雨が降りやまない東京で、一人の男が怒っている。
 男の外見は丸々と太っているというか、デフォルメしすぎて作者手抜きしてるだろと言いたくなるくらいに丸かった。
 もはや、丸に手足が生え、白衣を着ているというレベルだった。
 彼の名前は剛万太郎。
 北海道の桜町という所でマッドサイエンティストをやりながら、家族と呼べるほど絆の深い同居人達や、騒がしい友人達と楽しく毎日を過ごしている。
 そんな彼は今、猛烈に怒っていた。

「何が神だ――――――っ!!」

 普段の剛ならこんな風に怒ったりはしない。
 殺し合いに怯え、戦闘力のある友人達と合流したくてたまらないだろう。
 向こうも首輪を外せそうな知り合いは剛とその仲間位なので、ギブアンドテイクは成立する。
 だが殺し合いの前に見せられた天気の子。そこにどうしても、剛は見逃せない部分があったのだ。 

「ワシは貴様なんかとうの昔に手を切ったんだ――――――!!
 お前の言うことなんか、絶対聞かないからな―――――――!!」

 それは映画の中で神が見せた振る舞い。
 天気を盾に、天野陽菜を贄とすることを認めさせようとするその暴虐が、剛には我慢ならなかった。
 だからこそ、森嶋帆高の神に逆らうという姿勢に胸がすき、叶うなら手伝ってあげたいとも思っている。

 剛は神を見限っている。
 その昔、科学者を目指し通っていた大学は学費が払えずクビになり、住んでいた家も家賃を払えず追い出された。
 しかし、剛と拾った猫と作った発明品の三人(?)でその日暮らしをしながらも、彼は科学者になることを諦めなかった。
 だがある日、拾った猫と発明品は、猫の親の仇を見つけ復讐に行ってしまう。
 慌てて追い掛けるも猫達は返り討ちにあい死亡寸前。そこで剛は通っていた大学の設備をこっそり使い、自身の発明品を利用してサイボーグにして助けようとした。
 でも猫の心臓は一度止まってしまう。そこで剛は運命を心底呪い、悪魔に魂を売ってでも猫の復讐を成し遂げようとした。
 結局、猫自体は生きており復讐に決着をつけ、それからは二人家族となって生きていくのだがそれはまた違う話。
 少なくとも現在、剛の傍にその猫はいない。

「カカカッ。中々いい啖呵を切るな、若造」

 しかし、剛の叫びを聞き届ける者がいた。
 普通に考えれば、殺し合いの最中で大声をあげるなど愚の骨頂。
 いくら森嶋帆高を止めればいいとはいえ、この機に乗じて他者を傷つけることを企む残虐な参加者がいてもおかしくはない。
 だが幸運なことに、ここに現れた殺し合いの参加者は、剛と同じく殺し合いに抗うものだった。

「だ、誰だ!?」
「ワシもあのババアの掌の上で踊らされるのは気に食わん。
 それに何より、このワシ相手にトーマス・ライトでもない奴が、科学で上回れるなどと思いあがるのが、腹立たしくて仕方がないんじゃ!」

 剛が声の主に目を向けると、傘を差した一人の男が不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
 男は剛と同じく白衣を纏い、彼は対照的に痩せており、Wの形をした白いヒゲが特徴的な、彼より明らかに歳上だ。
 彼の名前はアルバート・W・ワイリー。
 剛とは違う世界で、ロボットを使って世界征服を企む、悪の科学者である。




 雨露を凌げる場所に移動した二人は、どちらともなく情報交換を始めた。
 その過程で分かったことは、お互いに別の時代の人間でなおかつ、違う世界の住人であるということである。
 ワイリーからすれば当然のロボット技術やトーマス・ライトという博士の存在を、剛は知らなかったからだ。
 そこで異世界転移経験のある剛が、互いは別の世界の住人だと結論付けた。

 剛からすれば異世界は経験済みの事の上、宇宙人に超能力者と友達をやっているのだ。受け入れるのはそう大したことではない。
 一方のワイリーも、多少戸惑ったとはいえ確かなものとしてのしかかっている以上、潔く受け入れた。
 常識的でない、という理由で現実を受け入れない狭量さは彼には存在しない。そんな奴は科学者の名折れだと、ワイリーは思っている。

「しかしあの時、首輪を爆破させ死んだ女を蘇らせたあれ、何じゃと思う?」
「いやぁ、ボクには分からないです……」
「だろうな。ワシにも分からん」

 いつの間にか話は神子柴がどうやって死人を蘇らせたかに移っていたが、さっぱり分からないという結論にあっさりたどり着いてしまった。

 ちなみに、ここで一人称がボクになっているのは剛である。
 自分より年上の相手と話す機会は少ないものの、目上相手には敬語を使う常識が彼にもあった。

「やはりあの力について知るには、あの時死んだ女に接触するべきだろうな」
「そうですね。考えて見れば、ボクたちはあのお婆さんが何者かも知りませんし」
「その過程で適当な参加者から首輪を手に入れて、それを基にサクっと外してやるとしよう。
 そして最後にはあのババアから謎の力を奪い取り、元の世界に帰ってその力を礎に最強のロボットを作り、今度こそ世界征服じゃあ――――っ!!」

 情報交換と行動方針の話し合いのはずが、いつの間にかワイリーの決意表明になっていた。

 ワイリーが世界征服を企むのは、偏に己の技術がライバルであるトーマス・ライトを上回っていることを証明する為である。
 彼は学生時代、トーマス・ライトと同級生だったのだが、何をするにもワイリーはライトに負け、二番手に甘んじていた。
 ワイリーにはそれが屈辱だった。
 その屈辱を晴らす為なら、ワイリーは何でもする。
 人を騙すことも、人質をとることも、土下座して命乞いすることもする。

 そしてワイリーは諦めない。
 何度負けても、例え牢獄に囚われようとも、殺されかけようとも、彼は絶対に世界征服を諦めない。
 そんなバイタリティの塊みたいな男に、科学の力で戒めを作ればどうなるか。
 答えは火を見るよりも明らかな現状である。

 これがもし、魔法や呪いという超常が首輪の代わりをしていれば、大人しく優勝を目指したかもしれない。
 あるいは、ワイリー自身が殺し合いの主催になるという選択肢もあったかもしれない。

 だが神子柴はこともあろうに、科学でワイリーを抑え込みにかかった。
 彼はそんな真似をされて、黙って屈するような男ではない。

「行くぞ剛! 方針が決まったのならさっさと行動するのみじゃ!!」
「はい!」

 傘を手にずんずんと歩くワイリー。
 その背中を慌てて追い掛けようとする剛。
 その前に、彼は支給品を検める。雨の中、傘も無しに歩きたくはない。

 しかし、剛のデイバックには傘はなく、雨合羽しかなかった。
 他の支給品に雨を凌げそうなものはなかった。
 仕方ないので慌てて合羽を着る剛。

「あ、待ってくださいよワイリー博士~~!」

 そしてワイリーは剛を待たず先に進んでいくので、彼は必死になって追いかける。


 こうして、マッドサイエンティスト二人の、天気の子にまつわる殺し合いが始まった。


【剛万太郎@サイボーグクロちゃん】
[状態]:健康
[装備]:雨合羽@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(確認済み。雨を凌げるものはない)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:ワイリー博士と行動する
2:できるなら、帆高くんと陽菜ちゃんを会わせてあげたい

※参戦時期は本編終了後です。

【アルバート・W・ワイリー@ロックマンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:神楽の番傘@銀魂
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:こんな殺し合いはとっとと抜け出して、神子柴が持つ力を手に入れ、その力で今度こそ世界征服できるロボットを作り上げる。
1:まずは最初の場で神子柴に向かっていった女(時女静香の母)から情報を手に入れる
2:その過程で首輪を解除するために、首輪のサンプルを手に入れる
3:戦闘力のある、神子柴に抗う参加者と合流したい


【雨合羽@現実】
剛万太郎に支給。
なんてことのない雨合羽。
傘と違い手が塞がらないので、自転車に乗る時とかは便利。

【神楽の番傘@銀魂】
アルバート・W・ワイリーに支給。
日光に弱いという設定がある銀魂のヒロイン、神楽の持つ日傘。
日傘のはずだが、割と雨傘としても用いられている。
また、機関銃が仕込まれており、いざというときには武器にもなる。
弾が切れるとなぜか醤油が出る仕様。
最終更新:2021年02月10日 21:11