――そうすることしばし。
やがて二匹はがんじがらめにされ、とくに赤まりさには糸がしっかりと食い込み、ハムのように形を変えられていた。
「ゆぐっ、ゆぃぃぃぃ…いちゃ、いよぉぉ…おきゃぁ、しゃぁぁん…」
「れ、れいむのあがしゃんがぁぁぁぁっっっ! ゆっ、ゆぅぅぅっっ! ゆるさないよっ、おねーさんっっ!」
我が子をこんな姿にして痛みを与える少女に、自らを刺された痛みも手伝って、憎悪の視線を向けるれいむ。
けれど少女はそれを笑いながら見下ろし、優しい声でささやきかけた。
「あら、せっかく守りやすいように、れいむの傍に赤ちゃんをくっつけてあげたのに……。
でもそうね、そこから助けてあげたいんだったら、糸を切ればいいんじゃない?
そんなに硬い糸じゃないから、膨らんでれば切れるかもしれないわねぇ……ふふ」
それを聞いたれいむはニヤリと笑い、少女を小馬鹿にして声を上げる。
「ゆっ、ゆっ、いいこときいたよ! やっぱりにんげんさんはばかだね! あかちゃん、ちょっとだけがまんしてね!」
「ゆぐぅぅぅ…ぎゃみゃん、しゅりゅよぉ…」
その答えに満足そうな笑みを浮かべ、威嚇していたときのようにプクーッと体を膨らませるれいむ。
自らが膨らんで赤まりさを糸に押しつけ、その圧力で切ってやろうというつもりなのだろう。
だが、れいむの意図したように赤まりさは糸に押しつけられるものの、糸が切れる様子などはまったくない。
それどころか、そのまま赤まりさにギリギリと食い込んでゆき、形を大きくひしゃげさせる。
「いぎぃぃぃぃっっっ!! いちゃいっ、いちゃいぃぃぃっっ! おきゃーしゃぁぁぁんっっ! やみぇちぇぇぇっっっ!」
「ゆんっ、ゆんんっっ! もうすこしだからね、がまんしてねっ! ゆぅぅぅっっっ!」
涙をボロボロとこぼし、死にそうな声で赤まりさが訴えるのを無視し、れいむはさらにプクーッと膨らんでゆく。
それに合わせて糸を食い込まされ、締め上げられる痛みと苦しみに、赤まりさの口からボコボコと餡子の汁がもれだす。
そして、ついに――。
「もっちょ…ゆっくち、ちちゃ、かっ…ちゃ…」
――ブシュゥゥッッ!!
体中に巻きついた糸に寸断され、元は赤まりさだった小麦粉皮と餡子の塊が、空中でバラバラに分解される。
輪切りのようになったそれらの残骸は、ボトリと床に落ちて、緩んだ糸の絡みついたれいむの隣に散らばる。
れいむの望んだ赤まりさの笑顔はそこになく、恐怖に歪んだ表情を浮かべた顔の一部が、床に張りついているだけだ。
「ゆっ? ゆ…ゆぅぅぅぅっっっ!? れ、れいむのあかちゃんがぁぁあっっっ!」
子を失ったショックに思わず泣き叫ぶれいむ。
そこへ少女が、愉快でたまらないというような、嘲笑にも似た笑い声を浴びせかける。
「あはっ、あっははははははっっ! バッカじゃないの、このクソ饅頭!!
親の厚い皮ならともかく、赤ん坊の柔らかい皮で糸が切れるわけないでしょうが!
ほんっと! どうしようもなく無知で、愚かなナマモノよね! 自分の赤ん坊を殺すなんて、最低の所業だわ!」
その言葉を聞き、ようやく自分がなにをしたのか――いや、させられたのかに気づき、れいむは目を血走らせて叫ぶ。
「ゆっ、ゆぐぐぐぐぅぅっっっ! ゆるさないよっ、れいむをだましたばばあは、ゆっくりじねぇぇぇっっっ!」
「誰がばばあよ……っていうか、別に騙してないから。実際、あんたの皮なら糸は切れてただろうし。
そもそも切れる『かも』って言っただけなのに、試したのはあんた自身なの。
そういうの、責任転嫁っていうのよ? わからないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「うっっ、うるざぁぁぁいいぃぃぃっっ! あかちゃんをがえぜええええええっっ、おにばばあぁぁっっ!」
少女の言葉にますます激昂し、汚らしく唾を撒き散らしてれいむは叫び続ける。
そんなれいむの様子に少女はなにごとかを考え……やがてクスリと微笑み、針と糸を取りだした。
「ま、そんなに言うなら、やってみましょうか……」
そう呟くと、少女は赤まりさの残骸を寄せ集めて元の形に組み立てると、そのまま破片を糸で縫い繋げてゆく。
まるで医者による外科手術のように、手際よく、そして手早く縫合されたそれは、少しの歪みも緩みもない。
見る見るうちに繋ぎ合わされた残骸は、少女の手の中で元の形を取り戻した。
「はい、完成……と」
赤まりさの残骸は、その表情を恐怖に歪めたまま縫合され、れいむの前に置かれる。
それでも、れいむにはわが子が戻ってきたように見えたのだろう。
泣き叫んで顔中をボロボロにしながら、れいむはその赤まりさだったものに駆け寄り、ペロペロと舐めてやる。
「あ、あがぢゃああぁぁぁぁんっっ! もうこわがらなくていいよっ、よかったね、よかったねぇっっ!」
「……………………」
だが、当然のことながらすでにその饅頭は生きてなどいない。
舌で優しく舐められ、慈しむ言葉をいくらかけられようと、赤まりさはその表情を歪めたまま、そこに鎮座するばかりだった。
「ゆっ、ゆぅぅ? あかちゃん、なにかいってね! しゃべってね、ゆっくりしゃべってねぇぇっっ!」
「はぁぁ? 話せるわけないでしょうが。
それはもう死んでんのよ? 破片を繋いだくらいで生き返るんなら、永琳先生はいらないっての」
冷めた瞳でれいむを見下ろし、少女がそんなことを口にする。
それを聞いたれいむは、ショックを受けたように目を見開いて、呆然とした表情を浮かべた。
が――やがて悲しみが怒りへと変わったように顔を真っ赤にして、少女に飛びかかってくる。
「ゆっ…ゆっくりできない、ばばあはっ…じねええぇぇぇぇええっぇぇっっ!」
「やーよ。死ぬならあんたの方でしょうが、ほい……っと」
――ブツゥゥッ!
「ゆぎっ、ゆぎゃあぁぁぁっっっ!」
少女の手にした針が、人の目には緩慢に映る動きで飛んできたれいむの瞳を貫き、そのまま体内に埋められてゆく。
痛みに叫んで転げ回るれいむの悲鳴は、夕飯を奪われて床を汚された少女の怒りを、少しだけ冷ましてくれた。
「はーあ、一匹は死んじゃったし、残りは四匹かぁ……次はどれにしよっかなぁ?」
皮より少しだけ強い弾力を持つ、れいむの瞳を刺した感触にゾクゾクと震えながら、少女は次なる獲物を探す。
その目に留まったのは、口を塞がれてなにもしゃべれず、ただ涙を流して呻くまりさの隣――。
その大きな身体に隠れるようにしていた、赤れいむの姿だった。
一本の針が突き立てられたとはいえ、小さな身体の赤れいむでは移動による反動も小さいのだろう。
赤まりさやれいむが刺されている隙に赤れいむは痛みをこらえて這いずり、なんとか逃げおおせた様子だった。
これで痛い目には遭わないだろうと、まりさの陰でホッとしていた赤れいむだが、そう上手くいくはずもない。
「よし、次はあんたにしましょっか。ほら、きなさい……ふふっ、ほぉら、痛いわよ……」
「ゆぴぃぃぃっっ! やぢゃぁぁぁっ、おちょーしゃぁぁぁんっっ!」
少女の指で簡単に抓み上げられ、連れ去られる恐怖に悲鳴を上げる赤れいむ。
必死になってまりさに助けを求めるが、肝心の父親はわが子以上の恐怖に包まれ、抵抗の意思さえ持てないようだった。
「なっ、なにじでるのぉぉっっ!? まりざがだずげなぎゃっっ、だれがおちびちゃんをまもるのぉぉっ!?」
「ゆっ、ゆゆゆゆゆっっ! ゆぶっ、ゆぶぅぅぅっ!」
れいむが瞳を刺された痛みをこらえて叫んだことで、まりさも少しばかり反骨心を戻したのだろう。
けれど開かぬ口でなにごとかを叫ぼうとした瞬間、少女に冷たく睨まれ、針先で皮を撫で上げられ――。
「……黙ってなさい、クソ饅頭。早死にしたいなら、止めないけれど……ねぇ?」
「ゆっ、ゆぐっ……ゆぐぅぅ……」
冷酷な響きで告げられては、結局そのまま黙り込むしかなかった。
静かになったまりさに満足げな笑みを浮かべ、少女は抓んだ赤れいむにささやく。
「ざーんねん、あんたのお父さんは、あんたを守るつもりなんてないんだってー。
自分のせいで、子供がこんな目に遭ってるっていうのに、自分の身が大切みたいよ」
そう言って少女がチラつかせる赤茶色に錆びた針が、赤れいむの瞳に映る。
刺される痛みは自身の身体で、そして姉妹や両親の悲鳴で十分に理解していた。
恐怖に瞳を潤ませ、なんとか助かろうと、必死に泣きじゃくって叫ぶ。
「ゆびゃぁぁぁっっっ! やぢゃっ、やぢゃよぉぉぉっっ! おちょーしゃんっ、おきゃーしゃぁぁんっっ!」
「……ほんっと、耳障りな泣き声。虫唾が走るわね……」
――ツプゥゥッ!
「ゆっぴぃぃぃっっ!?」
そんな赤れいむの訴えを無視し――むしろ、さらに苛立ちを掻き立てられた様子で、少女は口を閉じさせるように針を突き刺す。
ザリィッと皮の内側や餡子までを擦り抉られ、赤れいむは気絶せんばかりの痛みを味わわされる。
それでも――少女の愉悦の時間は止まらず、さらに数本の針が、赤れいむの頭上に向けられる。
「んっ、んぅぅ……泣き声は最低だけど、どうしてこんなにいい感触なのかしらぁ……んふっ、はぁぁ……」
――ブツッ、ズブゥッ、グチュッ、ズシュゥッ!
「ゆびぃぃっっ! ゆぎゅっ! いちゃいっ、いぢゃいぃっ! ゆぇぇんっっ! ゆぴゃぁぁっ!」
まるで赤れいむを針山にでも見立てているかのように、柔らかな皮の上に針が生えてゆく。
穴を開けられるたび、赤れいむの表情は痛みに歪み、恐怖に引きつる。
どうして両親が助けてくれないのか、どうして自分はこんな目に遭っているのか。
理解できないせいで、理不尽に思える苦しみがのしかかり、それがさらに赤れいむを苦しめる。
もっとも、少女にとっては赤れいむがこのような目に遭うのは当然の結果、そして自業自得だ。
害獣が人間の領域に踏み込んだのならば、その制裁は加えなければならない――人間の義務として。
「ふふっ、ふふふふっ、あははははっ! みっともない声ね、さっきまでは偉そうにしてたくせに!」
「ゆびゃっ、ゆぎっ、いぢゃいぃぃっ! やめちぇにぇっ、びゃびゃあはちゃっちゃとどこかいっちぇにぇ!」
「……はぁぁ……どこまで愚かで、理解の足りない饅頭なのかしらね」
「ゆぴゃぁぁぁっっ!」
癇に障る赤れいむの言葉に呆れつつ、少女は突き立った針の一部を指先でパチンと弾いた。
その衝撃は、痛みとともに餡子の奥まで染み込み、赤れいむに悲鳴を叫ばせる。
そしておまけとばかりに二本の針で両目を貫き、二度と抜けぬほど深く埋め込んでから、少女はようやく赤れいむを解放した。
それも、無残な有り様になった赤れいむをまりさに見せつけるように、その眼前に叩きつけてだ。
――ベチィィィッッ!
「ゆぶぅぅぅっ、ゆびっ、ぴぇぇぇぇぇっっ!」
「ゆぐっ、ゆぐぐぐっ、ゆぶぅぅんっっ! ゆゆっ……ゆぅぅぅっ!?」
目の前に叩きつけられたわが子を案じ、慌てて駆け寄ったまりさが心配そうに頬擦りしようとするも――。
それを遮るようにれいむが飛びかかってまりさを弾き飛ばすと、そのまま口汚い罵声を浴びせる。
「なにちちおやづらじでるのぉぉぉっ!? おちびちゃんのききにうごがないなんて、ちちおやじっがくでしょおおおっっ!」
「ゆっ、ゆゆゆゆっっ! ゆゆゆゆっゆ、ゆゆゆゆぅぅぅっ!」
おそらくは、「れいむだってそうでしょぉぉっ!」とでも叫んで、似たような罵声を返しているのだろう。
すでに夫婦の愛情などないかのように罵り合う二匹は、針山になって転がり、涙を流す赤れいむなど見てはいなかった。
「うっわぁ……なによこいつら、ついに仲間割れとか……所詮は饅頭ってことよねぇ、最低だわ……ん?」
そんな浅ましく、醜い饅頭の姿に少女が軽く引いていると、その足元に跳ねて近づく影があった。
それは最初に少女に飛びかかり、手の甲で弾かれただけで泣いていた、惰弱で愚かな赤まりさだった。
「ゆっ、ゆっ、おにぇーしゃん! まりしゃはわりゅきゅにゃいよっ! わりゅいにょは、こいちゅりゃだよっ!」
「……はぁ?」
いきなりわけのわからないことをのたまう赤まりさの態度をいぶかしんでいると、さらに赤まりさは続ける。
「まりしゃはきゃわいきゅって、ちょっちぇもきゃしこい、しゃいこーにゆっきゅりしたゆっきゅりだきゃらにぇ!」
「……で、なにが言いたいわけ?」
そんな赤まりさの弁など、少女にとってはなんの意味もない。
少女の家に入った時点でゆっくりどもはすべて敵であり、食事を奪おうとした時点で悪なのだ。
それを理解しようともせず、自分のことを可愛いだの賢いだの、頭がおかしいとしか言いようがない。
(いや、むしろ頭がお菓子……じゃないっての、アホかあたしは……)
お菓子じゃなくて餡子でしょうが……いやいや、それも違うし。
などと、自分にツッコミを入れていると、目の前の赤まりさは自信たっぷりな表情で、偉そうに口を開いた。
「きょうきゃりゃまりしゃは、おにぇーしゃんのうちのこになりゅよ! だきゃらきゃわいがっちぇにぇ!」
「……………………」
「だきゃらあみゃあみゃ! あみゃあみゃ、いっぴゃい! もっちぇきちぇにぇ!」
もはやなんの感慨も――怒りどころか呆れも通り越し、少女は無表情のまま――。
「うざ……」
――ブスッ、ブツッ、ブスブスブスッッ!
「ゆぎっ、ゆぴっ、ゆぴゃぁぁぁっっ! なんぢぇっ、なんぢぇぇっっ! んぴゅっ、んぶぶぶっ…」
手早く針を突き立てて赤まりさの舌を床に繋ぎ止め、その状態で口を端っこからクルクルと縫い上げてゆく。
これ以上、もはや一秒たりとも、ゆっくりごときの戯言など聞いていたくはなかった。
「あーあー、もう黙れ」
もはや呻く声も出せぬように、舌と口の隙間さえも埋めるように糸でがんじがらめにし、赤まりさから言葉を奪う。
しかもそのまま舌を巻物のように巻き上げ、それさえも縫い上げて、固く身体に縫いつける。
ついでに両目玉にも針を食らわせ、口と目、両方の機能を完全に奪い取ってしまった。
「はぁぁ……これでいいっか」
少女の手から滑り落ちた赤まりさ、形こそはゆっくりのままだが、もはやそれはゆっくりではなかった。
瞳からは針の頭が突きだしており、そこにはなにも映していない。
口は開かぬようにしっかりと縫いつけられ、真ん中にはクルンと巻かれた舌が突きだして張りつき、ピクピクと震えている。
けれど、赤まりさがそんな有り様になっているというのに、両親と妹の反応は非常に冷たいものだった。
まるでゴミでも見るかのような目で惨めな赤まりさを見つめ、先ほどまでの諍いなど忘れたように、ゲタゲタと笑っている。
「ゆっゆっ、ばかなこといってるからそうなるんだよ! もうまりさは、れいむたちのあかちゃんじゃないよ!」
「ちょうだよっ! おお、おりょきゃおりょきゃ! きもいゆっくちは、どこきゃにいっちぇにぇ!」
「ゆふっ、ゆふふふふっ! ゆぶふっ、ゆふふっ!」
赤まりさが自分たちから離反し、少女の軍門に下ろうとした時点で、赤まりさは見捨てられたのだろう。
つい数分前まではあったはずの親子の情、姉妹の情も忘れてそんなことを叫ぶ三匹。
その姿を、少女は冷たく見下ろしていた。
「ほんっと……救いようのない愚か物ね、この饅頭共ときたら……」
網戸を破られ、家に入られ、食事を台無しにされ、床を汚され……しかも、その弁償さえさせられない。
怒りは多少なりと落ち着いたものの、その心に残るのはやるせなさだけだった。
「もういいわ、あんたらはそのまま……そうね、野垂れ死ねばいいわ」
「ゆっ、なにいってるの……ゆぅっ、ゆぅぅぅっ! なにずるのぉぉぉぉっ!」
いつまでもこんなところで遊んでいるわけにはいかない。
なにしろ床の掃除はまだだし、食事も作り直さなければならないのだ。
それに、こいつらへの制裁に使える痛んだ針は、もう一本しか残っていない。
そこで少女はその針に糸を通すと、一匹たりと逃さないように一箇所に集めた。
残った四匹に一匹の残骸を加え、それぞれに針を通し、糸を何重にも巻きつけて固くつなぎ合わせてゆく。
「ゆぎっ、ゆぎぃぃぃっっ! やめっ、やっ、やべろぉぉぉっっ! はなぜぇっ、ばばあぁぁっ!」
「ゆぐぶぶっ、ゆぶんっ! ゆぶぅぅっ!」
「いぢゃいっ、いぢゃいよぉぉっっ! おきゃーしゃんっ、おちょーしゃんんっっ!」
「…っ、っ…」
「うっさい、暴れないでじっとしてなさい……ったく、ここまでしても力の差を理解できないとか。
もしかしたらこいつらの頭の中って、餡子さえないんじゃないかしら……っと、完成ね」
少女の針によって、五匹分のゆっくりはすべて一繋ぎにされた。
その順は右から、死んだ赤まりさ・まりさ・赤まりさ・れいむ・赤れいむ、となっている。
それぞれは固く糸で繋がれ、床に足がついているのは親の二匹だけ。
つまり、移動するためにはまりさとれいむが息を合わせて跳ばなければならない、ということだ。
「あっははは、あんたたちにはお似合いの格好だわ。
ほら、もう用なんてないんだから、さっさと出て行きなさいよ!」
「ゆぐっ、ゆぅぅっ! やっ、やめてねっ、けらないでねっ! にんげんさんはやばんで、さいていだね!」
「いちゃいっ、やっ、やめちぇぇぇっ! びゃびゃあは、きえりょぉぉっっ!」
憎たらしい口を叩く二匹のれいむを特に強く蹴りつけながら、少女はガラス戸を開けて、そこから連ゆっくりを蹴り飛ばす。
ベチッと音を立てて草むらに落下した五……いや、四匹に向けて、少女は冷たく告げた。
「あぁ、そうそう。次に来たら、もっと痛い目に遭わせてから殺すわよ。
それがイヤなら、せいぜい森の奥で怯えながら、家族仲よく暮らすことね」
「ゆっ、ゆっ! いわれるまでもないよ! そのゆっくりぷれいすはばばあにゆずってやるから、かんしゃしてね!」
「びゃーかびゃーか! びゃびゃあはちゃっちゃとちね!」
「……やっぱり、殺しといたほうがいいかしらねぇ……」
少女が針を抜いて月明かりにかざすと、途端にゆっくりたちは表情を引きつらせ、慌てて跳ねながら逃げて行った。
「はぁ……やっといなくなってくれたわ、さっさと片付けないと……」
床掃除のための雑巾を取りに向かいながら、少女は深くて重い、大きなため息をもらすのだった――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから、数十分後――。
「ゆぅっ、ゆふぅぅ……ここまでくれば、もうだいじょうぶだよ! おちびちゃん!」
「ゆんっ、ゆぅぅんんっ! おきゃーしゃんっ、ありがちょうっっ!」
「ゆぶぅん、ゆんっ、ゆぶぶっ!」
少女から逃げ切ったことで安心したように、森へ向かう道の途中で、ゆっくりたちは口を開く。
けれど、れいむはこのままで終わらせるつもりなど、さらさらなかった。
森へ戻って仲間たちに伝え、あの少女に復讐し、ゆっくりぷれいすを取り戻さないといけないのだから。
(ゆふっ、ゆふふふっ! れいむにさからったことを、こうかいさせてやるからね!)
ほくそ笑むれいむだったが、そこで、もう一つやらなければならないことを思い出し、視線を隣に向ける。
そこにいるのは、まりさとれいむの間に挟まれ、心なしか嬉しそうに震えている赤まりさだ。
「まりさ! ゆっくりできないやつは、もりにもどるまえにつぶすよ!」
「ゆぶっ、ゆぶぅぅっ!」
そう、れいむの目的は、森の仲間たちに見つからぬよう、あの裏切った赤まりさを殺してしまうことだった。
ついでにそれも少女のせいにしてしまえば、自分たちは同情され、食料もわけてもらえるかもしれない。
そんな算段をしてまりさに叫びかけると、そちらも同様の考えだったようで、同意するように息を吐いている。
「よしっ、いくよ! せぇ、のぉぉっ!」
「ゆぶっ、ふぅぅんっ!」
二匹はタイミングを合わせて飛び跳ねると、互いの身体を押し付け合って、間の赤まりさを圧迫する。
まだまだ小さい赤ゆっくりの大きさでは、親の身体に押し潰されて耐えられるはずもない。
あっという間に赤まりさはぺしゃんこになり、道の上に餡子を散らすことになった。
「ゆふんっ! さ、おちびちゃん…これはあまあまだからね、たべてもいいよ……ゆっ、おちびちゃん?」
れいむはそう、反対側に結びつけられていた赤れいむに話しかけたのだが、返事がない。
おかしいと思ってそちらに視線を向け――れいむは絶句する。
「ゆっ……ゆゆゆゆゆぅぅぅっっ!? どっ、どうじでれいむのおちびぢゃんがいないのぉぉっっ!?」
いったいなにが起こったのか、たしかに一瞬前まではいたはずの赤れいむが、そこにいない。
よく周りを見回し、そこで見たものは――。
「ゆっ、ゆああぁぁぁぁっっ! な、なんでぇぇっっっ!?」
少女の家で見た赤まりさのように、バラバラになって地面に散らばる赤れいむの残骸だった。
その顔は痛みと恐怖に引きつり、親であるれいむとまりさを睨んでいるような、恐ろしい形相をしている。
そう、それは少女のくくりつけた糸によってなされた結果だった。
親二匹が共謀して中央の赤まりさを殺せば、その圧力に糸が引かれ、赤れいむが寸断されるように仕組んでいたのだ。
それに、赤まりさを潰しても二匹の身体が離れるないよう、まりさとれいむは直接糸で繋がれていた。
――よりにもよって、死んだ赤まりさの帽子と一緒に。
「うっ……うっ、うぞだぁぁぁぁっっ! れいむじゃないっ、れいむがわるいんじゃないっっ! おまえだぁぁっ!」
「ゆゆゆぅぅっ!? ゆぶっ、ゆぶぶんっ、ゆぶっ、ぶふぅぅっ!」
殺されたゆっくりの帽子やリボンには死臭がつきまとい、それを持つゆっくりは他のゆっくりから忌み嫌われる。
二匹の身体に深く食い込む糸で繋がれた赤まりさの帽子からも、その死臭は漂っているのだろう。
このまま森に帰っては、他のゆっくりのリンチに遭い、二匹は当然――死の制裁を受けることになる。
そのことが理解でき、もはや自分たちが死ななければ、帽子から逃げられないこともわかるのだろう。
ゆっくりたちに迫害される未来から目を背けるかのように、二匹はいつまでも、言い合いを続けていた――。
――周囲から近づいてくる、森のゆっくりたちの殺気を感じながら。
~~完~~
あとがき
久しぶりのゆっくりいじめSSです!
ちょっとゆっくりへのストレスがマッハになったので、勢いに任せていじめておきました。
読みにくかったらゴメンなさい!
作:あきほ
最終更新:2022年05月03日 23:17