~注意書き?~
 前述した2作品を読まなくても話がわかるように作っておりますので、見ていない方でも安心して御覧になってください。
  • 死人が出ます。そしてゆっくり以外で少しグロテスクな表現があります。
  • むやみやたらと長いです。正直反省している。

以上のことを踏まえて、それでもOKな人は以下の『ゆっくりハンターの昔話』をお楽しみ下さい。





ゆっくりハンターの昔話


海かと見紛う程の巨大な川を、小船がゆったりと渡っていた。
その船には、船頭と乗客である少女が二人乗っている。
二人は顔を合わせることはなく、船頭の梶をこぐ音だけが響き渡る。

「あんた……」
「はい?なんでしょう」

唐突に船頭が乗客の方を振り向き、声をかける。
乗客もそれに反応し、二人は互いに向き合う形になる。

「向こう岸までまだ結構かかるんだ。もしよかったら、あんたの昔話でも聞かせてはくれないかい?」

船頭の少女は屈託のない笑顔で乗客の少女にそう提案した。
梶を漕ぐ音が、少し控えめになる。

「私の、ですか…?まあ、別に構いませんけど」

乗客の少女は船頭の提案に驚いたようだったが、彼女も暇だったのだろう。
特に抵抗もなくその提案を受け入れた。
船頭は「それはよかった」と言い、梶を置いて小船の中に座り込んだ。
漕がなくていいのか、と乗客が問うたが、船頭はいたづらっぽく笑って、実は漕がなくてもいいんだ、と返した。
乗客はならばなぜ梶なんか持っているんだと疑問に思ったが、どうでもよいことだったので忘れることにした。
そんなことより早く話をしよう。前に座っている船頭さんが興味津々と言ったようにこちらを見ている。

「それじゃあ、私のまだ幼かった頃の話でもしましょうか」

少女は昔を噛みしめるようにたっぷりと口の中に含ませて、ゆっくりと物語を紡ぎ始めた。



私は子供の頃、よくゆっくりたちと遊んで暮らしていた。
初めて彼女達と会ったのはいつだったかは、今はもう覚えていない。気づいたときには私は彼女達と友達になっていた。
もちろんほかに普通の友達もいたが、私にとって当時一番仲がよかったのは彼女達だった。
友達のゆっくりにご飯を上げると、自分の下手な料理でもおいしそうに食べてくれて嬉しかった。
里の人たちは私を馬鹿にしたけど、ゆっくり達だけは私を馬鹿にせず、それどころか、
「おねえさんはゆっくりしてるね!れいむたちもゆっくりみならいたいよ!」
と、褒めてくれた。
その言葉が嬉しくて嬉しくて、次の日は腕によりをかけた料理を彼女らにプレゼントした。
彼女らも私のプレゼントが嬉しかったらしく、私にきれいなお花をプレゼントしてくれた。
私は浮かれてまた彼女達に料理を持っていき、彼女達は私に森になっている果実を渡してくれた。
それからずっとゆっくりぱちゅリーが止めるまでプレゼント合戦が続いてたっけ。
今では、とても懐かしい思い出。

そんな私の子供の頃の夢は、農家になることだった。
農家になって、野菜の好きな彼女達のための食べ物をいっぱい作りたかった。
彼女達の喜ぶ様を想像しながら、私は農家の勉強に専心した。
だが、私はどうしようもなく馬鹿だった。
どれだけ周りの大人たちが教えても、私ががんばって反復して覚えようとしても、必ずどこかで失敗する。
私が必死に努力しても、作物にまともな実が成ることなど一度もなかった。
罰として、その作物は無理矢理私が食べさせられた。気が飛んでしまうほどまずかったけど、吐き出すことは許されなかった。
失敗するごとに食べさせられ、いつか私がそれをおいしいというようになると、それを大人たちはたいそう気味悪がった。

結局、私はその愚かさゆえに周りの大人たちに見放された。その子どもからも、ゆっくり未満の馬鹿だ、といじめられた。
誰も一緒に遊んでくれなくて、私はゆっくりたちと過ごすほうの時間がだんだんと増えていった。

そんなある日、事件が起きた。

雲ひとつない快晴の真昼、数え切れないほどのゆっくりまりさが人里に殺到した。
ゆっくりまりさの襲撃だ。
かつて見たこともないような大襲撃。
そのゆっくり立ちの行進で大地は揺れ、その掛け声は天にまで昇るほど大きく、里のみんなを恐怖の海へと沈めていった。
農家の人々が一生懸命耕した畑は荒らされ、もっと食べたいのを我慢して蓄えた食料は奪われ、みんなで協力して作った家屋は次々と破壊された。
太陽がゆっくりと沈み、妖怪の時間が近づいてくる時間になった頃、ようやくゆっくりたちの蹂躙は終了した。
ゆっくりたちはあまりの惨状に放心する里の人々に向かって、

「またくるから、ゆっくりおいしたべものつくってね!」

と言い去っていった。激昂した男達が群れの巣を強襲したが、ゆっくりたちの返り討ちにあって死亡した。
残された里の人々は絶望していた。
里の中でも力持ちだった男達はゆっくりに殺され、残ったのは数少ない自警団と、ひ弱な村人達だけ。
このままでは里は終わりだ。
里の知識人たちが集まって夜を徹して対策を練っていたようだったけど、状況は芳しいとはいえないようだった。

私はそんな村の様子をみていたが、ゆっくりに対する敵愾心などはまったく沸かなかった。
私の中から湧き出てくるのは諦観と暗い喜悦の念だけ。
どうせ私は役立たずだ、何も出来やしない。それに、このままだったらこの里は終わってくれるかもしれない。みんな、死んでくれるかもしれない。
みんなで一緒に天国に行けば、寂しくないんじゃないか。天国だったら農作業する必要もない。私も馬鹿にされず、みんなと一緒に遊べるかもしれない。
私は壊された自分の家の残骸に腰掛け、ずっとそんなことを考えていた。
ある村人が全員集まって知恵を出し合おうといっていたが、私は無視して数少ない食料を友人のゆっくりたちと一緒に食べた。
自分もおなかがすいていたけど、どうせすぐ死に往く自分には関係ないことだと思った。

でも、そんな考えは甘かったことを後日、私は思い知る羽目となる。

ゆっくりと一緒にご飯を食べている場面を他の子ども達に目撃されたのだ。
自分達は食べ物がなくてひもじい思いをしているのに、なんであいつはゆっくりに分けられるほどの余裕があるのだろう。
いや、あいつはなんであのにっくきゆっくりと仲良くしているんだろう。
そうだ、あいつゆっくりたちと内通しているんだ。自分だけはゆっくりに取り入って助かろうって腹なんだ。
いや、それどころか、今回のゆっくりの襲撃の首謀者はあの少女ではないか。いつもいじめられている腹いせに、ゆっくりたちを里にけしかけてきたのではないか。
もともと狭い里の上に、ゆっくり対策で大人達が一箇所に固まっていたせいで、この噂が里中に広がるのにさほど時間はかからなかった。

そして私は、太陽が出てくると同時に、里で裁判にかけられた。
もちろん被告は私。脇には私が逃げないように自警団の大人が鍬を持って固めている。
裁判長の席にはこの里の長様。
近くの裁判官の席には数人の有力者達が陣取り、証言台には先日の子ども達が立っていた。

「ぼうや、その証言は事実かな?」
「うん!俺みんなと一緒に見たんだ!あいつゆっくり達に村の情報を流してたんだ!」

傍聴席にいる里の住人から、「ふざけんなー!」「裏切り者が、死んじまえ!」といった罵声が聞こえる。
私はそんなことまでした覚えはないのだけれど、私を擁護するものは誰もいない。
お母さんは私を生んだときに死んでいたし、お父さんはこの前ゆっくり達に殺された。
もし生きていたとしても、私の味方にはなってくれることはなさそうだけど。
わき腹についた、治りかけの火傷の跡が少し痛む。
目の前では長様が木槌を叩きながら「静粛に!静粛に!」と叫んでいた。
ややあって場がひとまず静まり返ると、長様は咳払いをひとつつき、私に対する判決を下す。

「被告に対する判決を言い渡す。被告はこの里で生まれ育った恩を忘れ、あろうことかゆっくりなどという畜生どもと結託し、里を襲い村に甚大なる被害をもたらした。
この罪が簡単に償えるものではないというのは確定的に明らか。よって、被告を死刑に処す。内容は…磔の刑がよかろう」

長様の判決を聞いた途端、傍聴席から歓声と甲高い口笛の音が鳴り響く。その歓声の中、長様は一人浮かない顔で持っていた条文を置き長いため息を吐いた。
私は里の罰の中で最も重い、磔の刑となった。
磔の刑といってもどこぞの聖人のように槍で刺されて殺されるわけではない。
罪人は十字架につるされ、村人から死ぬまで弄られ続けられるのだ。
罵声、投石、火あぶりなどと、その方法は多岐にわたる。
私が昔に見た罪人は、家畜の糞尿を投げられたり、高温の鍋を体中にへばりつけられたりしていた。
熱いのは嫌だなぁ、と私が自分のわき腹をさすりがら考えていると、予期もせぬ声が傍聴席から聞こえてきた。

「ゆっくりまってね!れいむたちが、え、えーと…」
「もう!れいむったらわすれちゃったの!?」
「わかる、わかるよー」
「むきゅー。"いぎ"よ、れいむ」
「ぱちゅりーのおかげでおもいだしたよ!!れいむたちは"いぎ"をとなえるよ!」

人懐っこいゆっくりれいむに、いつも元気なゆっくりちぇん、都会派が自慢のゆっくりありす、仲間で一番物知りなゆっくりパチュリー
……間違いない、そこにいたのは私の友達のゆっくりたちだった。
なんで、どうしてこんなところに……。
私や里の人たちの混乱をよそに証言台に上がるゆっくりのみんな。
長様も例外ではないようで、目をきょとんとしながらゆっくりたちに話しかける。

「……異議、とはどういうことですかな?」
「れいむのおともだちはなにもわるいことしてないよ!あのにんげんたちのいったことはうそっぱちだよ!」
「そうよ!おねえさんがそんなことするわけないじゃない!」
「わからないけどわかるよー」

台の上で口々に騒ぎ立てるゆっくり達に、混乱が収まってきた里の住人達がいっせいに騒ぎ立てる。

「ふざけんな!ゆっくりの言うことなんざ信じられるか!」
「そうだよ!俺嘘なんかついてないよ!」

ゆっくりたちの異議に、暴動寸前にまでヒートアップする住人達
さすがにこのままではいけないと思った長様が、みんなを沈静する。

「全員静粛になさい!……どういうことか、しっかり説明してくれるかね?」
「むきゅー。おねえさんはたしかに私達のお友達だけど、ここをおそったまりさたちとはまったく関係がないの。
だからあいつらにじょうほうを伝えることなんて出来ないだろうし、それどころか近づくだけで殺されちゃうと思うわ。あいつら気性が荒いもの」

そうだそうだー、と周りの子達も呼応して叫ぶ。
長様が再び咳払いをして、彼女達に質問する。

「あいつら、ということは君達とは違うということかな?ゆっくりたちは皆同じコミュニティではないということかね?」
「そうね。ふくすうの群れに分かれているわ。一番大きなせいりょくはまりさの率いる群れで、この村をおそったのもそれ。
後はとてもしょうきぼな群れが散在しているだけで、私達もそのしょうきぼな群れのひとつよ」
「あいつらは、わるいゆっくりなんだよ!れいむたちがあつめたたべものもかってによこどりするし、むらもあいつらがかってにおそったんだよ!
れいむたちはんたいしたのに!」
「そうよ!とかいはのありすにはあわない、いなかものどころかみかいのちのばんぞくみたいなやつらなのよ!」
「わかりたくもないよー」

一斉に同族のゆっくりの批判を始めた彼女らに、長様も戸惑い丘隠せない様子で、しばし呆然としていた。
誰も言葉を発さず、しん、と静まり返る法廷。
ゆっくりたちは、わかったかといわんばかりの表情で長様をじいっと見る。
長様が困った顔をして近くの有力者達を見回すが、彼らも混乱しているようで、呆けた顔で長様を見返すだけだった。
私はそれを見て、もしかしたら助かるのかなぁという思いが頭をよぎったが、やはり現実はそう甘くはない。

「ふざけんな!ゆっくりたちなんかみんな同じに決まってんだろうが!早く死んじまえこの生首どもめ!」
「そうだそうだ!こいつらは平気で嘘をつくしな!」
「さては、こいつら仲間を助けに来たゆっくりの斥候じゃないか?」
「何ーっ!?そうとわかれば生きて返すか!」

それまで黙っていた傍聴席の住人達が一人の男の言葉を合図に堰を切ったようにがなりだす。
その反応に、ゆっくり立ちも飛び跳ねながら反発し、法廷が怒声によって揺るがされる。

「ゆ!おじさんたちなにいってるの!?れいむたちはおともだちをたすけにきただけだよ!せっこうなんかじゃないよ!」
「とかいはのありすとあんなやばんなやつらをいっしょにしないでくれる!?」
「わからないよーわからないよー」
「むきゅー。みんな少し熱くなりすぎてるわ。少し冷静になって話し合いを…………むぎゅっ!」
「「「ぱ、ぱちゅりー!?」」」

一人の男が投げた石が、ゆっくりぱちゅリーに直撃する。
慌てて友達の元へ駆け寄るゆっくり達に、更なる投石が浴びせかけられる。

「ゆ゛!い、いだいよ!ゆっくりやめてね!」
「やめて!ぱちゅりーがしんじゃう!いだっ!」
「わ、わからないよー!」
「………むきゅー」

私はその様子に思わず彼女達の元へ駆け寄った。
私の脇を固めていた自警団の人もゆっくり達に集中していたので、彼女達の元へいく私をとめることはできなかった。
私は彼女たちの盾になるようにかがみこむ。

「みんなだいじょうぶ!?」
「ゆ!おねえさん!れいむはだいじょーぶだよ!」
「とかいはのアリスもだいじょうぶだけど、ぱちゅりーが……」
「わかるようでわからないよー!」
「むきゅー……むきゅー……」

さっきの投石でぱちゅりーの皮が破れ、中からあんこがはみ出ている。
早く治療しないと、もとより体が弱いぱちゅりーには致命傷となりうる傷だった。
私は急いではみ出た分のあんこを体内に戻し、傷口につばを当ててさすってやる。
その間もずっと後ろから石が飛んできたけど、私はそれを無視した。

「大丈夫!?今助けるからね!」
「むきゅー…おねえさん、私のことはいいから、そこをどいて…。石が飛んできてるよ」
「私のことは気にしなくていいから、ぱちゅりーは自分のことだけ心配して」
「ゆ!おねえさん、あぶない!」

れいむの声と同時に、後頭部に激痛が走る。
痛みは私の頭の中をかき回し、私の意識を奪っていく。
薄れゆく視界の中で見たものは、大人に掴まれながらも必死にこちらに向かって泣き叫んでいる友人達の姿だった。
ああ、なにをそんなに泣いているのだろう。またまりさたちにいじめられたのだろうか。
大丈夫、私が何とかしてあげるから。だから、お願いだから泣かないで。あのゆっくりとした笑顔を私にみせて。
痛みはやがて快楽へと変わり、そうして虚無が訪れた。


「………!………ろ!起きろ!」

耳障りなだみ声に呼ばれて目を覚ます。空高くで輝いている太陽がまぶしい。
周りには、数人の大人たちが倒れている私を囲むように立っていた。
私が体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走る。

「っ……!」
「痛がってねぇでさっさと立て。………こら、暴れんな!さっさとこっちに来い!」

男達が嫌がる私を無理矢理引きずっていく。
私も途中で抵抗するのをやめ、なすがままに男達に引きずられていった。
そうして着いた広場には、一箇所に固まって何かをしている村人達。
向こうもこちらに気づいたようで、こちらに向かって薄気味悪い笑みを浮かべながら私を見る。

「ほれ、あれをみてみな」

私の腕を抱えている男が、広場の中心の方に指を向ける。
そこには、十字架にかけられ泣き叫ぶゆっくりたちと、それを見て愉しんでいる里の人達の姿。

「い゛や゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!ゆっくりでき゛な゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!」
「ひぎぃぃぃぃぃ!いだいぃぃぃぃぃ!!」
「まっだぐわがらな゛い゛よお゛ぉぉぉぉ!!」
「…………………」

そこにつるされたみんなは、ハリネズミのように全身から棘が生えていた。
みんなは痛みに悶え痙攣しているが、ぱちゅりーだけはまったく動かなかった。

「みんな!なんで、どうして………」

友人達のあまりの惨状に、私はただただ泣くことしかできなかった。
膝がたっていられないほどがくがくと震えるが男達が腕をしっかりと掴むから倒れることも出来ない。
友達の悲鳴を聞きたくなくて、耳をふさごうとしても両腕は男達に捕まえられている。
どうしようもない絶望感と無力感におそわれていた私に、男の一人が私にそっとささやいた。

「あのゆっくりどもを、助けたいか?」

とめどなく溢れてくる涙のせいでまともに話すことができず、私は必死に首を縦に振ることでそれに答える。
男達は私の反応に満足したのか、薄ら笑いを浮かべながら、再びこうささやいた。

「じゃあ、おまえらの言う悪いゆっくりを殲滅して来い。お前はゆっくりのお友達なんだから、内部に侵入して崩壊させるくらいできるだろ?」
「うう…ひっぐ……そんなの、できるわけ……」
「出来ないんだったら、あいつらが死ぬだけだ」

男達が、先ほどよりも口をさらに歪ませて、私に選択を迫る。
聞こえるのは、先ほどよりも大きくなっている友人達の悲鳴。私に選択の余地はなかった。

「………わかりました。やります…………」
「そうかそうか!頑張ってゆっくりたちを殺してきてくれ!これが成功したら村の英雄だな!」

男達が私を解放する。
だが、ゆっくり立ちは開放される気配はなく、いまだ里の人達にいじめられ続けていた。

「やりますから、早くあれを止めてください…!」
「ん~?それは出来んなぁ。だってあいつらは罪人なんだから。でもまあ、今日中には殺さないから安心しな」
「……………………………」
「なんだ?こっちをじっと見て。早く行かないとお友達が死んじゃうぞ?」

男達は、心底楽しそうに笑いながら、私を見る。

「約束は、守ってくださいよ」

私は少し震えた声でそういって、私は逃げるように走っていった。
友人達の悲鳴が、どれだけ広場から離れても耳から無くならなかった。

そうして数十分ほど走って着いた先は、友人達とよく遊んだ森のある一角。
ゆっくりにとって外敵が少なく、かつ食料も適度にあるこの場所。
でも、今ここの住人であるはずのゆっくり達はいない。
私は木の上にのぼり、みんなで作った秘密基地の中に入る。
中には、非常時のために蓄えられた食糧と、みんなで遊ぶための道具、そして私の私物である手提げのカバンがある。
かばんの中には、大量のナイフにエナメル製のワイヤー。
すべて、事前に用意していたものだった。

あのゆっくりまりさたちはれいむたちが言ったように、他のゆっくりコミュニティも襲う。
幸いれいむたちは食料を献上していたためさして被害はなかったが、いつれいむたちが襲われるかわからなかった。
だから私は自衛の手段として武器を買い込み、あいつらの巣へ赴いて彼女らの行動を事細かに観察していた。
いつ襲われてもいいように。友達を守るために。

今から私がゆっくりまりさたちの巣を強襲するのは、大切な友達を助けるため。
だから今から私がやることは仕方のないことなのだ。たとえ友達と同じゆっくりを殺すこととなろうとも。
胸が痛み、涙も出てきたが、私はそれを振り払って元凶の巣へと歩きだした。
先ほどよりも太陽は西へ傾いており、私の作る影もそれに応えて大きくなっていた。

そして、ゆっくりまりさたちの巣についた私は、改めてその巨大な巣を見回した。
人でも有に入れそうな洞窟を中心に、近くの木々にはゆっくりまりさたちの家が散在している。
どうやら巣の規模は以前見たときよりより大きくなっているようだった。
私は彼女らが逃げられないように、巣を囲むようにしてワイヤーをいたるところに仕掛けた。
そして、もうワイヤーが切れかけようかとしたそのとき、一匹のゆっくりが私を発見した。

「ゆゆー!みんな、にんげんがいるゆ゛っ!!」

私に背を向いてほかのゆっくりたちを呼ぶゆっくりまりさを、私は瞬時に近づいて踏み潰す。踏みが浅かったのか、まだ死んではいなかった。

止めを刺さなければ。

そう思ったところで、私の動きが固まった。
ゆっくりを殺すなんて、本気で言っているのか?私のお友達と同じ種なんだぞ?
でも友達を助けるためには殺さないと。でも殺したらあの子達は私をゆっくり殺しといって嫌うかもしれない………
ゆっくりを殺すということに、理性が拒否反応を示す。
ここでゆっくりを殺してしまっては、二度と友人達と笑って過ごせなくなる予感がした。

「ゆっくりしねぇぇぇ!」
「がっ!」

そうして迷っていたせいで、後ろにいたゆっくりの声に反応するのが遅れてしまった。
背中を強く打たれ、そのままごろごろと転がる。
痛みをこらえて振り向くと、そこには数匹の成熟したゆっくりまりさ達がいた。
その中でも一番大きな体を呪詛の言葉を吐きながら、再び私めがけ突進してくる。

「わたしのこどもをォォォ!よくもぉぉぉぉ!」
「きゃ、きゃぁぁぁァァァ!!!!」

わたしが無我夢中で突き出したナイフが、カウンターとなってまりさの顔を捉える。
ブチュリという嫌な感覚のあと、わたしの腕が生暖かいものに包まれた。

「ゆ゛!?ゆ゛うぅぅぅぅ!?」

わたしのナイフは、まりさの体を貫通していた。
痛みのために暴れようとしているのが、腕に伝わる振動からわかった。
わたしは、慌てて魔理沙を腕から離そうと、腕を何度も何度も振った。

「いやぁ!離れて!」
「ゆ゛…!ゆ゛……!」

腕からすっぽ抜けていったまりさは近くの木の幹に当たり、そして動かなくなった。
周りにいたゆっくりたちが、急いでその死骸に近寄る。

「おがあさん!おがあさぁぁん!」
「ゆっくりしてないでへんじしてよぉぉぉ!?」
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」

ゆっくりたちはひとしきり泣いたあと、呆然としている私を睨みつけた。

「よぐも、よぐもおがあさんをごろじだなあァァァ!」
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
「このゆっくりごろしめ!」

ゆっくり達のその言葉の一つ一つが、ナイフとなって私の心を切り刻んでいく。
違う。わたしは、わたしは。わたしは?
死んだゆっくりの死骸が、わたしの頭のなかでぐるぐると回る。
混乱し、ぐにゃぐにゃと錯交する思考。何もわからない。見えない。聞こえない。

私は何故ここにいるんだっけ?友達を助けるため?それともゆっくりを殺すため?このナイフで、ゆっくりの体を貫いて。
胸が痛い。心が痛い。なんで私はこんなに苦しいの?

「こんなひどいにんげんとは、だれもゆっくりできないよ!」
「そうだよ、ゆっくりさっさとしね!」

あいつらはなにを言っているんだろう?どうして彼らは怒っているんだろう?
私は悪いことしてないのに。いきなり人の悪口を言うなんて、悪いゆっくりだ。
そうだ、友達を助けるために、悪いゆっくりを殺さないと。みんなと約束したんだ。
だから、殺さないといけないんだ。こいつらは悪いんだから。みんな消さないといけないんだ。


私の中で、はっきりと何かが破裂する音が聞こえた。


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最終更新:2022年05月03日 18:24