雨が降り続く世界に、一人の男がいた。


「クッソ……、どんな状況やコレは……」


その男の服装は、首元から見えるYシャツを除けば上から下まで黒ずくめのスーツ。
パッと見だとヤのつく仕事に就いてる怪しげ満載な外見年齢20代の青年の名前は、ニコラス・D・ウルフウッド。

ある時は世界を渡り歩く巡回牧師。ある時は知り合いのトンガリ頭のガンマンと一緒に旅するアウトロー。ある時は暗殺組織「ミカエルの眼」の力を振るう凄腕の殺し屋。
人死にが当たり前の世界で生きてきた男は、まるで初めて見た光景だと思わせるような、目の前の大雨を目を丸くして見ていた。


「これ、全部水なんか……?」


スタート地点が雨よけがついていた建物だった為、運良く開始早々ずぶ濡れにならずに済んだウルフウッドは右手を出して、降り注ぐ大雨から掌に入ってきた水を落ちない様に口に含んでみる。
それは、料理を召し上がる時に出されるモノと比べれば冷たさとか味わいとかは違っているが、味に拘るグルメではないウルフウッドからすれば喉を潤すには充分なモノではあった。

目の前一面を覆いつくすモノは、間違いなく水。その事実を理解したウルフウッドは、呆然とした様な関心した様な表情をした後、彼はスタート地点であった建物の玄関前の段差に腰かけた。
まるでこの現象を初めて見たといった様な行動であったが、それも仕方がないこと。何故ならこの青年は、視界が埋め尽くされる程の大雨を、ましてや大量の水を見たことがなかったからだ。



彼が生きてきた世界は、地球から遠く離れた、見渡す限り砂まみれで町には銃の硝煙が燻る、人の心すらも乾いた砂漠と暴力の世界。通常・ノーマンズランド。
水が出る所に人が集まり、独り占めを行おうとして争いが起き、血が流れる事などもはや当たり前。人が生きる為の技能と人を殺す技能があべこべになってしまっている、厳しい世界なのだ。
その様な地に、空から滝のような水が何時間も降れば、誰も歓喜の声を上げ、宴やら水の奪い合いやらのどんちゃん騒ぎが始まる事は想像に難くない。
特にウルフウッドと共に生きてきた、トンガリ頭のガンマン―――ヴァッシュ・ザ・スタンピードがこの場に存在しているのなら、全身で雨に当たり、満面の笑みを浮かべて踊りだすのだろう。

しかし、少なくともこの場においてウルフウッドの傍にはヴァッシュは存在せず、彼がいる土地もノーマンズランドではない。ゲームを行う為に用意された都市なのだ。

ここはどこなのか、ここにつく前に見たあの映像は実在のものなのか、これからどうするか
思い浮かぶと考える事は山の様にあり、本来なら即座に行動に移していくべき場面であったが、ウルフウッドは動く事はなく座っていた。
ウルフウッドが脳裏に考えているのは一つ。自身の事である。

「そもそも、ワイは死んだんじゃなかったのか?どうやってあのキズを直したんや」

ニコラス・D・ウルフウッドは死んだ―――少なくとも本人はそう認識している。

「家族」である孤児院の仲間たち、そして孤児院で一時期共に過ごしていて、自身と同じミカエルの眼の暗殺者になっていたリヴィオ・ザ・ダブルファングを救うために、ヴァッシュと共に暴虐に飲まれてかけた孤児院を守る為に戦い、師であったチャペルたちと死闘を演じ、肉体再生を促す薬物を過剰摂取したことによるオーバードーズと戦傷によって死を免れぬ身体となった。
そして、最期の時をヴァッシュと過ごし、言葉を語らい、孤児院の仲間を乗せた飛行船を見届け――――――気づいたら全く別の場所にいて、別の椅子に座っていた。

素人目からみても助かりようがなかった傷は、まるでそんなものは存在していないかのように傷跡一つない。
身体を軽く動かしてみたが、違和感も感じず、まったくと言っていいほど問題がない身体そのままだった。

自身の身体状況と、目の前の光景を少しずつだが理解してきたウルフウッドはここに連れてこられる前の事を思い出していく。


――――――困惑している者もいるようじゃな。まあ、早い話がそなたら参加者同士で行われる殺し合いじゃよ。
――――――ルールは簡単。天野陽菜を連れ戻そうとする『森嶋帆高』を制限時間まで食い止めよ。『森嶋帆高』の生死は問わん。

その2つを思い出したウルフウッドは、思考を働かせていく。



死ぬ筈だったワイを生き返らせた。あの時はもうハラ括ってたけど、人間誰しも生きたいモノだ。悪い気分やない。

殺し合いを命じられた。それ自体は正直別に良い。命のやりとりは日常茶飯事だ。

『森嶋帆高』を捕まえろといった。殺し合いよりもっと楽だ。気絶させるまでボコればいい。

それぞれ一つづつの事なら別に構わない。しかし提示されたモノを繋ぎ合わせると話は変わってくる。


本来死に往く人間を、わざわざ蘇らせるような事して、
そんでやらせる事は、子供が標的のクソッタレな殺し合い?


舐めてる。ワイを、ミカエルの眼の暗殺者を。ニコラス・D・ウルフウッドという男を。


「命救ってお膳立てしといけば、ワイが素直にハイ分かりましたあの子供を始末しますって思っとんのかあのババアは……!」


こめかみに青い癇癪筋を走らせ、怒りを顕にするウルフウッドの脳裏に浮かんだのは2つ。
一つはこのゲームの主催者と思わしき老婆。顔を思い浮かべるとなんだかどんどんイライラしてきた。
もう一つは暗殺者として育てられた時よりも以前に生活していた、そして死ぬ筈だった戦いで守り抜いた孤児院とその子供達。

分かっている。孤児院で一緒にいた知り合い達と『森嶋帆高』は違う。
家出と言っていた以上家族はいるのだろうし、必死に逃避行をしていたがウルフウッドからすれば頭下げて大声で謝れば見逃す程のガキの遊びの様なモノ。ノーマンズランド基準なら酒のつまみにもならないチンケな話だ。何より少なくとも彼の周りは安全だ。自分が過ごしてきた、生きていくのも精一杯な日々と比べるとぬるい環境。その人間を捕らえればここから脱出できる。

それでもワイは、ニコラス・D・ウルフウッドは、あの少年を殺す気にはなれなかった


「こういう役割はおんどれやろトンガリ……。子守とかは今のワイには似合わんで……。」


ヴァッシュ・ザ・スタンピードは恐らくこの地にはいない。むしろこの場にいたら逆に困る。人間が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているあの星が終わってしまう。奴にはここではない土地で一仕事をしてもらわないといけないのだ。
これはウルフウッドが行って行かなければならない。思いがけないロスタイムの仕事だ。彼はそう思った。


「ババア………、ワイを参加させた料金は高くつくで」


それとどうせ生き返らせるなら一緒にパニッシャーとタバコも用意しとけ、と口には出さずにウルフウッドは反旗を思わせる決意を言う。


死すべき筈だった狼の足掻きが、この雨の街でどれだけ喰らい付いていけるのか――――――それは、誰もわからない


【ニコラス・D・ウルフウッド@TRIGUN MAXIMAM】
[状態]:健康(ロワ以前のケガ・後遺症は完治状態)、軽いイライラ
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~3(銃火器と煙草はなし)
[思考]
基本思考:とりあえず黒幕っぽいババアをボコりにいく。
1:今は一応帆高を探していく方針で。ババアの敷いたルールは無視
2:自分からは極力揉め事は起こさない。ただし売られた喧嘩は買う。
3:とにかく銃が欲しい。できればタバコも
4:…そもそもワイは死んだんじゃなかったのか?
[備考]
※死亡後からの参戦です
最終更新:2021年02月14日 08:02