ゆっくり以上にウザい何かがいます。良いゆっくり注意。










いつもみたいに家でゴロゴロしてると親父が話しかけてきた。

「なあ、息子よ」

「なんだい親父」

「お前はもう二十八になるな」

「そうだけどそれがどうしたんだい」

「嫁どころか子供がいてもおかしくない年だよな」

「まあ、そうだな」

「で、いつまで働かずにそうやってるつもりなんだ」

なんだ、また説教か。
昼間から仕事もせずにふらふらしている。
それでいながら飯だけは一人前に食う。
そんな奴の事を世間は穀潰しとか無駄飯喰らいと呼ぶ。
まあ、俺のことなんだけどね。

で、いつもだったら「俺には夢があるんだ」とか、逆切れするとか色々対処方法はあるんだけど思わず言っちゃったんだよね。
魔が刺したって言うのかな。

「ずっとおうちでゆっくりしていくよ!!!」

ってね。

まあ、なんと言うか色々ダメだよね。
予想通り、親父マジ切れ。
華麗な空中十六連コンボで俺をボコボコにして家から叩き出した後に一言。

「この穀潰しがぁ!!!お前なんざに食わせる飯は金輪際ねえよ!!!そのままゆっくりにでもなっちまえ!!!」




という訳で、俺はゆっくりになることにした。









『ゆっくりになった男』












俺はゆっくりについて結構詳しい。
何でかって。
平日の昼間からゴロゴロしてるのは結構退屈なのだ。
だったら働けよって。
あ~聞こえない、聞こえない。
まあ、それで暇つぶしにそこいらをフラフラするわけよ。
でも平日の昼間ってのはみんな働いてるから遊び相手もいないし、娯楽になるような場所も開いていないわけ。
で、やる事と言ったらゆっくりをいじる事ぐらいなんだな。
言っとくけど寂しくなんか無いんだからね。
そんな訳でゆっくりの見つけ方や生態について詳しくなってしまったんだ。



突然だがゆっくりポイントと言うのをご存知だろうか。
ゆっくりが家に入ってきた後にほざくあれである。
実はゆっくりポイントは実在する。
そこは外敵に襲われる事もいじめられる事も無く、餌も豊富で環境も素晴らしい。
そんな場所は実在する。
まあ、永久に存在する場所ではないんだけどね。
上手く言えないが統計とか確率とかそういった話である。

幻想郷の一万ヶ所でゆっくりが暮らしてるとする。
大体ほとんどの場所でゆっくりは何らかの原因で死滅する。
しかしその内の一ヶ所では外敵に襲われる事も無くゆっくりできるのである。
それはなぜか。
ただ運が良かっただけである。
たまたま餌が豊富で、外敵に出会うことが無かっただけなのだ。
その幸運な場所、それがゆっくりポイントである。

ゆっくりはどうしようもないくらい愚鈍だが数だけはたくさんいる。
それだけたくさんいると運がいい奴も出てくるわけだ。
まあ、幸運も永久に続かないわけだが。
俺が見つけるからね。
そう、ゆっくりポイントの存在時間は外敵に見つけられるまで。

長々と話してきたが何が言いたいかというと。
俺は他の人が見つけることが難しい運の良いゆっくりを見つけるのが得意だってだけなんだが。
………はい、マジでスマン。
ちょっとインテリぶりたかっただけなんです。
ホントごめんなさい。



そんなわけの分からないモノローグを入れているとゆっくりポイントに到着した。
たくさんのゆっくりがゆっくりしてる。

「ゆっくりしていってね!!!」

「ちょうちょさんまって!!!」

「おはなさんおいしいね!!!」

「ゆっくりしていってね!!!」

うむ。
実に運が良い。
俺の目的だった複数の大家族が協力して子育てしてる集団だ。
おうちも俺が暮らせるぐらいに大きい洞窟を利用している。
さて行動開始。

「ゆっくりしていってね!!!」

群れの外れにいた小ぶりのゆっくりれいむ。
大きめの子供サイズ。
それをむんずと捕まえる。

「おにいさんだあれ!!?ゆっくりできるひと!!?」

外敵に襲われた事が無いゆっくりポイントのゆっくりは性善説の信者だ。
警戒感が全く無い。
スルリとゆっくりれいむのリボンを奪う。

「おにいざん!!!なに゛ずるのお゛!!!かえじでー!!!」

泣きながら体当たりするゆっくりを見ながら俺はリボンを自分の髪に結んだ。
まあ必死だわな、こいつらのアイデンティティだもん。
奪われるとこうなっちゃうもんな。
俺は叫ぶ。

「みんなー変な子がれいむのおリボン取ろうとするよー!!!」

そうするとワラワラとゆっくりが集まってくる。

「ゆっ!!?ほんとだ!!!へんなこがいるよ!!!」

「へんなこだね!!!」

「へんなこだ!!!」

「どうじでぞんなごどい゛うのお゛ぉぉぉ!!!」

そう、こいつらが糾弾してるのは群れの一員であったゆっくりである。
どうも飾りで仲間を見分けてるらしい。
始めて知った時は笑いが止まらなかったぜ。
いくらなんでも無理があるだろう。

「この子がれいむのおリボン取ろうとするんだよ!!!お母さんたちゆっくり助けてね!!!」

俺の言葉に反応して大人のゆっくりたちがリボン無しを追い出しにかかる。

「りぼんのないこはどこかにいってね!!!」

「みんながゆっくりできなくなるからね!!!」

「れいむのこどものりぼんをとろうとしないでね!!!」

「おがあぢゃあん!!!どうじでぇ!!?やめでぇ!!!」

複数の大人にタコ殴りにされてリボン無しは群れから出て行った。
リボン無しの両親だろうか、大人のゆっくりが俺に笑いかける。

「おかあさんたちがおいはらったからもうだいじょうぶだよ!!!」

「あんしんしてね!!!」

ホント、こいつらの頭の中はどうなってるんだろう。
大きさとか形の違いとかの誤差はどうなってるんだろう。
これが大きさの概念を捨てるという事でしょうか、司令官。
それはともかく、俺のゆっくりとしての生活は始まったのだった。



日が翳り始めると子供たちは先に帰って大人たちが夕食を持って帰るのを待つ。
ゆっくりポイントは人間だけじゃなく危険な獣や妖怪にも見つかってないので人間にとっても安全である。
さらにおうちに使われてる洞窟はヒカリゴケも生えているし、ヒンヤリと涼しく俺にとっても快適だった。
うん、ニュー俺のお家、ナイス。
さて、労働の時間だ。
子供たちを囲むように石を積み始める。

「ゆっ!!?なにちてるのおねえちゃん!!?」

「まりさもゆっくりてつだうよ!!!」

子ゆっくりたちが興味を持ったのか近寄ってくる。

「お家を頑丈にしてるんだよ!!!みんなはそこでゆっくりしていってね!!!」

「おうちがりっぱになるんだ!!!すごいね!!!」

「わたしたちはここでゆっくりしてるね!!!れいむもつかれたらやすんでね!!!」

だからお前ら疑問を持てよ。



そんな感じで親ゆっくりたちが帰ってくる頃には子ゆっくりたちを囲むように微妙な石垣が完成してた。

「ゆっ!!!すごくかんじょうだよ!!!」

「たいあたりしてもびくともしないよ!!!」

「じゃんぷしてもとびこえられないね!!!」

「これならわるいやつもはいってこれないね!!!れいむありがとー!!!」

「ありがとー!!!」

ゆっくりたちの感謝の声が響き渡る。
けど。
どうみても牢獄です、本当にありがとうございました。

大人ゆっくりの体当たりで壊れない、ジャンプ力で飛び越えられない石垣。
しかし、人間が跨ぐには支障のない大きさである。
ゆっくり虐めの中で俺が身につけたどうでもいい技術の一つである。
むっふん、俺って匠。

「みんな!!!ゆっくりしてた!!!」

「いいこでまってたね!!!」

「ごはんだよー!!!」

親たちが帰ってきた。

「おかあさんだ!!!おかえりなさい!!!」

「ごはんだよ!!!きょうはどんなごはんかな!!?」

「あれ!!?おかあさんどこ!!?おかあさんのところにいけないよ!!!」

「ゆゆゆっ!!?おねえちゃんのつくったのがじゃまだよ!!!」

やっと現状を理解できたのか。
俺一人石垣を跨いで外に出る。

「ゆっ!!?みんなどうしたの!!?」

「れいむの作ったおうちでゆっくりしてるよ!!!」

俺の答えに親ゆっくりたちが石垣の周りに集まる。

「すごいよ!!!すごくがんじょうだよ!!!」

「すごくたかくてこえられないよ!!!」

「れいむがつくったの!!?えらいね!!!がんばったね!!!」

お褒めいただき光栄です、お母様。

「でもおかあさん!!!でぐちがなくてでられないよ!!!」

「でられないよー!!!」

「ごはんがたべられないよー!!!」

親もやっと気付いたようだ。

「ゆっ!!?ほんとだ!!!はいれないよ!!!」

「これじゃごはんをあげられないよ!!!」

そんなゆっくりたちに俺は声をかける。

「れいむが運んであげるよ!!!ほらね!!!」

そう言いながら俺は赤ゆっくりをつまんで外に出した。

「ゆー!!!おねえちゃんちゅごいよー!!!」

「ゆっ!!!れいむのこどもがすごくおおきくなったね!!!」

「あんなにおおきなこどもをもってるれいむたちがうらやましいよ!!!」

だからお前ら、ちょっと疑問を持たんかい。
そんな事より俺の飯だ。

「早くご飯を出してね!!!」

「ゆっ!!!ゆっくりだすよ!!!」

俺に急かされて親ゆっくりたちは食べ物を出した。
俺が食べれそうな物は……。
山葡萄と林檎が二つぐらいか。
あとは虫や花やらだ。

「きょうはおいしいくだものがいっぱいとれたよ!!!みんなおいしくたべてね!!!」

胸を張る親ゆっくりたち。
それじゃお言葉に甘えまして。

「いただきまーす!!!」

むしゃり。
これは中々美味い。
ぺろりと俺はたいらげる。

「だめだよ!!!それはみんなのくだものだよ!!!」

「わけあってたべなきゃ!!!」

何か言ってるが気にしない。

「それじゃみんなにもご飯をあげなきゃね」

虫や花をかき集めて石垣の中に放り込んだ。
ついでに赤ゆっくりも戻す。

「わーい!!!ごはんだ!!!」

「ゆっくりいっぱいたべるね!!!」

「あかちゃんにはおねえさんがたべさせてあげるね!!!」

微笑ましい食事が始まった。
みんなで適量を分け合い、年長者が年少の面倒を見ている。
そんな中、一体のゆっくりが気付いた。

「ゆっ!!?くだものがないよ!!!くだものはどうしたの!!?」

他の子ゆっくりたちも疑問に思ったらしく口々に叫ぶ。
それに対して俺はにこやかに笑いながらこう言ってやった。

「果物はれいむがみんな食べちゃったよ!!!とても美味しかったよ!!!」

「ゆーっ!!!ひどいよ!!!れいむひとりじめするなんて!!!」

「ずるいよ!!!れいむなんかだいきらい!!!」

「おねえちゃんなんてだいきらい!!!」

「だいきらい!!!いなくなっちゃえ!!!」

ぷくーと膨れて大嫌いの大合唱だ。

「みんなそんなこといったらだめだよ!!!だいきらいなんていったらかなしいよ!!!」

「れいむがいなくなっちゃったらおかあさんたちかなしいよ!!!みんなもいなくなったらかなしいでしょ!!?」

「だからそんなこといっちゃだめだよ!!!」

おお、道徳的だ。

「おかあちゃ-ん!!!れいむーごめんなさい!!!」

「おねえぢゃーん!!!いなぐなっぢゃやだー!!!ごめんなざいー!!!」

怒られた子供たちが口々に謝る。

「れいむの事を馬鹿にするから怒られたんだよ。はっは~ん!!!」

お兄さん、あんまりにも愉快だから思わず踊ったりしちゃうぞ。
そんなアホな事をしてると矛先が俺にも向いてきた。

「れいむもゆっくりはんせいしてね!!!ひとりじめなんてわるいこだよ!!!」

「みんなにあやまってね!!!ぷんぷん!!!」

うおっ、ぷんぷんて口に出してるよ、こいつ。

「ぷんぷんだってさ。おお、怖い、怖い」

「ゆーっ!!!おかあさんたちはおこってるんだよ!!!」

「怒ってるんだってさ。おお、怖い、怖い」

「ゆゆゆゆゆっ!!!ほんとにおこるよっ!!!」

「ホントに怒るんだってさ。おお、怖い、怖い」

どんどんボルテージが上がっていく。
真っ赤にプクーと膨らんでまるで餅みたいだ。
これは楽しい。
止められねえ。

「ゆーっ!!!ゆーっ!!!もう!!!わるいこにはおしおきだよ!!!」

ぴょん、ぽふ。
母親ゆっくりが俺に体当たりしてきた。

「お仕置きだってさ。おお、怖い、怖い」

ゆっくりの本気の体当たりだって人間には無害なのだ。
それが子供を叱る用の手加減体当たりなら風に吹かれたほうが、まだ影響は大きい。
俺は逆に母親ゆっくりを捕まえて持ち上げる。

「ゆっ!!?おかあさんをゆっくりはなしてね!!!」

「おかあさんをはなしてあげてね!!!」

「れいむ!!!それはわるいこのすることだよ!!!」

だからだなお前ら少しは疑問を………もういいや。

「子供に暴力を振るうお母さんにはお仕置きだよ!!!」

地面にゆっくりを叩きつける。

「ゆべしっ!!!どうじでごんなごどずるの~!!!」

手加減したので死なないし行動に支障は無いだろうが、子供に暴力を振るわれたショックで泣き出してしまった。
おお、愉快、愉快。

「れいむ!!!おかあさんにいますぐあやまってね!!!」

「そんなわるいことはゆっくりできないよ!!!」

他の親ゆっくりたちが何か言っているが壁を蹴りつけて黙らせる。

バシンッ!!!

「お母さんたちが屑だから全然ゆっくり出来なかったよ!!!れいむはもう寝るよっ!!!」

そのまま俺はごろりと横になる。
俺の行動に恐怖したのかおうちの中は静かだった。
ただ母親ゆっくりのすすり泣く声だけが聞こえていた。

ああ、今夜はゆっくり眠れそうだ。
明日もゆっくりしよう。

おやすみなさい。

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最終更新:2022年05月03日 17:57