強く。強く。誰よりも強く。

その為に幾千もの戦場を駆けた。幾万もの屍を積み上げた。

これこそが俺の強さの証、生きてきた証だ。

だから俺は曇天の空の下で戦い続ける。

強くなるために。俺の求める『最強』になる為に。



「気が乗らないなぁ」

ぴょこん、と揺れる橙色のアホ毛がひとつ。
ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべながらそう呟く青年の名は神威。
宇宙を荒らしまわる無法者の集い、宇宙海賊春雨の師団長の一人である。

「戦場を用意してくれたのは助かるし、日が差さないのも嬉しいけど、狩る獲物があれっていうのがなあ」

神威は根っからの戦闘狂である。それは彼が『夜兎』という戦闘種族の血を色濃く引き継いだ証左だ。
そんな彼をしてもこの殺し合いは興の乗るものではなかった。

神子柴なる老婆から見せられた獲物の資料。
あれを見る限り、帆高は陽菜に関することに限っては強くなれる素質はあるようだ。
だがそれはあくまでも素質。今の彼は地球人にしてもあまりにも弱く、肝心の成長もそこまで期待できるほどのものではない。
これではメインディッシュにはなりえない。精々、前菜がいいところだ。

「彼を狩る為に戦うのもつまらないし、かといって適当に彼を殺して帰っても面白味にかける...はてさてどうしたものか」

神威はひとまず散策し参加者を探す為にその歩を進める。
特に深い考えもないただの散歩。しかし幸運の女神はさっそく彼に訪れた。

―――ンゴオオォォォ

「うん?」

なにか聞こえた。聞き間違いでなければ非常に大きなイビキだ。
出所とおぼしき路地裏へと足を運ぶ。

「―――グゴオオォォォ~~!!」

男がいた。
ディフォルメされた動物がプリントされたファンシーな寝間着に身を包み、大きなイビキをかきながら眠る大男がいた。
ちょうど屋根などの遮蔽物が邪魔をし雨粒が当たりにくいとはいえ、この異常事態の中、こうも眠りこけるその姿からは知性など欠片も見当たらないほどだらしがない。
そんな男を見下ろしながら神威は思う。
果たしてこの男は見た目通りの馬鹿か、異常事態にも揺るがない強者か。

(期待させてもらうよ、お兄さん)

神威は、無防備な男目掛けて腕を振り下ろし

「こんなところで寝てると風邪ひくよ」
「んが...?」

そっと胸板に手を置き声をかけた。




「―――というわけで、俺たち参加者は帆高って少年を邪魔しないと死んじゃうらしいよ」
「マジか」

大男―――東条英虎は、神威の説明を受けてポカンと口を開けた。
彼は流された映像を見ているうちに居眠りしてしまい、その内容をほとんど見ておらず、神子柴が見せた見せしめとの大立ち回りも認識していなかった。
その為、神威は東条に大まかに事の顛末といまの状況を説明することとなったのだ。

「いや、殺しは流石にマズいだろ...なに考えてんだそのババア」
「それについては同感さ。あんな子たちを虐めてなにが楽しいんだろうね。それで?あんたはどうするの?」
「...よくわからんが、とりあえずあのババアぶっ飛ばせばいいんじゃねえか?」
「うん、それも解決法の一つだろうね。殺し合いだなんて大層なこと謡ってるけど、肝心の主催がいなくなったらもう強制力なんてないも同然さ。じゃあ、それを邪魔する奴がいたら?」

ピリ、と空気が張り詰めるのを感じとった東条の眉がピクリと動く。

「さっき触れてわかったよ。あんたはただものじゃない。俺と同じ、『強い側の奴』だって」
「ほぉ...?」
「俺も、こんな茶番で踊るのは勘弁したいんだ。どうせ踊るならあんたみたいな強者と殺りあって楽しみたい」

神威はこの催しにはなんら興味を抱いていない。
人間を捧げられないと維持できない神様?愛の為に奔走する少年少女?
違う。神威の求める強さはそんな温いものじゃない。
世界も。愛も。強さの前にはどうだっていい。

「あんたもそうだろ?東条英虎」
「......」

東条英虎は考える。本当に珍しく考える。
神威は間違いなく喧嘩をふっかけてきている。この異常事態の中で、この喧嘩、果たして受けるべきかどうかを。

「ハッ...ちょうど、頭を使うのにも疲れてきたところだ。乗った」

即決。思考時間は僅か数秒で終わってしまった。これでも彼なりには頑張った方である。

彼にも死人が出るのは駄目だろうという最低限のモラルはあるが、正直、帆高達の為に戦えるかと問われればイマイチ乗り切れないモノがある。
東条は不良ではあるが、性根は悪人ではなく、動物や子供には優しい面もある。しかし、決して善人ではない。
いうなれば純粋な戦闘狂。彼の喧嘩はいつだって己が満足する為だけのものだ。
そんな戦いの中で彼は強くなった。僅か数年でトップクラスの不良高校の頂点に立ち、敗北を経ては拳で刀を叩き折り、銃で撃たれても死なない。
そんな『最強』を欲しいがままにしてきた。
故に、この喧嘩を拒む理由などどこにもなかった。

「喧嘩、しようぜ」

東条のその言葉を受けた神威は、にこやかに閉じられていた瞼を薄く開け、親指でクイ、と己の背後を差した。
路地裏なんかじゃなく広いところでやろう、というサインだ。
神威のサインに従い、路上に出て睨み合う二人。
その距離はまさに1メートルもないほどに近い。互いに拳を振るえば届く距離だ。

しん...と静寂に包まれる。

「いくぜ」
「きなよ」

瞬間。
道路で水浴びをしていた烏たちは怯えるように一様に飛び去った。
殺気だ。東条と神威の放った殺気がぶつかり四散したのだ。

それがゴングとなった。

互いの右拳が振るわれる。
初動は同じ。しかし拳速は違う。

ドズリ、と鈍い音を鳴らし神威の拳が東条の腹に打ち込まれる。
『夜兎』の身体能力は地球人よりも数段勝る。
素手で車を持ち上げ、あるいは破壊し、その脚でバイクに匹敵する速度を出すことも可能だ。
そんな力を地球人がまともに受ければどうなるか。人体は破壊され、運がよくても入院は必須になるのは目に見えている。
それが種族の壁。夜兎と地球人を隔てる大きな壁だ。
だから、この戦いはこれでお終い

「いてえじゃねえか...」

にはならなかった。
揺らぐことなく、地を血で汚すこともなく。東条は笑みさえ浮かべて左手で神威の右腕を掴んだ。

東条に格闘技の経験はない。防弾の類を着込んでいたわけでもない。
つまり、夜兎の拳を受けておきながら平然としているのには種も仕掛けもありはしないのだ。

ギリ、ギリ、と東条の右腕の筋肉が筋を張り拳が振るわれる。
腕を掴まれている神威にそれを避けることはできず、しかして焦ることもなく、迫りくる東条の拳を見つめ続けていた。

神威の頬に東条の拳が食い込む。神威は衝撃を殺すことなく受け止める。
東条の筋肉がメキメキと音を立て、腕が振りぬかれると神威の身体が錐もみ状に回転しながら吹き飛んだ。

「やるね、あんた」

即座にむくりと起き上がる神威を見て東条は笑みを深め、それを見た神威もまた笑みを深める。

首輪を嵌められ命を握られていても関係ない。
後先考えぬ喧嘩馬鹿共の遊び、第二幕開始。


【神威@銀魂】
[状態]:顔面にダメージ(小)、高揚感
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:戦いまくる。
0:目の前の男と戦う。
1:強い奴を探して戦い殺す。ハゲとかお侍さん(坂田銀時)とか知ってる奴がいたら嬉しいなあ。
2:帆高はどうでもいい。

※参戦時期は神楽たちと和解する以前です。


【東条英虎@べるぜバブ】
[状態]:腹部にダメージ(小)、高揚感
[装備]:動物柄の寝間着
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:死人が出るのは駄目だろさすがに。
0:目の前の男(神威)と喧嘩する。
1:よくわからんが強い奴と喧嘩したい。
2:よくわからんがとりあえず帆高ってやつと会えばいいんだな?


※参戦時期は少なくとも悪魔野学園編以降です
最終更新:2021年01月04日 01:38