「ここまでくればもう大丈夫だよ!」
「みんなゆっくりしようね!」
「ふがっ、ふがっ!(ゆっくりお口から出てね!)」
れいむ達は森まで行き木々を障害物として利用しながらなんとかイナゴを振り切ったのだった。
「ゆー、ちぬかとおもったよ!」
「これでみんなでゆっくりできるね」
「よかったね!ゆっくりしようね!」
和気藹々とするまりさとぱちゅりーと子ども達だったがれいむだけは気が気ではなかった。
「……い、一番おっきなれいむの子どもはどこ…?」
初めて産んだれいむの子どもが見当たらなかった。
まりさとの思い出をもっともたくさん一緒にすごした子どもが居ない事実に震えが止まらない。


「あ、あれ?おねえちゃん?おねえちゃーん!?」
「お゛ね゛え゛ぢゃんがい゛な゛い゛よ゛おおおお!!!」
「ゆ゛っぐりできな゛いいいいいいいいい!!!!!!!」
「み゛ん゛な゛でゆっぐりぢだがっだああああ!!!!!」
子どもたちの和気藹々とした雰囲気が一瞬で壊れ、嘆きの叫びが辺りを支配した。
れいむは声を殺して静に子どもとまりさの三匹で過ごしていた頃の思い出を反芻して泣いた。
二人の初めての子どもだったからあの子は本当にたくさんゆっくりさせた。
あの子にたくさんご飯を食べさせるためにまりさが無理して危険な目にあう事もしばしばあった。
そういう無謀な行為に明け暮れたのもあの頃は若かったのもあるだろう。
そのおかげでとても丸々とかわいいゆっくりに育ったゆっくりだった。
れいむは心の中で一番かわいいのはあの子どもだと思っていた、口には出さないが。
あんなにまりさに愛してもらったあの子を失うなんて…!
れいむは目の前が真っ暗になりそうだった。
「ま、まりさがもう一回もどって助けに行くよ!」
すぐに子れいむを助けに行きに飛び出そうとするまりさ。
「ま…」

「駄目だよ!どの道もう助からないよ!まりさもゆっくりできなくなるよ!」
ぱちゅりーが何か言おうとしたが無視してまりさを止めるためにれいむはその前に立ちふさがった。
「どおぢでぞんなごどい゛う゛のおおお!?」
「お゛があ゛ざんのばがあああああ!!!!」
「お゛ね゛えぢゃんをだずげでよお!!!!」
「れ、れいむ!まりさは強いから大丈夫だよ!
子れいむを助けてすぐに帰ってくるよ!
ゆっくりどいてえええええええええ!!!」


まりさは必死にれいむを退かして進もうとするがれいむは絶対にその場から動く気はなかった。
「もうあの子は助からないの…!だから…だからせめてみんなあの子の分までゆっくりして…!」
「ゆ、ゆうう…」
れいむはまりさに涙を流して懇願した。
ここであの子のために命を失うことはあの子の命を無駄にすることなのだ。
それはあの子を守るれいむの事を命を賭けて守ったれいむのまりさの命を無駄にすることと同義だ。
それだけは許せなかった。
「まりさ、れいむが言うことが正しいよ…」


ぱちゅりーがゆっくりとまりさ達を嗜めてくれた。
れいむと同じようにぱちゅりーにももう子れいむは助からないだろうことはわかっていた。
まりさも心の底ではわかっていたのだろう。
しかし現実を見据えられない彼女の若さがどうしても認められなかったのだ。
れいむの涙を見てまりさはようやく目の前の現実を受け入れた。
「ゆぐぐぐううう…」
「お゛ねえぢゃん……」
「ごべんね…ごべんねぇ…!」
「おねえぢゃんのぶんもいっぱいいっぱいゆっくりするからね…!」
その場に居る全てのゆっくりがあの子のために涙を流した。


涙を拭って、ゆっくり達は再びこの地獄、永夜緩居から脱出するために進み続けた。
ガサガサと枯葉の地面を踏み歩きながら森を抜ける道を探す。
れいむはこのままでは済まないだろうという予感がした。
そしてその予感は的中した。

「ゆぅ~~!?」
段差に気付かずに子どもが一人が足を踏み外して転げ落ちたのだ。
「れ、れいむの赤ちゃんが!?」
慌てて下を覗き込むれいむと子ども達。
「ゆゆ?おそらをとんでるみたい~~~!」
しかしその子は不思議なことに下まで落ちずにまるで中に浮いているかのように
段差からの途中辺りから伸びていた4、50センチほどの枝と枝の間の空間で止まっている。
その子はそこで楽しそうにぽよんぽよんと跳ねていた。
「ゆ、おねえちゃんいいな、ずるいずるい!」
「れいむもやるー!」
ぴょんぴょんとそこに飛び込んでいく子れいむ達。
「ゆ、ゆー?」
一体どうなっているのか、れいむはわけもわからず首を傾げる。
子どもは楽しんでいるようだが、れいむは何か釈然としない。

「ごほっ、むぎゅうううん!だめええええ!ゆっぐぉほっ、ゆっぐりでぎなぐなっぢゃううう!!!」
その時、後ろからぱちゅりーが子ども達を制止した。
「ぱ、ぱちゅりー?どうしたの?おなかいたいの!?」
まりさは突然餡子を吐いて叫ぶぱちゅりーを心配して傍によって背中をさすっている。


「うああああああ!だずげでおがあざあああああああん!!!」
「いやあああああああ!!こないでえええええええええええ!!!」
人間の拳二つ分ほどもある巨大な蜘蛛が二匹、枝の影から現れた。
その時やっとれいむはぱちゅりーの叫びの意味を理解した。
あそこは蜘蛛の巣、子ども達は巣に掛かった餌なのだと。

「い゛や゛ああああああ!れ゛い゛む゛のあがぢゃんがああああああ!!!」
少なくとも最初の子より先に飛び込んだ子以外はれいむが止めれば助けられたはずなのになんてことをしてしまったのか。
取り返しのつかない絶望感にれいむは叫んだが空しく森に木霊すると大蜘蛛が身動きの出来ない子ども達に齧りついた。

「あがっがっがっがっが…」
「ゆっ…ゆぐっ…ゆ゛…」
皮を突き破った牙から餡子に毒を混ぜられて子ども達はもはや喋ることもままならなくなった。
「おねえぢゃああああああああああん!!!」
「れいむの…れいむのい゛も゛う゛どがあああああああ!!!」
獲物が動けなくなったのを確認すると大蜘蛛達はれいむの子どもを咀嚼し始めた。
子どもの皮をが剥かれて蜘蛛の頭が餡子の中に埋まる。
凄惨な咀嚼音と光景に耳と目を背けて涙を流した。
「うっ、ゆうう…ごめんね…ごめんね…」
嘔吐感を堪えながらただひたすら自分の過失で失った命に謝るしかなかった。



「おねえぢゃん!おねえぢゃん!」
生き延びた子どもの一人が身を乗り出して家族の名前を呼んだにも関わらず、自分は目を背けていたために気付かずなかった。
このことがどれほど愚かな行為だったがを数瞬後れいむはいやと言うほど知らされることになる。

「ゆぎゃあああああああああ!?」
悲鳴に気付いてはっと振り向くと、その子は茶色い蟷螂に連れられて段差の下へと落ちていっていた。


「いやあああああああああ!!?」
「あ、あああああああああああ!?」
何故傍にいながら子どもを守ることが出来なかったのか。
どこまで愚かだと言うのだ自分は…!
れいむはそう心の中で何度も自分を責めた。


「だずげでよおがあざん!れいむおねえぢゃんだぢみだぐにたべられだぐ…!
ああああ!いだいいいいいいいい!おがあざん!おがあざん!みでないでだずげぎぃ!」
枝蟷螂は鎌で器用に可哀想なその子のリボンを切り裂いた。
あのリボンはまりさがこの子のは特に出来がいいからとよく手入れしてあげていたリボンだ。
「あ゛!やべでええ!れ゛い゛む゛の゛!れ゛い゛む゛の゛リ゛ボン!れ゛い゛む゛のだいじなりぼんな゛のお゛!!!」
なんてことだ、まりさがあんなに大事にしていたリボンがあんな薄汚い蟷螂の手で切り裂かれるなんて。

それもこれも全て自分の油断が招いたミスなのだ。
れいむは目の前がグルグルと廻るのを感じた。
「ごめん…こんなお母さんでごめんね…もっとゆっくりさせてあげたかったよ…」
一滴、ポタリと涙がこぼれた。
その行く末を見届けてれいむは再び背を背けた。

「おがあざん!?どうじでぞっぢむいぢゃうの!?れ゛い゛む゛はごっぢ!ごっぢだよ゛!」
「早く行くよ、急いでここから出ないとゆっくりできなくなっちゃうから」
非常な決断だが自分の判断は間違っては居ない。
「ゆ!?ま、まってよおかあさん!」
「で、でもおねえちゃんが…」
「……」
生き残りを連れて出口を目指してれいむは進んでいった。

「お゛があざんお゛いでがないでだずげで!だずげでよ゛おお゛お゛!!!
れ゛い゛む゛ゆっぐりでぎでだいどおおお!おいでがないで!おいでがないで!
れ゛い゛む゛をだずげでごのま゛まぢゃれ゛い゛む゛ゆっぐりでぎないよ!!
お゛があざん!お゛があざん゛ん゛んん゛ん゛ん゛ん゛んん゛ん゛ん゛!!!」

振り向くものか、絶対に。


啜り泣きながられいむについてくる子ども達を尻目にれいむはただひたすらに出口を目指して歩いた。

「ゆ!森を抜けるよ!
もうすぐゆっくり出来るよ!」
木々の間から光が挿している。
ここを抜ければあとはあの丘を越えるだけだ。



その時、絶望の羽音がゆっくり達の耳に届けられた。
いいや、たとえ絶望だとしても負けるものか。
自分達はまりさのために絶対に生き残らなくてはならないのだから。


「急いで!もう丘は目の前だよ!」

さっきのように口の中に子ども達を非難させる。
今度は全ての子れいむ達が入ることが出来たし喋ることも出来た。
無論、子どもの数が減ったからだ。
とにかく今度はさっきのようなロスは無い
ただ必死にあの丘を越えればいいだけだ。


「むぎゅ…うげぇ!エロエロエロ…!」
「ぱ、ぱちゅりー!?どうしたのぱちゅりー!ぱちゅりー!」
丘を登る最中に突如、ぱちゅりーが激しく嘔吐し辺りにどろどろの餡子が飛び散った。

「む、むぎゅぅ゛…」
「ふが…ま、まさか…!」
れいむはぱちゅりーに何が起きたのかはっと思い当たった。
すぐにぱちゅりーの顔から葉っぱを取り去る。

「ど、どうじでぱちゅりーのお顔が紫色なのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ぱちゅりーは顔中に紫色の斑点が浮き出ており、その表情は死相としか言いようが無い痛々しく生気の無いものだった。
恐らくちょうちょを食べた子どものように毒に当たってそのままにしてしまったのだろう。
もはや手遅れなことは素人目に見ても明らかであった。


「これは…もう…助からないよ…」
「うん…ぱちゅりーが…一番わかってるよ…むぎゅぇっ!ごばぁっ!」
「二人とも何をいっでいる゛の゛おおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?」
れいむとぱちゅりーの二匹がぱちゅりーの死を受け入れる中でまりさだけが現実を受け入れようとしなかった

「むきゅ…ありがとうねまりさ、でもぱちゅりーは、もう駄目だからまりさには生き延びてゆっくりして欲しいの…」
その言葉の意味がれいむにはすぐにわかった。
この子はれいむのまりさと同じように、まりさのために犠牲になろうというのだ。

「馬鹿なこといってないで早く行こうね!もうすぐイナゴさんが来るよ!!」
しかしその意味をこのまりさは理解しようとしない。
頭で理解しても心が拒んでいるのだろう。

そう言ってまりさはぱちゅりーの帽子を引っ張って無理やり連れて行こうとする。
ぱちゅりーは力無い瞳でれいむの方を見つめた。
「れい…む…このままじゃみんな死…んじゃう…から…おね…がい…わか、るよね
まりさ達が…ゆっくりする方法…」
わかってる、そう伝えるために力強くれいむはうなづいた。

「そんなの簡単だよ!まりさとぱちゅりーがあの丘を越えればいいだけだよ!」
どこまでこのまりさは愚かなのか。
ここまで来てもそれを理解しようとしない。
ぱちゅりーが行う命を繋ぐという行為の意味を。

「さよなら、まりさ」

れいむはぱちゅりーに体当たりをして丘の下に叩き落した。

「ぱちゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
な゛に゛を゛ずるどれ゛い゛む゛うううううううううううううううううう!!!!」
まりさがれいむに向かって掴みかかりれいむをにらみつけた。
れいむはまるで化け物のように恐ろしい形相だと思った
「ぱちゅりーはもう駄目なんだよ!だからぱちゅりーはみんなを助けるためにああやって犠牲になったの!ああやって…!」
「今助けに行くからねぱちゅりー!!!」
「駄目ぇ!!どうしてぱちゅりーがああまでして犠牲になったのかわからないの?ばかなの?
まりさに助かって欲しいからだよ!お願いだからぱちゅりーの命を無駄にしないで!!」
れいむはこの愚かな化け物に少しでもぱちゅりーの気持ちを伝えようと言葉を尽くした。

「黙れこの豚れいむがああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

ああ、まりさはまりさをやめてゆっくりできない本当の化け物になってしまったんだとれいむは思った。

まりさはれいむを突き飛ばすとイナゴの群れの中心へと
ぱちゅりーの所へと転がっていった。

その姿を見てれいむの心に湧き出たのは怒りだった。
一時はれいむのまりさのように素敵なまりさだと思っていたまりさが命を無為にするような行為をするのをれいむは許せなかった。
まりさは、れいむのまりさはれいむの命を守るために命を投げ打ったのに!

「どうして…どうしてぱちゅりーが命を捨てる気持ちがわからないの…!
何でまりさはぱちゅりーの気持ちを無駄にするの…!
みんな命を繋ぐために生きてるのに!れいむだってぱちゅりーだって虫さんだってみんな命を繋ぐために生きてるのに!
まりさああああああ!まりさは最低だよ!最低のゴミクズだよ!
死ね!まりさはそこでゴミクズらしくゆっくり死ね!!!」
あんなゴミクズをれいむのまりさに似ていると思った自分が許せなかった。
れいむは丘の上からまりさに唾を吐き掛けた。

そして丘の上を目指し振り向かずに子ども達を連れて登っていった。



永夜緩居を脱出し、れいむ達は森の中を歩いていた。
「ゅ…」
「ゅぅ…」
「どうしたの?これからはゆっくりできるんだよ!もっと元気にゆっくりしていってね!」
「……」
れいむのかけた声とは裏腹に子ども達の表情はどこまでも暗かった。
当分は子ども達のショックが取れないだろう。
しかし冬越しのためには数も減ったしちょうどいいくらいだ。
今からでも頑張って餌を集めてゆっくり冬を越そうとれいむは思った。
とにかく今日は早く子ども達を休ませてゆっくりしようと決めるとれいむはすぐに寝床を探し始めた。



急いでしたくして、一刻早く眠らなくてはならない。
ゆっくり眠れば子ども達の気分も切り替わる。
夜が来て、次の朝を迎えれば永夜緩居での悪夢は終わりを迎えるのだ。




やわらかい木漏れ日を感じながられいむは目を覚ました。
「ゆー、みんな!今日もゆっくりしようね!」
「ゅー?ゆっくりしようね!」
「まだちょっとねむちゃいけどゆっくりちようね!」
「ゆっくりー!」
れいむの朝の挨拶で子ども達も次々と目を覚ました。
昨日までの悪夢から覚めたように子ども達は元気を取り戻しつつあるのがれいむにはわかった。
「ゆー、すぐにしゅっぱつするよ!みんなあつまれー!」
「ゆー!」
洞から出てれいむの周りに子ども達が集まった。
「ひーふーみーゆー…あれ、真ん中の子どもがいないよ?」
「ゆ?おねえちゃーん!」
「どこにいったのー!?」
「ゆー、おきないとおいてっちゃうよー!」

何か、胸騒ぎがした。
何事もなく家へ帰るだけだった時に起きたその事件と異様な雰囲気は
まるで永夜緩居での悪夢がまだ続いているんだと
全てが終わったと思ったれいむ達を嘲笑うようだった。


れいむ達はすぐに居なくなった子をみんなで探し始めた。
1時間ほど辺りを探し続けただろうか。
これ以上の捜索はこれからの進行に差し支える。
そうなれば冬越えの準備も厳しいことになるだろう。
れいむがこのまま先に進むべきか、苦渋の決断を下そうとしたその時、下から二番目のれいむの悲鳴が響き渡った。
「おねえちゃーん!でてきてよー!
おねえ…おねえちゃあああああああああああああああああん!?」
「どうしたの!?れいむのあかちゃんどこ?!」
突然泣き出した子どもの傍にれいむは寄り添って何があったのかを聞き出そうとしたが泣き喚いて話にならなかった。
ただただその子は上を向いて泣いてばかりである。
一体上に何があるのか、最悪の事態を覚悟をしてれいむは上を見上げた。
「あ…あ…」
最悪の事態を覚悟していたにも関わらずれいむの覚悟は粉々に砕かれた。

木の枝の上に、植物の蔓で縛られた子れいむが吊るされていた。
その姿はまるでれいむのまりさのように苦痛に満ちた凄惨なものだった。

永夜緩居からどころではない、れいむの悪夢はれいむのまりさが死んだ時からずっと、あの光景のまままだ続くというのだろうか。
れいむの視界がぐらりと歪んだ。

「うわああああああああああ!ま゛り゛ざあああああああ!!!うわああああああああああ!」
「ゆ!?おかあさんどうしたの?あれはまりさじゃないよ!まりさはしんだんだよ!おかあさん!おかあゆっげぇ!?」
トラウマが蘇りれいむは半狂乱になり、暴れる母を止めようとする子れいむを吹き飛ばした。
「おかあさんどうしちゃったの!?やべでえええええええ!!!」
「ごんな゛おがあざんじゃゆ゛っぐりでぎな゛いよ゛おおおお!!!」

「う゛あ゛あ゛あ゛!ぐざい!ま゛り゛ざのだいじなぼうしがぐざい゛の゛お゛お゛お゛!!!」
子ども達が怯えて辺りの木の陰に隠れると、今度は子れいむが吊るされている木に体当たりを始めた。
ただ木を揺らそうというのではない、まるで自分の体まで叩き潰すのではないかというくらい何度も
何度も何度も何度も、辺りに餡子が飛び散るほど体当たりをしたころ、枝に結んであった蔓が切れて子れいむの体が落下しても体当たりは続いた。

それから当たり所が悪くて気絶しそうになってから、やっとれいむは正気に戻った。

「はぁ…はぁ…はぁ…」
落ち着いて正気に戻ると同時に辺りを見回し愕然とする。
子ども達は怯えて木の影に隠れてガタガタと震えている。
れいむを見つめる子ども達の目はとても母親を見る子どもの目ではなかった。

「び、びっくりさせてごめんね
お母さんもうだいじょーぶだからね
れいむの子どもが死んじゃったのはかなしいけど、これをのりこえておうちでみんなでゆっくり…」
「こな゛い゛でねええええええええええ!」
狼狽した顔つきで一番小さな子れいむに近づくと、子れいむは恐怖に囚われた表情で絶叫した。
「ゆ!?お母さんはもうだいじょう」
「こな゛い゛でよおおおおおおおおお!!!」
健在をアピールしようと笑顔で飛び跳ねたれいむに対して子ども達はさらにあとずさった。
「れ゛い゛むのい゛も゛うと゛をづぶずようなゆっぐり゛おがあざんじゃな゛いいいい!!!」
れいむは耳を疑った。
れいむが子どもを潰すだと?こいつらは何を言っているんだ。
怪訝顔をしたれいむが後ろに居る他の子れいむに助け舟を求めようと振り向くと、さっきまで自分が居た場所に潰れた餡饅があった。
さっきまで潰れた餡饅なんてどこにもなかったはずだ。
いつの間にとれいむはいぶかしみ、そしてはっとした。
れいむは慌てて子どもが木の上に吊るされていた場所を見上げる。
そこにはもう蔓は無くいつの間にか蔓が切れてしまっていったようだ。
ならばれいむの子どもはどこかに落ちているはずである。
しかし辺りをぐるりと見回しても居るのは潰れた餡饅と生き残ったれいむの子どもが四匹居るだけだった。
興奮冷めやらぬれいむにも何が起こったのかがようやく理解できた。
「ち、違うの…れいむはそんなつもりじゃないの…」
必死に弁解を始めるれいむに対して子ども達の目が言っていた。


『この同族殺しが』

『さっきもぱちゅりーを殺してたし、きっとれいむ達も殺す気なんだよ』
『おおこわいこわい』

『れいむの妹達を見殺しにした屑が』

その冷めた視線は何よりも雄弁で、鋭利にれいむの心を抉った。

「ぢがう゛のお゛お゛おお゛おおおお゛お゛お゛お゛お゛おおおおおお!!!!」
れいむの必死の叫びも空しく子れいむ達は木の後ろに隠れた。

れいむががっくりと項垂れ全てを諦めようとしたその時
お姉さんれいむがれいむをかばうかのように前に出て言った。
「おかあさんはあかちゃんがしんじゃってかなしくってどうしていいかわからなくなっちゃっただけだよ!
おかあさんがわざとれいむたちをころすはずなんてないよ!
なのになんでみんなひどいごどいうの゛おおおおおおお!?」
「ゆ……!?」
「ゆー…」
「ゆ…おかあさん…」

子れいむ達もはっとしたようにれいむとお姉ちゃんれいむを交互に見つめた。

木の後ろに隠れていた子ども達が一匹ずつすまなそうにれいむに歩み寄ってきた。
「ごめんね、おかあさんにひどいこといってごめんね」
「ゆっくりゆるしてね!」
「やっぱりおかあさんといっしょじゃないとゆっくりできないよ」
子れいむ達はれいむに謝りながらぺろぺろとれいむの頬を舐めたりこすり付けたりした。

「ゆ゛、ゆっぐりじでいっでねええええええええ…!!!」
れいむは感動で咽び泣いた。
そして必ずこの子ども達をお家に連れて帰ってゆっくりさせてあげようと誓った。



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最終更新:2022年05月03日 18:07