シーーン
静まり返ったデパート内で、一人の参加者が恐怖に身を震わせていた。
その者はまだ幼い、小学生くらいの少女であった。
「こ、こんなのありえませんわ…。どうせ夢に決まって……」
少女…北条沙都子は自分の身に降りかかった事態を必死に否定しようと言葉を紡ぐ。
いきなり妙な映画を見せられた時は困惑こそしたが、スクリーンに映し出される物語に魅せられてしまい、
最初の困惑も忘れて夢中で鑑賞していた。
だが映画が中途半端に終わったと同時に現れた老婆。
その老婆の手で人が殺された時、映画を見ていた時の興奮は、一気に恐怖へと変わった。
女性の死体に悲鳴を上げた瞬間意識が遠のき、こうしてどことも知れぬ地に立っていた。
きっと自分は悪い夢でも見ているのだと思い込もうとした。
けれど夢にしては余りにもハッキリと、先ほどの惨たらしい光景が脳裏に焼き付いている。
おまけに首をなぞると冷たい金属の感触があり、嫌でもこれが現実だと思い知らされてしまう。
「ぅあ……」
歯がカチカチと鳴り、涙が溢れそうになる。
恐い。どうしようも無いほどに恐い。
いつも自分を支えてくれる部活メンバーは傍にはいない。
こんな訳の分からない場所で一人ぼっちだなんて、耐えられない。
映画に出ていた少年を殺せば無事に帰れると老婆は言っていた。
今すぐにでも仲間の所へ帰りたいが、その為に人殺しなんで出来る訳がない。
しかし殺さなければ帰れないどころか、この場所ごと水に沈んで死んでしまう。
どんな願いも叶えるとも言っていたが、その為には結局他人を傷つける事になければならない。
普段からトラップマスターなどと呼ばれているが、他者を殺す為にその技能を使えとでも言うのか。
仮にもし願いを叶えて、失踪した兄が帰って来てくれたとしても、人を殺してしまったらきっと自分は兄や仲間に拒絶されるに決まってる。
正に八方塞がりな状況。
思わず膝を抱えて泣いてしまいそうになる。
その時だった。
ハァ ハァ ハァ ハァ
「ヒッ!?だ、誰ですの…?」
突如聞こえた荒い息遣いに、沙都子は心臓が跳ね上がりそうになった。
慌てて振り返ってみると、誰かが電源の入っていないエスカレーターを昇ってこちらに近付いているのが分かった。
姿の見えない人物に警戒を抱くが、同時に期待してしまった。
ひょっとしたら自分の知る誰か、圭一達が現れるのではないかと。
そんな思いを抱き、沙都子はエスカレーターを注視する。
そして見た。
現れた者の姿を。
「えっ……」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…!」
現れたのは見知らぬ男。
肥満体で汗が滲んだシャツ。
顔にはニキビが浮き出ており、不衛生な印象を与える外見をしていた。
だが、それよりもっと異質な特徴が二つある。
本来人間にあるはずの白目がなく、代わりに赤黒い瞳が沙都子を捉えている。
大きく開かれた口からは、鋭く尖った二本の犬歯が突き出ていた。
余りにも異様な男の風貌に沙都子の思考は、一瞬フリーズしてしまう。
男はその僅かな隙に、図体にに使わない俊敏さで沙都子に襲いかかった。
「い、いやっ!離してください!」
沙都子は男から逃れようと藻掻くが、倍も体格に差がある男には全くの無意味。
少女の必死の抵抗を嘲笑うかのように、男は沙都子の白い首筋に噛みついた。
「あっ、あっ、あぁ…」
男に噛まれた瞬間、沙都子は体中が痺れるような感覚に襲われ、徐々に力が抜けていった。
ゴクリ、ゴクリ、と男が沙都子の血を吸う。
(い…やぁ……なに……これ……)
視界が定まらず、意識がぼんやりとしてくる。
血を吸われる度に体が痙攣し、そして
チョロロロロ
失禁により水溜まりができた。
「っかー!美味ェ!初めて飲んだが、生JSの血は最高だぜ!」
男は満足気に口元を拭うと、痙攣している沙都子を見下ろす。
漂うアンモニア臭と、尿で濡れた下着。
それらを眺めるニキビ面には、隠しようも無い下劣な欲望が浮かんでいた。
「ついでだ。ちょいと味見しとくか」
ビリ ビリ
あっという間に男は沙都子のスカートと下着を破り捨てる。
凄まじい恐怖と嫌悪が沙都子の中に湧き上がるが、体に力が全く入らない。
男が自分に何をするつもりなのかは、ぼんやりした意識では考えがつかないが、ロクな事で無いのは確かだ。
この男が自分に向ける視線は叔父とは違う、されど害を与える者という点では同じ。
「や、やめ…て…」
絞りだした声を聞いても、男が躊躇する様子は無い。
ただ舌なめずりをしながら、自分のズボンをパンツごと一気に下ろし、そそり立った肉棒を露わにする。
「へへ、少しくらいは優しくしてやるから安心しろよ。まぁ、ついやり過ぎるかもしれな――
ザンッ
――へ?」
男は何か違和感を自分の右腕に感じた。
キョトンとしながら視線を移すと、そこにあるはずの腕が無く、血が噴き出していた。
「ギャアアアアアア!!俺の腕がァァァァ!?」
突然利き腕を失い男は悲鳴を上げる。
「おい」
のたうち回る男へ掛けられる声。
男が見上げてみると、そこにはこちらを睨みつける者がいた。
◆◇◆
顔に一筋の傷を持つ男、宮本明は冷たい瞳で吸血鬼を見下ろす。
蟲の王を撃破し、左吉の仇を取るべく吸血鬼たちの集落を目指していたはずが、バトルロワイアルとかいうふざけた遊びに参加させられていた。
死者の蘇生すら可能な神子柴の力に思う所はあったが、それよりもこの吸血鬼の方が先である。
スタート地点だったデパート内から聞こえた物音の方に来てみれば、幼い娘が吸血鬼に犯されかかっている場面に遭遇し、特に躊躇する事もなく支給された西洋剣を振るった。
「テメェ!何しやが…って、あ~!?お、お前はあの時の…!?」
左手で自分を指さす吸血鬼を訝し気に見やり、一瞬の間を置いて明も思い出した。
「…そうか、初めてユカポンと会った時にいた奴か」
明の仲間であるアイドルのユカポン。
この吸血鬼はユカポンのファンであったが、彼女への歪んだ愛が爆発し日常的にレイプしていた。
逃亡したユカポンを仲間と共に捕えた所を明一行に遭遇、仲間はあっという間に斬り刻まれ、この吸血鬼もまたユカポンに包丁で滅多刺しにされ殺されたはずだ。
やはり神子柴の持つ力は本物なのかと、内心警戒を強めながら尋問を続ける。
「俺の質問に答えろ」
「ざけんじゃねぇぞクソ人間!あの時テメェらさえ来なけりゃ、俺はユカポンとアナルセックスを『ザンッ』ってうげえええええ!!また腕がァァァ!!」
以前と同じように吸血鬼は両腕を失った。
ついでと言わんばかりに両脚も切断し達磨にしてやる。
「アガァァァァ!!今度は足がああああああ!?」
「大人しく答えろ。それともまだ斬られ足りないか?」
「ひいいいいいいいいいいっ!こ、答えますううううう!だから命だけはあああっ!」
首筋に剣を当て言い放つ明に、吸血鬼は強気な態度を一転させた。
命乞いする吸血鬼を見下ろしながら、明は質問を投げかける。
「お前は自分がどうやって生き返ったのかを知っているか?」
最初の質問は蘇生の方法。
生き返らせた力の正体が分かれば、神子柴へ繋がる手掛かりが得られるかもしれないと踏んでの考えだった。
「そ、それが俺にもサッパリでして…。ユカポンに包丁で殺された所までは覚えてるんですが、気が付いたらあのババアに映画を見せられてたんです…」
神子柴の力が何なのかは分からなかった。
ただやはりこの吸血鬼が一度死んだというのは確かなようだ。
「なら次に…このふざけた殺し合いには雅の野郎が関わっているのか?」
雅。
この手で殺さなくてはならない吸血鬼の王。
ひょっとしてこの悪趣味なゲームには雅も一枚噛んでいるのでは?と疑問に思い聞いてみたが…。
「さ、さっきも言った通り俺にも何が何だか分からないんです…。だから雅様が今どうしているのかも全然……」
「……そうか」
予想はしていたが、やはり雅についての情報は得られなかった。
尤も、こんな雑魚吸血鬼が重要な情報を知っているとは最初から期待しておらず、あくまで一応聞いただけなので大して落胆もしなかったが。
「あの~…。ちゃんと素直に答えたんだし、これで助けてくれビュッ!?」
【ユカポンのファンの吸血鬼@彼岸島 死亡】
用済みとなった吸血鬼の首を刎ねると、血を振り払い剣を鞘に収める。
そしてようやく放置されていた沙都子に話しかけようとした。
が、彼女はとっくに意識を手放していた。
ただでさえ吸血鬼に襲われた時点でいっぱいいっぱいだったのに、間近でスプラッタショーを見る羽目になったのだ。
精神的に限界が来たのだろう。
「仕方ねぇ…」
少々バツが悪そうにしながら沙都子を担ぎ上げる。
(年の頃は勝っちゃんと同じくらいか……)
まずはこの少女を寝かせられる場所に移動する。
それから着替えも見つけてやった方が良いだろう。
幾ら小学生とはいえ下半身丸出しはかわいそうだし、自身にあらぬ誤解が掛けられても困る。
そこまで面倒を見てやる義理も無い見ず知らずの相手だが、このまま放置するのも気が引ける。
(俺も甘くなったもんだな…)
本土に来たばかりの頃の自分なら、きっと幼子だろうと無視していただろう。
あの頃は雅を殺す事以外に、余計なものを背負う気は無かったのだから。
しかし、自分は本土で気の許せる仲間を得た。
信頼できる仲間と共に戦い生き抜く中で、忘れていた温かな人の心を思い出した。
だからだろうか。
こうして名前も知らない少女を放っておけずにいるのは。
だからこそ、自分は帰らなければならない。
仲間が、そして宿敵が待つ場所へ。
崩壊した日本ではない、雅に支配される以前の街が再現された会場。
ここがいったいどこなのかは知らない。
だがもしこの地に雅がいないのならば、のんびりしているつもりも死ぬつもりも無い。
手っ取り早く帰るには森嶋帆高を殺せば良いらしいが、あの映画を見た限りだと帆高は普通の人間。
余程の大悪党ならばまだしも、滅多な事以外で人を殺すつもりのない明としては、あの危なっかしいが善人寄りの少年を殺す気は今の所ない。
何より神子柴が素直に約束を守る保障も無い。
爆弾付きの首輪を嵌めて、一方的に命のやり取りを強要する輩を信用しろと言われても無理な話だ。
だがもしも、もしも他に方法が無いのだとしたら。
その時は帆高を――
「いや、まだ結論を出すには早いな」
今はまだ考えが纏まっていない。
焦って答えを出して、取り返しのつかない事態になったらそれこそマズい。
今は担いでいる少女を介抱してやる。
それから森嶋帆高を探す。
今は殺す気は無いとはいえ、こちらの生死を無視して天野陽菜に会おうとするのなら流石に止めなければならない。
「にーにー……」
一先ずの方針を決め歩き出した時、少女が声を漏らす。
夢でも見ているのだろうか。
それとも無意識の内に、誰かに助けを求めているのだろうか。
明には判断が付かなかった。
しかし、「にーにー」という呼び方から、恐らく少女の求める人物というのは…
(兄貴、か……)
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:気絶、精神疲労(大)、失禁、下半身裸
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:死にたくない、生きて帰りたい
0:……
[備考]
※参戦時期は前原圭一が転校してきて以降のどこか。
【宮本明@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~5(ユカポンのファンの吸血鬼の分も含む)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに乗る気は無いが、襲って来るなら容赦しない
1:少女(沙都子)を寝かせられる場所に移動する
2:森嶋帆高を探し、天野陽菜に会うのを強行する気なら止める。(今の所は帆高を殺すつもりは無い)
3:吸血鬼や化け物は殺す
[備考]
※参戦時期は48日後で蟲の王を倒し、筏で移動してる辺り。
【無毀なる湖光(アロンダイト)@Fate/Zero】
円卓最強の騎士、ランスロットの愛用の剣。
『約束された勝利の剣』と同等の強度を誇り、決して刃こぼれする事はない。
また、約束された勝利の剣と同じく神造兵装とされる。
『約束された勝利の剣』の兄弟剣とされ、人類が精霊より委ねられた宝剣。
最終更新:2021年02月02日 11:30