ある時から、ゆっくりの間でこんな噂が広まった。
『魔法の森の奥深くに
 おいしい花が美しく咲き乱れ
 太陽は燦燦と降り注ぎ
 小川はその光を照り返してやさしくせせらぐ
 緑に溢れ夜もやさしい空気が安らかな眠りに誘う
 そこには争う者はおらず誰であろうともゆっくりできる
 そんなゆっくりプレイスがあるという
 その場所の名は
 何度夜が来てもずっとゆっくりしていられる
 という意味を込めて
 永夜緩居(えいやゆるい)
 と呼ばれていた』

この物語は永寛緩居を目指したゆっくり達の物語である。


「ぱちゅりー!ゆるいに行こうよ!」
「ゆー?ゆるい?」
聞きなれない言葉を聞いてまたまりさがみょんなことを思いついたことを察し
ぱちゅりーは眉をひそめた。
全く、そのみょんな思いつきに毎回付き合わされる方の身にもなって欲しい
と思うと共にこれまでのドタバタ劇を思い出し汗を垂らす。
まりさが蛇の抜け殻を使ってアクセサリーを作ろうと言い出して
やっと見つけたと思った抜け殻が本物の蛇の時は本当にあぶなかった。
一応先手を打って断ってしまうことにした。
しかしぱちゅりーにはまりさが思いついてしまった時点でもう遅いことはこれまでの経験でわかっていた。
これから先、また病弱な体に鞭打ってまりさと色々やらかすことを考えながらぱちゅりーは嘆息した。

「むきゅー、ゆるいなんてよくわからないところいかないよ
だって知らない場所じゃゆっくりできるかわからないもの」
「それがゆっくりできるんだよ!
えーっとねまほうの森の奥ふかくに…」
まりさが必死に暗記した文章を音読しようと悪戦苦闘しているところを見つめながら
ぱちゅりーには『ゆるい』がなんのことなのかがその冒頭の句から思い当たるものが脳裏を過ぎった。

「むきゅ、ひょっとして永夜緩居のこと?」
「ゆ!それだよ!そこにいけばずっとゆっくり出来るってみんないっていたよ!」
興奮気味に捲くし立てるまりさを前にしてぱちゅりーはさらに眉の皺を深く刻んだ。
永夜緩居は最近ゆっくり達の間で噂になっているゆっくりプレイスのことである。
そこに行けばあらゆるゆっくり出来ない事象から開放されてずっとゆっくりすることが出来るというのだ。
しかし実際に見てきたゆっくりは居ない。
ぱちゅりーはこの話を眉唾物の与太話だと思っている。
ぱちゅりーは流石に今回は断ろうかと思案する。

「ゆるいを見つければずーっとまりさとぱちゅりーでゆっくりぼうけんできるよ!」
しかし最高の笑顔でこちらの意見も全く聞かずにそう言い切ったのを聞いてぱちゅりーは自分が折れることにした。
断ってもまたまりさは別の冒険を捜してくるだろう。
探しに行って見つからなくてもまりさが飽きたら家に帰ってまた別の冒険が見つけてくる。
そして見つかっても結局冒険するというのだからどう転んでも冒険である。
どれを選んでも変わらないならまりさの好きなように任せよう。
実を言うとぱちゅりーはまりさとの冒険は嫌いじゃないのだ。
ただ気苦労も多いが。
気苦労のことを考えてぱちゅりーはまた嘆息すると冒険の準備に取り掛かることにした。



まりさがそこら中を聞き込みまわって得た情報をぱちゅりーが纏める事で
永夜緩居があると思しき場所はすぐに目星を付けることが出来た。
かなり大変な道中を歩む必要がありなるほどもしその先にゆっくりプレイスがあるのならば
わざわざこの道中を再び歩んで戻ってくるゆっくりは居ないだろう。
永夜緩居見て戻ってきた者が居ないのもある程度納得がいった。
「ゆー、すごい冒険になりそうだねぱちゅりー」
まりさがぶるぶると武者震いをした。
これから始まる冒険を前に胸を躍らせ、瞳は吸い込まれてしまいそうなほどキラキラと輝いていた。
「ゆ、どうかしたのぱちゅりー?」
ぼーっとまりさの瞳を見つめていたぱちゅりーはまりさに逆に覗き込まれて声をかけられてはっとした。
「む、むきゅ!なんでもないよ!ぱちゅりーは冒険の計画を立てるからまりさはどっかその辺でゆっくりしててね!」
「ゆ!まりさも冒険の計画立てたいよ!」
「むきゅー、まりさは無茶な計画ばっかり立てるからまりさが計画を立てるよゆっくりできなくなるよ
それでもいいの?」
「ゆゆゆ~それは困るよ、ゆっくり我慢してくるね」

伝家の宝刀、ゆっくりできない丸を抜かれまりさはすごすごと向こうの木の洞に退散していった。
本当は後で説明しなおすのも面倒だしまりさと一緒に計画を立てた方がよかったのだが
顔が真っ赤に火照っているところをぱちゅりーは見られたくなかった。
とにかく気を取り直して目的地へと向かえるコースは何個か考えられたがその中からもっとも安全な物を選び
それにあわせた装備を考えなければならない。

今、自分に出来ることはしっかり計画を立ててこの冒険を最高の冒険にすることだ。
そうすればあのキラキラした素敵なまりさと一緒に居られる。
「むきゅ、ほかほかしてきた」
また顔が赤くなってるのに気づき、ぱちゅりーは困り果てた。



「むっきゅ、むっきゅ…!」
「ゆっくりがんばってね!」
ぱちゅりーはぱちゅりー種にしてはかなり体力のある方だった
若いことと普段からまりさにつれ回されているためである。
しかしごつごつした岩肌の斜面を上ることはゆっくりにとっては厳しい。
「むきゅ、むきゅぅぅぅ~」
体の底が擦り傷だらけになってぱちゅりーは根を上げたくなった。
しかしプライドがそれを許さない。
何故ならここでこんなの無理だと根を上げれば自分の計画が間違っていたことを認めることになるからである。
頭脳一つでゆっくり界を渡世するぱちゅりー種にとって自分の知識を基に考えた計画が間違っていたことを認めるのはこの上ない屈辱なのだ。
しかし体力は限界に近い。
出来れば休みたいのだが夜になる前にここを越えて、予定していた池の近くの木立でゆっくり出来るポイントを探さないと
あまり遮蔽物のない危険な状態で夜をすごすことになる。
それは絶対に避けなくてはならない。
プライドと痛みと恐怖の間でぱちゅりーは心が押しつぶされそうになった。

その時、ふっ、と体が浮いたかと思うとぱちゅりーはまりさの上に乗せられていた。
「ゆっ、ゆいしょっ!」
まりさが器用にぱちゅりーの体の下に入ってぱちゅりーを持ち上げたのだ。
「む、むきゅ!?な、なにをする気なのまりさ!?
ちゃ、ちゃんとじぶんで歩くからおろしてね!」
「まりさは丈夫だからこれくらい平気だよ!
ぱちゅりーはそこでゆっくり休んでてね!」
そう言うとゆいしょっ、ゆいしょとぱちゅりーを背負ったまままりさは岩肌を進んでいった。
その後も何度か押し問答を続けたがぱちゅりーが自分の体力から考えて結局この方式が一番合理的だと理解し自分から折れた。
そのままぱちゅりーはゆっくりと体をまりさに預けた。
傷だらけの体の底がまりさのやわらかい体と髪に触れていると不思議と痛みが引いて、とてもゆっくりできた。
体をくっつけているとまりさの甘い餡子の香りと力強い揺れがぱちゅりーを眠りへといざなった。

「むきゅ…?」
ぱちゅりーが目を覚ますと、まりさが既に池の木立に洞を見つけてそこにぱちゅりーを寝かせて
明日の準備をしているところだった。
計画を立てたり知恵を使う部分はまりさはぱちゅりーに遠く及ばなかったが
ことサバイバル能力と体を使ったことに関しては他のゆっくりにも負け知らずで
こういう冒険では本当に頼りになるゆっくりだった。
ぱちゅりーもさっきのようにこのバイタリティに何度も助けられていた。
ぱちゅりーはまりさのそういう頼りになるところも好きだった。
「明日も早いよ!ぱちゅりーはゆっくり寝ててね!」
「むきゅ…」
そう言うとまりさはぺろぺろとぱちゅりーの傷口を舐めて癒した。
まりさの舌の心地よい温かみを感じながらぱちゅりーは再び眠りについた。




木立の洞に朝日が刺してぱちゅりーは目を覚ました。
「ゆっくりちていってね!」
「む、むきゅ?ゆっくりしていってね!」
聞きなれない子どもの声に困惑しながらぱちゅりーは寝ぼけ眼であたりを見回した。
「ゆっぴゅー!」
「ゆゆっ!やったね!おかえしだよ!」
「ゆー!ちべたいちべたい!」
見ると池の方で数匹の子ゆっくりとまりさが一緒になって水遊びをしていた。

「むっきゅー?」
どういうことかとぱちゅりーは首を傾げた。
つまり全身斜めに傾いた。
「朝ごはんだよ!ゆっくり戻ってきてね!」
今度は別のところから成人したれいむの声が聞こえてくる。
「む、むきゅぅ?なんなの、れいむ達はゆっくりできるゆっくりなの?」
ぱちゅりーはそう一人ごちた。
「あ、ぱちゅりーがおきたよ!まりさー!ぱちゅりーもいっしょにゆっくり朝ごはんたべるよー!」
大人れいむが木立の洞を見てまりさに向かってそう呼びかけた。


「むきゅ、つまり昨日からここで偶然れいむ達の家族と会ってそれでいっしょにおやすみしてたんだけど
ぱちゅりーはねてたから気づかなかったってこと?」
「そうだよ!いっしょにゆっくりしてたよ!」
まりさが元気に答えた。
つまりはそういうことである。
このれいむ達の一家も永夜緩居を目指して旅をしていてまりさ達と出会ってこうして休息を共にしているのだ。
「むきゅ、そんなにいっぱい子どもがいるのにここまでこれるなんて…」
ぱちゅりーは感嘆した。
それがどれだけ大変なことかはここまで来たぱちゅりーが一番よくわかっている。
しかもここまで一人も脱落者を出さずにここに来たというのだ。
ぱちゅりーはれいむのその知恵と勇気に尊敬の念を禁じえなかった。

「れいむのおかあしゃんすごいでしょ!」
「すごいでちょ!」
子れいむ達は誇らしげに胸を張った。
「むきゅ~、ほんとにすごいよ
どうやって来たのかぱちゅりーにも教えて欲しいよ」
「ゆ、れいむはお母さんだからね
子ども達のためにすごいがんばったんだよ」
「おかあしゃんがんばったよ!」
「がんばっちゃょ!」
「ゆゆ、何があってもれいむの赤ちゃんはれいむがまもってあげるからね」
そう言って子れいむ達にほお擦りされるれいむの表情はやさしく、そして暖かく輝いていたが
ぱちゅりーにはその瞳にまりさとは違いどこか暗いものがその奥に潜んでいるように感じた。


「まりしゃおねーしゃんばいばい!またいっしょにゆっくりしようね!」
「ゆっくりちようね!」
「ちようね!」
「ゆ~!」
「うん!きっとみんなとゆるいで一緒にゆっくりするよ!」
まりさは名残惜しそうにゆっくり一家に向かってぴょんぴょんと跳ねて別れの挨拶をした。
子ども達にかなり懐かれていたので別れの寂しさも一際のようだ。
しかし永夜緩居を目指すのであればこんなところでゆっくりしていてはいけないのだ。
まりさとぱちゅりーは池で顔を洗うと、れいむ達とは別のルートで永夜緩居を目指し歩き出した。



永夜緩居への道のりは困難を極めたが二匹は知恵と勇気でもってその困難を乗り越えていった。
深くて棘の生えた茂みを葉っぱを体に巻いてなんとか通り抜け
流れの速い川に阻まれ物凄い遠回りをしてなんとか抜けられる程度の浅さの場所を見つけ
木の少ない場所で土砂降りの雨にあったのでなんとか穴を掘ってその上から草をかぶって凌いだり
鳥や犬や蛇にも何度も何度も襲われた。
それでも二匹はあらゆる危機を力をあわせて乗り切った。
ここに来るまでに二匹はもう体はぼろぼろ、自慢の帽子も傷だらけで汚れてしまっていた。
しかしその顔はとても晴れやかで達成感に溢れたゆっくりした表情をしていた。
そう、二匹は辿り着いたのだ。
永夜緩居へと。
「ゆ~~~~ゆっくりー!!!」
「むっきゅ~~~~~~ん!!!」
二匹はそのゆっくりとした雄大な風景を眺めて感動の余り声をあげた。
そこは噂にたがわぬおいしそうな花が美しく咲き乱れ
お日様は燦燦と降り注ぎ小川はその光を照り返してやさしくせせらぐ
素晴らしくゆっくりして美しい場所だった。
「やったよぱちゅりー!これで一緒にずっとゆっくり出来るよ!」
まりさが喜びをあらわにしてぱちゅりーにほお擦りした。
ぱちゅりーもお返しにとほお擦りしかえす。
永夜緩居の全てが二人を祝福しているとその時の二匹は心から信じた。

ぐるぐるとみょんな音が美しい景色の中に響き渡る。
「ゆゆっ、おなかすいてきちゃった
ゆっくりあのお花さんとってくるね!」
「ゆっくりもってきて~」
まりさが向こうに見える美しい花畑をさして走っていくのをぱちゅりーは見送った。

「ゆ~おいしそ~おもいっきりたべてゆっくりするよ!」
ぱちゅりーはまりさが花を食べようとするのをゆっくりした気持ちで眺めていた。
まりさは嬉しそうに花を口しようとした。
その刹那、花びらがまりさの唇を切り裂いた。
「ひぎゃあああああ!?」
「!?まりさ!どうしたの!?まりさ!!」
何が起こったのかわからずに混乱するまりさを花びらが何本も何本も鋭く突き刺さりズタズタにした。
「いだいいだいいだいいいいいいいいい!!!!」
「…!まりさ!それはお花じゃないよ!かまきりさんだよ!
早く逃げて!!」
ぱちゅりーはその豊富な知識からその花に大量に花に擬態した蟷螂が居ることを看破しまりさに向かってそのことを知らせた。 
しかし混乱冷め遣らぬまりさは花蟷螂達の鎌に捕らえられ身動きもとれずにその強力な顎で皮を齧られていた。
「む、むきゅうううううう!まりさをもってかないでねえええええええええ!!!」
ぱちゅりーは一瞬逡巡したが決死の思いで花蟷螂達に向かって体当たりを敢行した。
「ゆ゛っ!」
まりさごと吹っ飛ばしながら花蟷螂がまりさの体から大分離れた。
しかし何匹かの花蟷螂が今度はぱちゅりーの体に鎌を付きたてた。
激痛がぱちゅりーを苛むがそれを表面上は意にも介さずまりさに声をかけた。
「はやくお花から離れてね!」
「ゆ゛、ゆ゛ぅぅぅ~~」
ぱちゅりーはキッと花畑の方をにらめつけた。
何十、何百という蟷螂のギョロリとした目がこちらを見ていた。
あり得ないはずであった。
こんなそれほど大きくない花畑にこれだけ花蟷螂が密集して生息してるなど通常ではあり得ない。
一体何故こんなにも蟷螂がたくさんいるのだろうか。
ぱちゅりーは疑問に囚われながらも傷ついたまりさを連れて花畑を離れた。


近くの林に逃げ込んだ二匹は
「いだいよ゛おおおお!!」
「むきゅ、もう大丈夫だよ、すぐゆっくりさせてあげるから我慢してね!」
まりさの体に取れて刺さったままの花蟷螂の鮮やかな鎌をぱちゅりーは口で器用に抜いてぺろりと傷口を舐めると持っていた葉っぱをそこに貼った。
傷口を触れられる痛みにまりさが悲鳴をあげ、それがぱちゅりー自身の傷にも響いた。
しかし今それを意に介している暇はない、一刻も早く治療を終わらせなければならない。
「むっきゅ…これでひとまず大丈夫、ゆっくりできるよ」
「ゆぅぅぅ…ありがとうぱちゅりー…
それにしてもどうしてあんなにカマキリさんがお花畑にいるの?これじゃゆっくりできないよ!」
「むきゅん、ゆっくりできないからお花畑にはちかづかないようにしようね
とにかくまずゆっくりやすめるおうちを探してそこからゆっくりここが本当に永夜緩居か調べるよ
もしかしたら別の場所にきちゃったのかもしれないよ」
ぱちゅりーはすぐさま今後の計画を立てた。
こういうことは頭脳はの自分の出番であるという自負がある。
「ゆ!そんなことないよ!ここがぜったいにゆるいだよ!」
まりさはここが永夜緩居であると頑なに言う。
苦労して辿り着いたこの地が間違っていたということを認めたくないのだろう。

「むっきゅ、でもここはゆっくりできないよ!」
「ゆ、ゆ…それは…」
ぱちゅりーは確信を突いた。
ここが永夜緩居ならゆっくりできないはずがない。
だのに現に自分たちはカマキリに襲われて全くゆっくりできずにこうして逃げ出しているではないか。
ということは自分達が間違っているのか、そしてこれはまりさにとってそれより辛い話だが永夜緩居自体が存在しなかったかだ。
もし永夜緩居が存在しないと知ればまりさはぱちゅりーを巻き込んで危険な場所に連れてきてしまったことに責任を感じて自分を責めてしまうだろう。
だからぱちゅりーはそのことはあえて言わなかった。
場所自体が間違っていたとすれば情報を整理してこの場所だと考えたぱちゅりーにも責任があることになるからだ。
少し言い争いになるかもしれないがそれでもまりさが傷つくのは少しでも避けたかった。



この時はぱちゅりーもまりさも第三の可能性には気づかなかった。
永夜緩居が悪意を持って自分達を襲っていることに。


「とにかく今はきょてんになるゆっくりプレイスを探すよ!」
「ゆー…」
ぱちゅりーはなんとかまりさを説き伏せ、とにかく自分達の拠点を探すことに同意させた。
こういう場所探しはまりさが頼りになるはずなのだが
どうにもうまくいかないことが続いて気落ちしているまりさでは役に立つかは疑問であった。
しかしまりさが立ち直るのを待っている暇はない。
早くしないとこの危険な場所で夜を迎えることになってしまう。
こうなれば自分ががんばるしかないとぱちゅりーは思った。

ぱちゅりーは精力的に夜を凌げそうな場所を探した。
まりさにははぐれないように後ろを付いてくればいいといっておいた。
まりさは言われたとおりに項垂れて、ぱちゅりーの後を追った。
とにかく今は自分が頑張らなければ共倒れだとぱちゅりーは気負った。
その気負いが隙を産む事になった。

「むきゅーん………むっきゅ!」
ぱちゅりーは木立の中にうまくすればゆっくり二匹は入れそうな木の洞を見つけ早速中を覗き込んだ。
本来ならばまず危険を確認してからゆっくり覗くところだが気負ったぱちゅりーにその余裕はなかった。

「むきゅぅ!?」
洞を覗き込んだぱちゅりーの顔に鋭い痛みが走る。
続いて鋭い何かがたくさん突き刺された。
「む゛ぎゅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?」
たまらず洞から顔を出すぱちゅりー。
まるでぱちゅりーの顔から生えてきたかのように伸びるそれをまりさはみた。
「ゆ゛!ぱぢゅりいいいいい!!!」

ぱちゅりーの顔に何十匹もの百足が噛み付いていた。
「む゛ぎゅううひいいいいいいいいい!!?!?!?」
ぱちゅりーの頭の中が痛みと恐怖と気持ち悪さでいっぱいになる。
「む゛ぎゅひ゛い゛いむ゛ぎゅどっでえええ!ごでどっでえええ!!!」
ぱちゅりーは痛くて気持ち悪くてわけもわからず必死に助けを求め声をあげた。
しかし声をあげたのがまずかった。
声を出すために開いた口に数匹の百足が飛び込んだ。
「む゛ぎゃぎぃぃぃいっぃいいいい!?」
口の中にズキリとした痛みが広がる。
舌に百足の何十本もある足が触れてモゾモゾと動いた。
「む゛ぉ゛ごお゛お゛お゛!!」
ぱちゅりーは吐き気を感じ咳き込んだ。
餡子が口から漏れるが百足はまだ体の半分以上が口の中に入ったままだ。
餡子まみれの百足がもぞもぞと動いた。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
このまま百足に少しずつ食べられて死んでいくんだと思いぱちゅりーの心の底に冷たいものが降りた。

その時、まりさが動いた。
「ぱちゅりーをはなしてねえええええええええええ!!!」
ぱちゅりーの顔に食いついた百足に喰らいついて引っ張ってぱちゅりーから引き離した。
「む゛ぎゅぃやぁあ゛あああ゛あ”!!!」
「我慢してね!絶対ゆっくりさせてあげるから我慢してねえええええええ!!!」
百足が離れる際刺さっていた牙がぱちゅりーの皮を引き裂いた。
痛みであがるぱちゅりーの悲鳴がまりさの胸にズキリズキリと突き刺さった。
まりさはこれがぱちゅりーのタメなんだと必死に言い聞かせながら作業を続けた。
「む゛ぎぃ!む゛ぎぃいい!い゛だいよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
「我慢ぢでねえええええええええええええええええええええええええ!!!!」
絶叫して、まりさは最後の百足を引きちぎった。
「ぱちゅりー!早く逃げるよ!早く!」
「む…きゅ…」
再び百足に食いつかれる前に一刻も早くこの場を離れようとするまりさだったが
ぱちゅりーは俯いて下を向いてこちらを向こうとしなかった。
「ゆ…動けないならまりさの上に乗ってね!」
そう言うとまりさは器用にぱちゅりーの下に入ってぱちゅりーを背負うと一目散に走り出した。
「まりさのせいでごめんねぱちゅりー…絶対にゆっくりできるとこまで連れて行くからね…!」
背中のぱちゅりーを励ましながらまりさは力強く走り続けた。


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最終更新:2022年05月03日 18:06