ゲス登場

元ネタあり




子ゆっくりを引き連れ人里までやってきたゆっくりれいむ。
人目も憚ることなく、大きな声で子ゆっくりへ言い付けている。
「おちびちゃん、ままのいったことはおぼえているよね?」
「うん!はたけのおやしゃいしゃんをたべちゃだめらよ!」
「にんげんしゃんのおうちにはいっちゃいけまちぇん!」
「にんげんしゃんにおねだりするのもいけにゃいよ!」

このゆっくり達の所属する群れにはドスまりさが居り、里の人間達と上手くやって行く為に、色々な約束事が取り決められていた。
そのうちの一つが野菜を盗み食いするゆっくりは潰されても文句は言えないというものだ。
しっかりとそのことを子ゆっくりに教えておけば、人間の里は安全な餌場だった。
又、人の良い者が余り物を恵んでやったりする事もあるので、それが目当てであるという面もあったが。
なにはともあれ、人里へやってくるゆっくりはそれほど珍しい存在ではなかった。

「ゆっくりよくできました!それじゃあ、じゆうにゆっくりしてもいいよ!」
人間の里は初めてではなかったので、子供達には自由に行動させることにしたようだ。
子供たちは言いつけをしっかりと胸に留めておきながら、思い思いに草花や虫を口にしていった。
そんな時、一匹の子ゆっくりが好奇心から畑に近付いたときだった。
「このおはなしゃんをみちぇよ!とってみょゆっきゅりしちぇいるよ!」
畑の側に生えていた、数本の花々をとてもゆっくり出来ると評し、他のゆっくりを呼び寄せたのだ。
「こりぇはたべちゃいけにゃいおはなしゃんじゃにゃいよね?」
「ゆっきゅりいたたきまちゅをしようにぇ!」
「「「ゆっきゅりいただきましゅ!!!」」」
子ゆっくり達は奇麗な花に心奪われ、その食欲を満たさんと花にかぶりつきだした。
「むーちゃむーちゃ、ちあわせー♪」
「こりぇはとってもゆっくりしちぇるね♪」
むーしゃむーしゃと舌鼓を打っていたが、その花の生えていた場所がいけなかった。

「このくそ饅頭がぁ!なにしてやがる!」
遠方から鋤を持った農夫と思われる一人の男が砂煙を巻き上げながら、子ゆっくりの元へやってきたのだ。
「にゅううううううう!?」
すさまじい剣幕でやってきた人間に気圧されたのか、逃げる事も、弁明する事も出来ない子ゆっくりはその場に立ち竦んでしまった。
「おらっ!」
「にゅべっ!?」
男の持っていた鋤が振り下ろされると、一匹の子ゆっくりの命を奪った。
「にゅわあああああ!?いもうちょがああああ!?」
「にゃんでこんにゃひどいこちょするにょおおお!?」
何も悪い事をしていないと思っている子ゆっくり達は、目の前の惨劇に恐怖しつつも抗議している。
「うるせえ!あの世でしっかり悔い改めろ!」
「にゅぎょ!」
「ゆぴゃあああ!?」
言いながら振りかぶった右手は再び大地へ向かって振り下ろされ、また一つ子ゆっくりの命を奪った。
「みょうやだぁ!おうちきゃえる!」
姉妹二匹が無残にも潰されることで、やっと逃げ出す決断が出来た子ゆっくり。
しかし子ゆっくりの足では人間に叶うはずも無く、あっという間に射程県内に捉えられた。
「逃がすかぁ!」
最後の一仕事を終えんと鋤を振り上げながら子ゆっくりヘと向かって行ったその刹那。
「ゆっくりやめて!」
草陰から一匹のゆっくりが飛び出し、男の太ももへ体当たりをかましたのだ。
不意を疲れた一撃に男は体制を崩し、尻餅をついてしまった。
「おちびちゃんはおうちにもどってね!」
親れいむは子供にそう促すと、男が起き上がるのをじっと待っていた。
人間の怖さを知っているからこそ、その身を張ってでも我が子を、群れを守ろうとしたのである。
「いってぇ…てめえがあの糞玉の親か!」
「どうしておちびちゃんをいじめたのおお!?」
「俺の畑の野菜を食ってたんだ!殺して文句を言われる筋合いはねえよ!」
「れいむはおちびちゃんにそんなことさせないよ!」
「それじゃあ俺の畑でむーしゃむーしゃしてたのはどういう事だ!?」
「それは…なにかのまちがいだよ!ゆっくりしんじてね!」
「それじゃあこの野菜は…あれ…なんとも…ねえな…」
「だからいったでしょおおお!?」
「…そもそもだな!おまえのチビどもがこんな所でむーしゃむーしゃしているのがいけなかったんだよ!」
「ゆっ、ゆわああああぁぁん!れいむのおちびちゃんがあああああ!?」
「ああぁ、くそっ!どうしてこう面倒くさいことに…」
自分のしでかした失態に、居た堪れなくなった男は泣き喚くれいむをそのままに、里の長の元へと歩いていった。

一方命からがら逃げ出した子れいむは、無事に群れまで辿り着き、ドスまりさへ事の次第を報告していた。
「おはなしゃんをたべてちゃら…にんげんさんが…おきゃあしゃん…いみょうちょが…ゆわああああん!」
「ゆうう…もしかしておやさいをたべちゃったの?」
「れいみゅはそんなこちょしないもん!おやさいはたべちゃだめだって、しっちぇるよ!」
「ゆう、これはにんげんさんにもはなしをきかないといけないね!」
子ゆっくりの話だけでは埒が明かないと、直接もう一人の当事者へ話を聞くために人里へと降りていった。

ドスが数匹のゆっくりを引き連れながら里へ向かうと、広場では長を含めた数人が集まっていた。
「おお、やはり来たか」
「おちびちゃんをゆっくりさせなかったのはだれ?」
ドスまりさは、その体を膨らませ、大きい体を見せて威圧する。
仲間を引き連れていることもあってか、ずいぶん強気な態度で臨んでいる。
「まあまあ、そう怒りなさんな。こっちの言い分も聞いてくれ」
「…ゆっくりきくよ」
訝しげな表情をしながらその身を縮める。
「つまり、おちびちゃんがおやさいさんのそばで、おはなさんをむーしゃむーしゃしていたから、かんちがいしちゃったのね?」
「そうだよ!おちびちゃんはわるいことしてないんだよ!わるいのはにんげんさんだよ!」
殺された子ゆっくりの母れいむも、人間が非を認めてくれた事に少し安堵したが、それでも子を失った悲しみは拭えなかった。
「…侘びと言っては何だが、野菜をあげるからここは一つ、丸く治めてくれないか?」
長が合図をすると、里の者が引いてきた大八車には幾ばくかの野菜が積まれていた。
どすまりさは少し考えた後、
「ゆっくりわかったよ、おやさいさんはもらっていくね!」
笑顔で帽子に野菜を詰め込み、そそくさと森へと帰っていってしまった。
「おちびちゃんは…おちびちゃんは…」



ドスが去った里では、長と村の男集で話し合いが行われた。
「おまえも早とちりな行動は慎んでくれたまえ」
「でもよお…暫くおっかあの面倒見なくちゃいけなくてよ…畑に出るのも久しぶりだったもんで…」
「分かっている、だからこそ、少し考えた行動をして欲しいんだ」
「…すいません。それに、皆も、迷惑かけちまって…」
「気にすんな、困った時はお互い様って奴だ」



群れに帰るゆっくりの一団は、野菜を貰えた事に喜びを隠せなかった。
正に棚から牡丹餅である。
「ゆゆ~ん♪おやさいさんいっぱいもらえてよかったね!」
「…おやさいさんはもらえても、おちびちゃんはかえってこないんだよぉ!?」
そんな一匹のゆっくりの発した軽率な言葉に、怒りを露にする親れいむ。
母性が強いと言われるれいむ種らしく、未だに亡くなった子ゆっくりのことが頭から離れないのだろう。
そんなれいむを横目で見ていたドスだったが、突然とんでもない事を言い出した。
「それじゃあ、おちびちゃんもかえしてもらおうか?」
「ゆううう!?どういうことぉ!?」
「ほんとう!?おちびちゃんがかえってくるの?」



「れいむはおちびちゃんをうしなって、とってもつらいんだよ!だからおちびちゃんもちゃんとかえしてね!」
翌日、ドスまりさが再び人里へとその姿を現した。
しかも死んだ子ゆっくりを生き返らせろという、とんでもない要求を突きつけに。
「流石にそれは…生き返るものならそうしたいんだが…」
「いいわけはききたくないよ!おちびちゃんをかえしてあげてね!」
ドス自身も死んだ者が生き返るとは思っていない。
相手の落ち度に付け込んで、もっと野菜をもらおうと考えたのだろう。
突如起こった事故ではあったが、それを上手く利用できればたっぷりとゆっくり出来る。
まさしくゲスそのものの、いやらしい頭の回りを発揮したドスであった。

「とりあえず今日のところは帰ってくれないか?こっちも色々準備が必要だからな」
長は里の者に野菜を差し出すようにと言い、里の者も苦々しく思いながらも僅かばかりの野菜を持ってきたのであった。
「明日、こちらから出向くので、お前の群れでゆっくりと待っていてくれ」
ドスまりさは積まれた野菜を目にし、しょうがないなという顔を作りつつ野菜をその頬に収めていった。
「ちゃんとおちびちゃんをかえしてよね!」
去り際まで野菜のことを口にしないでドスは去って行った。
里に背を向けたドスの表情は、芝居が上手く行ったと思ってにやついた表情をしていた。



ドスが去った里では男衆が皆、肩を落としていた。
「生き返らせるって…そんな無茶な」
「すんません、長…俺が…俺があんなことをしちまったから…」
「…さあ、竹薮に行くぞ」
「長?もうたけのこの旬は過ぎちまって…」
「誰もたけのこを採りに行くとは言ってないぞ?」



ゆっくりはその名の通り、ゆっくりとしているので朝は遅い。
未だ日が差さず、薄暗い森の中は鬱蒼としている。
木の洞や洞窟に巣を構えるゆっくりだが、その中でもひときわ大きい洞窟、そこにドスまりさが寝ていた。
「ゆぴぃ~♪おやしゃいさん、もうたべられないよう…♪」
夢の中で山盛りの野菜を食べているのだろう、その寝顔はしあわせ満面だった。

しかし、そんなゆっくりとした時間ももうすぐ終わりを迎えることになる。

森の中を人影が、木から木へとその身を隠すように動いている。
その人影が目指す先はゆっくりの群れの中にある一際大きな洞窟の中。
影が全て洞窟の中に納まると、その中の一人の男が周りの者に目配せをすると、
巣の中で眠りこけるドスまりさへ向かって皆同じような構えを取る。
「いーち、にーの、さん!」
そして掛け声と共に両手が繰り出され、その手に持った竹やりはドスの体を貫いた。

突然襲い掛かる激しい痛みに、ドスの目の前から野菜の山は消え去ってしまった。
「いだあああああい!どうなってるのおお!?」
苦痛により夢の世界から現実へと引き戻されたドスまりさが目にしたのは、野菜の山ではなく人だかりの山であった。
「やあ、夢の中で食べる野菜は美味しかったかい?」
その中から声をかける者、それはドスが野菜をせしめ取った里の長の声だった。
「どぼちでこんなことするの!?」
何本かの竹やりが口中を貫いており、ドスは喋るのがやっとの状態の為、ドススパークを打つこともままならない。
ドスの抗議にも、長はそれを無視するが如く、淡々と言葉を述べていった。
「君達のおちびちゃんの事なんだが…私らには生き返らせる力が無いんでね、
 申し訳がないんだが、閻魔様に君から直接頼みに行って貰いたいんだ。
 私からも頼みますと、一筆したためておいたから、安心してゆっくりして行ってくれたまえ」
「いやだぁ…そんなのゆっくりできないよぉ…」
「まったく、ちびちゃんを返せといったのはお前だろ?」
これは最初に子ゆっくりをつぶした男の声だ。
「もうおちびちゃんかえさなくていいから…たすけてよ!」
「身勝手などすまりさだな。あの母ゆっくりの気持ちを考えてやれよ」
「ころしたのは…にんげん…さんでしょおぉ…?」
「ゆっくりと人間じゃ行く先が違うかもしれないんでね。ゆっくりのことはゆっくりに任せるのが一番なのさ」
「そん…な…もっと…ゆ…」
断末魔を最後まで言うことなく、ドスまりさはその生涯をおえた。
この騒ぎを聞きつけたゆっくりがドスの巣へとやってきたが、不思議と仇を取ろうと行動を起こすものは居なかった。
何故かというとこのドスまりさは、
「あしたはいっぱいおやさいがもらえるから、きょうはドスがいっぱいたべるよ!」
とぬかして、貰った野菜を一晩で全部平らげてしまったのだ。
そんな業突く張りは三途の川を渡れるはずも無く、閻魔様に会うことさえ叶わなかった。



オワリ

あとがき
元ネタは愛の前立てでお馴染みの、あの人の逸話です。

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最終更新:2022年05月19日 12:49