「ううっ……何がどうなっているの~!?」
どんよりとした天気の中で、わたしーー花丸円は叫ぶ。
わたしは科目男子の四人と勉強しながら、いつもの毎日を過ごしていたはずだった。
科目男子っていうのは、算国理社の教科書が人間になった男子たちのことで、わたしのことをいつも支えてくれるの。
数か月前にママが亡くなってから、とても落ち込んでいたわたしの前に現れた。
でも、科目男子たちの命は、わたしのテストの点数で決まっちゃうから大変! テストで10点しか取れなかったら、その科目男子は10日しか生きられないの!
そんな科目男子たちは、わたしの家にルームシェアで住むことになって、わたしに勉強を教えてくれるんだ。
だから、わたしはみんなの為に頑張りたかったけど……こんなことになっちゃうなんて、信じられない!
「これって、夢じゃない……現実、なんだよね? あのおばあさんの言ったことが本当なら、わたしは……」
そこまで言いかけて、私は震えちゃった。
勉強が苦手で、テストはいつも赤点ばかりのわたしでも……酷いことが起きているのはわかる。
『もりしまほだか』というお兄さんを捕まえることができれば、こんなことを終わらせてくれると怪しいおばあさんは言っていた。でも、それはお兄さんが殺されてしまうことになる。
つまり、わたしは殺人犯になっちゃうの!?
「……い、嫌だよ! こんな、わけのわからない……ことで、わたしが殺人犯になっちゃうなんて!」
わたしは周りを見渡すけど、そこに科目男子たちはいない。
ずば抜けた計算力で脱出の方法を見つけてくれそうな、算数ケイも。
たくさんの言葉や文章でみんなを落ち着かせてくれそうな、国語カンジくんも。
理科の知識で大変な状況でも生き延びる方法を見つけてくれそうな、理科ヒカルくんも。
色んな文化や歴史に詳しくて多くの人と手を取り合ってくそうな、社会レキくんも。
もちろん、ママがいなくなったわたしのことを何度も支えてくれた、おばあちゃんと親友の成島優ちゃんも。
今のわたしのそばには……誰もいなかった。
「あぁ……わたし、またひとりぼっちになったんだ……」
そして、ナイフで刺されたように胸の奥が痛くなり、涙がポロポロとこぼれてくる。
科目男子たちと初めて出会った頃、わたしは算数が本当にわからなくて、ヤケになって逃げてしまったことがあった。
わたしのテストの点数が悪いせいで、ケイは消えそうになったのに、そのケイに酷いことも言ってしまう。
でも、ケイはわたしのことを必要だって言ってくれた。死んじゃったママだって、わたしのことを必要としてくれる人のため、わたしに勉強をしてほしいと願っていた。
だけど……また、ひとりぼっちになっちゃった上に、わたしが殺人犯になっちゃうかもしれない。むしろ、わたしが死んじゃう可能性だってある。
「願いなんて、いらないよ……みんなと、一緒にいられれば……それで……」
誰もいないことが、今はどうしようもなく不安だった。
ひとりぼっちの寂しさに慣れることはできない。ケイから逃げた時も、林間学校で遭難した時も、わたしは不安だった。
「このままじゃ、わたしだけじゃなくてみんなも悲しんじゃう……もう、噛んだり滑ったりだよ~!」
ーーーーそれを言うなら『踏んだり蹴ったり』だよ!
勉強は苦手だけど、ケンカはもっと苦手だよ。
ママが死んじゃった悲しみを知っているのに、誰かを傷付けるなんてできない。
あのおばあさんはどんな願いでも叶えてくれると言った。だけど、誰かを殺してまで叶えたい願いなんてない。
死んじゃったパパやママとまた会いたい……そう思ったことは何度もあるけど、こんなことで再会しても二人は心からガッカリする。
ひょっとしたら、このままわたしが死ねば天国でパパとママに会えるかもしれない。だけど、家で待っているみんなとお別れになるのは嫌だ。
「どうしたら、いいの……?」
外は大雨だった。
ここがどこなのかわからないし、何をしたらいいのかもわからない。
レストランの中だから、ご飯を作れるかもしれない。だけど、怖くて料理どころじゃなかった。
「ほわっ……大丈夫?」
どこからか、誰かの声が聞こえてくる。
ビックリして、振り返ってみると。
「怖い目にあったんだね。でも、お姉ちゃんたちがいるから大丈夫だよ~」
いつの間にか、穏やかで優しそうなお姉さんが二人も立っていた。
高校生くらいで、わたしから見ればずっと大人に見える。背は高く、スタイルもいいし、髪もサラサラしていて、お顔もとても綺麗だった。
「あ、あのっ!? え、えっと……!? わ、わたしはただのペケ丸ペケ子ですっ! だからっ、身代金だって全然ないですからっ!」
だけど、わたしはパニックになっちゃう!
今の世の中はぶっそうだし、小学生でも自分の身は自分で守らないといけないの! お姉さんたちも、いい人に見えて実は……
(ほわっほわっほわっ! 勉強が苦手な子なら、すぐに誘拐できるよね!)
(そのと~り~! ペケ丸ペケ子ちゃん、お姉ちゃんたちと一緒に遠い所へ行こうか~!)
悪魔みたいな格好で、不気味な笑顔を見せるお姉さんたちの姿が頭の中に浮かんじゃう!
ましてや、今は殺し合いの真っ最中。わたしみたいな弱虫は、すぐに狙われるに決まっている。
「ギャーーーーーーーーッ!!」
逃げ出そうとするけど、思いっきり壁にぶつかってしまった。
当然、そのまま倒れてしまう。
「ほわっ!? た、大変! 怪我はない!? 彼方さん、どうしよう!?」
「真乃ちゃん、絞ったタオルを持ってきて! その間に、彼方ちゃんが見ているから!」
そんな私の元に、お姉さんたちが駆けつけてくれた。
二人とも、わたしのことを心配そうに見つめている。テキパキと動いてくれる姿に、わたしは目をぱちくりとさせた。
(……もしかして、本当に優しい人だったの?)
勘違いをしていることに気付いて、わたしは顔から火が出そうなくらいに恥ずかしくなった。
ドアがあったら隠れたいよ~!
ーーーー『ドアがあったら隠れたい』じゃなくて『穴があったら入りたい』だよ!
◆
「はい、どーぞ! 円ちゃんに真乃ちゃん! 彼方ちゃん特製のプリンだよ!」
サラサラのロングヘア―が特徴なお姉さんーー近江彼方さんは元気な笑みと共に、プリンを持ってきてくれた。
宝石のようにキラキラしていて、とてもなめらかで柔らかい。食欲がそそるし、いつもだったら迷わず飛びついていた。
でも、今は大好きなプリンを見ても、スプーンが動かない。妄想スイッチをONにすることもできないし、動物たちとの楽しいお茶会も開けなかった。
だって、今は優しい世界じゃないし、いつもわたしのそばにいてくれるみんなは誰もいない。だから、プリンだって食べられなかった。
「怖いかもしれないけど、大丈夫! お姉ちゃんたちが、円ちゃんを守ってあげるからね~! だって、二人ともアイドルだから!」
「あ、ありがとうございます……」
今だって、優しく微笑んでくれるのに、わたしは弱々しい笑顔しか見せられない。
彼方さんたちはアイドルと言っていた。TVや動画サイトでライブをして、たくさんのファンから愛されている凄い人達みたい。
人気アイドルだから、こんな時でも笑顔でいられるのかな? お姉さんたちの優しさに、ちょっとだけ心が温かくなる。
「円ちゃんの気持ちはわかるよ。私だって、こんな所に連れてこられて不安だったけど……彼方ちゃんが元気をくれたの!」
そして、キュートながらも大人っぽいショートヘアのお姉さんーー櫻木真乃さんは、元気よくポーズを決めてくれた。
「それを言うなら、彼方ちゃんだって真乃ちゃんのほんわかした笑顔に癒されたよ~? 外は雨でしっとりしてるけど、真乃ちゃんの「むんっ」があれば元気いっぱいになるよ~!」
「ありがとうございます、彼方さん! こんな時じゃなかったら、暖かい公園で一緒にお出かけとかできたら楽しそうなんだけどな……」
「じゃあ、今度みんなで楽しくお出かけしようか! 彼方ちゃんに真乃ちゃんに円ちゃん、あの帆高くんや陽菜ちゃんって子達も誘って、みんなでピクニックだね! もちろん、円ちゃんの大好きなプリンだって用意するよ!
円ちゃんのお友達だって、誘ってもいいんだよ~?」
二人はとても輝いていた。
彼方さんはポカポカとした太陽なら、真乃さんはイルミネーションみたいに優しくキラキラしている。
真乃さんも彼方さんも、たくさんのファンの人から必要とされていると、わたしは思っちゃう。今だって、わたしのことを心配してくれている。
だからこそ、今のわたしがとってもちっぽけに見えちゃった……
「円ちゃん」
しょんぼりしていたわたしに、真乃さんが優しく声をかけてくれる。
顔を上げた瞬間、真乃さんはわたしの両手をゆっくりと握り締めてくれた。真乃さんの手はとても綺麗で、暖かい。ママもこうして、わたしの手を包んでくれたことが何度もあった。
----♪♪
そして、可愛らしい唇からは歌声が出てきた。
真乃さんの優しい歌声は、わたしの耳から全身を駆け巡って、プレッシャーを和らげてくれる。
アイドルの歌声を目の前で楽しめる贅沢に、わたしの胸はドキドキしていた。
「ふふっ……円ちゃん、笑ってくれたね」
「えっ? わたし、笑っていました……?」
「そうだよ。円ちゃんの笑顔は本当に可愛いし、素敵だね! その笑顔が見れただけでも、アイドルをやっていてよかったと思うよ!」
ニコッと笑う真乃さんに、わたしはときめいてしまう。
レキくんもたくさんの人をドキドキさせる笑顔を見せてくれるけど、やっぱりアイドルはいつもこんなニコニコしているのかな。だとすると、レキくんの凄さを改めて実感しちゃう。
『オレには、おまえが必要なんだ!』
そして、ケイの真っすぐな言葉と表情が私の中で浮かび上がった。
ケイだけじゃない。科目男子たちと一緒にいるため、そしてママの期待に応えるため……わたしはいっぱい勉強したかった。
真乃さんと彼方さんは、わたしを励ますための言葉をたくさん知っている。
「……やっぱり、二人ともいっぱい勉強をしたのですか?」
気が付いたら、わたしの口からそんな疑問が出てきていた。
「わたし、わたしを必要としているみんなのため、勉強を頑張ろうって決めたんです。みんなのおかげで、わたしはちょっとずつテストの点数も上がるようになったんですけど……まだまだ赤点だらけで、ペケ丸ペケ子なんです。
死んじゃったママは、わたしが100点を取れるって信じていましたけど……全然ダメで、わたしは二人みたいに頑張れないんです……」
そして、どんどん出てくる重い言葉のせいで、レストランの空気もずーんと沈んでしまう。
胸がまた痛くなっちゃうけど、もうどうすることもできない。わたしを心配してくれる、二人のことだって悲しませちゃう。
「……そんなことないよ。円ちゃんはとっても強くて優しい子だよ!
今だって、私たちを応援してくれるから!」
だけど、真乃さんは笑顔のまま、わたしの両手を包んでくれたまま。
それどころか、指先から伝わってくる優しさが更に強くなった気がする。
「私も、最初は自分に自信がなかったんだ。でも、私をアイドルにしてくれたプロデューサーさんのおかげで、今はみんなを喜ばせられるアイドルになれたの。
私は円ちゃんのことをよく知らない……だからこそ、円ちゃんのことを知っていきたいんだ! 私を信じてくれたプロデューサーさんたちの為にも!」
「彼方ちゃんも同じだよ~!
円ちゃんは、みんなの気持ちに応えたいって思っている……それって、円ちゃんのママがそれだけ優しいってことだよね? だから、その優しさを色んな人に届けられるお手伝いをしてあげるよ!
お勉強でわからないことがあったら、何でもお姉ちゃんたちに聞いてもいいんだよ~!」
そして、真乃さんと彼方さんは、わたしの小さな体を思いっきり抱きしめてくれた。
二人の暖かさと優しさが全身に伝わって、凍り付きそうな心と体が一気に穏やかになる。綺麗な髪からはいい匂いも届いてきて、わたしの悲しみを洗い流してくれそうだ。
もしも、お姉ちゃんがいたら……わたしが不安な時、こんな感じに抱きしめてくれたのかな。
「真乃さん、彼方さん……」
「円ちゃん、何があっても私達は味方だから……何でも言ってね?」
「それじゃあ、まずはみんなでプリンを食べようか! とってもおいしいよ~?」
「……ありがとうございます!」
まだ、不安なことだらけだけど、少なくとも今は笑うことができた。
外の雨は止まないし、これからどうしたらいいのかわからない。もちろん、科目男子たちもいない。
けれど、わたしのことを支えてくれる優しくて頼りになるお姉さんが二人もいる。だから、今はわたしも頑張りたかった。
(いつか、真乃さんや彼方さん達とも、いっしょにお出かけやお勉強もしたいな。だから、わたしはこんな所で死んじゃダメなんだ!)
誰かが死んじゃう悲しみを、私はよく知っている。
喧嘩なんて楽しくないし、誰かが喜ぶこともできない。それを避けるためにも、わたしはいっぱい勉強をしたかった。
勉強をすれば、誰も傷付けることのないまま、みんなで帰ることができる。そんな希望を胸に、わたしは笑った。
「じゃあ、お腹ごぼうしらべとして……プリンをいただきますね! 真乃さん、彼方さん!」
「ほわっ? お腹ごぼうしらべ……?」
「それを言うなら、腹ごしらえだと思うよ~」
【花丸円@時間割男子】
[状態]:健康、不安(中)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:誰も傷付けることのないよう、勉強をしたい
1:まずは真乃さんや彼方さんと一緒にいる
※参戦時期は原作3巻以降です。
【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:プロデューサーさんの、そしてみんなの期待に応えられるアイドルでいたい
1:まずは円ちゃんや彼方さんと一緒にいる
※W.I.N.G優勝、ファン感謝祭のMVP経験があります。
【近江彼方@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:円ちゃんの優しさを届けられるように頑張る
1:まずは円ちゃんや真乃ちゃんと一緒にいる
※少なくとも、スクールアイドル同好会のメンバーが全員揃ってからの参戦時期です。
最終更新:2021年01月18日 23:20