あっさり短編集『妖怪とゆっくり』

幻想郷にいつの間にか大量発生したゆっくり。
それは人間の住処だけではなく、妖怪の住処にもよく姿を現すようになった。
人間も近寄らない妖怪の領域に入ったゆっくりはどうなるのか。


case1:つるべ落とし

暗く静かな森の中をゆっくり霊夢の姉妹が跳ねまわっていた。
まともな思考を持った者なら森の異様な雰囲気に恐怖や不安を持ちそうなものだがこの二匹は呑気なもので、
「しずかでゆっくりできるね!」
「よるになるまえにおうちをゆっくりさがそうね!」
などと和やかに話していた。

と、その時だった。
木の上から何か大きな物が落ちてくる。
「ゆっ?」
「ゆっくりおどろいたよ! なんなのもう!」

見るとそれはゆっくりと同じで生首だった。しかし見た目はごつく恐ろしい男の顔ではあるが。
「ゆゆ? はじめてみるゆっくりだね!」
「すっごくおっきいよ!」
「「ゆっくりしていってね!!」」
ゆっくり霊夢姉妹はゆっくり特有の挨拶をするが男の生首は何も言わず、品定めをするようにれいむ達を見ている。
「ゆ? ゆっくりしていってね!!」
何度言っても挨拶を返してこない。

それもそのはずだろう。
この男の生首は妖怪・つるべ落とし。
カヤや松の木の上に棲んでいるといわれている妖怪で、人が木の近くを通りかかると、木の上から落ちてきて、人を引っ張り上げて食べてしまうという妖怪だ。

つるべ落としからすれば、目の前のゆっくり達が体の無い人間に見えていた。
となれば食べるしかない。妖怪は人間を襲ってこそ妖怪なのだ。

「あいさつしないなんてゆっくりできないね!!」
「れいむたちのじゃまだからどっかいってね!!」
れいむ姉妹はつるべ落としをゆっくりできない認定すると途端に攻撃的になる。

だがそれも一瞬だった。
つるべ落としは口を大きく開き、れいむ姉妹に噛みついた。
「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!?」
「いだっい"!! なにずるのぉぉぉぉぉ!!!」

れいむたちの声を無視してつるべ落としは木の上へとするすると上がっていく。
正常な状態なら「おそらをとんでるみたい!」なんて言ったかも知れないが、自分と同じぐらい大きな歯が体を挟んでいてとてもじゃないがそんな余裕はない。
「あ"あ"あ"あ"!! はなじでええぇぇぇ!!!」
「だずげで!! い"だい"よ"!! ゆるじでえぇ!!!」
れいむたちは必死に命乞いをするがそれに応じるぐらいならば最初から襲ってなどいない。

つるべ落としはガツガツとれいむ姉妹を咀嚼し飲み込んでしまった。
人間ってこんなに甘かったか? とつるべ落としは疑問に思ったが、美味しかったのでまあいいかと眠りについた。








case2:牛鬼

れいむとまりさ、そしてぱちゅりーの仲良しゆっくり三人組はゆっくりできない人里を遠く離れ、知らぬうちに妖怪の森へと来ていた。

「ここまで来ればもうにんげんたちはこれないね!」
と勝ち誇ったようにまりさ。

「にげみちをあらかじめかんがえておいてせいかいだったわね」
と当然とばかりにぱちゅりー。

「そろそろ暗くなってきたからおうちさがそうね!」
と過去を(本気で)忘れて未来を考えるれいむ。


三匹は見慣れない森の中をおうちを見つけるために跳ねまわるうちに崖の下にある大きな洞窟を見つけた。
入口が大きく捕食者が入ってくるかも、とぱちゅりーは思ったがその時すでに日は暮れていた。
とりあえず今夜だけでもと三匹は洞窟の中でゆっくり眠ることにした。
だが三匹は選択を誤った。
洞窟の中にはすでに凶悪凶暴な捕食者がいたのだから。

洞窟に入ってまもなくするとそれは現れた。

ズンッ

「ゆ? なんのおと?」
「しらないわ。かみなりかなにかじゃない?」
「おくになにかいるよ!」

圧倒的な威圧感でそれは三匹の前に姿を見せた。
牛の首に蜘蛛の胴体を持つ妖怪・牛鬼である。
その性格は非常に残忍で獰猛、毒を吐き人を食い殺すことを好む普通の人間では到底敵わない強力な妖怪である。

「な、なんなのこれ! こわいよ!!」
「だいじょうぶよれいむ。これはただのくもよ」
異様な姿に怖がるれいむだがぱちゅりーは冷静だった。
「ここはまりさたちのおうちだよ! ゆっくりでてってね!!」
まりさに至ってはこの態度である。

しかし牛鬼は気にしない、というより人の言葉などそもそも理解できない。
牛鬼はまず、獲物を逃がさないために麻痺する毒を吐いた。
霧状の毒なのでまず避けられない。

「ゆ? なにこれ?」
「しってるわ。すなけむりね」
「ぱちゅりー、たぶんちがう…よ……?」
牛鬼の痺れ毒を吸い込んだゆっくり達はたちまち体がしびれていく。

「な、ん、な、の? か、らだ…がおか、し…い……よ」
「ま、ひね。しび、れるこ、と、を…まひ、ってい、う、のよ」
しゃべることすらままならなくなった三匹を牛鬼はギョロリと大きな眼で睨みつける。
「ゆ"、ゆ"っぐり、だず、げ…で、ね!」

人を食い殺すのが好きな牛鬼である。
首だけの人間に見えるゆっくり達はもはや食い殺されるしか無い。


まずはずっと的外れの事ばかり言っているぱちゅりーからだった。
「む、むぎゅ…うぅぅ!」
牛鬼はぱちゅりーの帽子の上からがぶり付き、体の上半分だけ飲み込んだ。
やろうと思えば一口ですべて飲みこめるのだが、苦しむ表情を見るためにあえてこうした。

「むぎゅっぁぁあぁぁあぁっ!!!」
人で言う鼻より上の部分を噛み千切られて残った口が苦しみの悲鳴を発する。
「ば、ばぢゅ、りぃぃぃ…!!」
「あ"あ"あ"あ"、あ"あ"、あ"、あ"!!!」
親友の悲惨な姿に残った二匹は悲鳴をあげる。

牛鬼はさらに、先の尖った足でパチュリーの餡子をかき混ぜる。
「むっぎゅっぎゃっぎょっぎぇっ!!!」
ぱちゅりーは今までに聞いたことがないほど大きな声を出した。それが声と呼べるのかどうかは別だが。

十分かき混ぜた後、牛鬼は残るぱちゅりーの下半身をぺろりと飲み込んだ。
「う"あ"…ああ"ぁ」
「もうおうぢがえじでぇぇぇ!!」
だが気分の乗ってきた牛鬼は次にまりさを標的にしたようだ。

まりさは鋭い牙で穴をあけ、そこから餡子を吸いだしていく。
「や"め、やめでぇぇぇ! ずわないでぇぇぇ!!」
じゅるじゅるとまりさの中身が吸われていく。
徐々に干からびるまりさをれいむは泣きながら見ている。

「…! …!!」
完全に中身を失ってもはや声も出ないらしい。
皮だけになったまりさは地面の上に捨てられた。

次はれいむの番だ。
牛鬼はれいむににじり寄る。
れいむはただまりさのデスマスクに助けを求めるような視線を向けていたが、次の瞬間体に緑の粘液にまみれた。
「ゆ"っ!? な"に"ごれ"…!」
それは牛鬼の毒。先ほどの痺れ毒とは違って苦しませて緩やかに殺すための毒。
だが牛鬼にとって誤算だったのは相手が人間ほど大きくなく、さらに毒の耐性も最低レベルだったこと。

「ゆ"っぐり"でぎな"い"……んぐ、う、うぼぉぉっ!!」
牛鬼の毒はすぐにれいむの全身を侵し、れいむは餡子を吐きだしていく。
れいむの小さな体から吐き出された餡子はすでに全体の2/3。それは致死量だった。

「ゅ"……ゅ"…」
毒に反応してうめき声を出す口もその後すぐに止まってしまった。
牛鬼はあっけなくれいむが死んでつまらなさそうにしたが、その後すぐにれいむを腹に収めた。


牛鬼は驚いていた。
しばらく振りに食べた人間はいつの間にこんなに甘くなっていたのか。
牛鬼は次の獲物を求めて洞窟の外へと出かけていった。








case3:毛玉

タンポポが黄色い花から白い綿になる頃、ゆっくり霊夢の家族は野原でゆっくり遊んでいた。
母ゆっくりの「あまりはなれないでね!」という忠告を守って5匹の子れいむが辺りを飛び回っている。

子れいむ達は次から次へとタンポポに息を吹きかけて種がゆっくり飛んでいく様子を見て楽しんでいた。
その中、子供たちはふわふわと浮かぶ白い毛玉を見つけた。


それは妖精の一種で、何を考えてるのか分からないがただ浮かんでいるだけである。
ただし、自分を敵意を向けるものに対しては妖弾を撃って反撃してくるし、隊列を組んで襲ってもくるという謎の性質を持っている。

easy毛玉なら一般人でも弾に当たりさえしなければ勝てる。
Luna毛玉となると激しい弾幕を放ってくるので鍛えていても油断はできない相手となる。
まぁ、博麗の巫女や恋色魔法使いであれば画面に出てきた瞬間に倒せてしまう相手でもあるが。


しかしそんな生物をゆっくり達は知らない。
異変がない時に毛玉が姿を現すことは稀だったから。
子れいむはゆっくり浮かぶ毛玉に愛着を持ったらしく親しげに話しかける。
「ゆっくりしていってね!」
「こっちでゆっくりあそぼうよ!!」
「ゆっくちおりてきてね!」

しかし毛玉はゆっくり達の声などどこ吹く風。
ゆっくり以上にゆっくりしていた。

反応のない毛玉に子れいむ達は怒り出した。
「ゆっくりおりてきてっていってるでしょ!」
「きこえないの? ばかなの?」
「ゆっくりさせてほしいならはやくおりてきてね!!」
「おりてきたらゆるしてあげるよ!」
「いってもむだだよ! あたまわるいんだよ、あれ!」

子れいむ達の罵倒に毛玉は振り返った。
ようやく聞き入れたのかと子れいむ達はやれやれと言った感じだ。
だが次の瞬間毛玉の口から青い妖弾が放たれる。
自機狙いの弾だ。

「ゅ"!」
この一発で子れいむ一匹は潰れて死んだ。
「ゆぅぅぅぅぅ!?」
「なにずるのおぉぉぉぉ!!」
「ゆっくりできないよ!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
子れいむ達はパニックになった。

その様子に蝶々を眺めていた親れいむが寄って来た。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!! れいむのあがじゃんがあぁぁぁ!!」
「おかーしゃん、あいつがやったんだよ!」
「ゆっくりしないでこらしめてね!!」
「やっちゃえやっちゃえ!!」

「ゆう"ぉぉぉぉぉっ!!」
親れいむは怒りを込めて毛玉に突進する。
地面近くに降りていた毛玉は再び弾を発射する。
「そんなのあたらないよ!!」

「ゅべっ!?」
しかし親れいむの後ろにいた子れいむが潰れた。
毛玉が狙っていたのは今潰れた子れいむだったのだから親れいむに当たらないのは当然だった。
「まだあがじゃんを! ゆっぐりじねぇぇぇ!!」

親れいむの体当たりが毛玉に炸裂し、毛玉は何も言わずに霧散した。
「こどもをつぶしたばつだよ! ゆっくりしんでってね!!」
親れいむは勝ち誇った顔をする。
「よわかったね! さすがおかーしゃんだ!!」
「これでまたゆっくりできるね!!」
「ゆっくりちようね!!」
残る子れいむ達もまた自分がやったかのように勝ち誇っていた。



「この子たちの分までゆっくりしようね!」
潰れて死んだ子れいむ二匹のお墓を作った親れいむはそう言った。
その声に応えようとする子れいむだったがそれは叶わなかった。

「うぶっ!?」
突然飛んできた赤色の発光体に一匹の子れいむが潰された。
「ゆっ!? あ"ぁ"ぁ"!! れいむのごどもがぁぁぁぁ!!!」
「ゅぅぅぅ!! ぉねぇちゃぁん!!!」
「ゆゆゆ!!! おそらにしろいのがいっぱいいるよ!!」

子れいむの言葉に空を見上げる親れいむともう一匹の子れいむ。
そこには20~30の毛玉が隊列を組んで浮かんでいた。
そして何を言うでもなく始まる毛玉達の弾幕。

親れいむが倒した毛玉はeasyの毛玉だった。
だから自機狙いの弾を一発ずつしか撃てずに親れいむでも倒せた。
しかし今回現れた毛玉たちはLunaticの毛玉。
数十の弾を連続して放つことができる毛玉で、それも1匹でなく20~30匹もいる。


辺りは弾幕で包まれた。


体の大きな親れいむは体中を穴だらけにして即死した。
子れいむのうち一匹は弾の一発で潰れて死んだ。

残る一匹は一発目は避けることが出来た。
続く二発目はグレイズして頬を削られた。
三発目で体を貫かれた。
そして続く四発目以降の弾で跡形もなくなった。


そして後に残ったのは潰れた饅頭だけ。
毛玉はゆっくり家族が力尽きたことを確認するとどこかへフワフワ飛び去っていった。







by ゆっくりしたい人

名無しのお兄さん・おじさんでは無く、名無しの妖怪で実験的にゆっくりを虐めてみた。
このSSを書くにあたって妖怪について調べたけど妖怪多すぎ。

毛玉って何よって人のために補足。
毛玉は東方のステージ途中に出てくる雑魚敵の愛称です。
基本的に一瞬で屠れる雑魚なのですがゆっくりにとっては強敵だよな。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年05月03日 18:06