「へぇ、あの神子柴って婆さん、中々に面白いことをするじゃない」

その男は、この場においてもまさに異質であった。黒い衣装に西洋風の黒い仮面。もしここが人が行き交うオフィスであれば間違いなく変人扱いされること間違いなし
だが、そんな仮面の男はこの状況に義憤を覚えるでもなく、困惑に塗れるでもなく、ただただ興味深く納得していた

「古今東西殺し合いの物語というのはシンプルなパターンが多いけど、そこにまさか特定人物による関連をもたせるとは変わってるじゃないか」

殺し合いに善も悪もない。そこにあるのはただ混沌だ。善人が悪行を為し、悪人が善行を為す
殺し合いとはそういう生存本能の坩堝でもあり、人の本質が試される場でもある。極稀に、くだらない理由で自分自身を貫き通した結果周りを巻き込んで大きな思惑をぶち壊してしまうバカがいたりもするが、そんな宇宙級のバカは例外中の例外だから一旦は考えないことにする
殺し合いには役者が必要だ。目的のために殺し合いに乗るもの、殺し合いを止めようとするもの、思考を巡らせるもの、何も考えず動くもの――そして、ただ己が欲望がために場をかき乱すもの
だが、そこに森嶋帆高と天野陽菜という二人の異物が投入された

『制限時間まで天野陽菜と森嶋帆高を合わせるな』。それを前提にルール説明前に見せられたあの映画。単純な映像作品であるのか、はたまた平行世界の『現実』なのだろうか、その点に関して男にとってはどうでもいいことだ
まず参加者が『あの映画』を見た上でどう行動するかだ、お人好しな善人ならば両者を出会わせる上で主催の企みを打ち砕くのだろう、合理的な者なら帆高を陽菜と合わせないようにするかもしくは殺すであろう
その点、事前に映画を見せた主催の思惑は大当たりであろう。まるで綺羅びやかな輝きを魅せる万華鏡のごとく、参加者のスタンスは思い思いに揺れ動くこととなる

「本当に……ボク好みの愉快なゲームだ」

仮面の下に笑みを浮かべる。男は極度の快楽追求者だ
正義も悪も大義も主義主張も信念も思想も、命すらもどうでもいい。ただ自分さえ愉しければそれでいいのだ

「……さぁて、と。一部のバカは森嶋帆高を殺せばすぐに終わると考えてはいそうだけど。どう考えてもそんなつまんない事になるようにはしてないよねぇ。『死滅』なんて少し頭を捻ればわかる文言が書かれてるってのに」

普通に考えるならば、あの二人を出会わせない方法として手っ取り早いのは森嶋帆高の殺害だ。だが、それではこの殺し合いを開いた『意味』がない。そんな方法で解決するのならばさっさと首輪を爆発させるか、こんな回りくどいことをする必要すらない
故に、おそらくは――森嶋帆高は殺せない。いや、『死なない』。死なない存在を殺すならば魂か存在を消滅させるのが手っ取り早いだろう。だがその場合文面には『死滅』ではなく『消滅』でも構わない
死滅とは、その類が全て死に絶えることを意味する。―――おそらくは『森嶋帆高』は殺されることをトリガーに『増える』
増える手段は複数ある、プラナリアのような細胞分裂、魂が事前に分割されモブに混ざっている。もしくは――

(殺されたと同時に参加者の誰かが『森嶋帆高』に置換させられる。かな?)

これならば殺し合いというルールを組み上げた理由は納得出来なくもない。いくら『森嶋帆高』を殺した所で、殺されるたびに別の誰かが『森嶋帆高』になるだけ。映画で見た森嶋帆高が何の特殊な能力も持たいない一般人であることを含め、主催陣営が何かしら細工をしているとするならば納得だ
最も、殺し合いである以上は優勝者は必要、それならば最後の一人になるまでこの置換のループは続くであろう

(この場合だと、森嶋帆高が途中で死ぬのではなく、森嶋帆高が天野陽菜に会えないまま儀式が完了する事に拘る理由まではわからないか。まあ儀式って実は手順の方が大切だったりすることが多いから一旦はそういう認識にしておこうか)

殺し合いであろうと、何らかの儀式というのは目標よりもその手順が重要視される事例はなくもない。宗教的な意味がが関わっているのなれば尚更だ

(……いや? 天野陽奈は人柱で、儀式をそのまま遂行するということは彼女は人柱として天に還る。そういえばあの婆さんは願いを叶える手段を明確に話してはいなかった


―――ああ、そういうことか。だったら納得だよ)


男の頭の中で、新たなピースが嵌った感覚がした

(彼女は、『橋』だ。主催連中と『神』への接点を繋げるための)

天野陽奈は人柱であり、雲を晴らす存在。だが、それはあくまで願いを『雲を晴らす』という前提であることだ。だがそもそも他の願いはどうだ? 村の繁栄? 大金持ち? 世界征服?
『神』が万能であるかどうかはわからないが、それでも願いを叶えるという神子柴の言葉にほとんど嘘偽りはない。但し、主催が神子柴の他におり、神子柴自身がただのスケープゴートであれば話は別ではあるが

ならば狙いは一つ、主催の最終目的を手助けするような行動を取りながらロワを男なりに楽しませてもらい、最後の最後で主催の狙いを掻っ攫ってしまえばいい

(本当ならこういう催し、ボクは開く側に居たかったんだけどまあそこは仕方がない。この様子だと次元力の行使も制限されているようだからね。まあ、この姿に変身出来ることだけは都合がいいか)

ガラス越しに映る自分の姿を確認し、これからの事を考えながら仮面の内に笑みを浮かべる
かつて混沌の盤上で好き勝手に暗躍し、最後の最後で次元の彼方に追放された苦い経験もある。そもそも相手は自分自身の次元力を制限できる手合いだ。神子柴か、それの裏でふんぞり返っている誰かかは知らないが、それ相応の準備をしなければならない

(まーずは森嶋帆高の確保が最優先。勿論ただ捕獲するだけは面白くない。少しばかり色々吹き込んでから他の連中に手渡してやるとしよう)

森嶋帆高の確保。このロワの鍵を握るであろう道化を先んじて手に入れる。そして何かしら吹き込んでしまえばいい。例えば「お前は天野陽奈と他数十名の命、どっちを優先する?」など、まあ男自身はもっと捻くれた問いを彼にぶつけるつもりではあるが
それと同時進行で情報の拡散を行い、多数の参加者を混沌に陥れる、真実だろうが嘘だろうが情報の質に関係はない。どうせなら正義の味方ぶったバカが崩れ落ちる姿を見るのも個人的な趣味としてありだろう

(後は……セオリー通りっていうのは余り好まないけど、首輪の解除を優先順位の一つに付け加えておくか)

男は常識はずれには定評がある。だが、この場においては彼もまたロワの参加者の常識的思考の一つに身を置かざるえない。それを少々不満に思いながらも動き出す

(神子柴、キミが天野陽奈を利用して何の願いを叶えようとしているかは知らないけれど。おそらく僕が関わろうとも関わらなかろうともキミの願いは叶うことは無いだろうね)
(だって――最後に笑うのは、今度こそこのボクなんだから!)

男の名前は『黒のカリスマ』――そして『ジ・エーデル・ベルナル』
かの世界において、多元世界の誕生の元凶となった、創世の芸術家である



【ジ・エーデル・ベルナル@スーパーロボット大戦Zシリーズ】
[状態]:健康、黒のカリスマの姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:表向きは主催の利になるように行動しながら、裏で主催の最終目的を掻っ攫って一人勝ちする
1:森嶋帆高の捕獲。何かしら吹き込んだ後はまあ適当に放置してしまおう
2:首輪の解除
3:情報の拡散。真実だろうが嘘だろうが足がつかない程度に片っ端からばらまいて混乱をもたらす
[備考]
※次元力の行使は黒のカリスマへの変身以外、全て封じられています
※参戦時期は最終回後。ランドルートかセツコルートかは後続の書き手におまかせします
最終更新:2021年01月17日 00:32