――――彼を飲み込んだのは、大いなる闇と呼ぶに相応しい邪悪なものだった。
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マサキ・ケイゴという男は類い稀なる才能を誇り、それでいて血の滲むような努力を欠かさない天才物理学者だ。その成果で多くの人間から認められ、宇宙開発企業・サイテック コーポレーションの最高責任者という地位まで手にしている。
事実、マサキの生み出した発明によって、人類の宇宙進出は大幅に進んだ。地球平和連合TPCのメカニックの大半は、彼がいなければ完成しなかったかもしれない。
しかしその一方で、彼は傲慢な男でもあった。力を持たない者を見下し、テレパスを始めとした神秘的な力を軽んじている。
自分自身。そして科学を信じて、人類を導こうと力を尽くしてきたはずだが、いつしか己の才能と資質に溺れてしまったのだ。
超古代の遺伝子を受け継いでいることを知った彼は、人類を導く手段として巨人・ウルトラマンの力を求めるようになる。
マドカ・ダイゴがティガの地に封印されたピラミッドで力と巡り合ったことを知って、マサキは超古代の遺跡を探し求めた。その為に地の鮫ゲオザークを生み出して、地底遺跡を発見する。
そこには巨人の石像があった。しかし巨人の力を得るには光が必要だった。
ダイゴがゲオザークとの戦いで疲弊した隙を狙った彼は、自らの腕力を誇示するようにスパークレンスを奪い取った。
その後、彼は計画の為に結託していたタンゴ博士がTPCより持ち出したアークを利用する。アークとは、ティガのピラミッドにて破壊された巨人像の砂だ。
アークとスパークレンス。そしてマサキが開発した光遺伝子コンバーターを利用して、彼は巨人の力を手に入れた。
人としての強すぎる野心を、その胸に宿らせたまま。
巨人の力を手に入れた彼は遺跡から熊本市内に降臨し、サイテックネットワークより流した演説を利用して人類を導こうとする。だが、彼の心が巨人の強すぎる力に負けてしまい、影を継ぐもの・イーヴィルティガとなって暴走してしまった。
イーヴィルティガはその圧倒的な力で暴れて、人々を恐怖を植え付けてしまう。その姿は、人類の平和を脅かした凶悪怪獣や宇宙人と同じだった。
そんなイーヴィルティガを止める為に、超古代から慕ってきた相棒もまた熊本市に現れる。超古代狛犬怪獣 ガーディーは、間違った心を持ってしまった主人を取り返す為、懸命に説得したが……それに構わず、イーヴィルティガは容赦なくガーディーを嬲った。
どれだけ傷付こうとも、ガーディーは涙を流して説得を続けるが、無情にも届くことはなかった。
そこに、力を取り戻したマドカ・ダイゴが変身するウルトラマンティガがようやく駆け付けて、ガーディーを守ろうとするが……そんな彼らを嘲笑うように、イーヴィルティガはガーディーの命を奪った。
心を取り戻そうと力を尽くしたガーディーを虫けらのように殺したイーヴィルティガに、ウルトラマンティガが怒りを覚えない訳がない。
光を手にした超古代人の末裔同士の死闘が始まった。それは超人同士の戦いではなく、人の心が引き起こした戦い。
戦いの果てに、イーヴィルティガはウルトラマンティガの放つゼぺリオン光線を浴びてしまい、その肉体は消滅した。混合したセルチェンジビームの効果によって、マサキの肉体は解放されたはずだった。
その時だった。彼を取り巻く全ての世界が変わったのは。
本来の歴史なら、そのまま彼はTPCに拘束されるはずだったが、強大なる野心と苦しみに目をつけられてしまったのだ。
まるで、彼がやり直すチャンスを打ち砕くように。
自身に煮え湯を飲ませたウルトラマンティガの姿はどこにも見られない。
いつの間にか、劇場の座席に座らされていて、映画を見せつけられていた。マサキの困惑などお構いなしに、少年少女の青春をテーマにした物語が大きく映し出される。
そして、マサキ達の前に現れた謎の老婆が、信じられない宣告をした。
「殺し合いだと……バカな、何の冗談だ……」
震える声で、怯えたようにマサキは呟く。
この世界はいずれ大いなる闇に覆われることを彼は知っていた。闇を覆う世界を光で照らして導くものが必要だったからこそ、マサキは巨人の力を求めた。
だから、殺し合いなんて馬鹿げたことをしている場合ではない。森嶋帆高という少年を捕らえろと命令されたが、そんなことに従う義理はなかった。
ウルトラマンティガは一体何をしているのか。どうして、この異常事態に立ち向かわないのか。
そうして、気が付くと見知らぬ場所に転送されていた。
ここは先程までとは違って、雨が降り続ける市街地だった。熊本市内で見つけた地底遺跡の入り口のように、一見すると争いとは無縁の場所に思えるだろう。
だが、今が平和であることにはならない。何故なら、あの老婆が世界のどこかで嗤っているのだから。
ウルトラマンティガが老婆を打ち破ったとは到底考えられない。粘り付くような笑みは、今でも脳裏に張り付いている。
ここから脱出し、いずれ来る大いなる闇を祓わなければならないが、その為に必要な光がなかった。ゲオザークや光遺伝子コンバーターのような力だって、今は手元にない。
どす黒い感情がマサキの中で渦巻いていく。
老婆に囚われた時から、この身体が震えている。ついには身体が重くなり、膝をついてしまった。
もしも、この場に正しい心で光を持ったものが居れば、彼の心を支えただろう。だが、
「さっそく獲物を見つけるとは、俺も運がいい……」
彼の耳に響いたのは、氷のように凍てついた声。
唐突に声をかけられて、驚きながらも振り向いた先に見えたのは、カボチャで作られたような顔だった。
「いや、こういう場合は獲物と呼べばいいかもしれないな」
「……何だ、お前は」
「俺の力の実験台になるだけのお前が聞いて何になる?」
2メートルを超えるであろう巨体は、西洋貴族を彷彿とさせる紫色のウエストコートや長ズボンに纏われていて、肩からは巨大なマントが風に棚引いている。
まるでハロウィンの仮装のような格好だったが、巨躯から放たれる殺気は本物だった。
「さあ、絶望しろ」
現れた敵はマサキの疑問に答えることなく、硬質感に溢れた足を用いた蹴りを放つ。それに対抗する術をマサキが持っている訳がなく、ただ吹き飛ばされるしかなかった。
声にならない悲鳴と共に、地面に叩きつけられる。それを心配する者などいる訳がない。
そうして、一方的な嬲り殺しが始まった。
マサキが如何に優れた身体能力を誇っていようとも、それは人間の域を出ない。人智を超えた怪物を前にしては、彼が蔑んでいた愚かしい旧人類と同じだった。
時折、マサキは怪物の体躯を殴り付けたものの、蚊に刺された程度の手応えすら感じない。そこから反撃を受けるだけ。
一撃受ける度に、マサキの命は確実に奪われていった。
「人間にしては中々粘る……だが、終わらせてやろう。ナイトパンプキンの手に終わることを、光栄に思うがいい」
やがて何度目かの暴力の後、倒れ伏せたマサキに対して、怪物は言葉を紡ぐ。ナイトパンプキン、とはこの怪物の名前らしいが……今となってはどうでもよかった。
ナイトパンプキンの周囲から暗闇が噴き出し、周囲の光を遮っていく。また、闇の中に飲み込まれてしまった。全てを虚無にするモノが、マサキという存在を飲み込もうとしていた。
このままでは、殺されてしまう…………
何の為に力を求めたのか。何の為に人類を導いて、そして闇を払おうとしてきたのか。
こんな所で終わる為? 違う。
怪物の獲物にされる為? 違う。
光が闇に飲み込まれるのを黙って見ている為? 違う。
力だ。
力さえあれば、闇を払える。
巨人になる力さえあれば、この怪物だって倒せる筈だ。
無意識の内に腕を伸ばす。すると、硬い何かが指先に当たった。
反射的に、その何かを握り締めた途端、全身を駆け巡る血の流れが激しくなった。
尽きかけていた命が、再び激しく燃焼する。節々の枷になっていたであろう苦痛すらも、思考から消え去っていた。
「何だ……まだ俺に歯向かおうとしているのか?」
マサキは立ち上がり、ナイトパンプキンを鋭く睨みつける。奴は微塵も動じなかったが、別に構わなかった。
足元に目を向けると、小さな人形が落ちている。普段なら取るに足らないガラクタとして切り捨てただろうが、彼は拾い上げた。
何故なら、この二つは力を与える奇跡のアイテムなのだから。
「お前……それは、一体何だっ!?」
『ダークライブ! ゴルザ!』
ナイトパンプキンへの返答は、暗闇よりも邪な叫び声。それは彼を生まれ変わらせる、魔法の言葉だった。
マサキの肉体は一面の闇に溶け込んでいき、人間のそれから大きく変貌した。引き締まった体躯は岩のように逞しくなり、超古代より蘇りし悪魔の力を手に入れる。
光を求めし男にとって、忌むべきモノであったはずの力を……彼は受け入れた。
「チッ……だったら、終わらせてやろう!」
ナイトパンプキンの顔面は肥大化し、弾丸となるように突貫した。
人間であれば、トラックと衝突するに等しい衝撃が襲い掛かるだろう。だが、
「……グアアアァァァッ!」
剛腕の一振りで、それをあっけなく弾き返した。蚊を払うように簡単だが、確かな手ごたえはある。
先程までの余裕が嘘のように、悲痛な叫び声を上げた。
「クッ……そんな力を手に入れたところで、俺に勝てるとでも思ったか!」
ナイトパンプキンは喚いているが、最早それは羽虫の声に等しい。
地面を轟かせる勢いで駆け抜けた彼は、異様なまでに発達した巨木の如く尻尾を振るい、ナイトパンプキンの巨体を吹き飛ばす。
バゴン! と、耳を劈くような轟音が響く。まるで、トラックが壁に激突したかのように凄まじかった。
見ると、腕の間接が奇妙な曲がり方をしている。恐らく、骨でも折れてしまったのだろうが、それなら好都合だ。醜い怪物に逃げられることがなくなるのだから。
「が、ぐ、あ…………ッ!」
地面に這い蹲る姿を、冷めた瞳で見つめる。
こんな醜く、弱々しい怪物が進化した人類の長に牙を向けている。そして、ほんの一時とはいえ、怪物の愚かな行為を許した自分自身を恥じる。
力が足りなかったからこそ、光を得ても敗北を喫した。もう二度と無様な姿を晒せない。
「お、おのれっ…………!」
鋭い眼差しを向けてくるが、最早ただのそよ風に等しかった。
そこから何か言葉を続けようとしただろうが、耳障りな声など聞くつもりはない。冷酷に、そして淡々と腕を振るって……カボチャの如く頭蓋を叩き潰した。
人間の姿に戻ったマサキ・ケイゴは、目の前の光景に笑みを浮かべている。
そこに、他者の命を奪ったことに対する罪悪感は微塵もない。力への充足感を得て、それを用いて愚かしい弱者を打ち破れたことに対する歓喜を味わっていた。
彼はその手に握り締めているスパークドールズとダークダミースパークを見つめていた。
「これだ……これがあれば……闇を払える!」
この力は本物だ。
ナイトパンプキンを軽々と屠り、そして今でさえも力が体中に漲っている。その勢いでマサキという存在そのものが張り裂けてしまいそうな程だ。
一体、如何なる原理でスパークドールズからゴルザの力が生まれるのか。まさか、超古代には石像となった巨人以外にも、人知を遥かに超えた力が眠っていたのか。
しかし、今はそれを解き明かす余裕などない。
「神子柴……僕は……いや、私はお前を打ち滅ぼす。私は進化した人類なのだから!」
マサキにはやるべきことがある。力を得て、大いなる闇を照らす進化した人類になる……そんな崇高なる使命があった。
本来の形とは違ったものの、巨人に並ぶ大いなる力であることに代わりはない。スパークドールズさえあれば、進化した人類になりえた。
人類に牙を向けるおぞましい怪獣の姿になることは気に食わないが、背に腹は代えられない。
そしてその過程に、もう一つだけやるべきことがあった。
「私を冒涜した光……そして、愚かしい旧人類どもを粛正する。この私こそが、光を手にする進化した人類の長なのだから!」
あの老婆の元に辿り着くには、こんな下らない殺し合いとやらに生き残らなければいけない。その条件は、力を持って森嶋帆高を捕らえることだ。
屈する形になるのは癪だが、それ以外の手がかりはない。他の方法を捜すこともできるが、ここは怪物が跋扈する世界。呑気に構えていては、その隙を突かれてこちらが殺されてしまう。
ならば、殺し合いに乗る以外に方法はなかった。
だが、それは何も悪いことばかりではない。
恐らくこの殺し合いには、堕落した旧人類も巻き込まれているだろう。そして、我が身可愛さに他者を陥れようとする愚かな人間も。
そんな者達など進化した人類が生きる世界には必要ない。生き残ったとしても、理想に満ちた新世界を穢すだけ。
あの映画に登場した森嶋帆高も、衝動のままに時間を浪費した愚か者だ。そんな帆高の周りにいた人間どもも、新世界には不要の汚物。
あのマドカ・ダイゴは……ウルトラマンティガは、愚かにもそんな奴らすらも守ろうとするだろう。そんな男が光を手にして、平和が守られたとしても……人類は堕落してしまう。そうなる前に、ダイゴも粛清しなければならなかった。
そうして愚か者達を粛清しきった後は、神子柴達をこの手で葬り去り……人類を導く。その為にも、戦わなければならなかった。
「ああ……光よ! 私を見るがいい! 私こそが……進化した人類だっ!」
ナイトパンプキンによって覆われた闇が晴れた頃、マサキは高らかに叫ぶ。その心に闇が撒かれてしまったことに、気付かないまま。
闇の支配者・ダークルギエルに忠誠を誓う闇のエージェント達は、心に闇を持つ人間達にダークダミースパークとスパークドールズをばらまいた。
それによって人間は凶悪な怪獣と化して、降星町の各地で猛威を振るった。人間の悪意と怪獣の力が合わさったことで悲劇が起きたように……マサキ・ケイゴの心に闇が反応してしまい、彼の心を塗り潰してしまった。
もしも、ここにいる彼が罪を償った後だとしたら……闇には負けなかっただろう。だが、今の彼はウルトラマンティガとの死闘に敗れ、狂気に溺れてしまっていた。
更に、追い打ちと言わんばかりに悪意が襲いかかり、彼の影が育てる絶好の材料となった。二つの闇は影をより強くし、そしてマサキという男の心を容赦なく沈めてしまう。
狂気は彼から良心を奪い取り、代わりに光への憤怒と憎しみが生まれ……結果、新たなる影が産み落とされた。
何も知らないまま、己の心が闇に負けてしまったことに気付かないまま、天才科学者は歩みを進める。
男の笑みは凄惨なものに変わってしまった。まるで、彼が憎む闇のように。
【マサキ・ケイゴ@ウルトラマンティガ】
【状態】:ダメージ(小)、精神汚染(小)
【装備】:ダークダミースパーク@ウルトラマンギンガ、スパークドールズ(ゴルザ)@ウルトラマンギンガS
【道具】:支給品一式×2、ランダム支給品1~5
【思考】
基本:進化した人類として、老婆及び愚かしい旧人類どもを粛清する。
1:神子柴達を粛正する為、森嶋帆高を抹殺する。
【備考】
※ウルトラマンティガとの戦いに敗れた直後からの参戦です。
【ナイトパンプキン@Go! プリンセスプリキュア 死亡】
【ダークダミースパーク@ウルトラマンギンガ】
ウルトラマンギンガに登場したバルキー星人を初めとする闇のエージェント達が、人間達の「ダークな心」から生み出した変身アイテム。
手にした人間の悪の部分を増幅させ、スパークドールズを差し込めば怪獣に変身して暴れることができる。
【スパークドールズ(ゴルザ)@ウルトラマンギンガS】
超古代怪獣ゴルザの力が封印されたスパークドールズ。
ダークダミースパークなどの各種スパークに足の裏を差し込めば、ゴルザに変身することが可能。
ただし、制限によって巨大化は不可能。
最終更新:2021年02月05日 21:49