「炭治郎、もし私が一度死んで、この場で生き返ったって言ったら信じる?」
 堂島瀬里は竈門炭治郎に対し、そう尋ねた。

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 炭次郎はこの場に降り立ち、困惑の極みに会った。
 失った右目と左腕の機能が完全に回復している。体力も元通りだ。
 服もいつの間にか鬼殺隊の隊服に着替えさせられている。その上の市松模様の羽織は禰豆子が縫ったものだ。縫い目でわかる。
 周囲を見渡すと、長い廊下に柱が直線に建ち並んでいる。駅の構内だが炭次郎にはその知識がない。
 足元にあった鞄の中身を確かめてみると、その中には炎の鍔が嵌められている刀。
 刀身を確かめると漆黒の峯に鍔元には『滅』の一文字。間違いない、最後の無惨との戦いで折れたあの刀だ。それが傷一つなく蘇っている。
 刀を納め腰に差すと、程よい緊張感が炭次郎に蘇り、落ち着きを取り戻した。
 他に誰かいないかと構内を歩くと、遠くに人影が見えた。
 近づいてみると何やらハイカラな服を着ている女性だった。鞄の中身を確認しているようだ。
 殺気の匂いは無いので、炭次郎は遠くから話しかけた。
「すみません、俺は竈門炭治郎といいます。名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

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 堂島瀬里は、この場に召喚された後、自分の身体を見渡した。
 『私は確かに死んだはず』。それが瀬里が初めに抱いた疑問だった。
 だが、瀬里の身体には傷一つなく、それどころか死んだときの衣装ではなく、メイド服に着替えさせられていた。
 足元にはデイバック。中を確かめると自動拳銃と弾倉があった。
 通常の人間なら銃を見て動揺する所だが、瀬里は平然と銃を取り、弾倉を差し込みスライドを引いてチャンバーに弾丸を装填した。
 次の中身を確かめようとした時、腰に日本刀を差した少年が近づくのを見て、銃をデイバックの中に入れた。

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「私は瀬里、堂島瀬里よ。あんたも映画見せられてこの悪趣味な狩りに呼ばれたわけ?」
「はい。あの活動写真はいいものでしたね。その後は最悪でしたけど」
「……何か変に古い言い方するわね。服装もなんか時代がかってるし」
 近づいて来た炭治郎の姿を見て、瀬里は遠慮なく言った。
「時代がかった……? ……まさか!?」
 あの活動写真であった塔。全面に硝子を張ったビルディング。蒸気をはかない機関車。善逸から話でしか聞いた事のない自動車。どれも炭次郎にとって未知の物だった。
 そして堂島瀬里の『時代』という言葉で思い出したのは、鬼殺隊の最終試験で出会った鬼。
 信じられないが、もしかしたら。
「……堂島さん。今の年号分かりますか?」
「瀬里でいいわよ。私も炭治郎って呼ぶから。それに今の年号って……平成でしょ?」
 変な質問だと瀬里は思った。
「俺にとっては大正です。やっぱり年号が変わっている……」
 だが炭次郎にとっては驚愕すべきことだった。
「何よ、まるでタイムスリップでもしてきたかのような事を……」
 呟いた途中で瀬里は気付いた。自分は生き返ってここにいる。ならもしかしたら時代を超えて人間を呼ぶことも出来るのでは――
「じゃあ、炭治郎――」

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「はい、俺も失った身体の部分が元通りになっているので」
 そして最初のやり取りに戻る。炭次郎は鬼の血気術という人知を超えた力を知っていたので、割とすんなり受け入れられた。
「じゃああの婆さんの生き返らせる力も、違う時代から人を召喚する力も信じるしかないか。けど、まさか大正から来たなんてね。100年くらい違うじゃない」
「俺も驚きました。百年後はこんなに発展していたんですね」
「まあ、私が生まれる前に日本が戦争で負けて、その後復興したわけだけど」
 炭次郎は興味深げに辺りを見回す。痣の代償であと十年も生きられない炭次郎にとって、百年後の世界など見る物すべてが驚きだ。
「次に聞くけど……私が『殺人鬼』で『人殺し』だって言ったらどう思う?」
 瀬里は軽く尋ねたため、炭次郎がその話の重さに気づくのに、時間がかかった。
「……その二つに違いがあるんですか?」
 重すぎて返答できるのはそれだけだった。
「違うわよ。趣味として、快楽のために、殺人そのものを目的として殺すのが『殺人鬼』。
 怒りや憎しみといった感情で人を殺すのが『人殺し』よ。私はその両方なの」

 瀬里のいた世界で『フェイスレス事件』と呼ばれる連続殺人事件があった。
 遺体はいずれも年若い女性ばかりで、猟銃で判別がつかないほど顔面を粉砕されていた。
 犯人が逮捕された時、世間はその意外性に驚いた。
 犯人は資産家の高校生になる姉妹たち――瀬里とその妹で、動機も不明瞭だったからだ。

 瀬里の世界ではこのような普通の10代の女性が突然殺人を犯す現象が起こり続け、それをマスコミは『メデューサ症候群』と呼んでいた。

 だが、今の瀬里は知っている。ある組織が実在した殺人鬼の人格を手当たり次第に植え付け、その芽の出た人間が殺人鬼――メデューサへと化すことを。
 その中でも特に瀬里の残虐性、殺した人数、銃の腕前はオリジナルのそれを遥かに超えていた。

 『殺人鬼』と『人殺し』。その違いを知ったのは生き返る前、ヤクザ相手に殺し屋まがいの事をさせられた際の事。
 脱獄するため、予め逃亡防止用に打たれていた毒の解毒剤を奪うよう指揮者兼監視役の連中を人質に取り、監視していた部屋を探したが全く見つからなかった。
『毒を使ったのは脱獄を恐れたからだ。つまりは今のような。逃げた実験動物には死んでもらった方が良いということだ』
 指揮者であるあの女、女医の香澄の冷たい理由で瀬里は絶望と焦りと怒りの余り、監視役の一人を打ち殺した。
 それを目にした香澄は一瞬動揺した後、呆れ、失望を露わにして言った。

『堂島瀬里……君はもう殺人鬼ではない。殺人鬼とは愉悦を以って人を殺す鬼。彼らは殺人そのものを目的として殺すのだ』
『怒りに任せて殺すのは鬼じゃない。ただの人間だ』
『残念だよ、瀬里。キミは今、ただの人殺しになった』

 『殺人鬼』と『人殺し』を分かつものは何か? 瀬里はその答えを知った。
 堂島瀬里は人の顔を破壊して愉悦に浸る『殺人鬼』であり、感情に任せて人を撃つ『人殺し』だ。

「逆に尋ねますけど、堂島さんは人を喰らう鬼の存在を信じますか?」
「だから瀬里でいいって。頭硬いわね。そうね……時代が違うんだから、昔はいたのかもしれないわね」
 やはり無惨を倒した後、鬼の存在は消えたようだ。炭次郎は思わず胸を押さえた。
 そうなるとあの神子柴の存在が謎となるが。
「俺は殺された人たちの無念を晴らすため、犠牲者を増やさないため数多くの鬼の首に刃を振るってきました。
 だけど、鬼の中には自らの行いを悔い、苦しみ、歪んだ形とはいえ救いを求めていた者達もいました。
 俺はそういった者を空しく、悲しく感じました」
 今まで切ってきた鬼達の死を切望するほどの苦痛の匂い、糸を繰る十二鬼月の崩れ去る最後から噴き出た抱えきれないほどの悲しみの匂い、そして猗窩座の感謝の匂いと笑み。
「瀬里さん。あなたが本当に殺人鬼だというのなら多分誰からも許されず、遺族から恨まれ罵倒され憎まれているのでしょう。
 だけど、もし、世界中でたった一人だけでも受け入れてくれる人がいるのなら、救いはあるんじゃないかと思います」
 その中でいま最も強く思い出すのは上弦の陸の兄妹。彼らも身勝手な理屈で自分の私利私欲の為、多くの人を殺し喰らっていた。でもその絆は本物だった。
 最後は醜く罵倒し合っていたが、あの世で仲直りできていたらいいと思う。
「……炭治郎、あんたはそのたった一人になってくれる?」
「…………俺はまだあなたが」
「冗談よ」
 炭次郎が言いかけた途中で瀬里が割り込んだ。
「最後に聞くけど炭治郎、あんたは帆高をどうするつもり?」

 炭次郎は鼻の奥から血の匂いがするのを感じ取った。怪我など二人ともどこにも負っていないというのに。

「勿論、帆高君は守ります。そして陽菜さんも助け皆が脱出する方法を探します」

 炭次郎は強く断言した。 

「そう」

 瀬里は小さく呟きデイバックの中に手を入れる。

「じゃあ、死んで」

 そして取り出した拳銃で炭次郎の頭を撃った。

 一瞬のけ反った炭次郎。だがすぐに鞄を頭に当て、瀬里から離れた。
 同時に瀬里もデイバックを持ち、炭次郎から離れた。
 二人は互いから見て柱の陰に入り込む。

 瀬里は舌打ちした。判断を誤った。ヘッドショットは弾丸が頭蓋骨で滑るケースが多い。
 まず腹を撃って動きを止めるべきだった。

「どうしてですか、瀬里さん! あなたからは快楽も怒りも憎しみもその匂いが無かった! あるのは決意だけだった!
 脱出するのには帆高君を殺すのが一番簡単だから、その邪魔になる俺を殺す気ですか!?」
 額の傷を押さえて炭次郎は叫ぶ。
「私には妹がいるのよ! 同じように殺人鬼にされ、親からも見捨てられた妹が!」
 銃を握り締め、瀬里も叫ぶ。
「私が死んでたった一人で今も逃げ続けているだろう妹を、あの神子柴の奇跡なら救えるかもしれない!
 私はもう悪魔に魂を売ったから私自身はどうなってもいい! だけど妹は、真希だけは何とか幸せにしてあげたい!」
 話しながら炭次郎のいる柱から、少しづつ離れる。
「だから私は帆高を殺す! そして報酬で真希を助ける! 邪魔するなら炭治郎、あんただって誰だって容赦せずに殺す!」
 そして瀬里は炭次郎から逃げる様に駅の郊外へ向かっていった。

 羽織を破って額に巻いて血を止め、柱に身体を預けた炭治郎に深い悲しみがこみ上げてくる。
「分かりますよ、瀬里さん。俺も長男だから、禰豆子の幸せの為なら何でもしてあげたい」
 叫ぶ瀬里から悲しい程の強い決意が伝わってきた。
「でも、そのために他人を犠牲にしてしまっては駄目なんだ。
 こんな穢れた奇跡なんかじゃ誰も幸せになれない」
 判断が遅かった。あれだけの覚悟を決めてしまった瀬里に対しては、もう剣をもって止めるしかない。
 勿論殺す気は無いが、縛って動けなくするくらいなら出来る。
「俺は帆高君を守ります。その時に瀬里さん、あなたに会ったら必ず止めます」
 固い決意を心に秘め、炭治郎は外を目指し歩き始めた。


【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:頭部負傷
[装備]:鬼殺隊隊服、炭次郎の日輪刀
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:帆高を守り、陽奈を助けて参加者皆で脱出する。
1:帆高を捜索する。
2:帆高を殺そうとする者がいるのなら戦って止める。
3:首輪を何とかできる人を探す。

[備考]
※参戦時期は204話後です。
※神子柴はそれぞれ時代が違う人間を呼んだと思っています。

【炭次郎の日輪刀@鬼滅の刃】
 元は戦国時代の鬼殺の剣士が使っていた刀。
 そこに煉獄杏寿郎の日輪刀に填められていた炎の鍔を嵌めている。
 漆黒の刀身に鍔元には『滅』の一文字が刻まれている。



 瀬里は駅から出て、雨に打たれて走りながら殺人鬼に『させられてから』死ぬまでの出来事、そしてこれからの自分を思い返していた。


 ――だって面白いのよぅ。銃で顔を撃つと形が変わって。

 顔が滅茶苦茶に変形する様に愉悦を覚える殺人鬼の人格。それを自覚し、植え付けられたことを知ったのは刑務所での実験終了時であった。

 ――この私を実験動物にするなんて許せない。このままじゃいずれ私達殺される。その前にここから出るわ、必ずね……。

 だから、脱獄を志し、パパからも別国籍を用意したと告げられたことで決断。実験に乗じ、さらに同じメデューサの連中からも助けられて抜け出せた。

 ――愛してる。でも死んでくれ。

 だけど、脱獄してまで会ったパパからは見捨てられた。殺すために呼び出された。

 ――因果応報。因果応報。

 そうして私はパパが集めた、私が殺した人の遺族から復讐されて死んだ。

 そして死んでなお私は、羽黒の時と同じように首輪に繋がれ、殺しを強要されている。

 この状況はまるで悪魔の娯楽の様だ。希望をちらつかせて殺し合いを助長させるあたりが。
 死ぬ前ならここから抜け出す事を考えただろう。だけど刑務所から脱走して、親から殺した遺族達に売られて死んだ私には、もう戻る場所も行ける所もない。
 だから私は、あの神子柴の誘惑……何でも願いを叶えるという言葉に頼る気でいる。

 私は喜々として人を殺した。顔を銃で潰して、その様が面白くて笑った。羽黒刑務所に収監されてからも殺し屋扱いにされて人を殺し、監視していた奴も殺して脱走し、復讐を望んだ遺族達も命と魂を引き換えに皆殺しにした。
 そんな罪深い私に神様の救いなんてない。
 神にも社会にも親にさえ見放された私は、悪魔の囁きに頷くしかないのだ。だけどそれは私自身の為じゃない。

 真希――私と同じように殺人鬼の人格を植え付けられ人を喜んで殺し、同じく脱獄して追われる身となった、私にたった一人だけ残った大切な存在――妹だけは何とかしてあげたいからだ。
 私は最後に真希に幸せになってと言い残した。でもそれが呪いになっていないだろうか。
 真希も私と同じように快楽のままに人を殺し続けた。そんな残虐な殺人鬼が助けを求めても誰が聞いてくれる? もし聞いてくれる人間がいるなら、それは羽黒の様な殺人鬼の力を悪用しようとする者くらいだろう。
 もしかしたら私の幸せになってという言葉が重みになって、真希は何者かに利用されさらに罪を犯してしまうかもしれない。だから私はこの穢れた奇跡に頼る気でいる。
 真希を幸せにできるならなんだってやってみせる。帆高を殺す覚悟はある。神子柴に身も心も魂も売って、その結果私自身が消えてしまっても構わない。
 私はもう、自分の中の悪魔に魂を捧げているんだから。

 私は真希を、真希の罪や運命から逃れられるくらい遠くの世界――楽園へと連れていく。


【堂島瀬里@サタノファニ】
[状態]:健康
[装備]:メイド服、グロッグ32(14/15)、弾倉×10
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:帆高を殺し、報酬で真希を幸せにする。
1:帆高を探す。
2:脱出するために帆高を殺そうとする者たちと手を組む。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※神子柴はそれぞれ時代が違う人間を召喚したと思っています。

【グロッグ32@現実】
 自動拳銃グロック17のコンパクトモデル。
 32はリボルバー用の.357マグナム弾同様のポテンシャルをオートマチックで発揮させる.357SIG弾が採用されている。
最終更新:2021年02月14日 23:35