ジャッキーチェンと本文の内容は一切関係ありません

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季節は秋、森の生き物達は冬に向けて慌しくなっていた。
それは普段ゆっくりとしている者達も例外ではなかった。

人の手がほとんど入らない深い森の中、その背丈よりも高い茂みの中から球体が這い出てきた。
それは生首饅頭と揶揄されることもある生き物、ゆっくりだった。
このゆっくりは黒い帽子を被っている事から、まりさ種と呼ばれる固体である。

「ゆう…やっぱりここにもなかったよ…」
森の中を彷徨うこのまりさは餌を捜し求めているのだろう。
この辺りは、まりさを含めたゆっくり達が餌場として利用している所から離れているので、他のゆっくりと遭遇することが殆ど無い。
それを知っているこのまりさ、競争の少ない森の奥までわざわざ足を運んだのだ。
しかしゆっくりが居ない所は居ないなりの理由があって、餌となるものが殆ど取れないのも当然である。
それでも再び茂みの中をがさごそと掻き分けて、食べられそうなものを必死になって探している。

しかし餌探しに夢中になるあまり、まりさは警戒心が緩んでしまったようだ。
不注意にも雑音を立てながら探索をしていた為、偶々そこに居た人間の注意を引いてしまい、まりさは見つかってしまった。
「…ん?ああ、ゆっくりか。こんな所で会うとは珍しいな」
「ゆゆぅ!?」
まりさは急に声をかけられたことで驚き、慌てて声のする方向へ眼をやる。
そこには一人の青年がいた。
手に持った籠には何かしらの実が入っており、空いた手が伸びている先には籠の中と同じ実が生っていた。

この時、まりさは重大なミスをしてしまったと思った。
見知らぬ地であるなら、普段以上に周囲に気を払わなければいけなかったのだが、焦りが生じたためなのか、
目の前に人間が居ることに声をかけられるまで気が付かなかったのだ。
「やあ、ゆっくりしていってね」
「ゆ!ゆっくりしとぅいってね!」
まさか人間がゆっくりしていってね、と言うとは思っていなかったまりさは返す挨拶で噛んでしまった。
それ以上に人間と対面していることへの緊張があったのだが。
「こんな森の奥まで来るなんて…どうしたんだい?」
青年は目の前のゆっくりに質問をする。
ちょっとした戯れのつもりなのだろう。
その表情と言葉は、決して負の感情が込められたものでは無かったのだが、
「ゆう…なんでもないよ!」
まりさは人間に対して警戒心を抱いている為、そっけない返事を返す。

ゆっくりの住んでいる森は、人間の里からそう遠くない場所にある。
その為、食糧不足に悩んだゆっくりが人間の里に赴き騒動を起こし、時にはそのゆんせいを終わらせてしまうこともあった。
まりさはそのことを知っていたので、うかつに人間に近づくことはしなかったのだが、その人間がまりさの眼前に控えているのである。

繁みに逃げ込もうにも、青年の注意はまりさに向けられている。
迂闊に動いては人間に何をされるか分からないので、じっとしていることしか出来ない。
必死さがまりさの表情にも浮かんでくる。

「そうだ、お近づきのしるしに良い物をあげよう」
そう言うと青年はおもむろに籠の中へ手をやり、その中の実を一つ摘んでまりさへ差し出そうと歩み寄る。
「ゆっ!」
しかしまりさは青年が歩み寄る分だけ後ずさりする。
それを見た青年は自嘲気味に少し微笑む。
手にした果実を自分の口に運び、まりさの果実に対する警戒心を解こうとする。
改めて籠からもう一つ手にしてまりさの方へ投げ落す。
「たべてごらん、美味しいよ」
そう言って先ほどとは違う、親愛の情を込めた微笑みをまりさへと向ける。
まりさは目の前の果実と青年の顔を交互に数度見た後、恐る恐るその実を口にした。
口中に運んだ後、一呼吸おいてからその実をすりつぶすと、信じられないような甘みが口中に広がった。
「し…しあわせ~っ!!」
ただ甘いだけでなく、ほんのりとした酸味が効いている。
あまりの美味しさにゆっくりが最大限の歓喜を表す「しあわせ~」を青年の前で披露してしまうまりさ。
青年の方も、まりさが喜んでいるのを見てその顔を綻ばせていた。
まりさは余韻にたっぷりと浸った後、少し申し訳なさそうな表情をしてから、青年に話しかけた。
「おにいさん!もっとちょうだい!」
ゆっくりの事を快く思っていない人ならば、ずいぶんと欲の皮のゆっぱったゆっくりだと思うかもしれないが、
この青年は、まりさが先ほど見せた遠慮がちな表情を見ていた為か、そういった感情は無かったようだ。
「いいけど、誰かにあげるのかい?」
「うん!れいむにもたべさせてあげたいの!」
警戒心の有るゆっくりなら、家族の事を軽々しく口にはしない。
この時点でのまりさは完全に青年のことを信用している。
それほどまでにこの果実の甘みはまりさの心に変化をもたらしたのだろう。
「それじゃあ持てるだけ持って行っていいよ」
青年は惜しげもなく分け与え、その好意にまりさは感動に打ち震えていた。

まりさはたっぷりと果実が詰まった帽子を被ると
「おにいさんありがとう!」
と、お礼を述べてから飛ぶように去っていった。
男はその姿を見送ると、まりさにあげた分を補填すべく、再び果実の採取に取り掛かる。



山の斜面にあるぽかりと開いた穴。
そこがまりさとれいむの愛の巣である。
冬に向けて餌を集めるべく、まりさの番であるれいむも奔走していた。
既にれいむは巣に帰ってきており、収穫した餌を置き、部屋の掃除等の雑用がすべて終わり、まりさの帰還を待つだけになっていた。
「まりさ、ゆっくりしないでかえってきて…」
何時もより遅いまりさの帰宅に不安を感じはじめていたその時。
「ゆっくりしすぎてごめんね!」
巣の前で待っていたれいむの視線とは逆のほうからまりさは帰ってきた。
「ゆ!どこいってたの!?」
帰りが遅いこともあるが、いつもの餌場とは逆方向から帰って来た事で、不安が疑念へと変わりつつあった。

まりさはそんなれいむの心配を余所に、勢いよく前屈の姿勢をとり、実の詰まった帽子をれいむの眼前にぶちまけると、緑色の実が一面に敷き詰められる。
その様を見てれいむは目を丸くしてしまう。
遅れて帰ってきて何をしてきたかと思えば、突然わけの分からないものを大量に撒き散らし、当の本人は誤るどころか誇らしげにふんぞり返っている。
れいむは一言ガツンと言ってやろうという気持ちになりかけたが、
「これ、とってもしあわせ~になれるんだよ!」
まりさはそう言うなり自身がばら撒いた実を一つ舌で巻き取ると、そのまま口に運び入れ、むーしゃむーしゃすると
「しあわせ~」
と言って表情をとろけさす。
人の気も知らないで勝手に話を進めるまりさを叱ってやりたいとは思ったが、まりさが食べた実の事も正直気にはなっている。
まりさも食べるように促してくるので、しょうがないなという顔を作って見せてからその実を口に運んだ。
「むーしゃ、むーしゃ、しっ…しっ…しあわしぇ~っ!!!」
れいむは今まで溜めた憤りを全て遥か彼方へ吹っ飛ばすほどの歓喜を表した。
生まれてから一度も見たことの無い果実の味は、生まれてから一度も味わったことの無い美味しさであった。
「もしかして、これをとりにいったからおそくなったの?」
れいむの質問にまりさは無言でこくりと頷くと、静かにれいむの方へ擦り寄っていく。
「これだけいっぱいのゆっくりできるごはんがあれば…ね?れいむ?」
「ゆ…?うん、そうだね…いっぱいゆっくりしようね!」
その日の夜、二匹のゆっくりが篭る巣に、新たな命がもたらされた。



二匹が必死になって餌を集めていたのには訳があった。
冬篭りに強い不安を感じてではない。
『いっぱいごはんをあつめられたら、ゆっくりできるあかちゃんをつくろう』
という約束があったからだ。
寒く、つらい冬篭りはとてもじゃないがゆっくり出来るものではない。
せめてゆっくり出来る赤ちゃんと一緒に冬を越したいという、ささやかな願望であった。
しかしその為には二匹分以上の餌を集めなくてはいけなかった。
妊娠、出産は非常に体力を使うので、ちょっとやそっとの餌では足りないと考えて、必死になっていたのである。

そして今、目標とする量に十分過ぎるほどの餌が手に入ったのである。
ただ多いだけでなく、たっぷりしあわせ~になれる、とてつもなくおいしい餌だった。



すっきりーしてから二週間後、にんっしんっ中のれいむが何気なく餌置き場に行って見ると、ある異変に気が付いた
「ゆ?おみずさん?」
置き場の辺りが軽く湿っていたのである。
ゆっくりにとって水は天敵。
冬の間篭る巣の中が水浸しになってはいけないと、水の出所を調べるべく餌の整理をしていたその時
「ゆううううう!ごはんさんがゆっくりできなくなっているよ!」
あの日、人間からもらった果実が形を崩し、果汁が漏れ出ていたのだ。
このままでは美味しい果実どころかご飯全てが駄目になってしまうと思ったが、軽くパニックになったれいむに問題を解決するほどの名案は浮かばない。
身重のれいむは、せめて他のご飯が濡れないようにと、より分けるぐらいしか出来なかった。
「だいじょうぶなごはんさんをこっちにうつすよ!ゆーしょ!ゆーしょ!
 ぬれちゃったごはんさんはこっちだよ!ゆーしょ!ゆーしょ!」

ご飯の移送が全て完了しても、れいむは気が気でなかった。
一番肝心な問題、果実の破損はどうしようもなかったからだ。
暫くしてまりさが帰ってくると、れいむは泣きながらまりさに駆け寄った。
「どうしようまりさ!?このままじゃふゆのあいだ、ゆっくりできなくなっちゃうよ…」
この一大事に、れいむは一人で待っている間、おなかの赤ちゃんをゆっくり出来なくさせることまで考えていた。
赤ちゃんに食べさせる分が無くなれば、おいしいご飯が無くなっても二匹分はあると考えたからだ。
「ざんねんだけど…あかちゃんは…」
そのことをまりさに話そうとしたその時
「ゆ!れいむはなにもしんぱしなくていいよ!」
にこっと笑ってからまりさは巣の奥へ行き、餌場の床に穴を掘り出したのだ。
れいむはまりさの行動が理解できないでいたが、先ほどまりさが見せた笑顔を信じることにした。
「これでいいかな?」
まりさは穴を掘り終えると、被っていた帽子を脱ぎ、それを逆さまにして穴に入れる。
そしてなんと、人間からもらった果実を全てその帽子の中に入れたのである。
「これでごはんもおうちもだいじょうぶだね!」
水に浮かぶ事の出来る程の防水性がある帽子で、果汁の流出を防いだのであった。
「で、でも!まりさのぼうしがゆっくりできてないよ!?」
「だいじょうぶ!あかちゃんがゆっくりできなくなっちゃうことのほうが、もっとゆっくりできないもん!」
命の次に大切な帽子を惜しげもなく家族の為に差し出したまりさ。
何が一番ゆっくり出来ることなのか、良く心得ているゆっくりだった。



すっきりーから一ヶ月。
れいむは出産の時を迎えていた。
「ゆひぃーっ!ゆひぃーっ!」
陣痛の苦しみに耐えかねて、れいむの呼吸は荒くなっていた。
「れいむ!ゆっくり!ゆっくりでいいよ!」
れいむの下腹部の孔は、れいむの呼吸にあわせひくひくとしている。
そしてれいむが一段と強く息を吸った直後。
「うっ、うっ!うばれるぅ!」
「れっ!れいむぅ!?」
すぽーんすぽーんと、れいむから勢い良く射出された赤ゆっくりは、まりさの口中に飛び込んでいった。
「まりさ!あかちゃんは?」
陣痛の苦しみで意識もあやふやだったれいむだが、その苦しみから解放されると子供の無事をまりさに確認した。
まりさはあらかじめ敷いておいた草の上に、口の中の物をやさしく転がす。
それはれいむ種とまりさ種それぞれ一匹づつ、テニスボール大の文字通り玉のような赤ゆっくりだ。
「「ゆっくちちちぇいっちぇね!!」」
「「ゆっくりしていってね!」」
体は大きいが生まれたばかりなのでまだ舌足らずだが、すぐに流暢に喋れるようになるだろう。
「まりさ、きょうはゆっくりきねんびだよ!あかちゃんたちにあの『しあわせ~』になれるごはんあげようよ!」
「だめだよ!あかちゃんにむしさんやはっぱさんをたべさせないと!ゆっくりできないこになるよ!」
植物型なら茎をあげるのが通例だが、胎生型では各々の判断に委ねられている。
ここでもまりさは慎重だった。
抑制の効きにくい子ゆっくりには甘みは中毒になると判断したのだ。
れいむも十分心得ているはずだったが、無事に出産を終えたことで少し舞い上がっていたのだろう。
まりさに窘められるとすぐに思い直した。
「そうだったね、ゆっくりしすぎていたよ!」
こうして子ゆっくりたちの初めての食事は、れいむが噛み与えた葉っぱになったのだ。



本格的な冬が訪れ、日によっては地中の巣の中でさえ、凍りつくような寒さに襲われる日もあった。
この日は記録的な寒さが観測され、まりさたちもその寒さにとてもゆっくり出来なかった。
「まりさ、きょうはすごくさむいね」
「こういうときこそ、みんなでゆっくりするんだよ…そうだ」
家族と身を寄せていたまりさは餌置き場に行き、床に敷いてある葉っぱを除けた。
「きょうはこのゆっくりできるごはんをたべようね!」
葉っぱの下にはどろどろになったあの果実があった。
まりさは、ゆっくり出来なくなったのなら、ゆっくり出来るものでゆっくりを補おうと考えたのだ。
「おちびちゃん、きょうはごちそうだよ!」
「「ゆゆ~ん!ごちそうはゆっくりできるね!」」
穴の周りに一家は並び、まりさが自前の木の棒で掬って分け与えた。
「ぺーろぺーろ、しあわせ~♪…ちょっとあじかわった?」
れいむは久しぶりに口にした果実の味の変化に気が付いた。
「しょうがないよ、形がこんなにかわったら、ちょっとぐらいあじがかわるよ!」
まりさも確かに味が変わったと感じてはいたが、ゆっくり出来ない味ではないと思ったのでそのまま食事を続けた。
れいむもまりさの言葉と、満足そうに食べている子供達を見て、余計な心配だったと思うことにした。



これがまりさたちの最後のゆっくりになった。



食事の直後、一家は体の変調を自覚しだした。
「なんだかあったかくなってきたね!?」
「れいむも?まりさもあったかくなってきたよ!?」
「「あったかいね!」」
巣の中のゆっくり全てが体温の上昇を感じていた。
ところがそれだけでは済まなかった。
「もしかしてはるになったのかな?」
「そうかもしれないね!こんなにあったかいのははるがきたからだよね!?」
「ゆゆ~ん?れいむたち、おそとにでれるの!?」
「はるならおそとにでたほうがいいね!いっしょにおそとでゆっくりしようね!」
「ゆっゆゆ~!」
なぜか一家は春が来たと思い込み、喜び勇んで巣の外に出て行ったが…
「ゆゆ~ん♪きらきらしてとってもきれい…」
外は一面銀世界。ダイヤモンドダストの舞う極寒の冬景色である。



まりさ達が春が来たと勘違いをした体温の上昇。
それをもたらしたのは、逆さにした帽子に溜め込んだ果実に含まれていたアルコールが原因であった。

まりさが男から譲り受けた果実。それは俗にさるなしと呼ばれる果実だった。
その風味はキウイに酷似し、人間と似た食性を持つ猿などが好んで食べる果実である。
時に猿は、これを木の洞などに溜め込むことがあるという。
それが自然発酵したものは『猿酒』とよばれ、人類が初めて口にしたアルコールもそうして出来たものだという。
さるなしは高所に実をつけるために、ゆっくりにとっては正に高嶺の花と言える代物だった。
そんな貴重なものを大量に入手出来たまりさは幸運なゆっくりと言えたのかもしれない。
しかしなかなか入手出来ない物は、それに関する知識を得ることも難しい。
まりさには甘い果実が酒になるとは思いもしなかった事だし、そもそも酒と言う物を知らなければ、その酒がもたらす体の変化も知る由が無い。
人間に近い食性を持ったゆっくりは、不幸なことにアルコールに対しても同様の変化を表す生き物だった。



「ゆゆ~ん?はるってこんなにきらきらしていたっけ?」
「ことしはとくべつなんだよ!」
冬篭りの間、冬の景色を見たことの無いゆっくりは、それが寒さの象徴であることを知らない。
「そうだよね!それにしても、すこしすずしくなってきたかな?」
「ゆっくりおうちにかえろうか?」
初めて口にしたアルコールは、まりさ達の餡子脳にも異常をもたらした。
その身を凍結させるほどの寒さを涼しい程度にしか感じることが出来なかったのだ。
「ゆっくりかえろうね…ゆ?うごけにゃいよぉ!?」
体の小さな子ゆっくりは、すでにその底部が凍結し、身動きが取れなくなっていた。
「しょうがないね、まりさがおうちまでつれていって…ゆっくりうごきにくいよ」
「さあおちびちゃんたち、ままのおくちにはいろうね」
そう言ってれいむは舌を出して、子ゆっくりの肌に巻きつけたが。
「ゆ?ゆっふへ?ゆっひひへひはい!」
巻きつけた瞬間舌が張り付き、れいむも身動きが取れなくなってしまった。
「ゆううう!?どうして!?どうしてえええ!?」
この言葉を最後にまりさは口を利くことも出来なくなり、一家は薄れゆく意識の中、白銀の世界と同化していった。




オワリ




後書きと言う名の言い訳

果実オンリーでは糖度が高かったり、晩秋では気温が低かったりで発酵する条件が微妙かもしれませんね。
全く発酵しないことは無いと思うので、出来たアルコールが微量でもゆっくりがものすごい下戸だったということで…

タイトルは酔っ払い+猿酒でぱっと浮かんだのが「ドランクモンキー・酔拳」だったからです。
他にいいタイトルが思いつかなかったのでこのままにします。
まあ酔拳2で主人公の頭がぱっぱらぱーになるので繋がりが無いわけではないですよね。詭弁ですね。


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最終更新:2022年05月03日 22:58