雨に打たれる路上で金髪の女と大きな口を持つ花のような怪物が対峙していた。
女の腰には特殊な形状をしたバックルのベルト――変身ベルトが巻かれていた。
その変身ベルトの名は戦極ドライバーといった。
「変身」
『リンゴォ!』
女は手に変身のためのアイテムである禁断のリンゴロックシードを持ちこれを開錠する。
『ロックオン カモン!』
ロックシードはベルトの中央にセットされカッティングプレートを押し下げらることで開かれる。
女の頭上に時空の裂け目であるクラックが開き、そこから先ほどのロックシードに対応するアームズが出現する。
『リンゴアームズ!デザイア フォビドゥン フルーツ♪』
リンゴアームズは女の頭から被さり鎧として展開する。
女はアーマドライダーイドゥン、もしくは仮面ライダーイドゥンと呼ばれる戦士へとその姿を変えた。
イドゥンの手元にはアームズウェポンであるアップルリフレクターという盾が出現する。
そのアップルリフレクターからもう一つのウェポンであるソードブリンガーという剣を引き抜き、構える。
「ハアアアアア!!」
イドゥンは剣を持ちながら怪物へ向かって突進する。
そして勢いをつけたまま怪物に向かって剣を横向きに一閃する。
だがその攻撃はあっさりとジャンプで躱された。
「ぐうっ!」
怪物はジャンプ後、空中でイドゥンの頭上をそのまま通り、ついでと言わんばかりに自らが生えている植木鉢を頭に叩きつける。
「せいっ!やあっ!たあっ!」
イドゥンは後ろに回り込んだ怪物の方へすぐさま振り向き、連続して攻撃を行った。
だが、それらの攻撃も相手に当たることはなかった。
むしろ攻撃しようとするたびに隙を狙われて反撃をくらう。
イドゥンがどんな攻撃を仕掛けようとしてもヒットすることは一切なかった。
対して怪物はその赤と白の水玉模様の頭のような花、牙の生えた大口、手のように扱う葉、その他様々な彼?にできる手段によって攻めていった。
戦いはイドゥンが劣勢のまま続いていった。
×××
「ハア…ハア…」
戦いが始まってから少なくとも20分は経過しただろうか。
その間、イドゥンから怪物に向けての攻撃が届いたことは一度もなかった。
それに対し、怪物の方は…
口から毒ガスを吐いてみたり、
とげ付き鉄球を出してぶつけてみたり、
ちょっと火を噴いてみたりと、
もはや自分に可能な攻撃はほぼ全て行えたと言ってもいいほど戦いは常に優勢であった。
止めを刺すつもりで強烈な攻撃もくらわせた。
だが、どれだけダメージを与えてもイドゥンはまだそこに立っていた。
この30分間の攻勢で変身解除されることもなかった。
「ふっ、ふふふ、どうしたモンスター、その程度か?」
少なくないダメージが蓄積され、体をよろめかせながらも彼女はまだ戦いを続けるつもりでいる。
これで相手が人間だったのならイドゥンのその諦めていないような姿に困惑することがあるかもしれない
が、怪物の表情に変化はなくどんな気持ちで彼女を見ているのかは分からない。
「次はその茎を伸ばして私の体に巻き付くつもりか?それともその大口で私を丸呑みにするつもりか!?」
イドゥンは突如、興奮しながら声を上げた。
「あの口の中に入ったら私はどうなってしまうのだろうか…きっと粘液まみれのぐちょぐちょな状態に…フ、フフフ、フフフフフ!」
自分が追い詰められている戦いの中、イドゥンの笑い声には明らかに喜びの感情が含まれていた。
本来、このライダーに変身した時に起こる副作用について知っている者がこの光景を見たら何かの異常事態が起きていると思うだろうか。
だが、こうなるのはある意味必然なことである。
この場でイドゥンに変身している女の名はダクネス、アクセルの街で随一のドMクルセイダーである。
×××
ダクネスはこの殺し合いには騎士として乗るつもりはなかった。
最初は森嶋帆高の保護のために動いていたダクネスだったが移動する途中で先ほどの怪物を見つけてしまった。
これをダクネスは冒険者として退治しようとしたのだ。
…いや、彼女には自分がその怪物を倒せないことには初めから気付いていた。
自分の不器用さにより攻撃が全く当たらないことは彼女自身がよく分かっている。
この場には頼れる仲間であるカズマ、めぐみん、アクアもいない。
それでも立ち向かったのはその初めて見る怪物がどんな攻撃をしてくるか、そういったことに興味をひかれたからだ。
なぜなら、先ほども述べたようにダクネスはドMだから。
それはもう、自分を冒険パーティに入れてもらうようにするためのアピールの際に遠慮なく盾にしてくれと言ってしまうほどである。
彼女による変態発言は他にも存在するがここでは割愛する。
もちろん人を襲いそうな怪物を倒すという意思もある。
それはそれとして相手がどんな攻めをしてくるのか興味がある。
だから彼女は自分が攻撃されることを想定して戦いを挑んだ。
そんな彼女に支給されたアイテムが戦極ドライバーと禁断のリンゴロックシードであった。
禁断のリンゴロックシードは通常のロックシードよりも危険なアイテムである。
これをアーマドライダーへの変身のために使用すると肉体を蝕まれていくのである。
戦極ドライバーの使い方やロックシードの危険性については説明書に書かれていた。
このことを知った時、ダクネスはこう思った。
(これを使ってしまったら私は一体どうなってしまうんだ!?)、と。
彼女は変身による負荷というものに興味を持ってしまった。
こうしてダクネスは現在、唯一彼女が持つ戦うための手段であるイドゥンの力で怪物退治に乗り出したのだった。
そして目論見通り、彼女は変身の副作用で体を痛めつけられながら、手も足も出ずに追い詰められていった。
盾は一応持ってはいたが普段彼女が扱うのは両手剣だからなのかあまり使いこなせていないしそもそも体を守るために使おうとしない。
仮面の下で見えることはなかったが、戦っている間ダクネスは痛みにより常に恍惚の表情を浮かべていた。
この戦いでダクネスは十分に喜び…否、悦びを得ることができたのであった。
×××
ここで一旦、視点を怪物の方へと変える。
タイトルと特徴から察することもできるだろうが、ダクネスと戦っていた怪物の正体はパックンフラワーである。
それもただのパックンフラワーではない。
大乱闘スマッシュブラザーズに参戦するための特別なパックンフラワーなのである。
そんなパックンフラワーはこのバトルロワイアルのことをあまりよく理解できていない。
せいぜい優先して狙うべきなのは森嶋帆高だという認識があるだけである。
彼はスマブラのためのパックンフラワー…大乱闘に勝利することが存在意義となる。
そのため彼の目的はただひたすら自分の敵を倒すこととなっていた。
大乱闘においては敵を場外まで吹っ飛ばすことが撃破することとイコールとなる。
このバトルロワイアルにおける場外がどこからで誰が自分の敵なのかは分からないが、とにかく出会った者を片っ端から吹っ飛ばすつもりであった。
そんな折に自分に挑んできたのがダクネスであった。
当然、彼女は吹っ飛ばすための対象となった。
戦いが始まった後、これまでに述べたようにパックンフラワーの方が常に優勢にあった。
だが状況は彼が望むものにはなかなかならなかった。
ライダーに変身したダクネスにどれだけ攻撃を浴びせても彼女が大きく怯むことはなかった。
通常必殺技のシューリンガンをぶつけてみても、スマッシュ攻撃をしてみても、変身解除させることもできず、大きく吹っ飛ばすこともできなかった。
これはきっと変身によるスペック向上だけでなくダクネス自身が元々持つ力も相乗されているのだろう。
パックンフラワー単体での攻撃はまだしばらく耐えることができるのだろうか。
それと同時にパックンフラワーは相手が攻撃を全く当てられないことにもさすがに気付いていた。
そして攻撃するたびに喜んでいることにもうすうす感づいていた。
これらのことからパックンフラワーはこの戦いを終わらせるためにある手段をとることにした。
×××
「そ、それはなんだ!?」
パックンフラワーがデイパックから取り出したものを見てダクネスは思わず声を上げる。
それは野球のバットであった。
「その黒く長く太く硬そうなもので私をどうす『カキーン!!』
ダクネスが何かを言う前にパックンフラワーは近づき、その隙に思いっきりバットを振りぬいた。
バットに打たれた瞬間、ダクネスにはこれまで味わったことのない感じの衝撃が走る。
これまでそれ自体の性能とダクネスの精神力により攻撃を耐えてきたアーマドライダーの装甲もついに限界が来て変身解除されてしまった。
そして彼女の体は凄まじい勢いをつけ、そのまま空の彼方へと吹っ飛んで行った。
パックンフラワーが使用したアイテムはスマブラでもおなじみのホームランバットである。
表情は仮面によりよく見えなかったが、こちらが攻撃するたびにする相手の反応にパックンフラワーはあるキャラクターを思い出した。
それはバットと同じくスマブラアイテムのサンドバッグくんである。
サンドバッグくんは先ほどまで戦っていた相手と同じく、攻撃するたびに喜ぶような反応をする。
特に彼を吹っ飛ばし役として用いるホームランコンテストでは吹っ飛ばされた後、頬を赤く染める。
だからどんな攻撃にも耐えて見せたダクネスも彼と同じようにホームランバットで吹っ飛ばしてやることにしたのだ。
とにかく、こうしてパックンフラワーは強敵というよりはうっとおしいという感じの敵を撃退することができた。
次の獲物を探すためにパックンフラワーはその場をあとにした。
×××
だが、パックンフラワーは1つだけ気付いていないことがある。
広大な会場を持つバトルロワイアルにおいて場外負けがルールとして設定されることは基本的にないのだ。
生か死か、それがバトルロワイアルでの勝者と敗者の違いとなる。
そのため、先ほど吹っ飛ばしたダクネスもまだ生きているため敗北したとは言えない。
彼のようなスマブラファイターは基本ダメージ蓄積により吹っ飛びやすくなるのだが、この場でそのシステムは採用されていない。
そのため、ここでは体力制が彼のような存在に対するダメージシステムとして設定されている。
さすがに実際にダメージを受ければそのことに気付くだろうが、先の戦いでそういったことは起きなかった。
この勘違いに気付かぬ限り、きっと彼の優勝は遠くなるだろう。
【パックンフラワー@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】
[状態]:残りHP300、ストック1
[装備]:ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]基本行動方針:敵を倒して優勝する
1:森嶋帆高を優先的に狙う
2:他の参加者もできるなら倒す
※自分が体力制になっていることに気付いていません。
※ダメージによりHPが0になると死亡します。
※ダクネスを倒したと思っています。
【ダクネス@この素晴らしい世界に祝福を!】
[状態]:ダメージ蓄積(大)、興奮
[装備]:戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、禁断のリンゴロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]基本行動方針:騎士として殺し合いには乗らない
1:すごい…衝撃…だった…
※参戦時期は少なくともカズマのパーティに入ったよりは後。
※映画『天気の子』にアクア(のコスプレイヤー)がいたことに気付いているかどうかは不明です。
※どこまで吹っ飛ばされるかは分かりません。
【戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武】
ロックシードを装填することでアーマドライダーに変身するために用いるベルト。
装着者が手に取ったヘルヘイムの果実をロックシードに変化させる機能なども備えている。
本来はイニシャライズという機能により最初の使用者にしか使えないのだが、この場においては誰でも使用できるようになっている。
【禁断のリンゴロックシード@仮面ライダー鎧武】
錠前型アイテムのロックシードの一種。
戦極ドライバーへの装填により、リンゴアームズを呼び出す。
初めて完成されたロックシードであるのだが、使用者の肉体を蝕むという副作用を持つ。
これによって変身したアーマードライダーイドゥンは限定的なクラック操作能力を持ち、ヘルヘイムの植物を操ることができる。
クラック操作能力によりヘルヘイムの森へ行く場合、そこにいられる時間は最大15秒に制限される。
【アップルリフレクター@仮面ライダー鎧武】
ゴールデンアームズまたはリンゴアームズのアーマドライダーが召喚、使用するアームズウェポン。
使用者を護る堅牢な盾で、敵に叩きつけてダメージを与えることも可能。
赤く分厚い装甲板「リフレクラスト」は、攻撃を受け止めた際の衝撃を分散する効果を持つ。
【ソードブリンガー@仮面ライダー鎧武】
ゴールデンアームズまたはリンゴアームズのアーマドライダーが召喚、使用するアームズウェポン。
先端の二股に分かれた刃の間からエネルギーを発生させ、刀身を覆って強化することが可能。
【ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】
スマブラシリーズ全てに登場する打撃アイテム。
このアイテムによるスマッシュ攻撃は隙が大きいが極大なふっとばし力を持つ。
最終更新:2021年02月13日 22:08