「これは売れるぞ……絶対売れる」
「売れるって、あんた……」
決してして大柄ではないが、体躯の良い髭を生やした悪人面の中年男が喜びの溜息を吐く。
それに対して、テーブルを挟み中年男の正面に座る長身で無精髭を生やした男が、呆れるように声を洩らす。
ここは森嶋帆高を巡るバトルロワイアル、その会場に設置された施設の一つ。
乱雑に積み上げられた本や資料、机に置かれた使い込まれたパソコン、それなりに整頓されたキッチン。
仕事場であり、生活感が溢れだすここは須賀圭介その人の事務所であった。
「間違いないよ。須賀さん、あんたの言ってた通り、神様は本当に居て陽菜ちゃんは生贄になったんだよ」
「……」
「少なくとも、その娘は消えたんだろ?」
「だからって……」
「そこで、あのババアがどう絡むのかは俺にも分かんねえけど……とにかく、神様はいる」
「……工藤さん」
中年男に語り掛けられているのはこの事務種の主、須賀圭介だ。
あの映画、今までの自分達に起きた出来事をダイジェストに纏めたかのような、
そんな、奇妙な映画を見せられた後に妙な殺人ゲームの開始を宣言され、気付けば見慣れた自分の事務所に居た。
あまりの異常時に混乱するも、須賀は周辺の様子を伺う為に外に飛び出し、この男と工藤仁と出会った。
工藤は映画の内容から、須賀の素性をある程度把握しており、何がどうなっているのか、説明を求めてきた。
須賀も混乱している自分を改めて落ち着かせる意味合いも兼ねて、事務所内であの天気の子と題された映画について大まかな説明をする。
少なくとも、天野陽菜の消息が途絶えたことは間違いないと。
そして工藤は一言、売れると言い出した。
「俺さ、コワすぎっていうDVD撮ってんだよ。簡単に言うと、心霊現象を検証してるドキュメンタリーなんだけど……」
「フェイクドキュメンタリーってやつですか?」
「いやマジもんだよ。ちょっと見てこれ」
「僕も是非拝見したいですねぇ」
ヌッとスーツを着こなした英国崩れのおっさんがソファーの陰から飛び出してきた。
「なんだこのおっさん!?」
「ああ、失礼」
工藤が目を見開き身構えるのをよそに、おっさんはスーツの内側に手を忍ばせる。
まさか銃ではないか。
どこぞの少年が銃を所持していた記憶から、須賀に緊張が走るが予想を裏切り出て来たのは一つの黒い手帳だった。
「警視庁特命係の、杉下右京といいます。
先ほどは大変失礼致しました。実に興味深いお話だったもので、つい聞き入ってしまいまして……」
それは工藤も須賀も何度か見たことがある警察手帳だった。
工藤に支給されたアイテムの一つが、今までにカメラに納めてきたコワすぎのDVDセットだった。
都合がいい事にここはライターの事務所だ。再生機器には困らない。
「僕、幽霊は信じていましたが……ンフッこんなビデオがあるのなら、もっと早くにお目に掛かりたかったものです」
流石に全てをフルで見る訳にはいかないので工藤がシーンを飛ばし飛ばし、重要な場面だけを見せたがそれだけでもある程度の内容は理解できた。
喜んで見ている右京の横で、須賀も怪訝そうにテレビ画面を見つめる。
確かに面白い。一見、低予算のフェイクドキュメンタリーだが話は練られていると思うし、怪異に対する民謡伝承の考証もしっかりはしている。
特にトイレの花子さん回は、タイムリープものとして完成度は高い。
「……これ怪異の場面、CGで誤魔化してんじゃ……」
「あのさ、須賀さん……もう認めようよ。
さっきのババアは人生き返らせてるし、実際に陽菜絡みでバトルロワイアルが起きてんだよ!
なあ? そう思うよな? 杉下さん!」
「須賀さんの語った陽菜さんが本当に天気の巫女であるかは別として、それを神子柴という老婆が信じているのは確かでしょうねぇ」
「……ん? そのビデオカメラ……ウチの?」
「ちょっと貸してくれよ」
何処からか持ってきたビデオカメラを片手に須賀たちを映そうとする工藤、まるで番組の収録のようだ。
「まさか、これ撮って売る気かあんた!」
「絶対に売れるからこれ、ちゃんと皆にも金は払うからさ」
嫌な予感はしていたが間違いない。
これは、この男はバトルロワイアルをカメラに収めてドキュメンタリーにするつもりだ。
「人が死ぬかもしれないってのに……!」
「モザイク入れるから……」
「そういう問題じゃ」
「あと俺、このバトルロワイアルから脱出する方法考えたんだよ」
「はいぃ?」
そう言うと工藤はビニール袋から薄汚い黒の飾り物を取り出す。
これは先ほどのDVDで嫌というほど見せられた。確か呪いの髪飾りだ。
本物の髪の毛で作られていると言っていたが、実物を目にすると一際不気味に見える。
「これ、帆高くんに着けてさ、陽菜ちゃんのとこ行って貰おうと思うんだよね」
「なに、言って……」
「天気の神様と呪いの髪飾り……どちらが勝つのか、実験だよ! 実験!!」
劇中、工藤はこれを用い怪異に挑んでいる場面が多々あった。それと同じくらいに身に着けた者や関わった者は行方知れずになるか、死んでいる。
「こんなもん着けて、どうなるか……!」
ないとは思うが、もし帆高が工藤の言った事を真に受けて、そして呪いが本当にあったのだとしたら。
帆高は、いや陽菜だって巻き添えで、呪いの犠牲になるかもしれない。
「大丈夫だって、俺は平気だったから。
それに帆高くん一人じゃ戦う手段ないじゃん。だからさ、これつけて……」
「あんた、ふざけるなよ!」
「じゃあ、どうすんだよ! あの神様何とかしないと俺ら溺れ死ぬんだよ!!」
「いい加減になさぁいあああ!!」
「うるせええ!!! 俺の勘がな! これ使えって言ってんだよ!! このままじゃ皆死んじまうぞ!
んなこと言ってる場合じゃねえだろうがぁああ!!」
叫びながら掴みかかる工藤を右京は華麗な身のこなしでいなし逆に関節技を決めた。
「―――いててて!?」
「いいですか! このままでは我々が死ぬのは事実です!!
しかし、だからといって無暗な行為は自らの首を絞めるだけではありませんか!?」
「分かった! 分かった!! 分かったから、ちょっとタンマ……!」
お得意の暴力ではどうやっても叶わないと悟ったのだろう。
工藤は先ほどの威勢は何処へやら、弱弱しい声で悲鳴を上げた。
「僕もその方法を考えていなかった訳ではありませんが、
その髪飾りが果たして神にどれだけ有効かも未知数であり、しかも使用者にどれだけのリスクがあるかも不明。頼るには些か早すぎますよ」
「……分かった。まだこれは、最終手段だから……首輪外そうよ、首輪」
右京から解放された後、おっかなびっくり距離を開いて、工藤はカメラを大事に抱える。
「……」
どちらにしても撮影をやめる気はないのを見て須賀は呆れ果てた。
「じゃあ、取り合えず……首輪外せる奴探そう……須賀さんもそれでいいよな?」
「僕もそれが良いと思いますよ」
とはいえこのゲーム、須賀一人で何がどうこう出来るわけでもない。
一応はバトルロワイアルに反対派で、協力できそうな人物と二人会えたのだ。
工藤の監視の意味も含めて、行動を共にしても良いかもしれない。
「ただ工藤さん、早まった真似は控えてくださいね」
「分かってる、分かってる」
「本当でしょうかねえ」
大丈夫かこいつ?
怪訝そうな顔をしながら須賀は溜息を吐いた。
「ところで須賀さん、それは結婚指輪でしょうか? 二つ付けていらっしゃいますね。……それは奥様とご関係が?」
「杉下さんでしたっけ? ……今、言わなきゃいけませんか?」
「ここは貴方の事務所という事で……女性の化粧品などを見つけましてね。
もし、それらが奥様のものでご健在なら当然、結婚指輪ももう一つある片方を嵌めるはず……しかし、貴方は今二つの結婚指輪を嵌めていらっしゃる。
……どうにも気になりましてね」
「化粧品はウチで雇ってる姪のもので、妻は亡くなりましたよ……」
「それは……失礼致しました。
それともう一つだけ、これも気になっていたんですよ。
貴方はオカルトを否定なさっていますが、いざとなれば必死にあたかも存在を認めるかのように、工藤さんをお止めになられた。
……これ、ムーですね? オカルト誌です。これの貴方が書き上げたと思われる原稿らしきものも拝見しました。
あのコワすぎのビデオも貴方は実に興味深く、鑑賞なさっていた……。
須賀さん、貴方はオカルトを否定しながら、強い関心があるのではありませんか?
ああ、先ほどから何度も指輪にお触れになっていますね……癖でしょうか?」
「……いけませんか」
「細かい事が気になってしまうのが、僕の悪い癖」
「……その癖、治す気ないでしょ」
「ただ……僕は今の時点で帆高くんを陽菜さんに会わせるべきではないと考えています。
あまりにも不確定要素が多く、二人にとってもそして我々にとっても危険だからです。須賀さん、貴方は―――」
「……」
「二人とも、何話してんだ!? 早く行くぞ!!」
工藤の怒声で話は打ち切られ、右京は背を向ける。
まるで、あの刑事に全て見透かされているかのような。それも自分の知らない心の底まで見通されているような。
「二人を会わせるな。……そんなこと」
分かり切っている事だ。
二人が会えば他の人らが死ぬ。だから、食い止めろなんて誰がどう考えてもその結論に至る。
また、無意識に指輪に触れながら須賀は右京の後を追った。
【須賀圭介@天気の子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:帆高を見つけてから考える。
1:工藤を警戒。
[備考]
※陽菜が消えて以降からの参戦です
※コワすぎ本編をある程度把握しました
【杉下右京@相棒】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:誰の犠牲もなくゲームから脱出する。
1:首輪の解析と帆高の探索。
2:工藤を警戒。
3:それはそれとして幽霊や神様がいるなら見たいですねえ
[備考]
※参戦時期は冠城登場以降の何処かです
※コワすぎ本編をある程度把握しました
【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[装備]:呪いの髪飾り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、ビデオカメラ@現地調達
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1、コワすぎ!DVD@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:コワすぎ!を撮る。
1:なんとしてでも右京の隙を突き、帆高に髪飾りを渡して陽菜の元に送り込んで、髪飾りの呪いと神様を戦わせる。
2:右京を警戒。
[備考]
※参戦時期はタタリ村に行く前の何処かです
【呪いの髪飾り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
人を呪い殺すための呪具であり、身につけたものは死亡もしくは人知れず行方不明になる。
工藤はこれを手に巻き付け、ぶん殴って除霊(物理)を行う。
除霊された被害者は正気に戻ったりもする。
工藤にも呪いが降りかからない。
普段は犬のウンコを入れるように、ビニール袋に入れて保管してある。
【コワすぎ!DVD@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
工藤たちの活躍が収録されている。
最終更新:2021年01月31日 20:45