「一人の生命は、全地球よりも重い、でしたっけね。
もっともこの状況では、二人の生命は、全参加者よりも重い、とでもなるのでしょうが」

眼鏡をかけた、美形のその男ーー明智健悟はそう呟いた。

(降り続ける雨、嵌められた首輪、まったく、金田一くんが巻き込まれたあの事件を思い出します)

とりあえず近くにあった建物に入り、基本ルールを読んでいく。


(『魚人』のような種族。つまりは魚人といった人間以外の者もこの場にいる可能性があるということですか)


これまた金田一が巻き込まれた上海での殺人事件のことも思わず思い出してしまう。
もっとも、目の前で死者の復活などというものを見せられては、人外というものを考えたくもなる。
そして次の一文も明智の推測をより強固にする。

(首輪が爆発すると如何なる参加者も死亡する。
つまりは首輪の爆破程度では本来死亡しない参加者もいる可能性がある、ということですかね)

そして主催の意思により爆破が可能ということは、参加者側の個別の動きを把握していると考えるのが自然だろう。

「まったく、これでは迂闊に話せませんね」

わざと他人に聞こえるような調子でそう呟いた。

(そもそもあの老婆の目的は何なんでしょうか)

それが1番の疑問だ。
森嶋帆高を止めることが主目的だと仮定しよう。
それならばあれだけの力を誇示できる主催者側だ。
こんな面倒なことを行わなくともさっさと森嶋帆高を殺してしまえばよい。
そもそも森嶋帆高が天野陽菜と出会うことも終了条件にある以上、それは考えにくい。
また、あの老婆は森嶋帆高の生死は問わないと言っていた。
だとすれば、森嶋帆高の殺害という線も難しい。

(私も登場人物の一人なのかもしれませんね。この悪趣味なゲームの)

何らかの見せ物という線が現段階では最も考えやすい。

それでもーーわからないことはある。
主催者側は結局殺し合いをさせたいのだろうか。
このゲームのルール上、殺し合いを加速させる要因というのはさほど多くない。
せいぜい達成することでいかなる願いをも叶えるというお題ぐらいだ。
そのお題が何人以上殺せ、といった場合なら、話は分からないことはない。
各参加者がどのようなお題を出されているのかは分からないが、
自分のものも含め、信頼できる参加者のものも確認しておく必要があるだろう。


警察官として多くの殺人犯と会ってきた。

金のため。愛のため。楽しみのため。
様々な動機を見てきた。

ーーーしかし

(見ず知らずの人間のために動く人間はそう多くはないと思うんですけどね)

警察官であるからこそ、そう感じざるを得ない。

あの映画の登場人物、森嶋帆高に共感できる者はそれほど多いとは思えない。
一人が犠牲になることで東京の水没が防げるのであれば、その一人に犠牲を強いる者は多いだろう。
そしてこのゲームの参加者であれば、自らの命がかかっているのであれば、尚更であろう。
つまり、多くの参加者は森嶋帆高を止めるために血眼となるのではないか。
そんな中、快楽殺人者でもない限り、他の参加者を進んで殺害する者はどれほどいるのだろうか。
せいぜい、自分のようにゲームを破壊しようとする人間を排除しようとするぐらいだろう。
そして自分のような物好きがどれほどいるのかは分からない。


そしてもう一つの疑問。

(そもそも、あの映画は何なのでしょうか)


ドキュメンタリー映画は何本か見たことがあるが、あの映画はそのようなものではない。
カメラワークや描写に徹底的にこだわった上質な娯楽作品。
少なくとも、用いられている音楽や技術、役者の質からして自主制作映画の域を遥かに超えている。
日本が舞台であること、そして作品から漂う雰囲気からしておそらくは日本、あるいは台湾や中国、韓国などの監督の作品だろう。
しかしあれだけ手の込んだ作品であるのであれば公開前に何らかのアクションがあるはずだ。
そして役者にも知っている人間は一人としていなかった。

(『森嶋帆高』か……)

あの映画がフィクションだと仮定すれば、『森嶋帆高』という人間は実在しない可能性も十二分にあり得る。
いや、そう考える方が自然かもしれない。
そもそも「晴れ女」という話自体が普通の人間からすれば荒唐無稽だ。
もっとも、このゲームや目の前で死者が生き返ること自体が荒唐無稽なのだがーー

「それにしても……」

ルール3。帆高の『死滅』という言葉は少し引っかかる。
まるで森嶋帆高が複数いるような書き方。
先ほどの『森嶋帆高』という人間が実在しないという仮定も合わせて考えると、
森嶋帆高は概念か何かなのかという気までしてくる。


(とりあえず帆高くんには私の身分は明かさない方が良いでしょうね)


あの映画の中で、森嶋帆高は警察に散々な目に遭わされていた。
思春期の少年というのは厄介なもの。
そして警察に対し不信感を抱いているのならば尚更だ。

(いずれにせよ、帆高くんが一人でいるのは危険が大きい。
なんとか接触できればいいんですが……)

あの映画の通りであれば、帆高がそう簡単に説得に応じるとは思えない。
もし拳銃を所持していれば危険度はぐっと増す。
襲われる危険性のみならず、他者を傷つける可能性も否定できない。


それでもーー警察官として市民を見捨てることは決してできない。


【明智健悟@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:ゲームの停止を目指す
1:帆高の保護
2:協力者を探す。特に首輪の解析などができる者がいれば有難い。
3:信頼できる参加者と出会ったらお互いのお題を確認したい。
最終更新:2021年01月17日 00:22