「はわわ~エライことになってしまったわぁ。クラリンもどこか行ってしまったしぃ」
振りしきる雨の下、能天気な声を漏らしながら青髪の少女が困ったように己の頬に手を添える。
両のおさげの横に犬のような耳を生やした彼女の名はアトゥイ。
大国・ヤマトの属国のひとつ、シャッホロ国の姫である。
「しかしさっきのはえかったなぁ。うちもああいう恋をしてみたいえ~」
アトゥイの住む世界に映画やDVDといったものはない。しかし彼女はすっかり画面の中の世界の虜になっていた。
年頃の少年少女の穏やかな逢瀬、初々しい時間、迫りくる困難からの手を引いての逃避行...
流された映像はアトゥイに燻る恋心をワシ掴みにするには充分だった。
それだけに最後まで見届けられなかったことを残念に思う。ましてや、あの出演者を殺さなければならないと思うと。
「あのホダカって子を殺(と)らないとウチも死んでしまうのはなぁ。そればかりは堪忍してほしいわぁ」
主催の老婆が提示したルールでは、あの映画の主人公である帆高が陽菜と出会った時、参加者全員が殺され、逆に帆高を殺せば参加者は全員助かるとのことだ。
あの恋愛模様を邪魔するのは気が引けるが、己の命がかかってしまえば仕方ないというものだ。
「オシュトルはんがいればなにか思いついたかもしれんけどなあ。堪忍やでホダやん」
自分がそこまで頭が回る方ではないのは自覚している。それを補ってくれるのが戦上手のオシュトルなのだが、生憎と今は傍にいない。
が、ふと気づく。
「あっ、もしかしたらオシュトルはんもこっちに来とるかもなあ。来てたらホダやん殺らなくても済むかもしれん」
自分がなんの前触れもなく連れて来られたのなら、オシュトル率いる仲間たちもまた連れて来られている可能性がある。
もし彼らと合流できれば帆高を陽菜に会わせた上で自分たちも生き延びれる策を思いつけるかもしれない。
ならば帆高は確保に留めておいた方が良いだろう。
「ただ摘まみ食いくらいはしてもかまへんよなぁ」
先ほどまでの困り顔から一転、アトゥイの口角が吊り上がり邪悪な笑みを象る。
彼女は少女らしく、純粋に恋やお酒を楽しむ面もあるが、それ以上に隠しきれない本性を抱いている。
戦闘狂。
戦場には我先に突撃し、斬って切られて痛みと共に鮮血が舞い散る。
そんな戦場を彼女は駆けてきた。故に彼女は戦への欲求が人一倍高い。
そしてその欲求はこの会場に連れて来られてから一層昂っている。
己の命を握られている緊張感、会場中に漂う隠しきれぬ殺気と血の気。
それらが重なり、アトゥイの闘争心はいまにもはち切れそうになっていた。
「うひひ...腕が鳴るなあ...楽しみだえ!」
目をキラキラと輝かせながらシャッホロの姫は恐怖することなく征く。
愛も戦も彼女にとっては己の欲求を満たすモノにしかすぎぬのだから。
【アトゥイ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:戦いたい。
0:帆高を探してとりあえず保護し時間を稼ぐ。ただし陽菜と会ってゲームオーバーになるくらいなら殺す。
1:オシュトル達と会う前に、帆高を狙う者と戦いたい。強者なら尚良し。
2:オシュトル達も来ていれば合流する
最終更新:2021年01月17日 00:21