雨が降り続く偽りの東京のとあるビルの上、そこに一人の男が立っていた。
 彼の名前は脳噛ネウロ。魔界で生まれ育った魔人である。
 彼は今、猛烈に不機嫌だった。

 魔人が無理矢理人間界に行き、滞在したことによる蓄積ダメージ。
 更に人間の進化の先、シックスとの戦いで傷ついたネウロは一度魔界に帰ることにした。
 そして彼が再び人間界の地(正確には飛行機の外壁だが)を踏んだ瞬間、彼は殺し合いに呼ばれ、映画を見せられていた。

 映画の内容について思うところは無い。
 一応内容は頭に入れていたが、それよりもここはどこか、一体何が起きたのかを調べようとするもなぜか体は動かない。

 そして映画が途中で打ち切られ、神子柴による殺し合い開始の宣言。
 映画の内容に絡めた殺し合いのルールも気にかかるが、それよりも彼の脳内を支配するのは神子柴への不快感だ。

 確かに彼女が行う殺し合いは、謎が満ちている。
 どうやって自分達を集めたのか。
 なぜ殺し合いを行うのか。
 なぜ森嶋帆高を天野陽菜と会わせなければゲームが終わるのか。
 これらすべてを解き明かしたうえで殺し合いを破綻させれば、中々の謎を喰えるだろう。

 ここで彼が言う『謎』とは、人間の心に芽生え事件を引き起こす悪意が自らを守る防壁のようなものである。
 例えば殺人事件を起こし、見破られないようにするために犯人が作るトリックや、難解なパズル、強固な防壁などが該当する。
 この防壁を突破した際に生じるエネルギーがネウロの食糧であり、何よりも好むもの。
 そういう意味では、このゲームはかなりのものだ。

 だがしかし

「実は我が輩、こう見えてもドSでな」

 ネウロはそのうえで、このゲームが気に入らない。
 まずは、首につけられているこの首輪。
 自分を脅せば従うと思われていることもそうだが、それ以上に無理矢理こうやって命を盾に取り、人間に殺しを強いることが腹立たしい。
 この状況で殺人が起こってもそれは謎ではない。
 仮に謎があったとしてもそれは殺し合いという状況が作った、いわゆる養殖物の謎だ。
 養殖物の謎は、ネウロにとって不愉快極まりない。故に神子柴の行いは彼の逆鱗に触れた。

 そして第二に、彼から見てこのゲームは人間の使い方がなっていない。
 人間は生きていれば何度でも再起し、謎を生み出すとネウロは信じている。
 それを神子柴はこんなつまらない使い方で食いつぶそうとしている。
 故に彼女は彼の敵でしかない。
 それに

「例え森嶋帆高が天野陽菜と再会し東京に雨が降り続こうとも、我が輩の知っている人間ならその程度で怯みはせん」

 ネウロは人間を高く評価している。
 故に神子柴の目的が東京に晴れを取り戻すことだとしても、余計なお世話としか思えなかった。

 なお、ネウロは自分が人外ゆえに首輪の爆発で死なない可能性は一切考慮していない。
 本来なら今の彼は核が落ちても死なず、一億三十六度の溶岩を人間でいう温泉の感覚で楽しめるほどの人外だ。
 ならば仮に首輪の爆発、もしくはゲームオーバーで会場は水没しても死なないかもしれない。
 だがこうして参加者となった以上、最低限の対策は行っているだろうと彼は考えている。
 ネウロの知る人間界に今の自分を殺せる爆弾はないが、遥か未来、もしくは並行世界にはあるのかもしれない。
 仮に自分が首輪の爆発で死ななければ、その時点で興ざめだ。
 そのまま主催本部に乗り込んで、思いつく限りを仕置きを神子柴に叩きつけ、参加者を会場から逃がしてそれでおしまい。後は何の興味を起こらないだろう。



「まあそれはそれとして、そろそろこのゲームについて考えるとするか」

 そこまで考えて、ネウロは思考を殺し合いに向けた。
 ルールを改めて確認する為タブレットを起動させる。
 このタブレットは彼の見たことないものだが、別に悪意を以って使わせないようにしていない以上、使いこなすのは彼にとって容易だ。
 参加者の名簿は未だ用意されていないのが気にかかるが、ひとまずルールの項目を開く。

「やはり気にかかるのはこの文章だな」

 ③帆高が死滅した場合、その時点でゲームは終了。残った者は帰還できる。

「死滅という部分が引っかかる」

 これではまるで森嶋帆高が複数いるみたいではないか。
 いや、複数いるのではなく増えるのかもしれない。

 このゲームを最速で終わらせるなら、森嶋帆高の殺害するのが一番手っ取り早い。これくらいなら誰でも思いつくだろう。
 だがそれではあまりにも単純すぎる。
 しかし例えば、帆高を殺害したものが新たな『森嶋帆高』になる、というルールが実は存在するならば話は変わる。
 別に本当に帆高に変身するわけでは無く、ルール上『森嶋帆高』として扱われるだけならさらに面倒だ。
 帆高を顔はあの映画を観ていた者全員が知っているが、別人が『森嶋帆高』として扱われていれば隠れ潜みながら生き残るのは難しくはない。

「それにこれ」

 そう言ってネウロが別に取り出したものは一枚の紙。
 そこには神子柴が言っていた各々へのお題が書かれている。

「くだらん」

 それをネウロは一瞥しただけですぐにデイバッグに戻した。
 お題は要約するなら、ゲームが成立した後主催本部にたどり着けば先着五名限定で願いを叶えるというもの。
 映画の後に死者蘇生というデモンストレーションをしたのは、願いを叶えるという言葉の現実性を示す為。
 そして先着五名と言った以上、このお題が渡されたのは自分だけではない。
 最低でも六人以上、ともすれば参加者全員に行き渡っている可能性も高い。
 そのうえで願いに用がある者がいるなら、場合によっては他の参加者を殺すという選択肢も当然存在しうる。

 要するに、神子柴は一見森嶋帆高さえ死ねば解決するように見せつつも、実際はこの殺し合いでなるべく多く参加者を死なせようとしている。
 そうまでするなら最初から『最後の一人になるまで殺しあえ』と言った方が分かりやすいはずだが、とネウロは思案する。

「やはり最初にやるべきは、森嶋帆高を捜索だな」

 ここまで考えて出した結論は、なんにせよ森嶋帆高を探すことだった。
 このゲームの中心は確実に彼だ。
 彼を守るか殺すかは別にしても、必然的に参加者は彼に集まるはずである。
 その他の参加者に接触し、殺し合い打破の為の手がかりを探すのがネウロの狙いだ。

「その際はヤコの助手として接したほうがよいだろう。我が輩の知る人間界と同じかどうか知る参考となる」

 こうしてネウロは出発した。
 それもビルの屋上から直接飛び降りるという、魔人などの超常を知らなければ度肝を抜くような方法で。


【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:健康、神子柴への強い不快感
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破し、謎を喰う。
1:まずは森嶋帆高、もしくは森嶋帆高扱いとなっている参加者を探す。
2:他の参加者と出会ったら、桂木弥子の助手として接する。
3:並行して首輪の解除方法も考える。
4:謎を喰った暁には、神子柴にキツい仕置きをする。

※参戦時期は最終回で人間界に戻ってきた直後です。
最終更新:2021年01月18日 23:24