びょいん。びょいん。
夜の街にスプリングが跳ねる。
びょいん。びょいん。
真夜中に僅かな光を灯したビルは蝋燭立てのよう。
びょいん。びょいん。
怪人は童謡のように飛び越える。
びょいん。びょいん。
怪人の名前はバネ足ジャック。
びょいん。びょいん。
バネ足男は月輪を影に跳ねる。
あきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!
○○○
『バネ足ジャック』
かつて19世紀ロンドンに存在した怪人。
仮面の奥を爛々と光らせ、口から青い炎を吹く。
特徴的なのはそのバネ足を活かした高い跳躍力。
甲高い笑い声と共に神出鬼没に現れて、女性達を驚かせて去ってゆく。
そんな都市伝説上の存在である。
「くだらないな」
その正体は彼。英国の放蕩貴族、ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド。
バネ足ジャックは、かつて彼が行った悪戯を発端とする怪人である。
ウォルターは殺し合いに乗る気は無い。
先程見せられた幻灯機の映像には驚きはしたが、ミコシバに命じられホダカとやらを殺すのも癪である。放蕩貴族としての心根は反抗することを選ぶ。
この場でやることは決まっている。かつて姪を助けたようにホダカを守り、ミコシバを倒して帰る。それだけだ。
支給されていた衣装に身を包み、ウォルターは怪人バネ足ジャックへと変わる。
その跳躍力は21世紀の新宿というロケーションにおいても健在である。
ビル街を駆け、天井に乗り、道路の真ん中を我が物顔で跳ねる。
口から吐く青白い炎は夜の街を彩るアクセントとなる。
この世界が本来の新宿であれば、新たな現代怪奇になったであろう。
降り止まない雨に打たれ、バネ足ジャックは跳ねる。
なんとなく雨は好きでない。かつての日の事を連想してしまうから。
そうして、探索を続けていると、ビルとビルの間から二本足の機械の姿が見えた。
その機械はカシャンカシャンと人工筋肉を軋ませて、闇の中、モノアイを緑色に灯らせる。
錆びついたボディに雨が打たれるその姿は、何処か痛々しさすら感じ取れる。
「……自動人形か」
自動人形。オートマータ。
12世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパで作成されていた機械仕掛けの人形をそう呼ぶ。
かつて機械工学を専攻していたウォルターにとって馴染みのある言葉だ。
実用化したという話は聞いたことが無い。しかし、都市伝説の怪人がここに居るのだ。
ならば、似た存在がいるのはおかしな事でない。
殺し合いなどする気は無いが、あの人形が此方に危害を加える気ならば、この場で破壊するだけである。
カギ爪を構え、何時でも迎撃出来る体制へと移る。
その自動人形は怪人に気づくと、ガタガタとぎこちない動きで首を動かし、人工音声を紡いだ。
「ぜぼっと ドコ?」
○○○
ある世界。からくりに支配された街があった。
人々は暴虐を続けるからくり達に恐怖していたが、ある一人の科学者は命じられたまま破壊活動を行う彼らの姿に心を痛めていた。
ある日、壊れかけのからくりを見つけた科学者はそれを改造し、破壊性を取り除いた。
そうして、花を愛でることすらも可能な、心を持ったからくりが誕生した。
その生まれ変わったからくりは、かつて科学者が失った恋人の名を与えられる。
それが彼女『エリー』と呼ばれるからくりである。
科学者とエリー、そしてある冒険者達の手によって、からくり達の支配は終わり、街に平和が訪れた。
しかし、街を救ってもエリーと科学者は救われなかった。
エリーの姿は街を破壊したからくり兵そのもの、人々にとっての恐怖の象徴は受け入れられられるものでない。
人々はエリーが心を持っていることを信じない。もう不要だから壊してしまえという声すら上がった。
身勝手な人間達に失望した科学者は、それから生涯、誰とも会うことはなかった。
彼と彼女は二人だけで生きていく。恋人の死を受け入れることの出来なかった科学者は、永遠に死なない存在をそばに置いて自分を慰める。
彼は数年、数十年、数百年。科学者は永遠に『変わる事のない』愛を受け続けた。
その命が終わった後も。
永遠に。
○○○
「アタタカイ すーぷ ノメバ ゲンキニナル」
「頂くよ『エリー』」
「オイシイ すーぷ ツクル」
新宿のとある一角にあるレストランの中。
歩きながら情報交換を終わらせた二人は、一旦今後のことについて話すことにした。
この店を選んだのは、雨に打たれて震えを帯びる彼の姿を見たエリーが、身体が温めるためにスープを飲むことを提案したからだ。怪人といえど雨に濡れた身体が冷えるのは変わらない。
怪人はバネ足ジャックの衣装が乾かし、からくり人形は調理場へと向かった。
(ゼボットってやつは……そうか)
ウォルターは横目にスープを作るエリーの姿を見る。
全身は錆に覆われ、大小の細かな傷が痛々しい。
ガタガタとぎこちない動きは危なっかしく、油を差していないのか、動く度にキィキィと耳当たりの悪い音が響く。
あまりに長い間、手入れがされていない事が分かる。
それは彼女の言う『ゼボット』がどうなったかを暗に示している。
(昔、『変わらない』ものを求めた奴がいたっけな。そんなコト出来やしねぇのに)
「すーぷ デキタ アタタカイウチニ」
「ああ、感謝する」
何百年もの間、口の付かれることの無かったスープを飲み込む。
新鮮な野菜を使って作られたスープは栄養豊富であり。食の細い者でも食べられるようにと柔らかく工夫され、一口毎に優しい心を感じられる。
そこから本来飲むべき相手のことを強く思っていることが分かる。
万物は『変わっていく』。
姿形は錆付き、動く度に軋む音が響く。留めることはできない。
エリーの姿は所々に痛々しさを感じさせるが、彼女の愛は永遠に『変わらない』。
『心』の籠った温かなスープは、雨に打たれ冷たくなった身体をほぐす。
「エリーよ、この後どうするか決めているかい」
「……ワカラナイ」
「だろうな」
エリーはからくりだ。だけど心がある。
先程見た映画でも、映像美にキレイという鑑賞を抱き。森嶋帆高と天野陽菜が離れ離れになるのはツライという感情を抱く。
からくり故に命という概念は理解出来ていないが、コロシアイなる言葉はエリーに辛い選択を強いる。
心を持たない只のからくり兵の一員であった頃なら、何も考えず森嶋帆高や参加者達を襲っていたであろう。しかし、今のエリーにそんな事は出来ない。
「私はホダカを探しに行く、戻ってくるまでここで待っていてくれ」
「……えりー ツイテイク」
彼女は他のからくり達とは違う。優しい心を持っている。
なにもせずに待っているという選択は彼女には出来なかった。
モノアイの視線を真っ直ぐに目に向けられて、ウォルターは『そうか』と返した。
「その前にだ、エリー。君のメンテナンスをさせてもらおう」
ウォルターの見立てでは、エリーはもう長く保たないだろうと判断する。
それは殺し合いという場に関係なく、既に彼女の寿命が近いということ。
永遠の愛を持っていても、『最高』を留めておくことは出来ない。数百年もの経年劣化は彼女を蝕んでいる。
今動いていること自体が奇跡的だ。近いうちに機能を停止してしまうことは見れば分かる。
事実、本来の世界においては彼女はゼボットの亡骸の側で静かに機能を停止する運命にあった。
「スープの礼だ。綺麗になれば、ゼボットとやらも喜ぶだろう」
「うぉるたー ……ホントウ」
「ああ、本当さ。私はオックスフォードを出ている。技術力は心配する必要ないさ」
「……アリガトウ」
降り注ぐ強い雨、生死無用の殺し合い。
この環境が彼女に残された時間を削る事は目に見えている。
専門職でないウォルターでは応急処置程度しか出来ないが、少しでもゼボットの側に居る時間を伸ばしてやろうというウォルターの心遣いである。
もっとも、彼女にその真意は伝えないが。
「それにしてもメイド、メイドのからくり人形か……」
「ドウシマシタ うぉるたー」
「なぁに、大したことじゃない」
くくっと小さく笑う。
窓から降り注ぐ雨が視界に入る。
かつての日の事を不意に思い出して、我ながらバカらしいと小さく呟いた。
【ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド@黒博物館スプリンガルド】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、バネ足ジャック@黒博物館スプリンガルド、修理キット@メタルマックス2、ランダム支給品0~1
[行動方針]
基本方針:殺し合い?くだらないな
1:ホダカを守り、ミコシバを倒して帰る
2:首輪を解析する
3:エリーの手入れをする
※参戦時期はスプリンガルド異聞 マザア・グウス後です
【エリー@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]数百年分の経年劣化(応急処置中)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3
[行動方針]
基本方針:ぜぼっとノトコロ カエル
1:うぉるたー ツイテイク
2:クビワ ハズス
3:……アリガトウ
※3代目のエリーです。
※参戦時期は現代フォロッド編のイベント終了後から機能停止するまでの間です。
※死という概念を理解していません。
【支給品紹介】
【バネ足ジャック@黒博物館スプリンガルド】
ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドに支給。
かつてウォルターの悪戯目的で作成された怪人の衣装。
手足に仕込んだバネや火炎放射など19世紀当時の最新技術を用いられている。
作中では2体存在するがこれはウォルターが使っていた旧式のバネ足ジャックである。
【修理キット@メタルマックス2】
ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドに支給。
破損・中破した戦車装備を直すことが出来る道具。
ただし修理するにはメカニックのような工学知識が必要。
最終更新:2021年02月14日 22:31