・ゆっくりに汗をかかせてみた
最近ふと思った事がある。
何故ゆっくりは汗をかかないんだろう、と。
漫画的表現の冷や汗をかいたり、すっきりするときに謎の粘液を出したりはするが、
あいつらは基本的に暑い時喉が渇きはしても汗をかくことがない。
生物が汗をかくのは大まかに分けて体温調節湿度保持のためだ。
ゆっくりに湿気は厳禁だが、体温調節のために汗をかく事はないのだろうか?
それとも、犬のように舌を出して唾液を蒸発させることで体温を低下させているのだろうか?
そこのところが気になったので、本人達に聞いてみることにしよう。
「ゆ? あせ? なにそれおいしいのぜ?」
……だそうである。特に汗をかくことはないし、そもそも汗と言う概念自体が餡子に刻まれていないようだ。
というかそもそも冗談が皮をかぶって動いているような連中に生物学的な常識を求める事自体が間違っていたのだった。
だが、それでは俺の気が収まらない。故に……
汗をかくゆっくりをつくってみることにした。
「はやくだすんだぜ! ここからだすんだぜー!」
所変わってここは俺の家。目の前にいるのは先程捕まえてきたまりさである。
変ななところに行かないよう透明な箱に入れておいたのだが、今回は動いてもらわないと始まらない。
とりあえず箱を逆さにして落とす。当然床に叩きつけられたまりさは怒り出すが、
「協力すればあまあまをあげるよ」と言いくるめて協力を取り付ける。
「おにーさん! それでまりさはなにをすればいいんだぜ?」
「簡単な事だ。汗をかいてもらえればいい」
「だからあせってなんなんだぜ?」
当然汗と言う概念のないゆっくりにはできない事だろうが、
そこで俺は発汗のメカニズムをゆっくりでも分かりやすいように噛み砕いて教えた。
最初は首をかしげていたが、懇切丁寧に教えると何とか分かってもらえたのか「ゆっくりりかいしたのぜ!」と声を上げる。
これで、このまりさの餡子には「汗」という概念が刻まれたはずだ。
ゆっくりは思い込みによって体質や性質が変わると言う。ならば、
「汗をかく」と思い込ませれば汗をかくことが出来るはずだ。
実際少し水を飲ませてから運動すると、体温が上がり、表面から水分が出る。成功だ!
「ゆゆっ!? からだからなみだやしーしーじゃないおみずさんがでるのぜ!?」
「それが汗なんだよまりさ。生き物は運動して体が熱くなったり、
体が乾燥しないようにそれを流して湿度を保ったり、身体を冷やしているんだ」
「ゆっくりりかいしたのぜ!」
その後も水分を補給させながら様々な環境にまりさをおいて、
「動くと汗をかく」「暑いと汗をかく」「空気が乾いていると汗をかく」という事を餡子の髄にまで刻み込む。
1ヶ月が経つ頃にはまりさは立派な汗かきゆっくりとなり、そしてある日、珍事が起こった。
これはその時の映像である。
『ゆゆ? なんだかあつくなってきたんだぜ?』
まりさは、部屋のエアコンが止まった事に気づいた。
その時俺は隣町に仕事に行っていて知らなかったのだが、
このとき自宅近所の変電所で故障があり、数時間に渡って停電していたのだそうだ。
その日はこの日にしては異常なほどの真夏日であり、エアコンの止まった室内はどんどんと暑くなり、
だらだらと滝のような汗を流すまりさ。いつもならこうなる前に俺が汗を拭いてやるのだが、
俺がいないためにソレも叶わず、どんどんと汗でびしょ濡れになっていく。
そして2分ほど経った頃、異変は起こった。
『ゆうぅっ!? どぼじでからだざんがどげでるのおぉぉぉぉ!?』
まりさの体が溶け始めたのだ。
まあよくよく考えてみれば当然の事である。ゆっくりの身体は水に弱い。そのため水に触れる事を忌避している。
まりさの場合俺が拭き取ったりして必要以上に湿らないように気をつけていたため、その事を忘却してしまったのだろう。
むしろ、汗をかくことを気持ちよいと感じていた節もある。
『ゆっぐじじでね! ばりざのがらだもあぜざんもゆっっぐじじでね!』
まりさは必死に呼びかけるが当然肉体の崩壊が止まるわけでも、汗がやむわけでもない。
この2ヶ月仕込まれ続けてきた「汗をかく」と言う概念は、まりさ自身の肉体を無常にも死へと誘っていく。
次第に髪は抜け落ち、皮や表層近くの餡子も崩れ落ち、帽子を被った、乾燥した餡子の塊と化した。
『ぼっど……ゆぐじ……じだ、が……』
言い終える前に目が、そして歯がぼろりと零れ落ち、まりさは絶命した。
汗をかき過ぎたことによる自己崩壊。それが、まりさの死因だった。
仕事から帰ってきた頃にはまりさは既に物言わぬ餡子と化しており、
観察のために仕掛けておいたビデオカメラ(バッテリー式だったので停電しても動いていた)
に記録された映像から異常のような原因であると判明した。
まあ元々汗かかないのに無理に汗かかせたらこうなるわな。ごめんねまりさ。
そして、少し後。俺は汗かきゆっくりによって財を成していた。
あの後まりさの残骸を処分しようとしたところ、俺はあることに気付いた。
ぱさぱさで乾燥しきったまりさの餡は、それはもう上質な晒し餡となっていたのだ。
晒し餡とは生餡(加糖する前の餡)の水分を飛ばして粉末にしたもので、使用する際は水で戻して使う。
本来餡子から作るものではないのだが、ゆっくりの汗とはつまり水分と糖分であり、
汗を出し切って絶命したゆっくりの餡子からは余分な甘さが抜け、晒し餡に丁度いい状態になっているのだ。
そして、暑さによる極限の苦痛の中でじわじわと絶命したため、その品質は極上のものとなっている。
その事に気づいた俺は特許を取った。今では欲を出さなければ楽をして暮らせる程度のお金を手に入れ、
薔薇色とはいかないまでもそれなりに充実した日常を送っている。
さて、次はゆっくりでどんな事を試そうか?
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ゆっくりって何で汗かかないんだろう→かいたら溶けるんじゃね?
大富豪ででたそんな話題をヒントに書き上げてみた。
細かいところを気にするとゆかりんにスキマ送りにされますよ。
スペシャルサンクス:名無しなんだ氏・118氏
最終更新:2022年05月19日 13:03