中学校。
本来は勉学や部活動に励むや生徒がいるはずの場所だが、人っ子一人見当たらない。
それもそのはず。
この学校が存在するのは、神子柴が用意したバトルロワイアルの会場。
あくまで施設の一つとして設置されたこの場所に、余計な人間は必要ない。

そんな無人の校舎に、足音が響く。
荒い息遣いと共に廊下を走っているのは2人の少女。
黒髪の少女が年下と思われる少女の手を引き走っていた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…!」

黒髪の少女、黒澤ダイヤに普段の凛とした表情は無く、明確な焦りが現れている。
手を引かれている少女、黒澤ルビィの顔にはハッキリとした怯えがあった。

姉妹揃って浦女にいたはずなのに、気が付けば見知らぬ場所で映画を見ていて、
映画が中途半端な所で終わったかと思えば、老婆から映画の主人公である少年を殺せと命じられた。
その後で女性が殺されてパニックになったが、急に意識が遠ざかり、見知らぬどこかの校舎内に放り出されていた。
幸いお互いのスタート地点が近かったのか、直ぐに再会できたが。

怯えるルビィを慰めながらも、ダイヤ自身困惑していた。
悪い夢だと思いたいが、それにしてはリアリティがあり過ぎるし、目の前にいるのは正真正銘本物のかわいい妹だ。
どこかに腰を落ち着けて考える時間が必要だと思った。

その時だった。
“あの男”が現れたのは。

この異常事態にも関わらず悠々と歩いてきた男を見た瞬間、ダイヤは動けなくなった。
圧倒的な、同時にに怖気が走る程のおぞましい存在感。
18年間生きて来たが、これ程までに得体の知れない人間は見た事が無い。
いや、そもそもこの男は本当に人間なのか?
そんな馬鹿げた疑問が浮かぶ程に、目の前の男からは尋常でない『圧』が放たれていた。

「お、お姉ちゃ……」

か細い妹の声にハッとする。
見ればルビィも男の威圧感にやられたのか、顔面蒼白で震えている。
それを見た瞬間、ダイヤは妹の手を引いて走り出した。
男が何者なのかは分からないが、あのまま留まっていてはいけない。
逃げなければいけないと、咄嗟にそう思っての行動だった。

廊下を抜け、階段を駆け下り一階を目指す。
息を切らせながらも入口に辿り着いた。
だが、不運な事に鍵が閉まっており出入りが出来なくなっていた。

「そんな…!?」

押しても引いても扉はびくともしない。
ここが駄目なら非常口を探そうとしたが、背後から足音が聞こえて来た。
あの男に追いつかれる。
そう思ったダイヤは、咄嗟に目に入った部屋に飛び込んだ。

そこは職員室だった。
多くの教員机の上には書類や教員の私物が散らばっており、まるでついさっきまで人がいたような雰囲気があった。
ダイヤは一番奥の教員机の下に、ルビィと共に身を隠した。

姉に抱きしめられて縮こまっているルビィは、今にも泣き出しそうになっている。

「大丈夫、大丈夫ですわ……」

少しでも妹を安心させようと強く抱きしめる。

ガラリ、と職員室の扉が開かれた。

心臓が跳ね上がり声が漏れそうになるのを必死に抑える。

カツ、カツ、カツ、カツ

足音が部屋に響く。
段々と2人が隠れている机に近付いて来る。

だが、何故か直前でピタリと止めた。
2人がじっと息を潜めていると足音は遠ざかって行き、再度扉を開き出て行った。

シーーン

暫く待ってみたが、もう足音は聞こえない。

(助かった…?)

恐る恐る顔を出そうと腰を浮かせかけた時、


ガッ


身を潜めていた教員机が、勢いよく持ち上げられた。

「ハッ、鬼ごっこの次はかくれんぼか?」

そう言って、男は片手で持ち上げていた教員机をポイッと放り投げる。

異様な男だった。

黒いコートを着た白髪の、まだ年若く見える顔立ち。
その肌は病的なまでに白く、口からはギラギラと尖った牙が覗いている。

怯える少女達を見下ろしながら、男は嗤う。

「ただ逃げ惑うだけのつまらん人間だが、女ならば幾らか楽しみようはあるか」

ルビィ抱きしめながら、男をキッと睨みつける。
腕の中ではルビィが小さく「お姉ちゃん…」と、震える声を漏らした。

ス、と。
男が笑みを消し、何かを考える仕草を見せた。

「そうか、妹か…」

小さく呟いたかと思えば、再度ダイヤ達へ視線を戻す。
顔に浮かんだ笑みは、先ほどよりも醜悪に見えた。

「きゃぁっ!!」
「お、お姉ちゃん…!」

男はダイヤの首を掴み軽々と持ち上げた。
必死に藻掻く少女に顔を近づける。

「そこの貧相なガキではなくお前にするつもりだったが、気が変わった」

言うや否や先ほどの教員机と同じ感覚でダイヤを放り投げる。

「っあ……」

受け身を取ることもできずに、頭から壁に叩きつけられる。
視界が酷くフラつく。ルビィの泣き叫ぶ声がいやに遠く聞こえる。
倒れている場合ではない、ルビィを助けなければ。
そんな考えとは裏腹に体中から力が抜けていく。

徐々に意識が薄れる中で最後に見たのは、妹の泣き顔と、男の笑みだった。


◆◇◆

音が聞こえる。

何かを打ち付けているような音が。

それが一定のリズムで響いている。

何の音だろう?

それに何だか頭が痛い。

痛みに顔を顰めると、徐々に意識がハッキリしてきた。

同時に音も良く聞こえてくる。

何だろう、肌を叩いているようにも聞こえる。

…違う。

今は音の正体や頭の痛みよりも大事な事がある。

そう。

大事な妹の――


「ルビィ!?」

意識が覚醒すると同時に、頭の鈍痛も酷くなった。
だが今のダイヤにとってそんな事は二の次だ。
あの男に気絶させられている間、妹はどうなったのか?
焦る心のまま、先ほどからずっと音がしている方へ顔を向ける。


そして見てしまった。

「――――」


ドビュッ

「こんな餓鬼でもそれなりに楽しめるものだな」

自らのイチモツを曝け出した男。

「ん?丁度いいタイミングで起きたじゃないか」

虚ろな顔で横たわる少女。
身に着けているものは髪を結うリボンと黒のソックスくらいであり、幼さの残る裸体が晒されている。
赤い血の混じったドロドロとした白い液体が、秘部から溢れ出し床を汚しているのを見た瞬間、

「あ……」

全てを理解した。


「お前ぇえええええええええええええええええええぇぇぇぇえええエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!」

絶叫と共に飛び掛かろうとしたが、呆気なく押さえ付けられる。

「予想通りの反応だな。いや、そうでなくてはつまらんが」
「ああああああああああああああ!!離せ!!よくも、よくも…!!」

拘束を解こうと暴れ回るが、男は力を全く緩めない。
怒り狂うダイヤへ、新しい玩具を見るかのような視線を向ける。

「私が憎いか?私が許せないか?私を殺したくてたまらないか?ならば、私を殺しに来い。少しでも私を楽しませてみせろ。それまで妹は生かしておいてやろう」

カラン

男はダイヤの目の前に刀を放る。
自身に支給されていたその刀をダイヤが手にしたらどうなるか。
そんな遊び心で自らの支給品を譲渡した。

「…ああ、まだ言っていなかったな」

血走った目で睨みつけるダイヤへ、邪悪な笑みを見せつける。

「私の名は雅。お前たち人間ではどう足掻こうと決して手の届かない、吸血鬼の長だ」

そう言うとダイヤを背後に投げつけた。
先ほどよりも力を抑えている為気絶はしなかったものの、ダイヤは痛みに思わず呻く。
その隙に未だ放心しているルビィを引っ掴み、ガラス窓をぶち破って去って行く。

「待ちなさいっ!」

人間離れした脚力で、あっという間に二人は遠ざかって行った
静止する声が職員室に空しく響く。

「許さない…!あの男だけは、絶対に…!!!」

今のダイヤには森嶋帆高と天野陽菜などどうでも良かった。
雅と名乗った男。
妹を汚したあいつは絶対に許さない。
何としてもあの男から妹を助け出す。

刀を拾い上げると割られた窓を飛び出し、ダイヤは脇目もふらずに走り出した。


【黒澤ダイヤ@ラブライブ!サンシャイン!!】
[状態]:頭部と背中に鈍痛、精神疲労(大)、憎悪
[装備]:紅桜@銀魂
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:雅からルビィを助け出す
1:雅を追いかける
[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期終了後。

【紅桜@銀魂】
鍛冶屋、村田鉄矢が鍛え上げた刀と機械兵器を融合させた刀。
人工知能を持ち、使用者に寄生して戦闘データを蓄積し進化する悪魔の兵器。


◇◆◇

ザー ザー ザー ザー

実に面白い事を考える老婆だ。
最初に観た映画は酷くつまらなかったが、この催しは悪くない。
参加者どもが血眼になって自分を殺しに来るこの状況で、森嶋帆高はどうするのだろうか。
或いはそんな連中から森嶋帆高を守ろうとする者も出てくるかもしれない。
そいつらがかち合ったら、人間らしい醜い争いが起こるのだろう。

日本を支配してからは退屈でつまらない毎日だった。
こんな面白い催しに招いてくれた事には礼を言ってやってもいい。

だが、この首輪はいただけない。
これで私を飼いならしたつもりか?
私を高みから見下ろし、支配者を気取っているのか?
今はそう思っていればいい。
どうせ長くは続かない。

この催しを飽きるまで遊んだ後は、神子柴よ、お前とも遊んでやろう。

さて、この娘はどうするか。

殺すのは容易いがそれではつまらんな。
吸血鬼にして姉に再会させてやるか、それか別の遊びを考えるか。
どうせ時間は十分ある。
焦る事も無いだろう。

…ああ、それにしても。

こんな面白い催しでも、やはりお前がいなくては物足りない。
今も昔も、私を最も楽しませてくれるのはお前なんだよ。
ここにお前もいるのなら、早く私の元に来い。
いないのならば、無理やりにでもこの会場に辿り着け。
たとえどんな場所だろうと、どれだけ困難な道だろうと。
私がいると知れば、お前は必ず私を殺す為にやって来る。

そうだろう?明。


【雅@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~5(ルビィの分も含む)
[思考・状況]
基本方針:やりたいようにやって楽しむ
1:明がいるのなら会いたい
2:この娘(ルビィ)はどうするか
3:さっきの女(ダイヤ)がどう動くか期待
[備考]
※参戦時期は48日後で精二を喰い殺した後。


どうしてこうなっちゃったんだろう。

スクールアイドルのレッスンをして。
花丸ちゃんや善子ちゃんとお喋りをして。
そんな風に、いつもの日常を過ごしていたのに。

ルビィ、これからどうなっちゃうのかな。
もっと酷いことをされちゃうのかな。

こんな汚れた体じゃ、もう皆には会えないのかな。

分かんない。
分かんないよ。

お姉ちゃん……。


【黒澤ルビィ@ラブライブ!サンシャイン!!】
[状態]:精神疲労(極大)、放心、ほぼ全裸
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:?????
0:……
[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期終了後。
最終更新:2021年01月31日 19:19