「神子柴ァッ!!!」

曇天の雲を突き抜けんばかりの怒号が雨の中に迸る。

「よくも……よくもこんな……!」

少女は知っている。あの神子柴という老婆を。人でありながら人でなしの、吐き気を催す邪悪の存在を
かの外道は自らの欲の為に巫(かんなぎ)を犠牲にし続け、その罪を精算することもなくほぼ逃げ勝ちの形で自決した

だが、その外道こと神子柴は生きていた。どんな手段で蘇ったか、そもそもあの時の自決は嘘だったのか、感情のままに叫ぶ少女――時女一族の巫こと魔法少女『時女静香』には窺い知れない

「よくも、母さんを……!」

それ以前に、彼女が荒れている理由にはもう一つ。神子柴に逆らい彼女を止めようとした薙刀の女性。その女性は紛れもない時女静香の母親だったからだ
最も、その彼女は殺された後に一度蘇ったのだが、そもそもの話母親が目の前で殺された当所は茫然自失という所だったのでそれに気付かないのは仕方ない所もあるが

「……ッ!」

悲しみと怒りを心の奥底に飲み込み、邪念を振り払うが如く首を振り心機一転する
いつまでこうしてウジウジしていても何の解決にもならないし、何より

「……森嶋帆高と、天野陽菜」

――この二人。客観的に見れば二人もまた神子柴の企みに巻き込まれた被害者なことに変わりはない
然し映画で見た森嶋帆高が何も考えずに天野陽菜の所に向かったのであれば、他の殺し合いに反対する無辜の者たちすら危険に晒す
だからこそなるべく優先すべきは森嶋帆高を見つけること。彼を探さないことには何も始まらない

霧峰村の時はちはるとすなおの二人がいてくれたが、今はその二人はいない。そもそも都会という所へ初めて来た時女静香にとって雨以外の周りは何もかもが未知の産物だ

「……帆高って人がいるのはA-8。ここからじゃ遠すぎる……!」

運悪く静香がいる場所はC-2。まるで神子柴による嫌がらせとも言わんばかりに、森嶋帆高との初期位置とは遠くかけ離れている
だが、天野陽菜のいるE-1はA-8との距離はかなりのもの。急がなければいけない事には変わりないが、それとは別の意味で余裕がある
森嶋帆高が最短ルートでE-1まで行くと仮定して、そのルートに重なるであろう。ならばまず向かうのはB-4及びB-5。待ち伏せて捕まえる形になるがそれが一番最適だ

「……善は急げ、になるか」

そうと決まれば急げとばかりに駅のホーム内を猛スピードで駆ける。列車の騒音や到着のアナウンスが存在しない駅の内部は一層不気味だ。そもそも時女静香からすれば初めて『都会』というものがこういう形で経験することになるなんて思いもよらなかっただろう
こういう時に限って何かしらの災いが起きる。だがなるべくはそんなことが起きてほしくはないと思っていながら外へと繋がる駅の正面出入口へと向かう
だが、静香の心境とは裏腹に、彼女の視界に映ってしまったのは、常軌を逸する光景であった

○ ○ ○

――飼い犬はご主人さまに逆らえない、その言葉だけが全てであった

男性に寄生しては性欲と身体能力を高め強姦事件を引き起こす正体不明のウイルス性生命体《ファントム》、そして《ファントム》を倒す力を得た変身ヒロイン
その中で筆頭ヒロインとも称されたヒロイン省所属の変身ヒロイン、シルヴィアハート――
本名、御影寺凜音(ごえいじ りおん)

然して、駅のホームにいる今の彼女は変身ヒロインなどではなく、ただの雌奴隷だった
きっかけは些細な油断から捕まってしまった事から。それは自分を疎ましく思っていたヒロイン省所属の上司である笹部による醜悪な罠であった
密かに《ファントム》寄生者と手を組み、彼女を罠に嵌め、シルヴィアハートをただの家畜に堕とすため、シルヴィアハートのプライドを完膚無きまでに叩き壊すために。妹を事実上人質にされた彼女は、もはや笹部の言葉に逆らうことなど出来なかった

裏で作り上げられた変身ヒロインを家畜とするための姦獄牧場に投入させられた彼女は、度重なる調教によって壊され続けた。搾乳地獄、嫉妬からなる他の家畜との縄張り争い、Bランクに落とされてからの便女扱い。―――そして何より、彼女の心を砕き、社会的人生を完全終了させるに至ったあるきっかけ

始まりは笹部からの提案であった。「扱いを改める代わりに、牧場から逃げ出した変身ヒロインを拉致する」という内容
こんなゲス男に従う気など毛頭なかったが、他の変身ヒロインに付けられた首輪を爆破すると脅され、更に元の生活という甘い汁に誘われ、彼女は誘惑に負けてしまった

自分を虐げた他家畜への復讐、家畜としてまだまともな扱いのAランクへの復帰という名の欲望のままに、彼女は脱走した変身ヒロインを拉致し続けた

……それが彼女の社会的地位を完全に終わらせるための罠だということに気付いた時には、全てが手遅れあった

嘘のニュースによるでっち上げの罪、そして笹部の指示による国民の前での無様で惨めで情けない痴態の果てに、彼女は国民からの嫌われ者となった
妹から侮蔑の言葉とともに決別され、両親からは失望され、お隣から達は怒号混じりの罵倒を浴びせられ。御影寺凜音の変身ヒロインとしての人生は、余りにもあんまりすぎる形で終焉を迎えた

終焉の底はただの無限地獄。Bランクよりも過酷で悲惨な扱いをされるCランク。巨根の畜生に犯され、望まぬ出産で生まれた子は取り上げられ母としての幸せすら与えられない
完全に壊れた彼女は、ただただ家畜として性欲を貪るただの雌豚に成り下がったのだ


無限地獄の果てに開いた穴の先、未知の光景が広がっていた
とある少年と少女の物語である映画内容も、神子柴なる老婆が話した殺し合いのルールも、今のシルヴィアハートの耳に入っているかどうかすらも曖昧だった

「あは……は……」

奇跡的に思い出した、自分の人生が完全に終わったあの日。絶望の刻ばかりを思い出す
一時とはいえ地獄への逃避とこの身に焼き付いた性的欲求に負けた自分への罰

「あはは、あはははは……」

壊れたラジカセのごとく、乾いた笑い声のみを響かせる。自分は何もかも失った、女としてのプライドも、変身ヒロインとしての矜持も、御影寺凜音としての人生と家族を
今の自分はただの家畜でしか無い。崩壊した理性の中で、ただただ笑い続けるしか無かった

今彼女に付けられた首輪は、笹部による変身ヒロインとしての力を封じるものではなく、殺し合いの為に付けられた代物であり。封じられた変身ヒロインとしての力は事実上復活している事に彼女は気付かない
最も、もはや今の彼女には、優勝して全てを取り戻そうなどという思考すら思いつかないだろう

そんな彼女に、困惑の視線を向ける一人の男の存在を、この時の凜音はまだその存在を意識すらしていなかった


○ ○ ○

ある意味これはピンチでもありチャンスであった
死んで幽鬼と成り果てた自分がヨミガエリを果たす最大のチャンス

執行者共にボコボコにされ、復活の手立てを永遠に失ったと思えば、妙な映画に妙なババアに殺し合いのルール。しかも帆高とかいうのをなんとかすればどんな願いでも叶えてもらえるという大盤振る舞いだ

だが、話を聞くに先着で5名だ。そうなればさっさとあの帆高とかいうガキを殺して早く夢を叶えて貰う他ない――。それが、幽鬼カルネアデスこと、南羽新志の思考の全てであった

この南羽新志という男が人間態でこの駅のホームを彷徨い、最初に見かけた人物が何を隠そうシルヴィアハートこと御影寺凜音

「……なんだ、こりゃ」

見るも無惨な彼女の姿に対し、欲情以前に困惑の表情が浮かぶ
数多の穴から男たちの陵辱の証として注ぎ込まれた濃厚な精が溢れ出し、長い黒髪や顔面は精液でガビガビ。着ているグローブやソックスの中身まで白濁で穢されており、白い肌はもはや全身が白い雄汁でコーティングされてしまっている

「……牧場の、人?」
「誰だか知らんが、勿体ねぇ事をするもんだ」

凜音のうわ言を聞き流しながらも、上っ面だけとはいえ同情の言葉を溢す

「ま、どこかで男の恨みでも買ったってんなら、自業自得か?」
「も、もうしわけございません……おめぐみを、マゾ豚家畜のシルヴィアハートに淫乱子宮に男性様のおちんぽみるくをお恵みください……ぶひぃ……」
「……うわぁ」

もはや女の尊厳を投げ捨てた哀れな懇願に思わずドン引きする。南羽とて恨みのある女を壊したい願望こそあれど、ここまで壊してやりたいとまでは思っていない

(……いや、待てよ?)

本来ならこんなガラクタ女は放っておけばいいと思っていたが、ふと南羽の頭に妙案が浮かぶ
この様子だととにかく酷い目にあってきたという点しか察することが出来ないが、頭までご丁寧にぶっ壊されたのだ。……こいつは体の良い道具として使える
この女と出会う前、手っ取り早く力を手に入れれるという誘惑から説明をあまり確認せず食べた『指』のおかげで幽鬼としての自分の力も上がっているとはいえ、考慮の憂いはなるべく取り除いていたほうが良いであろう

「(こいつを使って同情誘ってっていう手も使えなくはねぇな。やばくなったら小衣の時見たく見捨てちまえばいいだけだ)……おい、メス豚」
「……は、い。なんでしょう、か……?」
「そんなにミルク恵んでほしいってんならこれから俺の言うことに従え。全てが終わったらお望み通りの扱いをしてやる」
「は、はぁい……」

南羽の言葉の裏に気付かぬまま、凜音は顔を赤らめ恍惚な表情を浮かぶ

(見りゃ見るほど、本当に豚じゃねぇか。気持ち悪ぃ……)

南羽は凜音への嫌悪の視線を隠そうとしない。だが、そんな事を知ってか知らずか凜音は南羽に縋り付くように手を地に付け四足歩行で歩き始める。さながら飼い主に従う犬のように
だが、南羽の視線に思わず発情してしまったのか、凜音の秘唇から生暖かい黄金水がアーチを描き放出される

「おい、誰が勝手に漏らしていいっつった!」

その醜態に怒りを見せ凜音の腹を思いっきり蹴り飛ばす。丸太のように転がった凜音の二つの穴からは今まで男たちや動物、合成獣から注ぎ込まれた濃厚な白濁液が衝撃で吹き出す

「……誰だか知らねぇが飼い犬の躾ぐらいちゃんとやがれ飼い主。ま、気持ちはわからんでもないけどな」

奴隷の醜態に主の躾がなってないと呆れると同時に、女をこのように屈服させたらさながら最高の気分だろうなぁと名も知らぬ女の飼い主に対し少しばかりの感情を向ける
横目を見れば「もうしわけございませんご主人さま」とボソボソと呟きながら起き上がろうとする凜音の姿
もはや呆れを通り越した心情が込み上げながらもこれからどこへ行こうかと模索しようとしたその時であった

「―――お前」
「……あ?」

南羽新志と御影寺凜音の前に、その魔法少女が現れたのは


○ ○ ○


その怒りは、燃え滾るマグマ、まさに大噴火を引き起こした活火山の用に膨れ上がっていた
人一倍正義感の強い時女静香にとって、目の前の光景は到底許せるものではなかった
――いや、絶対に許しておけるものではなかった

「――彼女を、どうするつもり?」

静寂を劈く程の冷たい怒りが南羽の耳に届く

「……何って、家畜をどう扱おうと人間様の勝手だろうが?」
「家畜、ですって……!」
「そうさ。どうにもこうにもこいつ、どっかで恨み買ったのか体の隅々まで満遍なくぶっ壊されたらしいからよ。俺様が有効活用してやろうって思ってんだ」

未だ起き上がろうにも液を放出した快楽の余韻で起き上がれぬ凜音を尻目に、下卑た笑みを浮かべながら静香に事情を説明する
それを聞き、凜音に一瞬視線を向けた静香が抱いたのはどうしようもない悲しみと怒りだ

「……そう。少しだけ安心したわ。あなたがどうしようもないクズ野郎って事が分かって」
「――気に入らねぇな、その目。俺を裏切りやがったあの女に似てやがる」

もはや敵意を隠そうともしない。否、隠す必要もない。この男を生かしておけば沢山の人が犠牲になるだろうから
そんな静香の思考を知ってか知らずか、かつての恋人であった不動寺小衣を思い出してか南羽新志は苛立ち始める

「時女の巫が一人、時女静香。――日ノ本の為、そしてこの少女のために、貴様という悪意を討伐させてもらう!」
「……やってみろよ年端も行かねぇガキが。大人の厳しさってのをその身に刻み込んでやるよ!」

叫びと共に、両者の姿は変化する
片や、紫を基調とした和装の魔法少女の姿。片や、青いマントを羽織り杖を持った異形の姿

変身完了と同時に、静香はその手に持った七支刀からは焔が、南羽新志もとい幽鬼カルネアデスの杖から魔力弾が発射、両者の攻撃は相殺され、爆発と共に煙が充満
カルネアデスが杖を振るい、煙を振り払えば静香の姿はない。いや、それだけではない

「……あのガキ!」

あのメス豚……御影寺凜音の姿までもが消えていた。然し追跡は容易い。先程あれが小便と白い液体をぶち撒けていたおかげで痕跡は残っている。それを追いかければいいだけだ




「……どう、して」

凜音は、久しぶりに感じる他者の思いやりに困惑していた
全てを失った彼女にとって罵倒と快楽と暴力だけが自分を構成する全てだと思っていた。だが、この少女は本気で自分を助けようとした。こんな家畜以下の雌豚を助けるなんてありえない。自分の評価は余りにも地に落ちて、誰も助ける人など居ないはずだと自覚していたからだ

「……あなたに何があったか、私にはわからないけど。でも、放ってなんて置けないから」

そんな疑問に満ちた視線を向ける凜音に、優しく微笑みながらも、羽毛を被せて応える静香の姿は、凜音にとっては余りにも眩しすぎた

「……なん、で。私には、もう家畜としての人生しか、残って、ないのに……。誰かに助けてもらう資格なんて、もうないのに……」
「あなたはここで待ってください。……大丈夫です、私だって巫として戦場を乗り越えた身です。そう簡単には倒されません」
「まっ……て……」

凜音の言葉が届く前に、静香は駆け足立ちに行ってしまった。その自信の溢れた姿に、忘れきったはずの記憶が蘇る
正義のヒロイン《シルヴィアハート》。自分が家畜となる前の人生。変身ヒロインとして、罪のない女性たちを助け続けた輝かしい人生。生きがいに満ち溢れていた人生
だが、それはもう戻ってこない。家畜として、便所として、雌豚として刻み込まれた快楽調教の傷はもはやどうしようもないものだ
けれども、凜音が気付かぬ内に、砕けたプライドのカケラが、自分を助けてくれた少女の凛々しさを機に再び組み直され始めている

「……くや、しい……」

思わず涙を流し、自分の不甲斐なさを悔やんだその言葉は、紛れもない変身聖姫シルヴィアハートとしての心のカケラ

「わた、くし、は………!」
「……おい」

思いが零れそうになった時、その『彼女』は凜音の前に現れた


痕跡を辿り、追いかけて来たカルデアネスと魔法少女、時女静香の戦い

「てめぇも無駄な事をするもんだな! あんな女助けた所で何の意味もねぇってのに! またどっかで男相手にケツ振って快楽貪ってんだろうよ!」
「無駄かどうかなんてどうでもいい! 私は私が助けたいと思ったからそうしただけ!」
「調子こいてんじゃねぇぞ偽善者が!」

杖と七支刀の鍔迫り合い。距離をとっての飛び道具の打ち合い。実力は互角……否

「……随分しぶてぇなガキ。……が、これを相手しながらは流石にきついんじゃねぇのか?」
「くっ……!」

実際は静香の方が不利。その理由はカルネアデスが召喚した四足歩行の怪物が原因であった
ルクレチウス――動きの鈍さを補う怪力とタフネスさを持つ中型の幽鬼
これを盾代わりとして自身は後方に徹するのがカルネアデスの必勝パターン。1体しか呼び出せないという制限こそあるものの、やられてても力が続く限りは何回でも呼び出せる
最も、カルネアデスが食べた『指』のおかげで本来よりも出力が上がっているのも彼が静香相手に有利に戦えている理由の一員でもあるのだが

(この男……立ち回りが上手い!)

近距離遠距離戦では埒が明かないということで召喚されたルクレチウス、静香からすれば倒せないわけでもない相手ではあるが、距離をとってルクレチウスの援護に徹するカルネアデスた兎に角厄介であった
しかも倒しても倒してもすぐまた次が呼び出されて厄介この上ない。しかもそれを相手自身が自覚している為か動きが最適化されており追跡は困難

(……こうなったら)

だが、手詰まりというわけではない。マギアの広範囲攻撃で目の前の怪物毎ごと一掃。幸いにも例の彼女がいる場所は攻撃範囲外。ルクレチウスの攻撃を避けると同時に後方に退き、七支刀を構える
それを確認したカルネアデスが取った行動は杖の投擲。勿論妨害してくることは予測できていたため速度を落として回避。しかし

「……させるわけねぇだろバーカ」

カルネアデスの言葉と共に、地面に突き刺さった杖の周辺に陣らしきものが展開。ギリギリで避けた事が仇となり陣の内に入り込んでいた静香は放たれた紫の光を浴び、身体が麻痺してしまう

(杖を投げたのは悪足掻きじゃなくて陣の構築の為……! しまっ、動けな……)

気付いた時には既に遅し、杖は瞬く間にカルネアデスの手元に戻り、静香の正面には豪腕を振りかざすルクレチウスの姿
振りかざされた拳は静香の腹部を大きく凹まし、くの字のまま壁まで殴り飛ばされる

「ごはぁ!!」

衝撃が全身に伝搬し、骨が軋む。何本骨折したかわからない。七支刀を足場代わりになんとか立ち上がるも、先程の麻痺もあってかまともに身体を動かせない

「……こいつの拳はよく効くだろぉ?」
「……あ……ぐぅ……」

今の状況は、間違いなく時女静香の圧倒的不利であった

○ ○ ○

凜音の姿を物珍しそうな目つきで見つめる、五寸釘と金槌を携えた、黒い学ランの女性。

「ねぇ、さっきから騒がしいんだけど、何かあったのか? つーかなんでソックスとグローブだけ?」
「え、あ、え……? 実、は……」

女とは到底思えない男勝りな口調に戸惑うも、別に話さない理由も無いので喋る

「私を助ける為に、知らない人が……」
「あーそういうこと。それで誰かさんがドンパチやってるわけ、で、アンタはどうするのよ?」
「……え」
「だからアンタはどうすんのよって聞いてんのよ?」
「……」

女性からの予想外の質問に凜音は口ごもる。今の自分に何が出来る? 何も出来ないただの雌豚に

「何が、出来るの……私に……」
「あ?」
「何もかも失った私に、落ちぶれてただの雌豚家畜に成り下がった私に……」

そう、凜音には何も残っていない。彼女の人生は既に何もかも終わった。終わった果ての地獄で男の性欲を満たすだけの家畜として飼われ続けるはずだった人生
それが何の因果かこんな所に呼ばれた。何をしたい? だったら何をすればいい? わかるわけなんて無い。そもそも……自分はもう何も出来ない。変身ヒロインとしての力を封じられた今の自分では

「……私の身体を見たら、わかるよね。こんなになって……軽蔑したでしょ。私はもう嫌われ者のレッテルを貼り付けられて、帰る場所なんてあの地獄以外の何も」
「……ああ、そうかよ」

凜音の言葉に、女性の表情が歪む。その顔は、侮蔑ではなく、彼女が思っている意味でもない『嫌悪』の。そして―――凜音は女性に思いっきり殴り飛ばされた

「あ――え―――」
「―――気に入らねぇ」

女性の表情に、嫌悪どころか怒りの感情が増える

「自分はもうただの雌豚だから何も出来ませんだ? 自分は全部失っただ? ……それで助けてくれた奴見捨てて自分だけで自己完結してんじゃねえよクソ女」
「―――あ」
「拳、見えてたでしょ? つまりてめぇは何も出来ねぇんじゃねぇ、勝手に諦めたふりして何もしないだけだろうが」
「そ、れ、は―――」
「こっちとらてめぇがどうやって生きていたか知らないけど、それ込みでも今のてめぇが気に入らねぇ。気に入らねぇから殴った。喝入れるために殴った。理由はそんだけよ」

女の言葉を聞いている内に、忘れていた記憶がポツンポツンと漏れ出し、思い出す
女の指摘に、自分が変身ヒロインだった感覚を思い出す
冷静になる……今付けられてる首輪は牧場の家畜に付けられているものではない。別の首輪。つまり変身ヒロインとしての力は封じられてなどいない
そんな事を考えていれば、不思議と自分の顔が雌の顔ではなくまともな顔になっている事に凜音は自覚する

「マシな顔できるじゃねぇか。ったく」
「……雌奴隷に対していきなり顔面パンチはきついですわ。まだたるみが抜けきっていないですのに」

口調も不思議と前の時に戻る。お嬢様学校の学生としての凛々しさに

「で、てめぇはまだその雌奴隷とやらのまま?」
「……さぁ。少なくとも今はまだかしら?」

女性の言葉に軽口を返すぐらいには元気を取り戻した。今の凜音は、雌豚家畜なのでは

「でも、今から始め直すのも、悪くないかもしれませんわね。どうせ人として一度終わってしまった身ですもの」

念じ、光を纏う。この格好では決まるものも決まらない。
光が止む。雄汁まみれだったはずの黒髪と白肌はその艶を取り戻し、変身ヒロインとしてのコスチュームを華麗にまとい―――

「……そんじゃま、てめぇの言った女ってやらを助けに行きますか」

女の言葉と同時に、正義の変身ヒロイン《シルヴィアハート》は復活を果たしたのだ

○ ○ ○

「はぁ……はぁ……」

時女静香は、絶体絶命であった。先の一撃で動きの制裁が欠け、ルクレチウスの拳やカルネアデスの飛び道具に当たり始めている。疲労もダメージも蓄積し、もはや攻撃を避けるだけでも精一杯。最終的には倒れ伏してこのザマだ

「……無駄に手こずらせやがって」

見下した態度を隠さぬままカルネアデスが静香へ近づき、ルクレチウスに命じ彼女の身体を持ち上げる
今の彼女に、ルクレチウスを振りほどく力すらもまともに残ってはいない

「今ここで俺様に土下座して無様に許しを請うなら、命だけは助けてやってもいいんだがな」
「……誰が、そんな事を……!」

カルネアデスの誘いに、確固たる意思を以て拒絶する。例えこの身尽きようと、悪鬼に堕ちようと、最後まで世の為・人の為に戦う事が時女静香にとっての揺るぎなき信念
このままやられるならばせめて同士討ち覚悟の自爆などと考えている。友人たちを悲しませてしまうという心残りはあった。だがこのまま目の前の邪悪によって体よく利用されるよりは……

――だが、静香がその選択をする必要はなくなった。なぜならば

「シルヴィア・フレイム!!」
「―――!」

聞こえた声とともに、どこからともなく放射された炎に包まれ、ルクレチウスの身体が燃える。その隙を突き、残った力を使い離さなかった七支刀でルクレチウスの腕を切断し拘束から脱出
逃さんとばかりにカルネアデスた飛び道具を放つも、横から放たれた炎によって消滅させられる。着地の際によろけた静香を支えるように受け止めたのは黒髪靡かせた一人の変身ヒロイン

「あな、たは」
「……先程は見苦しい所をお見せしましたわね」

それは、先程静香が安全な場所へ誘導した少女、御影寺凜音。然しさっきまでの彼女と違い、まるで魔法少女のような、というよりも変身ヒロインみたいなコスチュームに身を包み、その姿に一種の気品さを感じさせる、完全に人違いですかと言われても仕方のない立ち姿

「て、てめぇ……!」

今の凜音の姿に一番驚いたのはカルネアデス。先程までただの雌豚だった女がこんな力を秘めていたなんて思いもよらなかった

「……だ、だが、いくらてめぇた戦える奴だとしてだ。俺様の優勢は何ら代わりねぇんだよ!」

燃え尽きたルクレチウスを尻目に、再びルクレチウスを召喚し凜音――シルヴィアハートへと襲いかからせる

「あら、そうかしら? ……じゃあ背後には気をつけたほうがいいわよ?」
「何だと?」

シルヴィアハートの言葉にカルネアデスが後ろを振り向けば、身体に刺さった一本の釘。そして――

「がぁぁぁぁぁ!」

釘を介して何かが流し込まれ、カルネアデスの右腕が弾け飛ぶ。それと同時ルクレチウスの拳を受け止め地面に突き刺した後、シルヴィアハートの炎をまとった拳がルクレチウスの身体を貫通し、消滅させる
弾け飛んだ右腕が、シルヴィアハートの背後から現れた学ランの女性がキャッチした


「クソがっ! クソがっ! クソがァァァっ!」

たった一人の増援がきっかけで優勢だったはずの自分の状況が覆されたことに動揺し、激痛にのたうち回りがら狼狽えるカルネアデス
おそらく釘を撃ち込まれたのはルクレチウスが雌豚だったはずの女に撃破されたと同時。そして釘を打ち込んだのはあの学ラン女。
もはや重症を負った上でルクレチウスがやられた以上、形勢逆転されたカルネアデスが取った行動は逃走

「……あいつ、逃げるつもりか!?」

あのままあの男を野放しにしておけばどこかで被害が出る。静香としては追いかけたいがダメージが響き動けない。だが、そんな彼女の心配を露知らずシルヴィアハート

「何も、問題はありませんわ。もうあの化け物は詰んでいますのよ」
「……え?」

その言葉に首を傾げる静香の傍らで、先の学ラン女性がカルネアデスの右腕に、懐から取り出したであろう藁人形にを置き、その手に五寸釘と金槌を構え

「――芻霊呪法『共鳴り』!」

右腕の残骸ごと、釘で藁人形を貫いた




それは、カルネアデスが逃げている時に起こった

「あがっ!!??? がっ―――!?」

自分の心臓を中心に身体を内側から穿つかの如く飛び出る無数の『釘』

「あがががっがががっ、ががががが――――――」

――芻霊呪法『共鳴り』
対象から欠損した一部を人形を通じて呪力を打ち込むことで、対象本体にダメージを与える術式。対象との実力差及び欠損部位の希少価値によって威力が変動するが、今やそんな事は関係ない
もはや、カルネアデスに生き延びるすべなど存在しないのだから

(こんな、こんな、事が、この俺様が、またしても、小娘なんかにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!)

内より湧き出る釘に貫かれながら、幽鬼カルネアデスの魂はその悪意諸共、取り込んだ指を地面に残し、弾け飛んだ

【南羽新志@CRYSTAR -クライスタ- 死亡】


○ ○ ○

「……改めてお礼と自己紹介を。私の名前は御影寺凜音。ヒロイン省所属の変身ヒロイン《シルヴィアハート》。……と言っても、罠に嵌り醜態を晒した挙げ句さっきまでの雌家畜でしたけれど」
「私は時女静香。霧峰村の巫……魔法少女って言ったほうが正しいかな。……で、そこのあなたは?」
「釘崎野薔薇。変身ヒロインとか魔法少女とかってのは知らないけど、巫って言い方されると田舎臭いわね、なんていうか」
「まあ、村の外に出るがこれで初めてになっちゃいましたし……。釘崎さんって、田舎を毛嫌いとかしているのかな?」
「……まあ、な。だけど、今はノータッチで頼む、魔法少女」
「……釘崎さん、でしたわよね。あの時はありがとうございますわ。それに、あの時のげんこつよく効きましたわよ」
「だいぶまともな面構えになったじゃねぇか。そういうのでいいんだよ。もう二度と、自分を雌豚なんかと卑下する必要もねぇっての」

簡単な自己紹介を終え、今後の方針を考える。三人の共通思考としてはあの神子柴を止めることとと森嶋帆高を見つけることだったためか、三人で行動することはもはや決定事項となったのであった


神の見えざる手――家畜にまで落ちぶれたはずの少女は、一人の魔法少女の決意と、一人の呪術師の気まぐれによって救われた

神在きこの舞台において、神の見えざる手はどこかへ届く

【時女静香@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝】
[状態]:魔法少女姿、負傷(中)、身体のいたる所骨折(中)、疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:神子柴を止める
1:凜音、野薔薇と共に行動する
2:森嶋帆高を探す

※参戦時期は最低でも都会へ出る前
※空間停止の魔法にはある程度制限が掛かっています


【御影寺凜音@変身聖姫シルヴィアハート ~家畜となった敗北ヒロイン~】
[状態]:変身ヒロインの姿、健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:変身ヒロインとして、この催しを終わらせる
1:静香、野薔薇と共に行動する
2:森嶋帆高を探す
3:もう二度と折れたりなんかしない

※参戦時期は終章後
※快楽堕ちから復活しました

【釘崎野薔薇@呪術廻戦】
[状態]:
[装備]:五寸釘(ストック残り???)、金槌、藁人形(ストック残り???)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:あのクソババァをとっ捕まえてクソ下らない催しを終わらせる
1:静香、凜音と共に行動する
2:森嶋帆高をとっ捕まえる

※五寸釘と藁人形の残りストックは後続の書き手にお任せします
※参戦時期は最低でも交流戦後

○ ○ ○

「……予想外の拾い物とするとは思わなかったぞ」

残された『指』を拾い、呟くは1つ目の異形

百年の荒野を待たずして、かのものは蘇り大地へと降り立った

死した自分がなぜここにいるのかなどは検討もつかない

かの呪霊は言った。自分には'飢え'が足りなかったと

ならば良し。理想のためならば、未来を焼き捨ててまで、手に入れてやろう



【漏瑚@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3、宿儺の指@呪術廻戦
[思考・状況]
基本方針:どんな手を使ってでも理想を手にする
1:???

※参戦時期は死亡後

【宿儺の指@呪術廻戦】
特級呪霊・両面宿儺の20本の指の屍蝋のうちの1本、特級呪物。通称「宿儺の指」
1000年前の呪術全盛の時代に宿儺を封印した物
最強の呪物の一つであり、宿儺の指を取り込んだ一般呪霊を特級に進化させるほどの力を持つ
人間が取り込むことで宿儺をその身に受肉させることもできるが、指自体が猛毒のため、取り込んだ人間はほぼ確実に死亡する。また肉体が耐えられたとしても精神が宿儺に支配される。残りの指も会場の何処かにあるかもしれない
最終更新:2021年01月30日 18:49