しないでねー」

耳も切り取ろうと思い、耳を探してみたが…どうやらゆっくりに耳はないらしい。
不思議なことだが、耳が無くても音が聞き取れるというのだろう。
それならそれでいい。自分の意思を表現できず、でも外部からの音だけは常に聞き取れる、というのも残酷でいいかもしれない。

仕上げに、唯一残っているひとつの目をくりぬく事にする。
先ほどは乱暴に抉り取ってしまったからかなり痛がっていたが、専用の器具を使えばほとんど痛み無く眼球を摘出できる。
お玉状の小さな器具を目に近づけていく…まりさの目に、最後の涙が浮かぶ。
その目はいったい何を語ろうとしているのか、僕にはまったくわからない。そして…

「やめでえぇぇぇえぇえぇぇ!!おがーざんのおめめをどらないでええぇぇぇぇ!!!」
「おめめがないどゆっぐりでぎないよおおおおぉぉぉ!!??」

ぐりゅんっ!

べちゃっ!

顔面に残っていた最後のパーツ。左眼球が取り除かれ、床に落ちた。
悲鳴を上げなかったということは…痛みは感じなかったのだろう。よかったよかった。
先ほどと同じように、穴を餡子で埋めて生地を定着させる処置を施す。

「ふうっ…!」

額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。

「がああぁぁあぁぁぁあぁああ!!!おがーざんがあああぁぁぁあぁぁあ!!!」
「おめめはどこぉ!?おぐぢはどこぉ!?」「がみのげはどごおおおぉぉおぉぉおお!!??」

子ゆっくりたちが大粒の涙を流しながら叫んでいる。
その視線の先にあるのは…表面に汚れ一つついていない、歪みの無いまん丸の饅頭だ。
僕が脚で挟む力を緩めると、饅頭はがむしゃらに跳ね回り始めた。
目が見えない、というか目が無いので、当然跳ねる方向はめちゃくちゃである。
壁にぶつかってはひっくり返り、バランスを崩してはひっくり返り、ただひたすら跳ね続ける。
その様子は…まるで何かから逃げようとしているようだった。
一体何から逃げようというのか、僕には分からないが…このまま放っておいて傷がつくと困るので…

「おがーじゃあああぁぁぁあぁん!!!」
「おがーざんをづれでがないでえぇえぇぇぇ!!」

僕はその饅頭を掴んで台所へ向かった。

ガスコンロに火をつけて、フライパンを温める。十分加熱したところで、饅頭をその上に放り投げた。

「……っ!!」

無言でフライパンの上を踊りまわる饅頭。これはこれで、見ていて面白いな。
僕は饅頭の頭(だと思われる部分)を掴んで、フライパンに押し付ける。
こうしておけば、饅頭の足(だと思われる部分)の機能を完全に殺す事が出来る。

数分後、いい具合に焦げてきたところで饅頭をフライパンから上げ、先ほどの部屋に戻った。

「おがーざあぁぁあん!!!おがおがないよおおおぉぉぉ!!」
「おにーさんははやぐおがーざんのおがおをなおじであげでね゛!!」
「このままじゃゆっぐぢでぎないよおおおおぉぉぉ!!??」

焼き饅頭を床に置くと、周りに子ゆっくりが集まってきた。
どうやら、ここまでやってもまだこの饅頭をまりさだと認識しているようである。
焼き饅頭は子供たちの声を耳にして必死に跳ねようとするが、底面を丹念に焼かれてしまったのでもう二度と自力では動けない。
これが饅頭の正しい姿だ。本来、饅頭は自分から勝手に動いたりしないのだから。

「…あ、そうだ!」

ふと面白いことを思いついたので、饅頭を手にとって再び“ゆっくり治療セット”を開く。
着色料を使って饅頭に色を塗り、全体をピンク色に染めていく。と、ここまでは順調だったのだが…

「こいつ、どっちが顔なんだろう?」

必要以上に綺麗に目と口を消し去ってしまったので、治療を施した僕にもどこが顔なのか見分けがつかなくなってしまったのだ。
こうなると、顔がどこだか分かるのは当事者である焼き饅頭のみ。
僕は焼き饅頭をもう一度床において、こう呼びかけた。

「お前、ちょっと前に進んでみ」

焼き饅頭はぶるぶる震えながら、それでも僕の言葉に従ってゆっくりと這いずり始めた。
散々酷い目にあわされてすっかり脅えてしまったのだろう、すんなりと言う事を聞いてくれた。
おかげで、進行方向から焼き饅頭にとっての顔がどこなのかがわかった。

再び分からなくなる前に、顔面の上の方に小豆を2粒、目の代わりとして埋め込む。
次に紅生姜を、笑ったときの口の形に切り取って、剥がれないように饅頭の顔面下部に貼り付ける。
最後に、適切な位置にピンク色の手と赤い足をくっつければ…

「あっというまに~カービィ♪」

ピンク色のまん丸の胴体に、4方向にちょろっと伸びた手足。つぶらな瞳にかわいいお口。
…どこからどう見てもカービィである。

「ほーら、かわいいでしょ♪」

それを床において、子ゆっくりたちに見せ付けてやる。
何と言ったって、見た目は明らかにカービィなのだ。世界最強の萌えキャラなのだ。かわいくないわけが無い。

「おがーざんのおがおがへんになっじゃっだああぁぁぁぁぁあ!!!」
「ゆっぐりじないでね!!はやぐもどにもどぢであげでねえええぇぇぇ!!!」
「こんなのがわいぐないよ゛!!こんなんじゃゆっぐりでぎないよおおおおぉおぉぉ!!!」

酷い言い様である。世界最強の萌えキャラを、かわいくない、と。
元まりさ、現カービィである饅頭は、なんだかよくわからないが…とにかく震えている。

そのとき、さっきまで気絶していた母れいむが目を覚ました。

「ゆ!まりさああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!はやぐまりさをなおじで…ゆっ!?」

その目に映ったのは、十数匹の子ゆっくりと…カービィ。
世界最強の萌えキャラが、れいむにとっては奇怪なモンスターに見えたのだろうか、この世のものとは思えぬ悲鳴を上げた。

「いんぎゃああぁぁっぁえろがおprpがおp!!逃げでえぇぁぇぇぇっぁいぇいえっぇぇ!!??」

…そうか、子供たちはまりさがカービィになる過程を見ていたから、目の前の萌えキャラを親だと認識しているが、
れいむは途中で気絶してしまったから過程を見ていない。だから帽子をかぶっていないまりさはただの饅頭なんだ。
さらに、その饅頭は過剰装飾を施されてカービィの姿をしているため、れいむの目には化け物のように映ったのだろう。

「おがーじゃん!!だいじょうぶだよ!!このぴんくいろもおかーしゃんだよ!!」
「でもおがおがへんなのぉ!!ごんなんじゃゆっぐぢでぎないよおおおぉぉぉ!!!」

目の前のカービィが母親であるということを、必死にれいむに伝える子ゆっくりたち。
だが、帽子をかぶっていないただの饅頭を、自分のパートナーの成れの果てだと認めるわけが無い。

「うぅ、うそをいわないでね!!そんなぴんく色のきもちわるいのが、まりさなわけないよ!!」

あぁ、かわいそう。カービィが悲しみに打ち震えているじゃないか。
きっと涙を流したいのだろう。叫びたいのだろう。否定したいのだろう。
だが…そのための目が無ければ、口も無い。自分が自分であることを表現する手段が、こいつにはないのだ。
こいつにあるのは、耳だけ。心に突き刺さる言葉を聞くための耳だけが、残されている。

「子供たちが言っていることは本当だよ。こいつは、君のまりさだよ」
「ゆ゛!!おにーさんまでうそをいうんだね゛!!こんなピンクま゛んじゅうがまり゛さなわ゛けないでしょ!!
 いい゛かげん゛にしないと、ゆ゛っくりさせてあ゛げないよ゛!!」

無言でびくびく震えているカービィ。その震えは悲しみなのか、怒りなのか。どちらかわからない。

「おーいまりさー!早く逃げないと食べちゃうぞー!」
「っ……!!??」

と棒読みで言いながらカービィに近づく。カービィは僕の声から離れようと、焼け焦げた身体に鞭打って必死に後ずさりする。
助けを求めることも、恐怖に泣き叫ぶことも出来ない。その顔に張り付いているのは、可愛らしい満面の笑み。
ただただ笑った顔をこちらに向けながら、声のする方向から離れようと這いつくばっている。
いやいやと顔を横に振るが、何しろその顔が笑顔なので何を言いたいのかまったく分からない。

「って、イタズラはこれぐらいにしておいて…」

僕はそんなカービィに、まりさの帽子を被せてやった。

「……ゆ?」

その瞬間、れいむの様子が変わった。
目は生気を失い、口はがたがた震えている。その視線の先にいるのは、果たしてカービィなのかまりさなのか。

「まっ…まりっじゃあぁあぁぁぁぁあおあおrぽあおpkげらえpらお!!??」

気が狂ったように跳びはねて、帽子をかぶったカービィ=まりさの元に駆け寄る。
何が起きたのか分かっていないようなまりさは、耳に入ってくる声だけでそこにいるのがパートナーのれいむであると理解した。

「まりざがっ!!まりざのおがおが!!まりざのぎれいなおがおがどうじでえ゛ぇぇぇぇぃぃい゛ぇぇ!!??」

じっと、まりさの顔を見つめるれいむ。
だが、まりさにはれいむの顔は見えていない。何かを言いたくても言葉を発する事が出来ない。

「よーく見てよ。かわいい顔だよ。かわいくて綺麗な顔だよ♪」
「ごんなのがわいぐないいいぃぃっぃい!!!まりじゃのおがおをがえじえ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!!??」

出来るのは、ただ顔面に張り付いた笑顔をれいむに寄せることだけ。れいむも、それを受け入れることしか出来ないのだ。
あまりの衝撃に、餡子を吐きそうになるれいむ。だが、寸前のところで再度気絶するには至らなかった。

「さぁ、帰った帰った。約束どおりまりさは助けてあげるよ。だからさっさと連れて帰ってね!」

一家に向けて、僕は投げやりに言い放った。
やっとショックから立ち直り始めた一家は、目の前の現実を直視して更に叫び声を上げる。

「ひどいいぃぃぃぃい!!おがーさんのおがおをゆっぐぢなおじでよおおぉぉ!!!」
「ごのままゆっぐりでぎるわげないでしょおおおぉぉぉ!!??」
「おにーざんはゆっぐりじね!!ゆっぐりじねえぇえぇ!!!ばがあぁあぁぁぁ!!!」

うーん、確かにこのまま何も食べずに放っておくと死ぬかもしれない。
そう思った僕は、ゆっくり治療セットからとあるパーツを取り出して…

「……っ!!??」

まりさの頬だと思われる部分に突き刺し、固定した。一瞬、痛みに震えるまりさ。けれども笑顔は絶やさない。
このパーツは、ビーチボールの空気穴のような形をしていて、蓋を開閉する事が出来る。
こうしておけば、この穴から食料を取り入れる事が出来るはずだ。

「これなら大丈夫だろ。この穴の中に食べ物を入れてあげれば、死ぬことは無いよ」
「どうじでごんなごどおぉおおお!!??ぢゃんどなおぢであげでねえぇえぇぇ!!!」

そんなれいむの言葉を聞いて、僕は思い切り床を叩いた。

バァンッ!!

その音に、ゆっくり一家全員がびくっと震えて僕に注目する。

「お兄さんからの提案です。死にたくなかったら、全員さっさとこの家から出ていってね。
 あ、これは命令じゃなくて提案だから別に従わなくてもいいよ………まりさみたいになりたいなら、ね」

僕の提案に、カービィまりさを含む一家全員が震え上がった。
ここから一刻も早く立ち去る必要がある。もし反抗したら…次は自分がまりさのようになるかもしれないのだから。

「ゆ、ゆっぐりでていぐよ!!だからこっぢにこないでね゛!!」
「ゆっぐぢにげりゅよ!!」「おがーじゃああぁぁん!!」
「ちゃんとおかーさんも連れて帰ってね!あ、だんご三兄弟を忘れてるぞ、ほら!」

庭に通じる窓を開け放つと、ゆっくり一家はわらわらと逃げていく。
自力では動けないカービィまりさは、れいむと子ゆっくり5匹に担がれて…
串で貫かれた三兄弟は、残りの子ゆっくりに担がれて部屋から出て行く。
あ、だんご三兄弟ってあれからずっと放置されてたのか…

「ふぅ、こんなもんだろう」

ぐいっと、額の汗をぬぐう。

後ろを振り向かずに逃げ去っていく一家を眺めて、僕は一仕事終えた達成感に浸っていた。
ゆっくりを粉砕するなどという野蛮な制裁をしなかったため、後始末の手間が省けてよかった。
あとは、あのカービィまりさがこの先どうやって生きていくか…それを見届けるだけだ。
カービィまりさの“目”には発信機が仕込んであるから、明日にでも様子を見に行くか。

「うーん、楽しみだなぁー♪」

遠足前の子供のような気分になった僕は、スキップで台所に向かい、昼食を作り始めた。



(終)



あとがき

カービィって、この世で最強の萌えキャラだよね!

ちなみに、この話は続くかもしれないし、続かないかもしれない。



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最終更新:2022年05月03日 16:08