「ヘブシッ!!」
「おい大丈夫か?」
盛大なクシャミを飛ばした赤鼻の男を、サックスを持った白スーツの男が気遣う。
赤鼻は差し出された布切れを受け取りチーン!と鼻をかむ。
「う~こうも降られちゃあハデに冷えやがるぜ...ミッドバレイよぉ、なんかあったまるモンねえか?葉巻でもいいからよぉ」
「悪いな。煙草は吸わない主義でね」
「ケーッ、お高く止まりやがって!だったらてめえがぶら下げてる楽器でハデに盛り上げてみやがれ!!気分一つでちったぁマシにならぁ!!」
「いいのか?俺の演奏は高くつくぞ道化のバギー」
"ミッドバレイ"と呼ばれた男の、その高い上背からの視線は酷く冷たく、"バギー"と呼ばれた赤鼻は気後れし、ちょっと愚痴っただけじゃねえかよとぶつぶつ文句を漏らす。
「我慢しろ。俺だって寒いんだ。"雨"なんざ初めてだからな」
「にゃぷぷぷ、身体も温められず、雨も知らず...まったく貧乏人は大変だにゃも」
バギーとミッドバレイの二人を嗤うのは、絢爛豪華な椅子に背を預ける酷く肥えた中年男。
丸々とした顔にはヒゲと分厚い唇が特徴的だ。
「ワシのように防寒対策抜群の豪華な衣装すら用意できんとはなんとも哀れよのう」
「うるせーぞデコポンポ!金くらい元の世界に帰りゃああるってんだよ!」
「ならその貧相な服装はなんにゃもか?」
「仕方ねえだろ!こちとら絶賛脱獄中の身だ!せっかく敵の船を奪えたと思ったらこの有様だったんだよ!」
「フン、海賊などと大層な肩書を持っておるが所詮は賊にゃもよ。賊にその貧相な恰好はお似合いにゃもよ」
「カッチィ~ン...この道化のバギー様によくもまあそんな口きけたもんだなええおい!?こいつはハデに処刑してほしいってことだよなぁ!?」
バギーの顔がタコのように真っ赤になっていくと、流石に調子に乗りすぎたと肥えた男―――デコポンポは冷や汗交じりに青ざめ始めた。
「お、おいボコイナンテ!こいつをどうにかするにゃも!」
「ハッ!」
体格のいい初老の男―――ボコイナンテが威勢よく返事をしバギーの前に立ちふさがりどうどうと宥め始める。
(...ほんとに大丈夫なんだろうな)
ミッドバレイは騒ぐ三人を横目で見ながら思う。
神子柴からは『この施設は時が来るまで完全防備されておる安全地帯じゃ。そなたらはそこで待機しておればいい』と命じられ門番を任された。
無論、断ればこの首輪を爆破され殺されるため従う他なかった。
しかし、よりにもよって同行しているメンバーがこんなにも貧弱そうな面子とは思わなかった。
というかそもそも安全地帯なら門番とかいらないだろうに。
老婆の考えの不明瞭さにも同行メンバーの不甲斐なさにもフゥ、とため息を吐いた時だった。
ヒラヒラ、と4枚の紙が舞い降りてきたのは。
☆
ごきげんよう、皆の衆。
お主らの中には『自分以外に知り合いが参加してないかな』と思っている参加者もいたことじゃろう。
すまんのう...本来ならば支給した端末で名簿を見れるようにしておいたのじゃが、どうもファイルのロックを外し忘れていたようじゃ。
ワシは機械が苦手でのう。解除に手間取っておったんじゃが、ようやく開けられたところじゃ。これでいつでも名簿を端末で見られるぞい。
ただ、ワシのように機械が苦手という者もおるじゃろう。
そんな者たちの為に、いま名簿となる紙を転送した。その紙を雨にかざせばあら不思議。
途端に名簿が浮かび上がってくるんじゃ。是非とも活用してくれい。
...確認したかのう。
ああ、それとルールに記載し忘れておったが、『森嶋帆高』。
お主はただでさえ不利な状況じゃ。当然、陽菜と出会えた折には相応の対価を支払わねばならんじゃろうて。
帆高、お主が鳥居を潜れた暁には願いを二つ叶えて進ぜよう。もちろん、陽菜との再会は願いの一つに含まれんからの。精々きばるんじゃぞ。
それでは皆の衆、6時間後の定期放送で会おうぞよ。
☆
「にゃぷぷぷぷ!良い様にゃも!!」
「全くでありますな!オシュトルとその一味、逆賊に課す刑罰としては相応しいであります!」
デコポンポとボコイナンテの二人は名簿を見ながらニヤニヤと笑みを交わし合う。
元・右近衛大将オシュトル。二人は彼の存在が疎ましく、貴族でもないくせにお高く止まった態度も嫌っていた。彼がヤマトへの逆賊となった時などは喜んで諸手を上げたほどに。
そのオシュトルが呼ばれている。これを愉快と笑わずにはいられない。
「おみゃーら!せっかくじゃ、オシュトルが生き残れるか賭けでも...」
クルリと振り返ったデコポンポは思わず言葉を失った。
先ほどまで冷静に振舞っていたミッドバレイは誰が見ても分かるほどガチガチと歯を鳴らしながら震え怯え、バギーなどは顎が外れそうなほど開口し目が飛び出さんほど見開かれたままで硬直していたからだ。
「ざっけんじゃねえぞあのババアアアアアアアアアアア!!!!!」
一瞬遅れ、バギーの怒声が爆弾のように響き、デコポンポとボコイナンテの二人は思わず耳を塞ぐ。
「な、なんにゃもかおみゃーら。せっかくオシュトルがいい気味になっておるのに」
「どうもこうもあるかぁ!よよよ寄りにもよってビッグマムなんざ連れてきやがって!!」
「あ~ん?」
「いいか、てめえらは知らねえだろうがなあ!ビッグマムは四皇...すなわち俺たちの世界の大海賊時代の海賊の中でもトップの四人!白ヒゲとカイドウに並ぶ怪物だ!
ハッキリ言えるぜ、海軍大将が纏めてかかったところで四皇を倒すことなんざ出来やしねえ!」
唾を吐き散らかす勢いで怒鳴り散らすバギーの剣幕に怯みつつも、ボコイナンテが言葉を返す。
「し、しかしここにいる間は安全だと」
「あんなクソみてェな旗の下で安全なわきゃねーだろ!!もしもアレが奴の目に留まってみろ!俺たちなんざ塵みてえに一瞬でぶっ潰されらあ!」
バギーが指さした先には、主催本部の屋根に立つ、笑みを湛えた神子柴が描かれた旗が立っている。
なるほど、あのような目立つものがあれば門番を任されているバギーたちは真っ先に目をつけられてしまう。
「俺ァトンズラさせてもらうぜ。アバヨてめえら、残るってんならどうぞ勝手にババアのつまみになりやがれ!!」
「待てバギー。その話、俺も乗らせてもらう」
ミッドバレイが青ざめながらバギーに便乗する。
(なんで...なんであの男がここにいる!)
ミリオンズ・ナイブズ。ミッドバレイは一応は彼に仕える身ではあるが、心底から忠誠を誓ったことはない。
プライドや意地なんて話ではない。恐いのだ。彼のあまりの強大さが。慈悲の一つも見せないあの目が。
勧誘された自分でさえ彼にとっては『害虫』の一つにしかすぎないのが。
だからとにかく彼から離れたかった。たとえ1秒でも傍にいたくなかった。
そしてあの「恐怖」を経てようやく離れたと思ったのも束の間がこの結末だ。
冗談じゃない。バギーの言う通り、あんな旗の下にいれば確実に見つかる。
ならば一か八か、どこぞのエリアに逃亡を決めた方が助かる道はある。
焦燥する二人を見たデコポンポとボコイナンテは、少なくともこの名簿発表が異常事態であるのは認識し、顔を見合わせ頷き合う。
「お、おみゃーら、ワシらも連れていくにゃも!」
「抜け駆けは許さないでありますぞ!」
「おおしそうかぁ!そうと決まりゃあ全力前進だぁ!決めるぜドハデな逃避行!!」
四人は一斉に荷物を纏めてすぐに本部を起つ準備を整える。
「いくぜてめえら!この俺様キャプテン・バギーの名のもとに!!」
いざゆかんとバギーが叫び声を挙げたその時だ。
「あんたたち全員ふざけすぎ――――――!!!!!」
「「「「ギャアアアアアアアア!!!!!」」」」
地面を割り飛び出してきた物体に四人は纏めて吹き飛ばされた。
「ゲホッ、な、なんだぁ!?」
口から垂れる血を拭いながらバギーは己を吹き飛ばした物体を確認する。
それは魚雷だった。魚雷から手足が生え、先端には厳つい顔のついた動く魚雷だった。
「あんたたち開始数分で逃亡なんてふざけすぎよ!それでも門番なの!?」
怒鳴り散らす魚雷に負けじとバギーは声を張り上げる。
「ざけんな!あんな化け物と戦ってちゃいくら命があっても足りやしねえ!!」
「神子柴様の説明を聞いてなかったのかしら?ここは指定の時間になるまでは参加者の寄りつけない安全地帯。例え爆弾でも核兵器でも防ぐバリアに覆われているのよ」
「だぁから、その時間が来ちまったら終いだっつってんだろうが!ふざけやがって!」
「あんたの鼻に言われたくないわ―――!!!!」
「ぎょへええええええ!!!」
バギーの『ふざけやがって』という単語に反応し魚雷が高速で突貫。
バギーは錐もみ状に吹き飛び気絶した。
「ば、バギー!...わ、わかった、とにかくワシらは門番に戻るにゃも!だからこれ以上の攻撃は...」
「あんたのその語尾ふざけすぎ――――ッ!!!」
「にゃもはぁ!?」
あまりにも理不尽な突撃に反応できなかったデコポンポは直撃を喰らい吹き飛ばされガクリと力尽きる。
「は、はうあうあうあ~~~!!」
「ッ...!」
眼前で起きた理不尽な殺戮ショーに残された二人は言葉を失いガクガクと膝を振るわせる。
「さて。アンタたち二人はどうするの?」
「わ、わかった...」
「も、戻るであります!四人仲良く門番を務めるであります!」
「そう...戻るのね」
二人の素直な返事に魚雷はふっ、と目の圧を緩め。
「それでこそ私の生徒たちよ」
慈愛の満ちた微笑みを携え二人の肩を抱きしめた。
二人は共に"うぜー..."とげんなりとした表情を浮かべ、しかし口に出すことはしなかった。
「あっ、いけない!神子柴様×魚雷ガールのカプ本の締め切りが迫って来てるわ!こうしちゃいられない!おさらばギョライ!!」
右手に嵌めた腕時計を見ながら焦燥と共に高速で飛んでいく魚雷。
彼女を見送り、ミッドバレイとボコイナンテは気絶するバギーとデコポンポをそれぞれ担ぎながら門番としての位置へと戻る。
(クソッ...これが地獄という奴なのか...!)
前門のナイブズに後門の魚雷。
ミッドバレイの心中は空を覆う雲以上に淀み曇っていた。
【主催本部 正門前】
【ミッドバレイ・ホーンフリーク@TRIGUN MAXIMAM(トライガン・マキシマム)】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:自分のサックス
[道具]:不明
基本方針:生き残りたい。ナイブズに感づかれる前に逃げたい。
【ボコイナンテ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:
[道具]:不明
基本方針:嫌であります!逃げたいであります!!
【デコポンポ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:不明
基本方針:気絶中、生き残って見せるにゃも...
【バギー@ワンピース】
[状態]:ダメージ(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:不明
基本方針:気絶中、ビッグマムとかふざけんなよ...
【主催本部】
【魚雷ガール@ボボボーボ・ボーボボ】
[状態]:健康、神子柴崇拝の洗脳中
[装備]:
[道具]:不明
基本方針:神子柴様×魚雷ガールの百合本をかくギョラよ!
最終更新:2021年02月19日 23:59