「ゆーー!!」
 数匹のゆっくり達が、心底困った様子で男に相談を持ちかけてきた。
「ん~~なるほどね~~~」
 別にこの男が虐待おにーさんで、今まさに子か親かの選択をしているというわけではない。
 この男はゆっくりハンター、その中でも友釣りの名人である。
「むきゅ~~!! お茶をいれてきたよ!!」
「う。どーぞ」
 台所から現れたのは、この男の相棒とも言えるゆっくりパチュリーとゆっくりレミリャ。
「う! う! はいどーぞ!!」
 ご丁寧にストローを刺してゆっくり達に渡す様子は、とてもれみりゃ種には見えないが、ここは紅魔館から遠く離れた街。
 ゆっくりレミリャも、あの体たらく振りとは大いに違い、体は締まっていて始終癇に障る笑顔を浮かべてはいない、フランに次ぐ第二の頭脳と運動性能を備えている。
「ゆ!! ありがとーーね!!」
 対するこのゆっくり達も群れのリーダなだけあって頭が良い。
 つまり、今ここにいるのはそん所そこらのゆっくりより遥かに頭が良い集団なのだ。
 既に、ゆっくりと比べる事も間違っているのかもしれないが。
 それこそ、最近知能強化を図っているという研究室のゆっくり程度に。
「つまり、ゆっくりアリスの横暴にもう耐えられないと、そういうわけだね?」
「ゆ!! ちがうよ!! いちぶのわるいアリスたちだよ!!」
 少しムッとした表情で、アリスが訂正する。
「そうだったね。ともかく、アリスを何とかして欲しいんだね」
「うん!! このまえもとなりのぐるーぷでまりさかぞくたちがおそわれたり、ちがうぐるーぷのれいむが、あやまってひがいしゃをころしたりしてるの!!」
「そうなの!! だからアリスをなんとかしてほしいの!!」
「むきゅ~!! もちろんおれいはするの!!!」
 そういって、野生パチュリーは今までゆっくり魔理沙が大事に持ってきた風呂敷を開けさせた。
「!! これは」
「むっきゅ~~~!!」
「うーわーー!!」
 男達が驚くのも無理はない。
 そこに入っていたものは、大きな松茸だったのだから。
「しかも、こんなに……」
「これは、れいむたちのちくからとってきたの」
「マリサたちがにんげんにおねがいするときに、とってくるの」
「むきゅ~! にんげんたちはあぶなくてとれないからって、パチュリーたちにとらせてるの」
「そのくせ、もらえるたべものはほんのわずか。これだからいなかはいつまでもへいさてきなのよ……」
「その……なんだお前等も苦労してんだな」
 ゆっくりの世界もこのような構図が合ったのか、たじろぐ男が何か悟ったような口調で慰める。
「ゆ! それはいいの!! れいむたちだけでもじゅうぶんにしょくりょうはよういできるから」
「もんだいは……」
「アリス……か」
 ゆっくりアリス。
 年がら年中発情している個体は、ゆっくりを見つけては適当な理由をつけて交尾を強要してくる。
 交尾の最中の言葉が臭いのは、既に鬼畜ゲームが幻想郷入りしている所為か……。
 時たま集団で移動しながら一集団を壊滅させる事もあるが、こちらは大抵人の家に「勝手にルームメイト」をし、処分される。
 そして、発情こそ普通のゆっくりと同じだが都会派のプライドが一際強い固体もいる。
 この個体は、ゆっくりや人間と仲間になりたくてから周りするのだが、その際他のゆっくりを巻き込んで自滅する、ある意味厄介な個体だ。
 そして、数こそ極端に少ないが頭が良い個体が目の前のアリス。
 この個体に にとっては先の二個体の風評被害は相当なものだろう。
「確かに、俺たちも困ってる。あいつ等勝手にブリーダーのゆっくりを殺すって聞くし、ぎゃk……お仕置きするはずのゆっくりも殺したりするからな」
「むきゅ~~~!! 双方に被害が出てるね!!」
「うーー……」
 双方に被害、これは重大な事であった。
 通常、ゆっくり達は相当な事がないと仲間を攻撃しない。
 そのため、今ではゆっくりを外で放牧して天然モノの味に近づけさせているのだが、目を離すとアリスに全滅させられていた、何てこともあるのだ。
 その所為で、養殖餡子にも関らず価格が高騰する事もあり、結果として男が卸すゆっくりの値段も下がる。
「うーーん分かった。俺たちがアリスを何とかするから、お前達はアリスの場所を教えてくれ」
 それと、ある程度駆除できたら、あと少しこの松茸をくれ。
「ゆゆ!! わかったよ!! ありがとう!!」
 二本で紅魔館れみりゃ一体分の値段がつく松茸、男としても出来るだけ大量に手に入れたいようだ。
「「「「ゆっくりさようなら!! がんばって!!!」」」」
 今近くにいるアリスの情報を聞き出した後、レミリャを護衛にしてゆっくり達は帰路に着いた。
「……さて。パチュリー?」
「むきゅ? どうするかってこと?」
 この二人の付き合いは長い、既に阿吽の呼吸が完成しているのだ。
「そうだ。アリスは色々な人からも苦情が出ている。守矢神社の巫女だって不潔よ不潔ーっていっていたようだし……」
「むっきゅ~~!! 頭の悪いごーかんまは好き勝手にやってるから、生かしておく必要はないよ!!」
「その通りだ!! さすがパチュリーだ!! おれの考えが良く分かっている」
 盛り上がってきた二人は、レミリャが帰ってくるのを待って、作戦会議を始めた。
 次の日は釣りの日だった。
「うっう~~~♪ れみりゃのぷっでぃ~~んはとってもおいし~~どぉ~~~♪」
 何時ものように、レミリャは気持ちの悪い台詞を吐きつつ紅魔館かられみりゃ達を引率していく。
「うあ! わすれてたー!! んしょ! う~~~いっくどぉ~~~~~~♪」
「「「「「「う~~~~~~♪」」」」」
 れみりゃ達が飛び去った庭に、一冊の本だけが残された。
「れみりゃさま~~~~♪ ぷっでぃ~~んの御代わりを持ってきましたよ~~……って、居ないまたお出かけかしら? ……あら?」
 残された本を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
「やっぱりパチュリーさまの本だわ。あんな難しい本を読むなんて、れみりゃ様たちって博学なのね~~」
 何も知らない咲夜は、本と手持ちぶさなプリン達を小悪魔に渡すと、運動して帰ってくると信じているれみりゃの為に、ミルクセーキを作り始めたのだった。
 その頃、同様に何も知らなかったれみりゃ達は、仲良く加工場内に足を踏み入れていた。
「いだいーーー!!! ざぐやどごーー!!!!」
「こーーまがんのおじょーーざまの、れみりゃをなぐっちゃいけないんd……!!!」
「ぞれはれみりゃのおででーーー!! たべないでーーー!!!」
「ぷっでぃ~~んはどごなのーーー!!!」
 れみりゃの声を聞きながら、男は報酬を受け取っていた。
「いつも有難うございます。これは今回の代金です」
「……。今回はなかなか良い金額ですね。アリスが来なかったんですか?」
「ええ。今回は見回りの数を増やしたので……。しかし、自分達だけでは不足分のゆっくりを集めるのに精一杯で、駆除はとてもとても……」
 疲れきり、隈ができた職員の表情を眺めた男は、その苦労を実感する事ができた。
「それでしたら、自分達がアリスを駆除しますが」
 ここぞとばかりに、今回の計画を持ちかける男。
「本当ですか!! ぜひともお願いします!!」
 対する職員も、水を得た魚のように男の顔を凝視する。
「ええ。代金はどの位もらえますか?」
「ええと、取り合えず基本がこの位。暫く様子を見てから、更にこの位でどうでしょうか」
「……これで結構です。それでは、数日中に始めたいと思います」
「有難うございます」
 職員達の礼に見送られながらその場を後にする男。
 あくまでこれはビジネスなのだ。
 相当な金が舞い込んでくるビッグビジネス。
 だからこそ、男は少しは楽しもうと思案を巡らせていたのだ。
 視線の向こうには、先ほどレミリャが本を残していった紅魔館があった。
「むきゅーー!! ぱちゅりぃのごほんもっでがないでーーー!!!」
「はいはい此方ですよ~~♪ はい」
 男が思案していた頃、紅魔館の図書館では一人の女性が一匹の四肢有りゆっくりと戯れていた。
「むっきゅ~~~♪ これにこりたらもうにどとごほんをとらないことね♪」
「残念でした~~♪ たかいたかい~~イ♪」
「むっぎゅ~~♪ がえじでーーーー!!! ぱじゅりぃのごほん~~~♪」
「……なにあれ?」
 小悪魔が四肢の付いたゆっくりぱちゅりぃ相手に悪戯をしている様子を眺めていた、アリス・マーガトロイドが、パチュリー・ノーレッジに尋ねた。
「何って? ゆっくりぱちゅりぃよ」
 何か問題が? とでも言いたげなパチュリーを放っておき、今一度子悪魔達に顔を向ける。
「どうしたんですか~~♪ お手手を伸ばしてとってくださ~~い♪」
「むっぎゅーー!! がえじでーーーー!!! がえじでーーー!!!」
 ピョンピョンと、地上一ミリメートル程ジャンプしては息を荒げるぱちゅりぃをさも楽しそうに見つめる小悪魔。
「なんだかとっても楽しそうなんだけど、あの子貴方に何か不満でもあるんじゃないの?」
「まさか。私は、あんなに無様なことをした事は無いわ」
「……そう」
 むっでがないでーー!! と大泣きした事を、以前ボロボロの小悪魔から聞かされたことは黙っていよう、と一旦話を切り上げ紅茶を一口啜った。
「ぶっ!!!」
 咽た。
「やっぱりね……。 小悪魔、紅茶入れなおしてきて!!」
「早くとってくださいよ~~パチュリ~さま~♪ ……あっは~~い、分かりました~~♪」
「むぎゅーー!! やっごがえじでもらえるーーー!!」
 離れようとする小悪魔から、本を受け取ろうとワクワクして待っているぱちゅりぃだったが、その願いは聞き届けられなかった。
「……むぎゅーーー!!! なんでーーーー!!!」
「なに? あれ……」
 同じく目を見開いて驚愕するアリスの姿もそこにはあった。

 ――

「お~い♪ 帰ってきたぞ~~♪」
「「おかえりなさ~~い!!」」
 男を出迎えた二匹は、何時にも増して男の機嫌が良い事に気付いた。
「むきゅ? おに~~さん、良いことあったの?」
「ああ。今回は久々に高く売れたんだよ!! それにな!」
「う? それに?」
「アレの報酬も入る事になったんだ、これだけ有れば、家も西洋建築に建て直せるぞ!!」
「「すご~~い!!」」
「今日は前祝だ!! 飲んで歌うぞ!!」
 どさっと、袋一杯に入った食べ物を広げる。
 そこには、沢山のおつまみや飲み物、それに、二匹の大好物も入っていた。
「むきゅ!!」
「わーー!!」
「「プリンがたくさんはいってる!!!」」

 ――

 図書館では、アリスの机に高く積み上げられた本が右から左へ移動していた。
「それじゃあ。私はこれで帰るわ」
 そういうと、身なりを正して席を立つ。
「そう。泊まっていても良いのよ?」
「折角だけど、遠慮するわ。また今度誘ってもらえるかしら」
「分かったわ。それじゃあ小悪魔、玄関まで送ってあげて」
「は~い♪」
「むじゅーー……むじゅーーーおえ!! おえーーー!!! ぱじゅり~~のごほんがーーー!!!」
 大量の鶯餡を吐きながら、目の前の光景に泣き崩れるぱちゅりぃ。
 ここに連れてこられて、毎日同じ光景を味わっているのだ。
 ぱちゅりぃの持っていたフリーペパーを紙吹雪にした小悪魔が、凛とした態度でアリスを玄関まで送りとどける。
「むぎゅーーーー!!! おぇ!! うげーーーー……」
 ぱちゅりぃの部屋には、まだまだ沢山のフリーペーパーが残っている。
 全てなくなった時、ぱちゅりぃはどうなるのか誰も知らない。
 知っているのは、目の前を去っていく小悪魔だけだ。
「貴方のあれ、とっても参考になったわ」
「いえ、私なんかまだまだですよ」
 玄関までの道すがら、アリスは先ほど見たあれの事感想を小悪魔に話し出した。
 小悪魔も、先ほどの嬉々とした表情は何処かしこで、相槌を打っている。
「また、見させて貰っても良いかしら?」
「ええ。どうぞお好きなときに」
「ふふ。その時は事前に人形で連絡させて貰うわ」
 他愛のない話をしている内に、目的地である玄関までやってきた。
「それじゃあ、パチュリーに宜しくね」
「はい。……あ、そうだアリスさん」
「ん? 何?」
「あのですね…………」
 玄関前で数分、アリスは小悪魔の話に耳を傾ける。
「……そうなの。ふーん。面白いことを聞いたわ。有難うね小悪魔……」
「いえ」
「それじゃあね。……そう、ふふふ、そうなの……へぇ……」
 ブツクサと何かを呟きながら、アリスは自分の家がある森へと飛んで行った。
「さてと、戻って紅茶でも……」
「今日は! 薬を持って着ました」
 一度屋内へ向けた足を戻す。
 そこに居たのは、永遠亭の月兎。
 鈴仙・U・因幡。
 街に薬を売りにくる時に、度々ここにも訪れる。
「あ。わざわざすみません、受け取りますよ」
「いえいえ。えーと、まずこれが湿布薬にボルタレンテープ。そして風邪薬に栄養剤。それでこれが咲夜さんから頼まれていた薬です」
「中身はなんですか?」
「利尿剤と睡眠薬です」
「そうですか♪」
 中身の事になんら反応を示さずに、テキパキと大量の薬の受け渡しをする二人。
 鈴仙は小悪魔が目を盗んで咲夜の薬を少しくすねた事には気付いていない様だが。
「と、これで全部です。御代は後ほど持ってきてください」
「分かりました。ご苦労様です」
「いいえ。仕事ですから」
「ですが、大変ですよね? 毎日街まで行くというは」
「最初の頃は大変でしたけど、今は全然。それにストレスの発散法も見つけましたから」
「はぁ。……どんな方法ですか?」
「口うるさい害虫駆除です」
「それなら、こんな話があるんですけど」
「!?」
 それまで、テキパキと片付けていた鈴仙の手がぴたりと止まった。
「どんな話なんですか?」
 見るものを狂気へ誘うその瞳をカッと見開き、小悪魔に尋ねる。
「あのですね…………」
 その目をしっかりと見つめて、小悪魔は話をし始めた。
 それを聞いた鈴仙は、嬉々とした表情で永遠亭へ戻っていった。
 翌日は快晴。
 雲ひとつない青空の下、ある屋敷の庭でゆっくりが叫んでいた。
「ゆーーー!!! おねーーさんはゆっくりできないひとだったんだね!!」
「こんなにかわいいまりさとれいむのあかちゃんなのに!!!!」
 目の前で一匹の赤ちゃん霊夢の亡骸を見つめながら、魔理沙と霊夢の夫婦の暴言をじっと聞き続ける少女がいた。
「ゆ!! だまってないでなんとかいってね!!」
「ないてあやまったって、あかちゃんはもどってこないんだよ!!」
「「「「おねーーしゃんをかえちてね!!!」」」」
「…………」
 少女は笑っていた。
 それも、とてもとても楽しそうに。
「あれ? どうしてそんなこというの?」
「「ゆ!!?」」
 少女が顔を上げた事で、二匹の親は始めて以上に気が付いた。
「始めたらゆっくりを潰そうと思って誘ったの♪ だから、何でそんな事いうの?」
「ゆゆゆ!!」
「あわわ!!」
 二匹は気付いた。
 このままここにいたら殺される。
 早く逃げなくちゃ……。
「ゆーー!! おねーーしゃんがなにをいってりゅのか、わかりゃないよ!!!」
「ゆっきゅりまりしゃたちにあやまっちぇね!!!」
「「「「ゆっきゅりあやまっちぇね!!!!」」」」
 しかし、生まれて間もない赤ちゃん達にそんな事が分かるはずもなく、現に数匹の赤ちゃん達が少女の所へ向かっていった。
「「ゆゆ!! だめだよ!! にげt」」
「ぶじゃ!!」
「ゆじゅ!!!」
「ぎゃ!!」
 全て良い終える前に、玄翁で叩き潰される赤ちゃん。
 先ほど同様、奇怪なオブジェに成り果てた。
「あああ!!! れいむのかわいいあがじゃんがーーー!!!」
「どーーじでーーー!!! なんでーーー!!」
「ゆーーー!!!」
 漸く本格的に騒がしくなってきた事を確認すると、両親に近づき玄翁を振り下ろす少女。
「ゆぶ!!」
「あが!!!」
 傷は体を貫通させていたが、打ちどころが良かったので死亡へは至らない。
「「ゆが!!!」」 
 その傷に、杭を差し込んで地面に固定した。
 後に、両親の目の前で子供達を一匹ずつ潰していく。
「ゆーー!! おかーーしゃんーーたすげてーーー!!」
「お母さん達は助けたくないんだって、だからあそこから動かないの」
「じょんなーーーー!! ゆぶ!!!」
「あーあー。せっかく赤ちゃんが助けてって言っていたのに……」
 これ見よがしに両親に語りかける少女、既に片手には新しい赤ちゃん魔理沙を掴んでいる。
「ゆ!! だっで!! うごけないんだよ!!!」
「これがなければすぐにたすけるよ!!!」
 両親の苦痛の訴え、しかし少女は手に持っていた魔理沙、そして残された赤ちゃん達にゆっくりとした口調で説明して言った。
「だって皆。おかーさん達は、自分達が痛くなるのが嫌だから、適当な理由を言って助けないんだって」
「ゆ!! ぞんなごといっでn「ひどいよおかーーしゃん!!!」」
「まりしゃたちをたすけてくれないの!!」
「しょんなにょおかーーしゃんじゃないよ!!!」
「ふたりともゆっくりしんでにぇ!!!!」
 二匹の訴えは赤ちゃん達の罵声にかき消された。
 涙目で訴える二匹の両親に浴びせられ続ける罵声。
「ぶじゅ!!!」
 一匹の赤ちゃん魔理沙が潰された事で、漸くその罵声が止んだ。
「心配しなくても大丈夫」
 少女が、
「貴方達が死ぬのは、散々罵倒されながら目の前で死んでいく赤ちゃん達の後だから」
 まばゆい笑顔で言葉を紡いだ。
 全てをオブジェに変えた後、少女は座敷の中へと入っていった。
「すいません。お待たせして」
「いえいえ、急にお邪魔したのは此方ですから」
 立派な佇まいの稗田家、その一室に向かい合うのは野暮用の小悪魔と先ほどゆっくりを苛めていた少女、稗田家現当主の稗田阿求その人。
「それで、今回もゆっくりについての本の閲覧ですか?」
「いえ、今回はとても面白いお話を持ってきたんです」
「面白い話?」
「ええ。先ほどのことよりもっと面白い事です」
 静かなその一室で、阿求の鼓動だけが早くなる。
 アレよりももっと楽しい事ができる、それだけで心臓が高鳴るのだ。
「どうすれば良いんですか?!!」
「それはですね。数日後の事なんですが……」
 テーブルに手を着いた衝撃で、少しお茶が零れたが、優雅に一口、口に含み小悪魔は説明を始めた。

 ――

「よしよし。それじゃあ、お前達は俺と一緒に行動するぞ」
「むきゅ!! いつもと同じだね!!」
「う? でもさんにんだけで?」
 幾らなんでも三人でヤルには時間がかかりすぎる。
 当然男もその事は理解している。
「いや、大丈夫。もう一人、凄い人も手伝ってくれるから」
「それなら安心ね」
「う! わかった」
「よし、今日はもう寝るとするか」
「「おにーーさん!! おやすみなさい!!」」
 二匹と分かれて、自分の寝床に入った男。
 この男は未だ理解していなかった。
 協力者は一人ではない。
 ましてや、今までもその協力者からの連絡は一度も無い事を。

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最終更新:2022年05月04日 22:22