ドスまりさとその取り巻きは、我が物顔で群れの巣のまわりを闊歩していた。
事実、ほぼ全ての権利を自分自身が掌握している。この群れはドスまりさの物なのだ。
自分以上にゆっくりしているゆっくりなどいないであろう。
そんな自負が、ドスまりさの態度をさらに尊大にさせていた。

しかし、浮かれたドスまりさの前に3匹のゆっくりが現れた。
1匹はゆっくりありす。
1匹はゆっくりぱちゅりー。
いずれも知的で凛々しく、嫌味の無い美しさであった。

そして残る1匹。
圧倒的にでかく、何かほんわかしたオーラまで感じる。
さらに後ろ髪に多数結ってある、信頼の証のリボンの数々。
……もう一匹のドスまりさがそこにいたのである。



「「「ゆ”っ!!!?? どすまりさがふたり……!!???」」」
周りの地元ゆっくり達は混乱する。

「そっちのドスまりさはにせものよ!」
「そのりぼんはしんだゆっくりたちのものだよ!」
後からきた方のありすとぱちゅりーが言い放つ。

元からいたドスまりさとありす、そしてぱちゅりーは激しくたじろいだ。
『まさか、まさか本物が……』


群れに管理体制を敷いてゆっくり達を苦しめていたのは、偽のドスまりさだったのだ。
髪に結われたリボンはどれも、ゆっくり達の遺品---人間の村落から盗みだされた物であった。
いずれも海に漂流しているうちに、その死臭が薄まり、磯の香りが染み付いていたのである。
そのほんの少しの死臭と磯の香りの混ざり合った臭気が、他のゆっくり達にはオーラのように感じられていたのだ。
実際のところ、この偽のドスまりさは ただ磯くさかっただけなのである。


「ほかのゆっくりたちをくるしめ、にんげんにけがまでさせるとは……だんじてゆるせないよ!」 真ドスまりさが怒りを込めて言い放つ。
偽ドスまりさのようなゆっくりがいるから、ゆっくり達はいつまでも本当の意味で人間達とゆっくりできないのだ。


偽ドスまりさと偽ありす、偽ぱちゅりーは思わず逃げ出した。
真ドスまりさのあまりの怒気に気圧されたのである。
取り巻き達もそれに続き、一向は群れから離れた、村落にほど近い平原に辿りついていた。

しかし、それを黙って見逃す真ドスまりさではない。
すかさず追いつき、偽ドスまりさの前に立ちはだかる。
自分の名を騙り、それを利用して暴政を行っていた偽ドスまりさ。
そのような愚かなゆっくりは、下手に力を持て余している分、決して反省したり、学習することなどは無いのだ。
真ドスまりさは、殺生を行う覚悟を決めていた。


「ゆゆゆゆ……!」たじろぐ偽ドスまりさ。
次の瞬間、偽ドスまりさは真ドスまりさに体当たりをかます。
「こっちがほんものだよ! かってしょうめいしてみせるよ!」
一か八か、タイマン勝負に持ち込もうとしたのである。

体当たりを食らった真ドスまりさだが、倒れることはなかった。
「いいでしょう、おあいてします。」
そういって体当たりを返す真ドスまりさ。
偽ドスまりさの方も、これになんとか堪える。
そして、互いの体当たりの応酬が始まった。
他のゆっくり達にとって、それはまさに山と山のぶつかり合いに見えた。

しかし、体当たり合戦だけでは雌雄を決するには至らなかった。
痺れをきらした2匹のドスまりさは、左右に散会し助走をとってお互いのスピードを乗せてのぶつかり合いを敢行した。

山と山がぶつかり合う衝撃、響き渡る重低音。
その激しい衝突音人間の村落にまで届くほどであった。
2回、3回……

続けるうちに情勢に変化が起きた。
偽ドスまりさがよろけだしたのだ。
「これでとどめです!」
すがさず再度体当たりに向う真ドスまりさ。

しかし、猛烈なスピードで迫ってくるそれを、偽ドスまりさはさっとかわした。
ぶつかり合いを制するプライドよりも、勝利という実をとったのだ。
バランスを崩す真ドスまりさ。
偽ドスまりさは すかさずしゃがみこみ、そして身体全体を使ったアッパーカットを繰り出した。
必殺技・高い高いへの序曲である。

「「やった! これで勝つる!」」 歓喜の声を上げる偽ありすと偽ぱちゅりー。高い高いは本来ゆっくりには通用しない。
大きく息を吹き込みことで自身をゴム鞠のようにして着地の難を逃れることができるためだ。
しかしドスまりさほどの重量では勝手が違う。
たとえ膨らんだとしても、身体が衝撃に耐え切れないのだ。

勝ち誇り、ニヤニヤとした表情で突き上げ続ける偽ドスまりさ。
突き上げられる真ドスまりさは、無言のままその攻撃を受け続けていた。
その身は命を落とすのに充分な高度に達する。
偽ドスまりさはそれを確認すると、悠々と退く。

「どすまりさのじゃまをする、ばかなまりさはゆっくりしんでいってね!」
側近の偽ありす、偽ぱちゅりーとともに勝利を確信する偽ドスまりさ。
いや、この勝利により、偽ではなく真のドスまりさになろうとしていた。


上空に高々と打ち上げられた真ドスまりさ。
通常のサイズのゆっくりがそうするように、息を大きく吸い込み、その身を風船のように膨らませていた。

「ぎゃはは、むだだよ! じぶんのおろかさをのろっていってね!」 偽ドスまりさの取り巻きもはしゃぐ。
真ドスまりさに勝利されては、自分達の身も危ういかもしれないのだ。
よくても、群れの連中からは蔑まれるであろうことは簡単に予想できた。


健闘むなしく、勢いを殺すこともできず、ただただ落下する真ドスまりさ。
いよいよその身が地面に衝突しようという瞬間。
まわりのゆっくり達はその衝撃に耐えるべく身構えた。勝利の瞬間である。
しかし真ドスまりさの目は死んでいなかった。

身構えた 取り巻きゆっくり達を襲う強烈な突風。
瞬間、真ドスまりさの身がふわっと浮き始める。
大量に吸い込んだ空気を、着地直前に地面に向って吹き出し、逆噴射したのである。
偽ドスまりさの必殺技は、難なくかわされてしまった。


たじろぐ偽ドスまりさ。
すかさず懐に飛び込む真ドスまりさ。
今度は偽ドスまりさがアッパーカットを食らう番となった。

「ゆ”っ! ゆ”っ! ゆ”っ! ゆ”っ!」
突き上げられる偽ドスまりさ。しかし、その顔には冷静な笑みが戻っていた。
「おなじようにやればたすかるよ! やっぱりまりさはおろかものだぜ!」
攻撃を受けているにも関わらず、げらげらと笑いだす偽ドスまりさ。

しかし偽ドスまりさの高い高いとは決定的に違う点があった。
高い。本当に高い。
ただ巨体に任せて他のゆっくり達に無言の圧力をかけ、自分達だけでゆっくりした生活を送っていた偽ドスまりさ。
一方、常に他のゆっくり達のために働き続け、動き続け、戦い続けてきた真ドスまりさ。
その差がここにきてはっきりとあらわれていたのである。

真ドスまりさがその場から退く。
それを確認した偽ドスまりさは、少し嫌な予感を感じながらも、大きく息を吸い込み、口を閉じ、自らの身を風船状に
……できなかった。
落下の始まった偽ドスまりさの背後に、いつの間にか真ドスまりさが回りこんでいたのである。

偽ドスまりさの頬に噛み付き、引っ張り上げる真ドスまりさ。
「う”う”う”う”う”! ほっほほはなふんだぜ! ふふらめないんらぜ!」
(ゆ”ゆ”ゆ”ゆ”ゆ”! とっととはなすんだぜ! ふくらめないんだぜ!)
徐々に迫る大地。衝突の恐怖に涙目を浮かべはじめる偽ドスまりさ。
しかしその口調は未だに強気の物であった。

もちろん、真ドスまりさがこれを放すわけがない。
このまま落下すれば、自らの身もただでは済まない。だが、この偽ドスまりさの事を生かしておくことだけはできなかった。
怒りの対象は後ろ髪に結ばれたリボン。ゆっくり達の遺品の数々である。
ただでさえ、自分の名を騙り、それを利用して暴利を貪った偽ドスまりさ。
しかも、そのために数々のゆっくり達の遺品を利用したというのだ。
これは死んだゆっくり達への冒涜以外の何者でもない。

それを考えると、自然と頬を噛む力も強くなる。
「はめへへ! はなひへね!」
(やめてね! はなしてね!)
 必死に懇願を始める偽ドスまりさ。
必死すぎて「だぜ」口調を忘れている。これもまたドスまりさを装うためのフェイクだったのである。

偽ドスまりさの懇願は続く。
「は、はふへへね! はひふほはふひーにほほのははへへ、ふひはひはらはれはんはほ! はひはははふふはひほ!」
(た、たすけてね! ありすとぱちゅりーにそそのかされて、むりやりやらされたんだよ! まりさはわるくないよ!)
噛む力が強くなったため、いよいよその言葉も何を言っているかわからない。

しかし真ドスまりさには伝わっていた。こういう時にこういう卑劣なゆっくりが発する言葉なんてわかりきっているのだ。
『いけないなぁ、とものことをわるくいっては』 頬から伝わる振動。
偽ドスまりさは恐怖であがくことすらできなかった。

激突。
2匹のドスまりさの体重が、偽ドスまりさの顔面上部に圧し掛かる。
偽ドスまりさの餡子が身体の底面方向に寄せられていき、異常に膨らみ、そして爆ぜた。
その両目はつぶされ、身体底面の破れた箇所からは餡子が滝のように噴出した。

とはいえ、真ドスまりさもただではすまない。
衝撃で頬に切り目がはいり、餡子が噴出す。
駆け寄るありすとぱちゅりーは、すかさず頬に薬草をはりつけ、餡子の流出を防ぐ。
薬草には小麦を水で溶いたものが塗ってあり、ゆっくりの外傷を塞ぐにはもってこいの物であった。
薬草は人間が作った物であり、人間との信頼の証でもあった。

どうにか傷は塞がり、よたよたと立ち上がる真ドスまりさ。
ありすとぱちゅりーが付き添い、ゆっくり達の群れに向っていく。
偽ドスまりさを倒した後も、やることはあるのだ。
ゆっくり達のためにならない間違った教育や生活。
その軌道修正を行い、群れを存続させるよう導くのが、真のドスまりさのお仕事なのである。


一方の偽ドスまりさの所にも偽ありすと偽ぱちゅりー、そして取り巻き達が集まっていた。
負けたとはいえ、自分達の指導者であった者。その身を案ずるのは当然のことである。

……はずであったが、現実は違った。
我先にと偽ドスまりさの餡子を貪り食う取り巻きゆっくり達。
少しでも偽ドスまりさの力を自らの物にしようという、浅ましい考えがこの場を支配していた。

「むきゅ! まったくやくたたずね!」 口の周りに餡子をつけた偽ぱちゅりーが言う。
「まったく、いなかものはこれだからこまるわね!」 同じく餡子をつけた偽ありすが言う。
嵐のごとく餡子を貪る取り巻きゆっくり達。その餡子は元の半分程度まで減少していた。

「……こ、…………ね」
「ん? ぱちゅりー、何か言った?」 どこからか聞こえた声に偽ありすが回りを見渡す。

「むきゅ?きのせいじゃないの?」 偽ぱちゅりーは気にせず餡子を食べ続ける。と言っても、そろそろ満腹なのではあるが。

「…んこ、………てね」
「むきゅ?」 今度は偽ぱちゅりーにも聞こえた。
満腹になった取り巻き達も気づき、周囲の警戒を行う。

突如、取り巻きゆっくり達の背後に立ち上がる、山のような影。
偽ドスまりさの躯。いや躯と思われていた物。
目から上はつぶれ、底面からは餡子が漏れ出していたが、なおも息は残っていた。
「あんこ、かえじでねええええええええ!!!!」

口だけとなった化け物が、取り巻きゆっくり達に噛み付き、咀嚼する。
飲み込まれたゆっくりは、バラバラにされて底面から放出されていく。
偽ドスまりさはいくら食べようとも、もはや栄養を吸収できる状態ではないのだ。しかし生への執着がさらに食を進める。

餡子を食べて満腹となったゆっくり達は逃げる術を持たなかった。
次々と化け物に食い尽くされる取り巻きゆっくり達。
「「いやあああああ!」」 「「た、たずげで……!」」
「「なんでこんなごどずるのおおおおおおお!?」
自らの行いも省みずに、断末魔を上げていく取り巻きゆっくり達。

口だけの化け物は最後に残った偽ありすと偽ぱちゅりーに噛み付いた。
「むぎゅ!」
「やめで、どがいはのありすはおいじぐないわよ!」
潰れながら言う2匹。

しかし咀嚼には至らない。
群れの中でのゆっくり生活が、2匹の皮をより強固な物にしていたのだ。
口だけの化け物は、2匹を噛み切ることができずに、ついに力尽きた。
瓢箪状に変形しながらも、バラバラにされることだけはどうにか避けられた2匹。
「むぎゅ、むぎゅ! はなじでっ!」
「ゆ! どれないっ! どっかいっで!」
しかし口だけの化け物の巨体。その歯に挟まれただけで、2匹のゆっくり達は動くことも適わなかったのである。

「ゆゆ!?」 偽ありすは頬に何かが通るのを感じる。
それは蟻の大群であった。気がつけば他の虫達が周囲に集り出していた。
偽ドスまりさの餡子の香りを嗅ぎつけてやってきたのである。

鳥肌の立つ偽ぱちゅりー。その虫の光景が気味悪かったからではない。
瓢箪状になった身体の後部に虫が大量に集っていたのだ。
頑丈な皮を、どうにか破ろうとつつき始める虫達。
気がつけば偽ありすも同じような状態になっていた。
偽ドスまりさが流出した大量の餡子があるとはいえ、それを上回る大量の虫が集っているのである。
せめて欲張って餡子を食べ過ぎなければ、もう少し時間が稼げていただろうに。


「や、やめてね! あっちいってね!」
必死に抵抗するありすだったが、後部からの攻撃になす術があるはずもない。
2匹は、ただただ、されるがままの状態に陥っていた。
「いいいやあああああ!」
「むぎゅうううううう!」

それから3日後、2匹の皮は破られた。
幸い、口だけの化け物の歯に押さえつけられているおかげで、餡子の流出により死に至ることは無かった。
しかし、もはや詰みである。脱出=餡子の流出による死が確定したいた。
2匹はその身体の丈夫さゆえに、生きたまま少しずつ食われていく地獄を延々と味わうこととなった。

1週間後、一件が起きた野原には大量のリボンだけが残されていた。
色とりどりのそれは、まるで太陽の花畑のような美しさを放っていた。

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最終更新:2022年05月19日 15:17