「はて、このような摩訶不思議な事が起きようとは――この璃刃壊左、長生きはしてみるものですなぁ」
雨降る空の下、どこかの店の外よりその光景を見つめるは、丸い片眼鏡を掛けた一人の老翁。その礼儀正しき仕草に隠れ、相応の実力者であることを感じさせる
かの者の名、璃刃壊左。東京の治安を守りし帝都八忍が一人
「然し、かの老婆、神子柴と申しましたか。まさか死者の黄泉還りをも容易く成そうとは。――先の彼女や、この身のように」
璃刃壊左は既に死んだ身の人間であった。極道共の悪だくみを察知し、それを止めんがために極道共を鏖に向かい、新種の麻薬(ヤク)らしきものを服用した「きわみ」なる男にあと一歩及ばず、せめてものとばかりに仲間たちに後を託し、この身は自爆したはずであったが
目が覚めれば可笑しな映画を見せられ、そして殺し合いを命じられる。いくら忍びの技とて人を黄泉還らせるのは不可能
「此度の件。どうやら解決には一筋縄では行かないようで」
90年以上生きてきた璃刃壊左にとっても、このような出来事や催しなど前代未聞である。だが、都市を守る忍者
として、巻き込まれた民は守り、同情の余地無き悪人は殺す
そして最も重要であり、自分たちの命運を握っているであろう森嶋帆高の保護も
「――さて、そちらはどう思います哉。クラウゼア殿?」
壊左が声をかけた方に居たのは、座席に座る『クラウゼア』と呼ばれた女性。全身漆黒の闇色マント、頂点に向かって尖った鍔広の黒帽子。闇色の装飾よりも美しき濡烏羽色の長髪
彼女の名は『クラウゼア・鳳・オリハルゲルド』。オルハルコン大陸に存在『した』小さな国カライルーズを護ってきた魔女である
「――そうね。『魔女』として意見があるなら、あの殺された女が戦ってた魔物みたいなのからは魔力を感じたわ。最も、死者の蘇生なんて、いくら魔法と言えど不可能に近いわ」
「不可能に近い――ということは『不可能ではない』とも受け取ってもよろしいと?」
「どうかしら。寿命を伸ばす秘薬はあっても、不死を得る魔法なんて聞いたこと無いから」
冷めた表情と訝しむような視線を壊左に向けながらも意見を口にする魔女クラウゼア。正直な所、クラウゼアにとっては壊左という男に対し、この殺し合いに巻き込まれる経緯も含めて複雑な感情を向けていた
まずこの二人が出会った経緯からして、壊左の忍びとしての雰囲気を感じ取ったクラウゼアが彼の気配に気づいたことによるもの
「やはり、私の事が信用でき無いようですな。ですが、仕方のないことでございまする。初対面で顔も知らぬ者同士、そう簡単に信頼できる関係になるとは思ってはおりませぬ」
「………」
まるで心の内を見抜かれたがの様な壊左からの発言に思わずクラウゼアの口が止まる
クラウゼアはある男の奸計により冤罪を被せられ、ヒトモトの忍者イヌワシによって魔法を封じられ、悪魔審問に掛けられた
全てはカライルーズ取り込もうと暗躍せし軍事大国ドラケニアの密使たる宰相ガギロギアによる陰謀。刻み込まれた快楽に溺れ、殺されそうになった寸前、死にたくないと願ったクラウゼアに死した母の守護魔法が発動。召喚された黒竜と、どこからともなく現れた敵兵によるカライルーズ民の虐殺を他所に脱出
その途上敵兵に捕まり犯さる、かつて自分を無力化した忍者イヌワシによって救われ、イヌワシを追いかけ母の故郷へ向かおうとした途端に巻き込まれたのがこの妙な催しだ
クラウゼアとてこの様な催しを許容できるような冷酷な人物ではない。騙されてたとは言え自分を追い立て辱めた市民たちが目の前で陵辱され命を奪われる様を見て胸を痛める程度には良識のある人間でもある
だからこそ、早急にこの催しを止めて元の世界への帰還、そして暴走の可能性のある帆高を早い段階で捕獲しなければという心情にも駆られている
「ごめんなさい。私、忍者のせいで酷い目にあって、逆に忍者のお陰で助かった。そんな出来事があったらどうにも忍者ってだけで疑り深くなっちゃうの」
だが、目の前の忍者はイヌワシとは違う、さらに言ってしまえばヒノモトや他の国でもない。クラウゼアからすれば未知の世界から来た、未知の人物だ
頭では分かっていながらも忍者というだけで疑ってしまったことに思わず謝罪するクラウゼア。さっき壊左が言った通り、顔も知らない初対面同士がそう簡単に信頼できるわけもない訳ではあるが……
「いえいえ、元よりそう容易く事が運ぶとは思ってはおりませぬので。それに、この下賤な催し、もしやすれば忍者坊や他の忍者も巻き込まれ、既に動いておられるかもしれぬで御座います」
壊左から出た言葉はクラウゼアに対しての気遣い、そしてありきたりながらも仲間に対する信頼の証
「それに、こうして命が続いているのであれば、この私めの入魂の洒落(ギャグ)を聞いて頂く為にも、ここで命落とすつもりはありませぬ」
「ギャグ……? ええと、それって……?」
壊左の言葉に思わずキョトンとなってしまう。恐る恐る内容を聞いてみれば
「―――アルミ缶の上にあるミカン」
風が、吹いた。恐ろしく寒気を感じる風を、クラウゼアは感じた
―――全く面白くない!などと叫ぼうと思ったが、そのあまりにも違いすぎるギャップに思わず
「……ふふっ」
「どうやら気に入ってもらえたようですな。これならば忍者坊も爆笑必至と、私めも考えたのです」
少しばかり吹き出した。壊左のどことなく嬉しそうな表情から、思わず言おうとした言葉は胸に仕舞い
「いいんじゃないの? その忍者って子が誰かは知らないけど、笑ってくれるんじゃない?」
などと、魔女は久しぶりに笑顔で喋っていた
かつて国を護り、国に裏切られた魔女。そして国と手を切り、己が正義に準じ民を護らんとする忍者
世界と越えた出会いが二人に何を見出すか、雨降らす天は、まだ何も知らない
【璃刃壊左@忍者と極道】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:神子柴を倒し、催しを止める
1:森嶋帆高の保護
2:もし忍者坊ら他の忍者がいるならば合流。極道共は鏖でございます
※参戦時期は死亡後
【クラウゼア・鳳・オリハルゲルド@高貴なる魔女クラウゼア 淫堕の異端審問】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:元の世界に帰る
1:森嶋帆高の早急は捕獲
※参戦時期はエピローグ後
最終更新:2021年02月13日 19:27