赤瓦の屋根が並び立つ家の近く、陽光届かぬ雨雲の下に彼女は居た
色素の薄い銀の髪を二つに括り、紅玉の瞳は未だ曇天に包まれた空を見上げ、大仰な肩章が飾られた外套と純白の制服を身に纏う、可愛らしい顔立ちにピッタリの華奢で小柄な体躯の少女
神奈川都市主席にして防衛都市貢献序列ランキング第一位――天河舞姫は、確固たる決意を瞳に秘め、そこに居た
「最初から答えは決まってるけど―――やっぱり、こんな事許してはおけない」
『森嶋帆高』と天野陽菜の事はある程度は見せられた映画で理解した。と言っても彼女の頭ではそこまで理解できているわけではない、むしろほとんど理解出来ていないかもしれない
けれど、理解できないとしても、それで助けないという理由はない。もし森嶋帆高が天野陽菜と出会ったことで世界の終わりが来るのならば、その終わりすら、黒幕な野望諸共ぶった切ってしまえばいい
「武器は……槍、かぁ。……うん、大丈夫かな!」
支給品としてあったのは、黄金の装飾が施された自分の背丈と同じかそれ以上ありそうな槍。一度外に出て振り回してみた所いい感じに扱えるだけは出来そうなため、自身の得物である出力兵装エリスが見つかるまでこれを扱うことに
もう一つ武器があったのだがそれは弓であり、細かな動作が求められる代物は自分には不得意、なので、もし持ち主が見つかれば槍も同じくその人に返してあげよう、とは考えている
「ええっと、確かその『帆高』って人がいるのが地図だと確か……!」
地図を開き、森嶋帆高がいるエリアを再確認しようと思った真っ先。舞姫が背後から感じたのは気配
「……誰!?」
直ぐに反応し、槍の矛先を気配の主へと向ける。気配の主は赤と黒のマントを羽織り、臍出しルックの黒い狩装束を着た、オレンジブラウンの髪の女性。整った目鼻立ちの美しさとは裏腹に、その金眼はまるで舞姫を獲物を見定める狩人の如く鋭い眼光で見つめている
少しの沈黙の後、口を開いたのは狩装束の女性だ
「質問、いいかしら。――どうしてその槍をあなたが持ってるの?」
「……!」
返答次第では殺意がそのまま襲いかねない威圧感が言葉となって舞姫の体を駆け抜ける。まず常人ならばその威圧だけで気を失いかねない。事実舞姫はその額に冷や汗を流している
「悪いことは言わないわ。それはあなたに扱えるような代物じゃない。こちらに渡しなさい。もし断るのなら―――」
女性の目的はあくまで舞姫が持っているであろう『槍』であろうことを、舞姫は察した。察した上で少しだけ頭を回らせ、そして取った行動が
「――ごめんなさい! ちょっとの間だけ使わせてもらうつもりだけだったんです! でもまさかいきなり使ってたかもしれない人と出会っちゃうなんて思わなかった!」
「えっ」
まさかの直角90度の綺麗な謝罪礼ポーズ。これには女性の方は目を見開き困惑
「いや、別にその槍は私の持ち物じゃなくて知り合いの持ち物だから。でもあなたじゃその槍を扱うのには荷が重いからそう言っただけなの。それに私の得物は槍じゃなくて弓の方で」
「……弓? あ、それって……これのこと?」
女性の『弓』発言に、舞姫が支給品袋にしまっておいた『弓』を取り出し女性に見せる
「――っそれ、『二王弓』!?」
「……はえ?」
○ ○ ○
十天衆――空の世界における、それぞれ十種の武器の全空一の使い手が集った、全空の脅威に座する伝説の騎空団
そんな十天衆の一人であり、天星器『二王弓』を扱う最強の弓使いことソーンもまた、この歪な殺し合いに巻き込まれていた
知らない動く画とそこに映された物語、自身に付けられた首輪、そして容易く死者を蘇らせる力。何より余りにも不可解なルール
――『帆高が死滅した場合、その時点でゲームは終了。残った者は帰還できる』という一文が彼女の脳裏で引っかかっていた
死滅――死亡ではなく死滅。まるで『森嶋帆高』が複数人いるような言い方。そもそもの話、天野陽菜と出会わせないようにするならば『森嶋帆高』を殺すのが一番だろう。だが、それでは殺し合いそのもののルールは事実上形骸に等しいのだ
元々ソーンには『森嶋帆高』を殺すつもりなど無い。そもそも『森嶋帆高』が死ぬことで別の形での状況の悪化の可能性もあるのだ
行動指針としては、現状は森嶋帆高を天野陽菜を出会わせないようにすること。だが、どちらにしろ最終的に、首輪の問題が解決した場合のみ二人を合わせるつもりではある
ある程度の方針が固まり移動しようとした時に目に映ったのが天河舞姫と、本来なら同じ十天衆の一人ウーノが持っているはずの天星器『一伐槍』
どうして彼女がそれを持っているのか、まさか彼ほどの実力者が倒されて奪われたのか、情報の少なさから先走った結果、彼女の謝罪から更に手元からなくなっっていた『二王弓』の所在までわかり現在に至る
「ごめんなさいね。早とちりしちゃって」
「いいよ、気にしないで。とりあえずこの槍、一旦お姉さんに預けてもらった方がいいのかな?」
「そのつもりだったけど、なるべくは使わないでってことでいいかしら。素手で戦えるようだけど、もし差し迫った時は……。事が終わったら、ウーノには私から話しておくから」
「わかった。なるべくは使わないようにしておくね。で、えっと……」
「ソーンよ。そういえば自己紹介がまだだったわね」
「あ、そうだった。私は天河舞姫。気軽にヒメでいいよ。よろしくね、ソーンさん!」
「こちらこそよろしく、ヒメ。あと、私が言えた立場じゃないんだけど、無理だけはしないでよね」
「……うん!」
武器云々の話は終わり(二王弓はソーンの元に戻った)、先んじて森嶋帆高の保護を優先ということに
舞姫としては早々帆高と陽菜を出会わせたい気持ちはあるものの、ルールの問題などもあり後回し。というよりも出会わせたら出会わせたらで街が水没してあの二人以外が溺死してしまうからだ
ある程度の話は纏まったので、二人は雨雲に包まれた会場の中を進むのであった
○ ○ ○
(ソーンさんには、分かってたのかなぁ)
ソーンに言われた「無理だけはしないでよね」という言葉。それは舞姫にとってはある意味内心を見透かされた気分であった
天河舞姫という人物は『強い』。力だけでなく、その心もちも含めて。周りを悲しませないために自分の中の悲しみを押し込んで、それで勇猛果敢に突き進み、皆を導いていく。天真爛漫、単純明快でありながらも都市を守る主席としての覚悟を持ち合わせている
だが、そんな彼女にもつい最近悲しいことがあった
防衛都市の一つ、東京の次席こと宇多良カナリアの事だ。彼女と東京の生徒数名が突如現れたアンノウンに襲われ行方不明になったこと。一番悲しんでいたのは東京主席である朱雀壱弥であるが、カナリアとも仲が良かった天河舞姫としてもある程度の動揺があったのだ
事件の衝撃が覚めぬ中、彼女はこの殺し合いに巻き込まれたのだ。だが、結果的にそれはある程度の気分の持ち直しとなった
(……ソーンさんを余り心配はさせたくはないけど、みんなを待たせるわけにはいかないんだよね)
もちろん元の世界のみんなも心配である。カナリアを失った朱雀壱弥、神奈川次席にして自身の一番の友人である凛堂ほたる
でも、この場所には救うべき人達がいる、倒すべき敵がいる、だからこそ天河舞姫は止まらない。その明るさと確固たる意思を以って、彼女はこの雨天の中を進むのだから
【天河舞姫@クオリディア・コード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、一伐槍@グランブルーファンタジー、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:待ってるみんなのためにこの殺し合いを止めて帰還する
1:森嶋帆高の保護。本当は早く天野陽菜と出会わせたい所だけどそれが出来ないのがもどかしい
※参戦時期は『小公女のレガリア』から
【ソーン@グランブルーファンタジー】
[状態]:健康
[装備]:二王弓@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止める
1:現状は森嶋帆高を天野陽菜の所に向かわせないようにする
※参戦時期はフェイトエピソード4終了後です
【一伐槍@グランブルーファンタジー】
天河舞姫に支給。十天衆の一人ウーノが所持する槍の天星器
所持しているだけで光属性キャラの攻撃力上昇(大)の効果を持つ
奥義『太一輝極衝』が使えるかどうかは後続の書き手にお任せします
【二王弓@グランブルーファンタジー】
天河舞姫に支給。現在はソーンが所持。十天衆の一人ソーンが所持する弓の天星器
所持しているだけで光属性キャラの攻撃力上昇(大)の効果を持つ
奥義『二王双極雷洪』が使えるかどうかは後続の書き手にお任せします
最終更新:2021年01月08日 23:42