クーケン島っていう、なんてことない島の

ラーゼンボーデンっていう、なんてことない村

そこで暮らしていた、なんてことないあたしは、ひょんなことから冒険をした

誰も経験したこともないような、誰も知らない、あたしたちだけの大冒険を二度も

嬉しいこともあったし、悲しい別れもあった

今でも、あの大冒険を知る人はほどんどいない

始まりも終わりも、何も知ること無く。皆、毎日変わらず暮らしている

あたしは今でも時々思い出す、あのときの仲間たちと過ごした日々――

そして、眩しいくらいに輝いていた、あの奇跡のように貴重で得がたい、一夏の日々のことを



王都から故郷に帰ってまもなく、なんてことない日々の生活の中に戻ったあたしの前に

――人生最大の困難が待ち受けていた


○ ○ ○

「うわぁ……」

窓から今だ雨降り止まぬ外景色に映る高層ビル郡を眺める少女が一人。名をライザリン・シュタウト。クーケン島ラーゼンボーデン村出身の農家の一人娘にして、錬金術師である
彼女のいた世界において、王都ですら見なかった巨大で頑丈な建物がまるで森のごとくそびえ立つ光景は流石に壮観としか言いようのない光景だ

「……なんて、今回ばかりは呑気に眺めている余裕なんてないよね」

王都から島へ戻ってきて、またいつもの日常が始まると思っていた途端に、この訳のわからない何かに巻き込まれ、見せられたのはライザのいた村にも王都にもなかった動く画
地元の鬱屈から逃げ出し、少女と出会った少年のボーイ・ミーツ・ガールの物語。元々ライザが錬金術師になったきっかけの一つとしても、退屈な村のしがらみからの脱却というのもあり、細かい所はともかく共感できる部分もあった

……今回、神子柴なる老婆が言っていたのは、あの動く画の物語の主要となる人物、森嶋帆高と天野陽奈が深く関わる『殺し合い』のルール

①『森嶋帆高』が天野陽菜と出会えず制限時間が過ぎた場合、太陽光が会場中にくまなく差し込みゲーム終了。1時間後に森嶋帆高の首輪の爆破を合図に全員退去。
②『森嶋帆高』が陽菜と出会ったら数時間後にエリア全体が浸水し、『森嶋帆高』と陽菜を除く魚人のような溺死しない種族も含めて全員死亡する。
③帆高が死滅した場合、その時点でゲームは終了。残った者は帰還できる。

はっきりと言えばこんな事を言い渡された上で、目の前で人が殺され、あまつさえこんな老婆の身勝手な催しに関係のない人たちまで巻き込まれた。それも含めてライザの中に神子柴への怒りも十分に燻っていた
勿論人が殺されるところを始めてみた事によってライザにもそういうものに対する「恐怖」は芽生えていた
、だからといってこのまま二人が引き裂かれるバッドエンドの上に森嶋帆高が死んでしまうとなれば自ら選択して人柱になった陽菜の思いが踏み躙られるも同然――そんな事を許せるはずもない
自分が今まで習得した錬金術のノウハウで、何とか二人が出会った上で助かる手段を模索しようとしていた

「……でも、流石に釜が無いのは致命的かなぁ……」

問題は山積みだ。武器の方が支給品に「まどうしの杖」なるものが入っていたからまだいい
致命的なのは、「錬金釜」が無いことだ。錬金術には錬金釜が必須、それがなければ何も始まらないのだ

「……ホダカって人を探さないと行けないし、何より素材も集めないと行けないから、その時にでも見つかれば苦労はしないんだけどなぁ……」

この支給品が入った袋、一体どんな技術を使っているかは知らないが、兎に角なんでも入るのだ。実際大きさに似合わない「まどうしの杖」が入っていたのだ。素材の貯蔵に関してはこの袋があればある程度は大丈夫だろう
後は帆高や錬金用の素材を探しながら錬金釜かそれの代用になる物があればいいのだが……

「……どうやらお困りのようじゃん? お嬢ちゃん」
「えっ……誰……!?」

突然聞こえた声に、思わず杖を構え備える。一人で戦うのは久方ぶりであるが、だからと言ってこんな所でやられるつもりもない。無理はせずもしもの時は逃げるつもりではいた
そんなライザの前に現れた声の主は、長髪を靡かせる一人の偉丈夫。飄々とした態度ながらもその佇まいには一切の隙を感じられない

「待てって嬢ちゃん。オレはあんたをどうこうするつもりはねぇさ。むしろ手伝っても良いって思ってる」
「えっ……?」
「だからまずはその杖を下ろしてほしいってことよ。……っと。先に自己紹介しとくか。俺の名前は、ヤクトワルト」
「え、あ……はい。私は、ライザ。ライザリン・シュタウトです」

唐突な偉丈夫の――ヤクトワルトの宣言と自己紹介に、思わずつられて自己紹介してしまうライザであった

○ ○ ○

一旦落ち着き、二人はベンチ・テーブルで情報交換を行うことに
偉丈夫の名はヤクトワルト。現在はエンナカムイという国に属している流離いの剣豪とのこと。ライザとしてはその飄々とした性格から真っ先にクリフォードの事を思い浮かべたが、実際に話してみればクリフォードとは強さも何もかも違うことをその身に感じるのであった

「……なるほどな。ライザちゃんは二人を会わせた上でみんながなるべく助かる方法を探したいってことか」
「はい。……でも、錬金に必要な釜がないから、素材やホダカさんを見つけるのも兼ねてこれから探しに行こうと考えていたんです」
「ふむふむ……。事情は大体わかった。……だが、その前に一つ良いか?」
「なんですか、ヤクトワルトさん」
「こういう事を初対面の嬢ちゃんに聞くのは心苦しいが……。嬢ちゃんもそれなりに修羅場を潜って来たってのはわかる。だが、今回ばかりは違う。俺が今まで経験してきた戦場でも、嬢ちゃんが今まで経験してきた冒険とも違う。一人の男を中心に権謀術数、陰謀詭計が巡り巡る陰惨な舞台だ」
「……」
「だからな嬢ちゃん。……嬢ちゃんにとって手酷い傷が残るかもしれねぇってことじゃん。下手したら死ぬなんかよりも」
「――でも」
「それと嬢ちゃん――最悪、初めて人を殺すことになるぞ?」
「―――ッ!」

ヤクトワルトのその言葉に、ライザは思わず口籠る。モンスター等は倒したことはあっても、『人』を相手にして戦ったことなどまるでない。それが人同士の殺し合いであるならば尚更だ
だからこそヤクトワルトは問う。もしもの時、最悪の事態に陥った時、ライザリン・シュタウトに人を殺す覚悟があるかどうかを

「―――それでも、だから黙って見てるだけなんてしたくない。そりゃあんなもの見せられたら死にたくないなんて思っちゃうけど。それでも私には帰る場所があるし、待っている人達だっている。生きて帰るにしても……みんなに顔向けできないような事だけはしたくない」
「……いいのか、嬢ちゃん?」
「……結局、私が今まで冒険してきたことと同じなのかな、ある意味だと。だからね……もしその時だったとしても、私はなるべくは殺したくない」
「―――」

故にライザもヤクトワルトの問いに答える。例えどんな苦しい時でも、自分自身だけは捨てたくない
ある意味いつもの冒険と変わらない、命の危機もあるし、新たな出会いもあった。ただそれが、今回ばかりは今まで以上の困難であることぐらいで
そんなライザの、覚悟の籠もった言葉と、その決意を秘めた瞳を見て、ヤクトワルトは誰かを思い出したようにニッコリと笑い

「……いいじゃん、決めたぜ。俺は、嬢ちゃんに賭けることにするじゃん」
「……! ありがとうございます、ヤクトワルトさん!」

彼女への協力を決めたヤクトワルトに対し、ライザは満面の笑みでお礼を言うのであった


【ライザリン・シュタウト@ライザのアトリエシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:まどうしの杖@ドラクエ7
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ホダカとヒナを再開させた上で、なるべくみんなを助けて生きて元の世界に帰る
1:錬金釜かそれの代用になるものを探したい
2:ホダカと錬金素材の捜索

※参戦時期は2終了後

【ヤクトワルト@うたわれるもの3 二人の白皇】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:嬢ちゃんに賭けた以上、彼女についていく

※参戦時期は最低でも帝都奪還後

【まどうしの杖@ドラクエ7】
先端の赤い宝玉を手で掴んだ形状の、魔法の杖。
道具として使うと火球を飛ばす「メラ」の効果がある
最終更新:2021年02月01日 17:59