何処かの事務所か。
応接室らしき場所のソファに腰掛ける、
白黒を基調としたメイド服の少女が座り込む。
微動だにせずにいる姿はまるで人形のようだが、
参加者としての首輪がそれを否定してくる。
黒いツインテールを揺らしながら赤い瞳を開く。
(奇怪な状況も、二度目ともなれば驚きませんね。)
彼女はグレア。ユウロピウム社の持つナノコロナ技術によって、
製造された……砕けて言えばパソコンの機能を備えた人造人間のメイドである。
よくわからないまま何処かへ送られる、と言うことはすでに経験済みだ。
元々感情の起伏が余りあるわけではない上での二度目。大して何も思わない。
老婆の不可思議な力も、ユウロピウム社の割とトンデモ技術もみたことだ。
あれを上回るものとしても、今になって驚くほどのことでもなかった。
(帆高と陽菜、でしたか。)
先ほど見せられた映画にして、
このバトルロワイアルの主要人物。
映画を眺めてると、どことなくあの物語には少しだけだが覚えがある。
彼女が今の主に取り寄せてもらった児童書『ムーンプリズン』。
月の怒りに触れたことで月の下でしか存在できなくなった姫を、
嘗ての親友があえて月の怒りを買ってでも共にあろうとした展開がある。
決して長い時間ではない。人の生きる時間においては短い時間での関わり。
それでも、二人にとってはその時間が大事なものであり、尊いものだと。
プルケも帆高も、後先考えず捕まっても仕方がない行動をしてるところが似るのは、
少々いかがなものかとも思うが。
(私にとっては、もう羨む理由もないですね。)
心にぽっかりと空いていた穴。
どこの誰とも分からない人間の下へいきなり送られ、
友と言える存在もいなかった故に孤独だったのも昔の話。
料理ができるのにめんどくさがったり、人並みの欲もある何処にでもいる主。
彼女にとってのよりどころは既にある。今更願うものなんてものはないし、
バトルロワイアルについては欠片も興味なかった。
(どう行動しますか。)
とは言え放っておけば自分は死ぬ。
他人に任せていればいいと言うものでもなし。
生に執着はしないが、ようやく得た場所がある。
それを捨てたくはないので、一先ずやるべきことを決める。
本来は主の指示も必要だが、主がいない今は自分の意志で動く。
(手段は基本的に二つ。帆高の死滅、及び首輪の解除からの脱出。)
正直なことを言えば自身の命が最優先。
主以外の赤の他人を優先する道理はない。
無論、必要でもないならそれに越したことはないが。
主がいた場合は流石に優先せざるを得ないものの、
呼んだところで何の面白みもないだろうからその線は放っておく。
本音を言えば、こんなのに参加なんてしないでほしいのもあるが。
(……ネットワーク機能はあるようで。)
両手を少し広げながら目を閉じる。
どこに繋がってるのかは知らないが、
此処にもネットワークの回線は生きている。
ひょっとしたら首輪が回線の役割も担ってるのか。
事実は分からないが、普段通り検索で大概のことは分かるだろう。
(検索する言葉は考えないと、一発でアウトでしょうけど。)
自分を拉致した以上は性能も知っているはずだ。
旧型と言えども検索機能は十分に機能している中、
相手がそのネットワークを把握してないわけがない。
ストレートに首輪の解除方法なんてものを調べれば
間違いなく回線が使えなくなるか爆発で終わってしまう。
(解除は秘密裏に行うとして、
もう一方の帆高の死滅……これはなんなのでしょうか。)
ルールの一文に疑念を抱く。
死亡の方が単純で分かりやすい。
態々死滅と言う表記は珍しい方だ。
(ひょっとして帆高は複数いるのでは?)
これが表記ゆれでもなんでもないのなら。
その前提で考えたことで思いつく一つの仮説。
想えば老婆は帆高が一人とは一言も言っていない。
ルールにもそれらしい一文の存在はなかった。
一人を相手に何人もの参加者を食い止めるのは容易だが、
もし何人もいればそれは食い止められるわけではない。
自分のように人造人間の技術はとうに進んでいる。
今更帆高が五十人や百人いたっておかしくはない話だ。
一先ずは一人と仮定しておいて行動はするものの、
増える可能性については気を付けておきたい。
……実際は増えるわけではないが。
「一先ず、彼を探してからにしましょう。」
何にしても帆高が目的地に着いたらゲーム終了。
ゲームが続けば最悪二日までの猶予があるが、
終われば数時間と大幅に短いタイムリミットになる。
何よりも回避するべきなのは此処であるのは間違いない。
あの性格だ。話し合いが通じるかどうかは別としても
せめて目の届く範囲にいなければならない。
見つからなければ最悪ゴール地点で待つのも手か。
かなり際どい所だが、同じ思考の人もいるはず。
一先ず彼が移動するラインを特定する為に席を立つ。
「フィリップ!」
同時に、事務所の扉が勢いよく開かれる。
外で降り注ぐ雨に打たれていたのがよくわかる程に、
髪に、服に、帽子から水が滴り落ちている、若い男性と視線が合う。
「……悪い、此処がうちの事務所に似てたから、
ひょっとしたら俺の知り合いがいると思ってた。」
予想してた人物と全く違う相手に、
どこか照れ臭そうに帽子を深く被る。
「私の自宅ではありませんので、どうぞご自由に。」
「そうかい。ちょっとタオルでも借りるか……」
男性、左翔太郎はタオルを借りるとは言っていたが、
ついでにコーヒーに傘と割と図々しく色々借りている。
どうにもグレアにはそれが疑念だったものの、
彼曰く人の気配がしないので気にする必要がないと分かってるからだ。
彼女にとっては人込みとかには全く無縁の世界にいたので、
人がいないと言うことについてデータあると言えばあるが、
余り感じたことがないので実感はわきにくい。
「コーヒー、アンタも飲むか?」
「いえ、私は食事の必要はないので……」
閉鎖的な家にいたときは主に言われて付き添ったが、
今回は食料は人にとっては大切な代物になる。
無暗に消費しない方がいいと判断して断っておく。
「ナノコロナ技術、か……NEVERみたいなトンデモ技術だな。」
コーヒーを淹れる間、二人は軽く自己紹介を済ませる。
ガイアメモリと言い、世の中には不思議な力もあるようだ。
前に出会ったオーズもメモリとはまた違った力でもあった。
世の中には見知らぬものがまだまだ存在しているらしい。
「一息ついたら俺は帆高を探しに動くが、アンタはどうするんだ?」
互いにお題を達成する気はない。
となればお互い仲間の立場になる。
左としても守ってあげるべき対象になりうるが、
残念だが今の彼にはメモリもなければドライバーもない。
いくら腕っぷしが強いと言えども、戦うには限度はある。
此処に置いていく方がまだ安全とも言える状況だ。
「私一人残ったところで何も変わりはしません。
事態解決の為、協力し合うのはどうでしょうか。
検索機能もあるので、ある程度はサポートできますが。」
「検索……」
「どうかされましたか?」
「いや、あんたと同じような検索ができる奴がいてな。
そいつを思い出しちまったんだ。」
相棒であるフィリップはもういない。
消えた今も何処かにいるような気がすることもあったが。
今は一人で風都を泣かせる犯罪者へと立ち向かっている。
(厳密には照井たちもいるので厳密には一人ではない)
(検索ができる人?)
自分のように検索ができる存在がいるのは不思議ではないが、
ナノコロナ技術は大手企業の割に、彼は知らないようでもある。
恐らく自分達とは別の存在でありながら、検索機能を備えた存在。
これについてはあの老婆の力よりも興味が惹かれる存在だが、
初対面相手に尋ねられる相手ではないのは表情から察せられる。
「大切な人のようですね。」
知り合いと、他人行儀な言葉で言うには影を落とした表情。
彼には知り合いの一言で済ませられない、大切な間柄なのが分かる。
「ああ、俺にとっては相棒だ。」
「私にも大切な人がいるので分かります。変態ですけど。」
「酷い言い草だなおい。」
「それぐらい言い合える間柄、と思っていただければ幸いです。」
「確かに、俺も亜樹子とはそんな感じだな。」
コーヒーを飲み終えるまでの間、軽い談笑が続く。
凡そ殺し合いとは無縁そうな空間に見えてしまう程に、
此処では何も起きないまま時間が流れている。
とは言え談笑ついでに自分の支給品を確認したり、
時間を余り無駄にはしていなかったが。
「検索機能ってなんか制限はされてるのか?」
「試そうと思ってた矢先に会ったのでまだ。
検索をしてみようかと思いますが、何かありますか?」
「いや、現状だと情報不足だ。
今は移動手段でも探してみるか。」
雨の中だろうとお構いなしに帆高は動くが、
帆高を殺すつもりであろう参加者だっている。
同じように動いて体力を消耗するわけにもいかないし、
移動手段を確保しておくことで後に繋がるので欲しい所だ。
最悪、徒歩は覚悟する必要はある。
「んじゃ、よろしく頼むぜ。」
「改めてよろしくお願いします左さん。
私が見限るまでの間、私は貴方と共にありましょう。」
「怖いこと言わないでくれ……」
「私のユーザー登録における前口上みたいなものです。
余程酷い行動をしない限りは大丈夫なのでご安心ください。」
事態を解決するようなまっとうな人間であれば、
見限ることは一先ずないことはごもっともな話だ。
左は目的を曲げるつもりはない。願いを叶える力を前にしても、
フィリップを復活させようだなんて考えは持っていない。
風都でなくとも、街を泣かせる奴を許すわけにはいかない。
「思ったんだが、雨は大丈夫なのか?」
「そこもご安心を。この体は防水です。
体温とかは感じますが濡れてても問題ありません。」
「何があるか分からない、あんたも持っておきな。
他の人に渡すこともあるかもしれないし、最悪傘だって立派な武器だ。」
「それもそうですね。」
事務所にあった傘を拝借しながら、二人は雨の街へ飛び込む。
目指す場所は途方もない場所。しかし必ず乗り越えていつもの場所へ戻る。
二人はこのバトルロワイアルでも下から数えた方が早い程度に強くはない。
しかし、その覚悟は冷たい雨の中でも熱く、それでいて鋼の如く固い決意だ。
(問題は、メモリか。)
とは言うが、左としては問題となるメモリとドライバー。
あれがあれば大分安全になるものの、彼の支給品にはなかった。
確かにない。それは困るのだが、その内来ると言う確信がある。
大道克己が起こしたあの事件の時と同じように。
きっと切り札は、自分の所へとやってくる。
そんな気がしてならなかった。
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:濡れ気味
[装備]:傘@現地調達
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3(確認済み、ベルトとメモリではない)
[思考・状況]
基本方針:街の泣かせる奴は放っておけない。たとえ風都でなくとも。
1:グレアと一緒に行動。検索機能も使ってみるか?
2:切り札は来る。そんな気がする。
※参戦時期は最終回、フィリップ復活前です。
※一時的にグレアのユーザーとして登録されてます。
【グレア@Glare】
[状態]:健康
[装備]:傘@現地調達
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:主の下へ帰還。
1:首輪の解除手段の模索。
2:最悪自身の生存を最優先。必要以上の犠牲は可能なら避ける
※参戦時期は1のエピローグ中です
あくまでGlare1.10(または1.20)である為、
1moreなど続編等で追加された設定等はありません
※検索機能は使えますが、どこまで検索可能かは現時点では不明
(Glare以外の、他作品の固有名詞も引っかかるかどうかも現時点では不明)
※帆高が複数人いるのではないかと推測してます
最終更新:2021年02月01日 09:51