注意
人間や飼いゆがゲスゆっくりに襲われます。
ゆっくりが人間を多少てこずらせます。


ある日の昼下がり。黙々と畑仕事をしていると背後で大きな声が上がった。
「ゆっ、おにーさん!おやさいさんどろぼうだよ!ゆっくりたいじしてね!」
バレーボール大の番犬ならぬ番ゆっくりのれいむが吠えている。
畑仕事に夢中で気付かなかったが、どうやら畑荒らしに侵入されたようだ。
見ればサッカーボール大の親まりさ一匹とソフトボール大の子まりさ二匹が大根に齧り付いている。
「うめっ!これめっちゃうめっ!」
「「む~しゃむ~しゃ、しゃあわしぇ~!!」」
どうやら最近の暑さで少々呆けていたようだ、まさか自分のすぐ後ろでゆっくりの無法を許すとは。
れいむが教えてくれなければ気付かなかっただろう。

れいむは加工所の半期に一度の定期直売会で先月買ってきたものだ。
加工所が輩出する人間との共存を目的としたゆっくりには、物分りの良い野良や野生に手を加えた個体と
誕生から育成まで加工所がそのノウハウで調整してきた個体とがある。
前者は外見や言葉遣いが洗練されていないケースが多いが必要十分な機能を安価に入手できる利点がある。
後者は品種改良や教育によって外見や性格に優れており主にペットショップなどの専門店向けに供給されるが高価だ。
れいむは前者である。野良や野生を厳しく再教育した個体は主に農家の番犬代わりとしての需要があり、
それなりの個体は引く手数多で定期直売会の競争倍率は意外と高かったりする。
俺も前日から並んだ上に主婦のバーゲンセールよろしく激しい奪い合いを乗り越えてやっと入手したのだ。
このれいむ、外見ははっきりいってふてぶてしい。典型的なでいぶ体型である。
だが、警備用途の教育を施された個体でシルバーバッジも取得済。
人間を怒らせることはなく、目論見どおり畑に侵入した害ゆを教えてくれるので満足している。
既にこの一ヶ月で三回、大小合わせて合計十匹の畑荒らしの侵入を警告してくれた。
それらのゆっくりは、流石にいきなり潰すのは可愛そうなので捕獲し様子を見て判断したのだが、
幸か不幸か全員ゲスだったので結局踏み潰して畑の肥やしにしてやった。

とりあえず今回も声を掛けてから判断することにする。
「そこのまりさたち。人の野菜に何してるんだい?」
「「ゆっ!?ゆっくりできにゃいにんげんしゃんがきちゃよ!」」
「ゆゆっ?これはまりさたちのみつけたおやさいだぜ!よこどりしようとするじじいはゆっくりしないでしんでね!」
開口一番にゲスゆっくりのテンプレ発言。まぁ何となく予想はしてたが……。
「その野菜は俺が育てたもので君達はそれを無断で食べたんだよ。今すぐ帰るなら今回限りは許してやるが……」
俺は自分が虐待お兄さんだとは思っていない。できれば無用な殺生は避けたいところなんだがな……。
と思った瞬間、「どすすぱーく!」……親まりさが妙な技名とともに口から石を吹き付けてきた。
「ゆっへっへっ。なんくせじじいはまりささまがせいさいしてやるのぜ!」
「おかーしゃん、すごい!」「ゆんゆん♪なまいきなじじぃはどげじゃしちぇあやまれ~!」
どすすぱーく=どう見ても単なる投石は俺の弁慶を直撃した……結構痛い。
最近のゆっくりにはこんな風に良くない知恵を付ける奴も出てきたから困る。
どっちにしろこれは説教するだけ無駄なタイプだ。とっとと肥やしになって貰うべきと判断する。
どうせここで逃がせば他所に迷惑を掛けることになるだろうし。
「れいむ!チビどもを捕まえておけ。さて、まりさ。君達には食べた野菜の御代を体で払って貰うよ」
「ゆ~!?なにいってるんだぜ?あのおやさいはまりさたちのだぜ?いいがかりもほどほ、ゆべっ!!」
うっとおしいので掴み上げてストレートにぶん殴ってやる。
「いじゃいいぃぃぃ!!じじい!なにす、ゆがっ!ばりざざまの、ゆぐっ!やめないとゆ゛ぼっ!!」
なかなか骨のある害ゆのようだ、悪態を付く度に割と強めに殴っているのだが態度を曲げようとしない。

「ゆゆ、おにーさん、ちびたちをつかまえたよ!」
「「おかーしゃん、たじゅけちぇ~!」」
れいむの声が掛かる。おお思ったより早かったな、さすがはよく訓練されたゆっくりだ。
れいむは子まりさたちに圧し掛かり口には二匹の帽子を咥えている。
帽子を奪っておけば例えれいむの体から逃れても帽子を取り返すまでこの場を離れられないという算段なのだろう。
「ゆゆゆ!?ば、ばりざのおぢびぢゃんだちっ!!ゆゆゆ~!おぢびぢゃんだちのおぼうじがえぜぇ!!」
親まりさが暴れだす。さすがに我が子の帽子を目の前で奪われるのはゆっくり的には耐え難いのか。
……いくらゆっくりとはいえ本気で暴れる成体を利き腕じゃない左手だけで抑えるのは正直キツイ。
親まりさは汗でぬかるんだ俺の左手を振り切るとまっすぐにれいむに飛び掛かった。
……しまった。俺としたことがまたも暑さと疲労のせいで油断したか。
あれだけ殴られたにもかかわらず親まりさはゆっくりにあるまじき速度でれいむに体当たりを食らわせた。
「ゆべらっ!!!」
子まりさたちを押さえつけていたせいで即座に避けられず直撃を受けてしまったようだ。吹っ飛ぶれいむ。
どうでもいいいけど、今の体当たりで子まりさたちも明後日の方角に弾き飛ばされて目回してるぞ。
「ゆ゛っぐりできないでいぶはじねえぇぇ!!」
と、親まりさは吹っ飛ばしたれいむの上で間髪入れずにボディプレスを繰り出した。
ボスン!ボスン!ボスン!
「ぶぎゅっ!おに-さんっ!だずげっ!……」
れいむの口から餡子が吹き出し左目が眼窩から飛び出る。いかん!せっかく苦労して買ったシルバーバッジが!
俺は親まりさに駆け寄るとそれこそサッカーボールを蹴る勢いで蹴り上げた。
ズボッ!何というか大きなゴム鞠に足を突き刺したかのような鈍い感触。
「ゆひゅい!!」
空気が抜けるような妙に軽い声を上げて親まりさは吹っ飛んで行った。
親まりさの体は餡子満載で重かったが5mは飛んだかな。蹴った俺の足にも遅れて鈍い痛みが広がる。
と、そんなことはどうでもいい。れいむが死にそうだ。
すぐ傍の自宅に駆け込みオレンジジュースを取って来ると瀕死のれいむに降り掛けた。

「ゆうううぅぅぅ……」
情けない唸り声を上げるれいむ。取れた左目は眼窩に押し嵌めてやったが視力が戻るかは微妙だな。
それにしてもコイツ、戦闘訓練も受けてるとかいう触れ込みだったのになぁ。
実際、前に忍び込んだ同体型のバレーボール大野良れいむは退治してくれたのだが……。
まぁ今回は相手が悪かったか、サッカーボール大な上にまりさ種には珍しく子想いだったし。
れいむの応急処置を終え家で寝かしつけると、俺は蹴り飛ばした親まりさのもとに向かう。
そこには、両目から涙を、口元と側面の傷口から餡子を垂れ流して気絶した親まりさと
それに体を擦り付けて泣き喚く子まりさたちの姿があった。ほお、親子共に家族想いなことで。
「そこのチビたち。君達は俺の野菜を勝手に食い、俺に石をぶつけて、俺の飼いゆを傷つけた。こいつは高くつくぞ」
「ゆゆ~!おかーしゃんをいぢめるくそじじぃはしねぇ!!」
「ぐずなじじぃはゆっくりしないでおかーしゃんをたすけちぇねぇ!!」
ゲスの子には何を言っても通じないか。まぁこの際そんなことはどうでもいいんだけどな。
ビクビクと痙攣を続けているデカ饅頭を抱えて家へと向かうことにする。
子まりさは俺の後を、正確にはデカ饅頭の後を追いかけてくる。
「「ゆ~、おかーしゃんをつれちぇいくな~~~!!」
手間が省けて結構結構。とりあえず縁側に置いてあったダンボール箱に親まりさを放り込んで蓋をガムテープで固定する。
足元の子まりさは両手に一匹ずつ捕まえて何か調度良い入れ物がないか室内を捜す。
「ゆ~ゆ~!はなしぇ~!」「ゆゆ、ばかなじじぃはゆっくりまりさをはなしちぇね!」
チビ饅頭がうるさいがとりあえず無視だ無視。
っと、れいむを買った時にオマケで付いてきた透明な箱が部屋の片隅で埃を被っている。
れいむを加工所から家に連れ帰る際に入れてきたものだ。上蓋を開けて子まりさたちを放り込む。
「ゆぎゃ!!」「ゆべっ!!」
さて、こいつらどうしてくれようかな。石で人間を襲う親まりさはどうしようもなく悪質なゲスだ。
その餡子を受け継ぐ子まりさたちも同類。飼いゆを殺されかけた恨みもある。

一段落したらふつふつと怒りが込み上げてきた。ここまで舐めた真似をしてくれたゆっくりは初めてだ。
虐待お兄さんとやらの気持ちも今ならそれなりに理解できそうな気がしてきた。
連中は一息で踏み潰したりせず、ゆっくり苦しんで逝ってもらうとしよう。
そうだな、子想いの親まりさには後で大き目の透明の箱を買ってきて閉じ込めてやろう。
そして、親まりさの目の前で糞生意気な子まりさどもを調理して食ってやるとするか。
……だが、曲がりなりにも自分で捕まえたゆっくりを自分で調理するのは初めてのことだ。
最初は簡単なのがいい……オーソドックスに焼き饅頭にでもするか。
だが、せっかくなら普段食べないメニューにしたいとも思う。
一般に広く普及しているゆっくり食品は圧倒的にお菓子やデザート向けの甘味が多い。
高級店ではゆっくりの刺身なんかもあるらしいが、こいつらのような野良ゆっくりの生食には少々抵抗がある。
むぅ、どうしたものか……未だ喚き散らしている子まりさたちの大きさを確認する。
酒のツマミに調度良いサイズだな。そうだ、燻製なんていいかもしれないな。
燻製とは主に腐りやすい食料の保存を目的に材料を煙で燻して作る保存食のことだ。
塩や香辛料に軽く漬け込んだ材料を、箱の内部に吊るし、
箱の下部に置いた木片=チップを燃やしてその煙=燻煙で燻し上げるのだ。
そうして完成した燻製は、水分が落ちて旨みが増し、さらに燃やした木片に由来する独特の風味が加わる。
魚や卵、肉の燻製は酒のつまみに最適だ。ゆっくりは饅頭なので燻製にした後の味が不安だが、
子ゆっくりならまだ多少酸味も残っているだろうから割と期待できそうな気がしなくもない。多分。
そうと決めたら善は急げだ。俺は透明な箱と燻製用のチップを買いに里に出掛けた。

二時間後。玄関には透明な箱が四つも積まれていた。
突発セールの文字に乗せられて必要もないのについつい纏め買いしてしまったのだ。
これを機に今後は畑荒らしゆっくりは捕まえて食材として備蓄でもしようかな。
……などと考えつつ家に上がると縁側でダンボール箱が飛び跳ねていた。
デカ饅頭こと親まりさが目覚めて暴れているらしい。
普通、あれだけダメージを負えば成体ゆっくりといえども少しは衰弱するだろうに。
とりあえずガムテープを剥がして親まりさを出してやる。
「ゆはぁ!じじい、まりささまにこんなことして、ただですむとおもってるのかだぜ?」
はいはい、親まりさの文句は無視してその大口に手を突っ込む。
「ゆっくりしないでおちびちゃんたちを……ゆぐ、ゆぐ、むぶ!!!」
歯の裏に硬い感触。やっぱりまだ口に石を含んでやがったか。素早く取り出す。
石は川原に転がっているような丸っこい石だ。それが三つ残っていた。
「ゆ!まりささまのぶきをかえすんだぜ!?」
なんでわざわざ人を襲う為の凶器を返してやらなきゃならんのか。
まあいい、まずは治療だ。さっきの蹴りでモミアゲの下が陥没している。
餡子の流出は止まっているようだが、傷を放置した状態で下手に暴れられて死なれてはつまらない。
持ってきたオレンジジュースと小麦粉で傷を修繕してやる。
「ゆふっ!?なかなかいいこころがけだね。あと、いしゃりょうにあまあまもせいきゅうするよ」
よし、修繕終わりっと。勘違いしてふんぞり返っているデカ饅頭を早速買ってきた透明な箱にブチ込む。
「ゆぐぐぐ!やっぱりじじぃはしけいだよ!ゆっくりしないでここからだすんだぜっ!」
箱をガタガタ揺らしながら抗議するが、ゆっくり風情が突破できる強度じゃない。
こいつはこれで処置完了だ。箱の中で精々足掻くといい。

さて、今度は燻製用の箱を作らないとな。余ってた板切れと大工道具を持ち出して製作に取り掛かる。
別に本格的に作る必要はないのだが、子まりさが煙で燻されて苦しむ姿を外から覗けるように工夫する。
当然ながら煙は下から上に昇るので、箱の上部に覗き窓に使えるような大きな穴は開けられない。
幸いゆっくりは地べたを這いずり回る顔だけの不思議生物なので、
床に置いた親まりさが燻製箱の斜め下から見上げれば吊るされた子まりさたちが見えるように作ればよいだろう。
燻製箱が完成する頃には日が沈みかけていた。まぁ今日は処刑は行わない。
事前に子まりさの水分をなるべく絞っておく必要があるし、その後の処理にも時間が掛かる。
俺は部屋に入ると、子まりさたちの様子を確認した。喚き疲れたのか今では二匹ともすーすーと寝息を立てていた。
よく見ると透明な箱の片隅に小さな水溜りが出来ている。
箱に手を入れて水溜りに指を付け舐めてみる。甘い。これは俗に云うアレか、しーしーってやつか。
人様の用意した箱で断りなく小便を垂れ流すとは……つくづく太い連中だ。
だが今回はこれで良い。余分な水分はできるだけ排出してくれた方が助かるのだ。
俺は布巾を取り出すとしーしーを拭ってやった。
これからは死ぬまで自分のしーしーですら一滴も飲ませてやるつもりはない。
その日は、れいむの看護をして食事を取ってさっさと寝た。明日は早いのだ。

翌朝、俺は燻製箱を作った残りの板切れの要所要所に穴を開けると、
まだ眠っている子まりさたちを引っ掴み、板に開けた穴から通した紐で板切れに固定した。
緩めに縛ってあるので潰れたり必要以に圧迫されることもないだろう。
かといって、ゆっくりではどう頑張っても抜け出せない程度にしっかり固定はしてある。
固定し終えたところでようやく一匹の子まりさが目を覚ましたようだ。
「ゆっ、ゆふぁ~。よくねちゃよ。きょうもいちにちゆっくりしちぇいっちぇね!」
それに呼応するかのようにもう一匹も目を覚ます。
「まりさもおはようしゅるよ。ゆっくりしちぇいっちぇね!」
とりあえず俺も朝の挨拶をしてやるとするか。
「おはよう二人とも。昨日のお兄さんだよ。ゆっくりしていってね」
じーっと俺の顔を見つめる二匹。と、見事なハーモニーで返事を返してきた。
「「ゆっくりしちぇいっちぇねっ!!」」
昨日のことは忘れてるのか?と思いきや突然表情がふてぶてしくなった。
「ゆっくりできないじじぃだね。なにがどうなってるのかおしえちぇね!」
「おか~しゃんをどこにやったの?ゆっくりしないでこたえちぇね。あまあまもよこしちぇね!」
ふぅ、危うく全部忘れられてるかとおもったぞ。こうでなくちゃ張り合いがない。
「ゆっくり答えてあげるよ。君達は昨日、俺を怒らせて捕まえられたんだ。君達の親ならあそこで寝てるぞ」
そう言って縁側を指差す。そこには透明な箱に入れられてだらしなく眠る親まりさの姿がある。
「すぴー、すぴー」
「ゆゆっ!おかーしゃんだ!」「おかーしゃーん!このじじぃをぶっころしちぇ~!」
子まりさの声にも気付く気配がない。呑気な奴だな。
「おい、起きろ!まりさ!」
箱に向けて怒鳴るとようやく起き出したようだ。
「ゆ~~~???」
「やあ、おはよう。まりさ。今日は良い天気だな」
「……ゆっくりしていってねっ!って、お、おちびちゃん~~~~!!!」
板切れに固定した子まりさたちを見せ付けてやる。
今日は燻製にするにあたり余計な水分を搾り取るべく子まりさたちを天日干しにするのだ。

早速板切れを太陽に向けて翳すと、れいむを呼んで万が一にも逃げ出さないよう見張らせることにする。
れいむは昨日の一件で左目の視力を失ったが、命に別状はなく体力も回復している。
「きのうのちびたちだね。そこでゆっくりはんせいしていってね」
これが躾のなってない野良れいむなら昨日の復讐とばかりに子まりさに噛り付くことだろうが、
そこは加工所謹製のシルバーバッジ。俺の言うことをよく聞いて監視に専念してくれている。
また機会があればゆっくり専門の病院にでも連れて行ってやろう。
ゆっくりは体の構造上、外敵に襲われたり事故に遇えば視力どころか眼球を失うことも少なくない。
ところが、眼窩に眼球を嵌めるだけで視力が回復することもあるいい加減な生物だ。
今回のれいむのように上手くいかなくても、飼いゆなら専門の病院で治療を受けることで
高確率で視力を回復させることができるだろう。
そんなれいむの様子を確認すると農具を持って隣接する畑に出ることにする。
さて、それじゃ俺は俺の仕事を始めるとするか。糞饅頭に掛かりきりになるわけにもいかない。

その日は仕事の合間に、太陽の動きに合わせて、子まりさを固定した板切れの位置や角度を微調整してやった。
常に直射日光が子まりさに照りつけるようにする。今は夏、そしてこの陽気だ。
子まりさを攻め苛む直射日光は半端じゃない。どんどん子まりさの水分と体力を奪っていく。
最初のうちは「あじゅいいいー!」だの「おみじゅのまぜでー!」などと煩かった饅頭も
日が傾きかけた今となっては何も喋らず大人しく干されるばかりだ。
たまに死んでいるんじゃないかと心配したが、ゆっくりは中身の餡子が
大量に失われたり変質したりしない限りそうそう簡単に死ぬことはないらしい。
とりあえずピクリとも動かない状態になる度に体をさすってやった。
そうして「ゆぐ……ゆぐ……」と微かに反応するのを確認すると仕事に戻る。
親まりさも当初こそ箱の中で暴れていたが次第に暑さと疲労でへばっていった。
水を飲めるのは俺とれいむだけだ。時折、ゲス親子に見せびらかすように飲んでやった。
今ではもうそれに対するリアクションも全くなくなってしまったが……。

そうこうするうちに日は暮れかかってきた。畑仕事を切り上げるといよいよ燻製の下準備に入る。
グッタリした子まりさたちは紐を解いて居間に転がしてやった。
もはや精も根も尽き果てたのか最後の自由を与えられたというのに、
一匹は倒れ伏したまま時折痙攣するだけで、もう一匹も所在無く床をのそのそと這いずるだけだ。
れいむに二匹を見張らせ、俺は台所に向かうと粗塩と調味料を用意した。
塩水で燻液を作って浸そうかと思ったが、ゆっくりは饅頭なので体に直接塩を揉み込む手法を採る。
ボールの中で塩九割、砂糖五分、胡椒五分の割合でよく混ぜ合わせ居間に戻る。
そして机にボールを置くと、まずは親まりさに水を飲ませてやることにした。
ここから先はお前には元気でいて貰わないと面白くない。
「まりさ。喉が渇いただろう?水を飲ませてやるぞ」
そう言って、へばった親まりさを持ち上げると口に水を注いでやった。
みるみる目に生気を取り戻していく親まりさ。こっちまですっきりするかのような勢いだ。
「す、す、すっきり~~~!!おみずさんおいしいんだぜ。もっとよこすんだぜ!」
「ああ、いいよ。今日は疲れただろう。よく飲めよ」
ゴクゴクゴクゴク。まぁこんなもんでいいだろう。親まりさはまた透明な箱に押し込む。
ついでに食事も与えてやろう。不要なクズ野菜を放り込んでやった。
「む~しゃむ~しゃ。し、しあわせ~~~!!!」
なにが「む~しゃむ~しゃ」だ。そんな擬音とは程遠いガツガツとした勢いで貪り食っている。
「じじい。おちびちゃんたちにもおみずとごはんをあげてね!」
「悪いけどお水もご飯もそれで最後なんだよ。でもチビたちはゆっくりさせてあげるよ」
「ゆゆ!?ちゃんとゆっくりさせるんだぜ!」
のそのそと床を這っていた子まりさを手に取り机の上に乗せる。
そして、帽子を取って体中の汚れを払うとおもむろにボールの中に叩き込んでやった。
「ゆ、ゆべぇー!が、がらいー!ゆっくりできにゃいーーー!!」
たちまち悲鳴を上げてもぞもぞと暴れる子まりさ。だがその抵抗も弱々しい。
顔にも髪にも満遍なく塩を揉み込んでやる。ビクンビクンと蠢く饅頭の感触が心地よい。
「……ゆげえぇぇ!」
口内にも塩を塗りたくった途端、苦しそうに餡子を吐き出して痙攣を始めた。
だが、気を失おうとも荒々しく塩の揉み込み作業を再開すると目を覚ます。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぶぶ!!!ゆげえぇぇ!!!」
子まりさは何度も気絶と蘇生を繰り返す。
作業開始から五分程経ち充分に塩を揉み込んだところで、この子まりさは別に用意した大皿に乗せ換えた。
皿の上でもゴロゴロ転がって悶えている姿は微笑ましい。

さて、続けて床に伸びている方の子まりさにも塩を揉み込んでやろう。
衰弱し切った子まりさを荒々しく引っ掴んでボールに叩き込む。
すると、ショック療法が効いたのかカッと目を見開いて悲鳴を上げた。
「ゆびぇぇぇー!いちゃっ、いちゃいーー!まりさのからだがいぢゃいよー!」
さっきまで脱力してたのが嘘のように身悶えしている。むしろこっちの方がさっきのよりイキが良さそうだ。
そうと判れば遠慮はいらない。まぁ遠慮なんて端からするつもりもないが。
体を鷲掴みにして顔の部分をボールの底にすーりすーりさせてやった。
「ま、まりしゃのおめめがー!まりじゃのおめめがあぢゅいよー!!!」
目を見開くものだから盛大に塩が入ってしまったようだ。こいつは痛そうだな。
だが、そういう反応をされればこっちも余計に手加減できなくなる。
子まりさの瞼を摘まんで強引に広げると眼球に塩をたっぷり塗り込んでやる。
「ゆぎゃあああああああああああ!!!おがーぢやんゆずりのばりざのおべべが!おべべがぁぁ!!」
どうせお前は明日にもこの世を去るんだ。例え失明しても今後の心配なんてすることないぞ。
心の中でそう嘯きつつ子まりさの体に塩を揉み込む手は緩めない。
「ゆ、ゆ、ゆ…………ゆげええええ!!!」
おっと。つい力が入り過ぎたか。さっきの子まりさより派手に餡子をブチ撒ける。だが、これくらいで構わない。
その後も、塩でザラザラになった頭部、モゾモゾと不気味に蠢くあんよ、そして両目と口にも塩を揉む込み続けた。
きっかり五分経過したところでビクンビクン痙攣する子まりさを大皿に上げる。
帽子も軽く塩揉みしておこう。

二匹仲良くゴロゴロと皿の上を転がっている様子をずっと眺めていたかったがそうもいかない。
塩の揉み込みが済んだら今度はは塩抜きだ。このまま燻して食べると塩分が高過ぎて食えたもんじゃないだろう。
燻す前に人間が食べられる程度に塩抜きしてやる必要があるのだ。
早速水を汲んでくる。ここからは注意が必要だ。
子まりさを水に漬け込んで塩抜きするわけだが燻製は水切りが大事なのだ。
丸一日の間、一切水を与えていないのだから、水をガブ呑みされてしまう恐れがある。
さらに、あまり長く漬け込むと饅頭皮が水分を吸ってブヨブヨになってしまうだろう。
この二律背反な条件をどうクリアすべきか思考を巡らす。
まず、水は決して飲ませてやらない。箪笥から裁縫箱を出すと子まりさの口を隙間無く縫ってやることにする。
「ゆ、ゆっくりやめちぇね。ひどいことしな……ゆぴっ!むぐゅぐゅ……!!」
素早く、かつ丁寧に上下の唇を縫いつけていく。これで口は開けられまい。
さらに糸の隙間から水が入るのを防止するため口の縫合痕の上からテープを貼る。
もう一匹にも同じ処理を施した。二匹とも体をよじらせて抵抗したが針から逃れられる筈もない。
二匹の帽子を取り、本体を水を張った桶に沈める。そして手で素早く塩のぬめりを洗い落としていく。
充分に塩を取ると、今度は別に用意した桶に沈めて暫く泳がせておく。
皮から染み込んだ塩分を短時間でなるべく多く水に溶かし出すのだ。
その間に、もう一匹と二匹の帽子にも同じ処理を加えていく。
水に浸かった子まりさは体を折り曲げて必死の形相でもがいている。そろそろ頃合かな。
一匹につき十分程度塩抜きを行い、台所に運んで二匹と帽子を大き目のザルに入れ、
最後に上から勢いよく水をぶっ掛けた。そして清潔な布で皮を破らないよう慎重に水を拭き取る。
布は数枚用意し、表面の水気を拭いた後は別の布を押し付けて皮の水分を染み出させる。
「むーむー、むーむー」
口を塞いであるとはいえまだ呻くことはできるのか。つくづく饅頭の生命力には驚かされる。

水気を切った子まりさたちを乾かすべく、居間に戻って広げた新聞の上に転がしザルを被せて上に重しを乗せた。
ふぅ、これであとは子まりさたちを乾かし燻すだけだ。ここは風通しが良いので一晩置いておけば充分だろう。
やっと一段落……と思っていたら、ここで親まりさの泣き声が聞こえてきた。
「どぼじでぞんなごどずるのぉ~~~!!!おぢびぢぁんたちをゆっぐり゛させてぇ~~~!!!」
おっと、子まりさの作業に夢中になるあまり親まりさの存在を忘れてしまっていたようだ。
よく見れば涙の海が透明な箱の底に溜まり、親まりさのあんよをふやけさせている。
作業中、俺は親まりさの声は全く意識してなかったが、きっとずっと叫び続けていたんだろうな。
コイツの悲鳴も楽しみにしてたんだが……まぁいいさ、フィニッシュの時にご活躍頂くとしよう。
その日も、食事を取った後はとっとと寝ることにした。

翌朝、縁側に親まりさを配置して、燻製箱をすぐ傍に用意した。
いよいよ仕上げだ。程好く乾いた子まりさたちをザルに入れて持ってくる。
その姿は元と比較すると明らかに縮んでおり、表皮はパサパサな上に幾重もの小皺が入っていた。
ここで口元のテープを剥がし唇を縫った糸もハサミで切って外してやった。
箱の下部には桜のチップを敷き詰め、箱の上部から垂れ下がる糸に釣り針を取り付ける。
これから何が始まるのか子まりさたちも薄々気が付いているのだろう。プルプルと震えている。
そして、ここに来て遂にあの親まりさが折れた。
「も、もうやべでぐだざいぃ!ばりざがわるがっだです!あやまりばずがらおねがいじまずぅぅ!!!」
……最初からこうだったならなぁ。だがもう何もかもが遅い。知ったことじゃない。
親まりさを無視して早速一匹を掴むと帽子を貫通する形で頭皮に釣り針を深く引っ掛けた。
「や、やべ、ゆぎぃぃぃ!いぢゃいーーー!」
口から悲鳴は出るが既に流す涙は残っていないようだ。
顔の下膨れ……見様によっては胴体のように見えなくもない箇所をブルンブルンと震わせることしかできない。
さて、もう一匹も……と思って手を伸ばそうとしたら、精神のリミットが外れたのか餡子を吐き出して気絶していた。
「おぢびぢゃん!きぜつじでないではや゛ぐにげでぇぇぇ!!!」
はいはい、続けてもう一匹も頭皮に釣り針を引っ掛ける。頭皮を深く抉られたことで目を覚ましたようだ。
「ゆ゛?ゆぎいぃぃぃぃ!ば、ばりざのあだまがぁぁ!!!」
いい加減そういう反応も見飽きてきた。そろそろ死の宣告を告げてやろう。
「それじゃ君達をこれから今日のおつまみにするよ。ゆっくり煙で燻されて逝ってね」
「ゆんやぁ~!おうちがえるー!」「だ、だじゅげぢぇぐだぢぁい~!」「おぢびぢゃんーーー!!!」
三者三様の反応をする親子。いよいよ子まりさたちが旅立つ時がきたのだ。

俺は、燻煙が充満するよう箱の上部を閉ざしチップに火を付けた。不完全燃焼にするのがコツだ。
燻煙はゆっくりと立ち上り、箱の内部に吊るされた子まりさたちに襲い掛かる。
さてと、親まりさには子まりさたちをお見送りしてもらわなくてはな。
俺は縁側に置いていた親まりさの透明な箱を、燻製箱のすぐ前に移動し
強制的に子まりさたちを見上げるような角度で固定してやった。
「よし、まりさ。チビ達の門出を祝ってやろうな」
「やべでーーー!おぢびぢゃんーーー!」
俺も親まりさの横に寝転び、箱を見上げて一緒に子まりさたちを見送ってやることにした。
涙を流し叫び続ける親まりさに語りかけてやる。
「俺もお前の気持ちは分かるぞ。あのチビ達には随分と手間暇を掛けたからな」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ………ゆがあぁぁーーー!!!ゆがあぁぁーーー!!!」
悲しみと怒りで狂ったか。親まりさは白目を剥いてもはやワケの分からない叫び声を上げている。
一方、子まりさたちは体を揺すって必死に燻煙から逃れようとしていたが、今や完全に燻煙に包まれてしまっていた。
「げむりさん。こないぢぇー!」「ゆんやぁー!ゆんやぁー!」
それでも迫り来る死の恐怖から逃れようとしているのだろう。燻煙に包まれても体を揺らしている様子が見て取れた。
燻煙で燻されることで全身の表皮や内部の餡子が変質してしまえば、ゆっくりといえど生命活動を停止する。
そして、少しずつ自分の体が変質していく様は耐え難い恐怖と苦痛を伴うであろう。
暫くそれを眺めていたのだが、これは長丁場になる。やはり、そろそろ畑仕事を始めるべきか。
俺は燻製箱と親まりさを放置して、れいむを連れて畑へと向かった。

その日の夕暮れ前。畑仕事を終えた俺は、既に気絶している親まりさを箱ごと足蹴にして燻製箱を開けてみた。
実に八時間以上も燻し続けたことになる。そこには二つの物言わぬ燻製饅頭が力なくぶら下がっていた。
あくまで燻しただけなので子まりさの原型自体はちゃんと残っている。
だが、真っ白だった柔肌は茶褐色に変色しまるでゴムのような質感だ。
眼球は白濁し、えらく縮んで眼窩に見合わない豆粒大の大きさになっている。
縫い付けた跡がハッキリと分かる唇は上下に大きく開かれ、救いを求めるかのように大きく舌を突き出していた。
その苦悶に満ちた表情は俺に一つの仕事を終えた感慨を与えてくれる。
果たして味の方はどうなのか興味深いところだ。今日はこの燻製饅頭で一杯いくとしよう。

結論から言うと子まりさの燻製は割と美味かった。
外皮はゆで卵を硬くしたようなモチモチとした食感で、内部の餡子も水分が抜けて凝縮し
チーズを彷彿とさせる不思議な食感に変貌していた。
味も甘さより酸味と塩味が強調されその深みのある味わいは焼酎によく合った。
試しにれいむにも分け与えてみた。塩辛いのはダメかと思ったが意外にも気に入ってくれたようだ。
透明な箱もたくさん買ったことだし、今度は他の畑荒らしの子ゆっくりでも試してみるか。
色々と工夫すれば里で売りに出して副業化できるかもしれない。
そうすればまずはれいむの左目の治療だな。古い農具も買い換えたい。
等身大の夢を思い描きつつ夜は更けていった。
親まりさは翌朝正気を取り戻したが、まだ食べていない方の燻製饅頭を見せてやると、
ゆっくりとは思えない般若の形相で透明な箱をガタガタ揺らしながら俺に呪詛の言葉を浴びせかけてきた。
「ゆぎゃああああ!!おぢびぢゃんーーー!!ころす!ごろず!!ごろじでや゛ぶぅーーー!!」
なかなかに鬼気迫る勢いだが果たしてどれだけそのテンションを維持できるか見物だな。
俺は親まりさを透明な箱に入れたまま日の差さない納屋の奥へと仕舞った。
普段はそのまま放置して気が向いた時だけ引っ張りだして相手をしてやるとしよう。
俺は今日もまた農具を手に取りれいむを連れて畑へと向かった。

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最終更新:2022年05月19日 12:58