[甘い話には裏がある] 

1.ドスまりさに出てもらいました
2.人間は直接手を下しません
3.制裁でも、虐待でもないと思います
4.行間を読まないとすっきりできないかもしれません


 それでもよろしければ、読んでください。




 ドスまりさはゆっくりしていた。
 ここには、餌となる植物や昆虫が豊富で水場も近い。野生の動物も少なく、捕食されることもさほど多くない。
 群れはどんどん大きくなり、みなゆっくりしていた。
 ここに移って良かった……ドスまりさはつくづくそう思っていた。

 前の場所ではゆっくり出来なかった。「条約」のお陰で人間が来ることは無かったが、ほかの動物はそう ではない。野生のオオカミ、トラといった大型の捕食種からタカやワシのような猛禽類などから、野良イヌやタヌキ、キツネ、れみりぁ、ふらんに至るまで被害は耐えなかった。
 そのため、群れのゆっくりは常に出産し続けることで群れを維持するしかなかった。その結果、成体のほぼ半分は食料集めに出ることが出来ず、食料は常に不足していた。行動範囲が必然的に狭くなるゆえ、植物や昆虫の再生スピードを遥かに超える勢いで自然は削られていった。

 もうここではゆっくりできない。もはや緑の山が茶色になりかかってからようやく、決断したドスまりさと側近達は移住を開始することにした。時は既に常緑の夏を超え、収穫の秋を迎えていたことが決断を支えたといっても良い。若菜を食い尽くしたこの場所では冬に備えて餌を探すこともままならない。ならば、新たな場所で探すしかないのだ。
 新たな場所までたった3里の道のりであったが、生まれた山から出たことが無いゆっくりたちには過酷なものであった。道中で一体何匹のゆっくりが動物に襲われ、何匹のゆっくりが餓死していったか。
 半生半死で群れが新しい山に着いたときは群れのゆっくりは既に当初の3割程度にまで激減していた。
 「ゆゆっ、ここをまりさたちのゆっくりプレイスにするよっ!!」
 「ゆっくりりかいしたよ!」


 ドスまりさは疑うべきだった。餌場が豊富で捕食者が少ない山……ならば、なぜそこにはどこにでもいるはずのゆっくりたちが住んでいない?
 野生に生きる動物はいくら警戒をしてもし足りることはない。ドスまりさの迂闊な判断は後に大きな後悔を伴って跳ね返ってくることになった。


「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
ある日、群れのいる山に一人の男と一匹のゆっくりれいむが入ってきた。


「ゆゆっ? おじさんたちだれなんだぜ? ゆっくりできるできるだぜ?」
見慣れぬお兄さんを見つけたゆっくりまりさが頬に空気を溜めて威嚇しながら話しかける。

「ああ、ゆっくりできる人だよ。」
「れいむはゆっくりできるゆっくりだよ」
「……………きれいなんだぜ」

ズキュゥゥゥゥゥン!!
まりさはれいむのあまりの美ゆっくりっぷりに目を奪われていた。
なんというゆっくり。髪は漆黒と言う文字が思い浮かぶほど黒々として艶があり、リボンは染み一つなくたおやかな紅白に彩られていた。極めつけはまるまるとした球体の顔のもちもちとした感触。
親愛のすりすりをしたまりさには分かってしまった。このゆっくりは百匹、いや千匹に一匹の美ゆっくりだ…一緒にすっきりー!!したい。一緒にゆっくりした子供を育てたい。まりさとの子供はきっと群れで一番ゆっくり出来る子供になるはずだ。


「ところで、まりさ。君達の群れの一番ゆっくり出来るゆっくりに会わわせてもらえないかな?」
「ゆっくり会わせてね!」

「ゆっくりりかいしたぜ。ついてきてだぜ!」

 人間はゆっくり出来ない。れいむとお近づきになりたい今のまりさに冷静な判断を求めるのは酷なものだ。あっさりと承諾してドスまりさのところへ連れて行った。



 「はじめまして、ドスまりさ。ゆっくりしていってね。」
 「どすまりさ、ゆっくくりしていってね!!」
 「ゆゆ? おじさん、こんにちわ!れいむもゆっくりしていってね!!」
 なんでまりさの姿が見えるんだろう?ドスまりさは不思議に思った。 山を降りて「条約」を結びに行くときは意識して見えるようにしているが、通常ドスまりさは害意あるものには見えない。そして、山に来る人間は皆ゆっくりをゆっくり出来なくさせるために様々なことをしてきた。だからこそ、ドスまりさは「条約」を結んだのであり、山に来る人間でドスまりさを見ることが出来た人間などいなかった。
  ……ということは、この人間には、害意は、ない。そして、連れのれいむもとても美ゆっくりだ。おそらく人間がかなりゆっくりさせた結果に違いない。ならば、群れが危険になることはないだろう。
 ドスまりさはそう判断してこの不可思議な人間と会話を続けることにした。その判断は正しかったはずだ。確かに結論からいえば、その男に「害意」など無かったのだから。

 「君達は最近ここに引っ越してきたゆっくりかな?」
 「ゆ? そうだけど、なんで? 」
 質問の意図が分からないドスまりさ。


 「いやね、新しい群れが来たんだったらお祝いに“とっても”甘いものをあげようと思ったんでね。すっごくおいしいと思うよ。“もう野生の餌じゃあ満足できなくなるくらいにね”。それで“かっている”れいむと一緒に来たんだ…食べるかな?」
 「ゆゆ!あまあま!まりさあまあまほしいよ!!」
 「あまいのようだいね!れいむにゆっくりちょうだいね」
 「ゆっくりまってるよ!」
 周りのゆっくり達はざわめきだした。まぁ当然の結果だろう。それだけ煽られたら期待も青天井だ。
 ドスまりさはというと、悩んでいた。そういって、騙していく人間は数知れない。本当に信用していいのだろうか?

 「ああ、成る程ね。僕を信用していないわけか。当然だろうね。“知らない人から食べ物をもらっちゃだめ”だよね。」
 ドスまりさの心を見抜いてか、全く気にすることなく男は続けた。
 「ならば、こうしよう。もし不安があるなら、先に僕のれいむに毒見をさせても良い。食べるか食べないかは君達が勝手に決めればいいさ」

 「ゆゆっ!そんなのだめだぜ!れいむをきけんなめにあわせるわけにはいかないんだぜ!まりさがためすんだぜ!」
 先ほど案内してくれたまりさだった。れいむの身を案じてのこともあるだろうが、おそらくはれいむにかっこいいところを見せたいんだろう。

 「ゆ~」
 ドスまりさは悩んでいた。そこまで言うのなら大丈夫だろう。いやまて、念には念を入れなくては。

「ゆっくり理解したよ。おじさんは食べ物を置いて帰ってね!安全なものだったら次に来たときに歓迎するよ。ゆっくり納得してね!」
 なるほど、上手いものだ。

 ドスまりさはこう考えていた。自分が見えることとれいむの美ゆっくりっぷりから男は危険はないように見える。しかし、油断は出来ない。どうすれば、この男の本心を探れるのだろうか。……男は食べ物をくれると言った。唐辛子や眠らせるものだったら群れが一網打尽になってしまう。しかし、きちんとした食べ物をくれるのならば、友好的な関係を築いていけるかもしれない。何より、冬が近いのにここに引っ越してきたばかりだ。今は餌が豊富にあるとはいえ、未知の場所で餌を安定して調達できるかどうかは分からない。冬は寒いから凍死するゆっくりも出てくるかもしれない。熊やほかの動物に発見されないように巣をカモフラージュする必要もある。
 人間には知恵もあるし、食べ物も防寒具も豊富だ。上手くいけば越冬の協力が期待できる。

 悩んだ末に、ドスまりさが考えたのはこうだ。食べ物をもらって、人間には帰ってもらい、先ほどのまりさに毒見をさせる。こうすれば、人間に急襲されて群れが壊滅させられることもない。
 れいむに毒見をさせないのは、れいむが人間側にいるからだ。仮に効果が現れるのが遅い毒だった場合、ドスまりさには確認が出来ない。……それにきれいなれいむに危険な真似はさせたくない。(ポッ)
 まりさに毒見をさせれば、じっくり観察が出来る。どうせあのまりさは「条約」を守らずに人里に入る愚か者だ。同属殺しは禁忌なので出来ないが、早かれ遅かれ群れを危険に晒すことになってしまう。ならば、ここで死んでもらっても大して困ることはない。


 そう、ドスまりさは賢かった。群れの頭首を務めるには充分すぎるほどに賢かった。だから、彼女を責めることは出来ない。
 だが、ドスまりさは思いつかなかった。人間が、しかも単独で、わざわざ危険を犯してまで山に入ってゆっくりを愛でるなどということの異常さを。

 甘い話には裏があるのだ。



 「いいだろう。僕たちは食べ物を置いていったらすぐに立ち去る。そうだな…一週間後、君達に分かりやすい言葉で言えば日が七回昇ったらまたここに来る。害があったんなら僕等を攻撃するなり好きにすればいいさ。食べ物はみんなで分けて楽しんでくれたまえ。」
 男はそう言って、荷物の中から大きなビンを一つ取り出した。駄菓子屋でよく使われているアレをイメージすればよい。瓶は透明で、中は白銀色をしていた。
 男はドスまりさに瓶の開け方を教えてかられいむと一緒に帰ることにした。









 「クカカカカカ……哀れだ、実に哀れだ。人間を信じるなど…あのでかい饅頭が賢いだけに同情を禁じえないよ。」
 「うまくいったね!おじさん!だかられいむに“ごほうび”ちょうだいね!!」
 「クカカカカカ……いいだろう、うちに帰ったら“ごほうび”をやろう。確かに、お前の功績は大きい。」
 「ゆっくりしていってね!!」
 帰り道、男はずっと冷笑をたたえていた。

 男があげた食べ物に害などない。人間が食べても、ゆっくりが食べても。そう、害など一切なかったのだ。




 ドスまりさは教えられたとおりに蓋を開け、中身をまりさに毒見せた。
 「ぺーろ、ぺーろ……………!!!!!!!!!!」
 「ど、どしたの?ゆっくり説明してね!」

 まりさのただならぬ様子に気づいたドスまりさが訊ねた。やっぱり毒だったのか、ドスまりさの頭にそんな疑問がよぎった。


 「う~~ま~~い~~!!うっは、うっめ、これめっちゃうっめ!うっめ、まじうめやべこれうっめ!すごくゆっくりできるんだぜ!あっま、これあっま!」
 どうやら、おいしかったらしい。それもとんでもなく。脳天を突き抜けるような甘さ、とにかく甘い。並の人間なら1掬いでもう飽きる甘さだ。
 しかし、ゆっくり達は餡子でできている。彼女たちにとっては甘ければ甘いほどいい。
 まりさはこんなに甘いものを食べたことはなかった。甘いものには目がないゆっくりが、あまりの甘さに一瞬意識が飛んだくらいだ。
 「とはいはのありすにもたべさせてね!」
 「れいむもたべたいよ~」
 「ゆっくりたべさせてね!」
 そんなまりさの様子を見てほかのゆっくりが黙っているわけがない。思い思いに瓶に口を突っ込もうとした。

 「ゆっくりまってね!!」
 ドスまりさが体を震わせて大声を上げる。
 「むきゅ、毒かもしれないから、明日まで様子を見てね。今日はゆっくり我慢してね!今食べたらゆっくりできないよ!」
 側近のぱちゅりーも止める。

 ゆっくり達は不満たらたらだったが、ドスまりさに言われてしぶしぶ抑えていた。
 この群れはドスまりさとぱちゅりーのおかげで何度も危険を脱したし、危険な食べ物で死ぬこともなかった。それに、明日になれば食べられる。若干うるさく文句を言っていたゆっくりもいたが、周囲がそれを許さなかった。
 そんなことを理解できたこの群れはとても統率が取れていると言えるだろう。前の場所で餌を取り尽くしたのも春に生まれ過ぎた子供のせいであった。そのときとは違い、今の場所では割と余裕がある生活をしていることも関係しているのかもしれない。

 「うっめ、これめっちゃうっめ!」
 まりさだけがむさぼり続けていた。


 明くる日、ドスまりさはまりさの様子を見た。ぴんぴんしている。何の問題もない。いや、むしろ体の艶やもちもち感が比べ物にならないほど良くなっている。
 “害はない。”そう判断したドスまりさを誰が責められようか。
 ドスまりさは群れの皆に食べることを許可した。

 「ぺーろ、ぺーろ、しあわせー♪」
 「うめっ!めっちゃうめ!」
 「うっめ、これめっちゃうっめ!」
 「あまあま~!!」
 群れのゆっくり達は満足していた。ドスまりさもみんながゆっくりしていて嬉しいようだ。
 葉っぱに瓶の中身を取り分けて群れのみんなに均等に渡していた。みんながゆっくり出来るなら自分達も嬉しい。ドスまりさと側近は自分達はほとんど食べずにそれを分けた。
 だから、気付けたのかも知れない。異変に。





 おかしい。ドスまりさはいぶしがった。
 このところ、群れのゆっくりたちから献上された餌の数が減っている気がする。
 管理しているぱちゅりーに確かめても同じ答えだ。
 餌が集まらないのか?いや、群れの誰もがつやつやもちもちとしてる。
 ならば、餌を隠匿している?いや、バラバラに5組のゆっくりに確かめて見てもそんな様子はなかった。最初にアレを食べたまりさならともかく、自分が尋問したゆっくりは群れの中でもかなりゆっくりしたゆっくりだ。全員が嘘をついているなど考えにくい。第一、普通のゆっくりの嘘など自分なら一発で分かる。
 どういうことだろう……ドスまりさは悩んだ。



 一週間後、男とれいむは約束どおりに来た。
 「ゆっくりしていってね!」
 「おじさん、あれちょうだい!あまあまちょうだい!」
 「おじさんはゆっくりできるひとだね!」
 前回とはうって変わって熱烈歓迎だ。男は苦笑した。

 「おじさん、食べ物ありがとう!とってもゆっくりしたよ!」
 ドスまりさも今回は警戒を解いているようだ。
 「どういたしまして、気に入って戴けて何よりだよ。じゃあ僕とれいむはあちらで遊んでるから、一緒に遊びたいなら来てね。」
 そう言って、男はドスまりさの目が届かない場所へ行った。

 付いて行きたくないゆっくりなどいるだろうか?何しろ、男は害を加える心配がなく、とってもおいしいものをただでくれた。れいむはとっても美ゆっくりだ。
 男とれいむにお近づきになりたいゆっくりなどごまんといる。無論、夫婦のゆっくりもだ。


 ある程度、群れから離れた切り株に男が座っていると、群れのゆっくりたちがわらわらと集まってきた。
 ドスまりさとその側近達が来ていないのは彼女達に仕事が残っているからだ。それ以外のゆっくり達はほとんどが集まってきた。

  「ゆっくりしていってね!」
 「おじさん、あれちょうだい!あまあまちょうだい!」
 「れ、れいむ!ま、まりさとゆっくりするんだぜ!」

 男が群れのゆっくりといた一時間あまりの時間、発言の9割はこの類だった。
 去り際に男は言った。
 「ごめんね、今日は甘いのは持ってきてないんだ。それに、アレは高いからあげるわけには行かないなぁ~。交換でならいいよ。君達もやってるでしょ?」

 「うるさいんだぜ!おじさんはさっさとまりさたちにあまあまをよこすんだぜ!」
 「ゆゆっ!ひとものもとろうなんて、まりさはゆっくりできないゆっくりだね!!まりさなんてきらいだよ!」
 「どぼじでぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ー!!でいぶごべん!!! ごべんよ゛お゛……ゆっくりゆるしてほしんだぜ、だぜ?」

 強欲なゆっくりもれいむの一喝でおとなしくなる。れいむに嫌われたくない……そんな一心で納得はしていないものの、前言を撤回するしかない。ちなみに今のまりさはありすと番である。

 「さて、僕が欲しいのは山菜とかきのことか、山で取れる食べ物だ。あと、人間が育てた食べ物はだめだよ。僕には分かるから、人里のを盗んできても交換しないよ?わかったかい。」
 「ゆっくりりかいしたよ!」
 「うん、分かってくれて嬉しいよ。僕はこの道をずっとまっすぐ行った家にいる。人間の家で最初に見つかるのがそれだから来るといい。」
 「ゆゆ?おじさんとれいむはまたくるのになんでいくんだぜ?ばかなの?しぬの?」
 「僕達も冬の準備をしなければならないからね。次に来るのがいつだか分からないんだよ。」
 「おじさんはふゆのじゅんびもできないぐずなんだぜ。ゆっくりりかいしたぜ。」
 「おじさんはいなかものね!」
 「わーくほりっくなんだね、わかるよー。」多分それは違う。 


 「はは、まぁそんなところだ。じゃ僕たちはかえるよ。ゆっくりしていってね!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 主にれいむが惜しまれつつ、おじさんたちは帰っていった。



 「クカカカカカ……愉快だ、実に愉快だ。自分の実力を弁えずに弱者が強気に出るなど…奴等はくるな、間違いなく。」
 「うまくいったね!おじさん!だかられいむに“ごほうび”ちょうだいね!!」
 「クカカカカ……いいだろう、うちに帰ったら“ごほうび”をやろう。あの身の程知らずのまりさを黙らせた、お前の功績は大きい。」
 「ゆっくりしていってね!!」
 帰り道、男はずっと嘲笑を浮かべていた。

 男は虐待するつもりなどない。ゲスなゆっくりも、善良なゆっくりも。そう、虐待するつもりなど一切ないのだ。




 あとがき
 ご迷惑をおかけしました。
 読んですっきり出来なかった人は……うp主の実力不足です。


 ドスまりさが賢いってのは、野生の動物にしてはって言いたかったんだ。ごめん
 天敵を合意で避ける、季節に関係なく餌食べつくす前にきっちり移動するって野牛とかよりすげ~とか思ってた。


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最終更新:2022年05月18日 21:51