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「私は赤沼三郎だ」

 赤沼三郎、参加者X
 彼の正体が津雲先生と水沢利緒にも気になってくる頃合いだった。
 それは頑なに覆面を被り、「私は赤沼三郎だ」と言い張る赤沼の事が、いい加減に無礼に感じたのである。

「私は赤沼三郎だ」

「そろそろ覆面を取ったらどうなんです? 失礼じゃないですか」

「私は赤沼三郎だ」

「いい加減にしてください! いつもいつもそればっかりで……!」

「私は赤沼三郎だ」

「ずっとそんな事を言い続けるのなら、こちらにも考えがありますよ!」

 津雲は、怒りに震えて赤沼の覆面に手をかけた。
 強引にその覆面を剥いで、赤沼の姿を見つけようとしたのである。
 そんな手段を使ってまで、赤沼の正体を気にかけた津雲の気持ちはわからなくはない。
 殺し合いの最中、ひたすら無口に隣にいた赤沼が、その態度に加えて覆面を被り続けたのである。
 その瞳が一体何を映しているのか、津雲には気になって仕方がなかったのだろう。

「私は赤沼三郎だ」

 しかし、そうして津雲が覆面を剥いでも、その下にあるのは赤沼の黒い覆面があった。
 覆面の下に覆面を被っていたのだ。
 目の前の相手が狂人だと認識して、津雲は恐怖した。
 だが、それで津雲は諦めなかった。

「こんなもの……!」

 更にその覆面を剥ごうとする。

「私は赤沼三郎だ」


 その下には覆面があった。

「こんなもの……!!」

 更にその覆面を剥ごうとする。

「私は赤沼三郎だ」


 その下には覆面があった。

「こんなもの……!!!!」

 更にその覆面を剥ごうとする。





 そんな事をずっと繰り返してきた。





 そして、ある覆面を剥がした時、赤沼三郎はそこにはいなかった。
 覆面が覆面を多重に被って人のふりをして動いていたかのように、赤沼三郎に正体はなかった。
 覆面の下の覆面、それをひたすらに剥ぎ続けると、そこにはもう、何もなかった。

 何もない。

 しいて言うのなら、それが赤沼の正体だったのだ。

「ハハハハハッ、赤沼三郎なんていうものはなかったんだ! 赤沼三郎なんていうものはなかったんだ!」

 津雲は高笑いをしながら、自らを囲う鏡を見た。
 すると、そこには赤沼三郎があった。
 思わず、津雲はその鏡に触れたが、その鏡の中の赤沼は津雲と同じように津雲に触れていた。
 はっとして、津雲は己の顔に触れた。
 そこには、柔らかい布の感触があった。

「私が赤沼三郎だったのか……?」

 気づいた。
 そう、津雲こそが赤沼だったのだ。
 赤沼の正体が何もなかったのではなく、津雲が赤沼だった。
 だから、何もないように見えたのだった。

「私は、赤沼三郎だ」

 赤沼三郎……。
 思わずそんな声が出た。

「違う、違うんだ……私は津雲成人だ……」

 津雲は、思わず、自らの被っている覆面を剥いでいた。
 ひたすら、ひたすらに剥いでいた。
 覆面の下には覆面があった。
 その覆面も剥ぎ続けた。
 そして、最後の一枚に手をかけた。

「これで……津雲成人に戻れる……」

 そう思って、津雲は自分の手で最後の覆面を剥いだ。





 そこには、もう、何もなかった。
 そんな一人芝居を、彼らはただただ見守っていた。






【赤沼三郎@飛騨からくり屋敷殺人事件 死亡】
【津雲成人@不動高校学園祭殺人事件 死亡】

【残り36人】




【一日目/午前/鏡迷宮@鏡迷宮の殺人】


【水沢利緒@魔犬の森の殺人】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
基本:殺し合いから脱出する。
[備考]
※参戦時期は、死亡後。


【狩谷純@金田一少年の決死行】
[状態]全身の成長痛、大声が出ない。思考は比較的冷静
[装備]ランダム支給品0~2
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
基本:生き残り脱出したい。
[備考]
※参戦時期は事件後



041:Sick or Victory 時系列 044:怪物、吠える(前編)
041:Sick or Victory 投下順 043:裁き、戒と
030:参加者X 赤沼三郎 GAME OVER
030:参加者X 津雲成人 GAME OVER
027:理由など無くても死ぬときには死ぬ 水沢RIO
022:鏡よ鏡 狩谷JUN

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最終更新:2018年04月15日 15:12