「嫌ああああああああああああっ!!! 来ないでッ! 来ないでくださいぃいいいいっ!」
栗色の髪を乱しながら、市街地を駆け抜ける少女の名前は、一色いろは。
総武高校に通う一年生兼、生徒会長である。
止め処なく降り続ける雨により、いろはの身体はずぶ濡れとなっているが、そんなことは今の彼女には些末なことである。
原因は彼女に迫り行く一つの人影にある。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……。 き、君…待ちたまえ……!」
野太い声が耳に入り、いろはは焦燥に満ちた表情で背後を振り返る。
「ひいっ!?」
そこには、雨のせいか、はたまた自身が流した汗のせいか、こちらも全身ずぶ濡れで息が絶え絶えながら走る中年男性の姿があった。
最初の会場――つまりはあの「穂高」なる少年と「陽菜」なる少女を取り巻く映画を見せつけられた劇場においては、複数の参加者の気配があった。
だからこそ、こうして他の参加者と遭遇することも想定されるものではあった。
では、なぜ一色いろははこうしてパニックになりながら、男から逃走を試みているのかーー原因はその男の恰好にあった。
「わ、私は少し話をしたいだけなんだァ……!」
「来ないで、変態ッ!!!」
いろはが男に言い放った「変態」という単語――それはまさに言い得て妙。
その男は、頭から女性の下着と思わしきものを被っており、股間を隠すブリーフは肩まで極限まで伸ばしクロスさせた、奇抜な恰好でいろはに迫ってくるのである。
ただでさえ訳のわからない状況に陥って恐慌状態であったのにもかかわらず、ゲーム開始早々に、このような変質者に遭遇したいろはの精神的ショックは推し量れない。
こうして、男とバッタリと遭遇してから現在に至るまで――いろはは、雨打たれる街の中で変質者からの逃走を続けているのであった。
「ハァハァ……しつこい、ですッ!」
いろはは拒絶の反応を示しつつ懸命に逃げるが、変質者の方も負けじと追走する。
やがて、追跡者と逃走者ーー両名の体力の限界に達しようとしたとき、この逃走劇は、唐突に終止符が打たれることとなった。
「っ!!?」
路上の水溜りに足を滑らせて、いろはが盛大に転倒したのである。
「はぁはぁ……ようやく追いついたぞ、お嬢ちゃん……」
いろはが顔を上げると、目の前にはあのパンツを被った中年男性が佇んでいた。
「ひいぃっ!!?」
「本当は、話だけでもーーと思っていたのだが……」
男はパンツの隙間の視線から、いろはに向けてねっとりとした視線を送っている。
男の視覚が捉えているのは、雨でずぶ濡れ姿となっている少女――その制服は雨水により透けており、可愛らしいピンク色の下着が醸し出されている。
そんな官能的な光景に、男はパンツ越しからでも分かるようにニタリと下衆な笑みを浮かべると、本能的に危険を察知したのかいろはは、身震いする。
「少しだけーーほんの少しだけ……君を『味見』してみたいと思ってしまった」
「嫌ぁあああああああああああああああああああーーー!!! 誰かっ! 誰か助けてッーーー!!!」
両手を抑え込み圧し掛かろうとする男に、いろはは絶叫を上げて抵抗する。
「っ!!! こ、このっ! あ、暴れるなっ! 暴れるのは私の息子だけで十分だッ!」
「嫌ぁッ!! 放してッ! 放して下さーーっふごっ!!?」
暴れ叫ぶいろはの口元に何かが押し込まれ、彼女は声を上げることができなくなった。
嘔吐感とともに吐き出そうとするも、口元を分厚い手の甲で抑えられて、それは許されない。
いろはの口に押し込められた異物の正体――それは、男が被っていた女性の下着であった。
混乱する合間に、いろはの身体は完全に男に抑え込まれてしまう。
「ンんんんんんんんんんんっーー!!!」
「ふふふっ……雨に濡れたその卑しい身体に、今度はスペルマの雨を注いでやろう」
素顔を露わにした男は、涙目になるいろはにその顔を近づけ、耳元で囁いた。
一見人の良さそうな笑みを顔に張り付けつつ、男は、いろはの制服を脱がさんとシャツに手をかけた。
その瞬間――。
「――うっわ……」
いろはのものでもなく、男のものでもないーー第三者の声が二人の耳に入り、その場は静止した。
◇ ◆ ◇
神子柴と名乗る老婆に押し付けられた迷惑極まりないゲームの開始早々――助けを求める女性の声を聞きつけ、颯爽と駆け付けた正義の美女は誰でしょうか?
そう、私です。
◇ ◆ ◇
「ま、待ってくれ、君! こ、これは誤解だ!」
「誤解と言われましても…状況証拠的にクロにしか見えませんが……。 とりあえず、まずはその子から離れてもらいましょうか」
灰色の髪を靡かせる魔女イレイナは、変態感丸出しの格好の男に白い目線を送っている。
男は慌てふためきながらも、いろはの拘束を解く。
解放されたいろははというと、口に詰め込まれていた女性のパンティを吐き出して、苦しそうにゲホゲホと咳き込んでいる。
地面に吐き出されたパンティを見て、イレイナはまたしても「うわ…」と引き気味な声を上げ、厳しい眼光をアメジスト色の瞳に宿らせ、男を一瞥する。
「――それで…どうして、このような事を行ったか説明してくれますか?」
「ち、違う! これは…だな……。 そ、そうだ、お題だ! 主催者が私に割り当てたお題が『他の参加者と性行為せよ』という内容だったんだ! だから、仕方なく――」
「呆れました。さっきは誤解だと弁明していたのに、今度はその子にいかがわしいことをしようとしていたのは認めるんですね」
「ぐっ!!?」
「第一にそんな都合の良いようなお題が割り当てられてるとは思いませんが……。例えそのお題の内容が本当だったとしても、主催者からのご褒美目当てで、いたいけな少女を無理矢理襲おうだなんて感心しませんね。貴方は本当に最悪最です」
「こ、この――言わせておけば……このコスプレ女がぁッッッ!!!」
イレイナにいいように言われた男は逆上し、イレイナの元へと猛ダッシュ。
相手は所詮女――腕力で幾らでも屈服させることが出来るだろうと、男は踏んだのだろうが--。
「グバァッ!!?」
「失礼ですね、コスプレではありませんよ。私はれっきとした魔女です」
イレイナは咄嗟に自身の杖を懐から取り出し、男に向かい衝撃波を発射。
結果として、男の身体は後方へと大きく吹き飛んだ。
「ゴホッゴホッ……。 ま、まさか…本当に魔女だというのか…」
「だからそう言ってるじゃないですか。 で、どうします? 今のは大分手加減してあげた方ですけど――このまま私と戦うつもりですか?」
「くっ、クソォッ!!」
男は悔しそうな表情を浮かべ、地面に転がっているパンツを回収――それを握り締めながらイレイナ達に背を向け、走り去っていった。
何故パンツを……と呆れたままイレイナはその後ろ姿を見送り、やがてその視線を傍らで尻餅ついたままのいろはへと、向ける。
「そこの貴方、大丈夫ですか?」
「は、はい、何とか…。あ、あの、ありがとうございます!」
立ち上がりお礼を述べるいろはに、イレイナは「いえいえ」と優しい笑顔とともに会釈し、
会話を続ける。
「そうですね――さしあたり、まずは自己紹介といきましょうか」
まずは、お互いの素性を知る上でも、状況を整理する上でも情報交換をすることにした。
【イレイナ@魔女の旅旅】
[状態]:健康
[装備]:イレイナの杖
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
0 : 目の前の少女(いろは)と会話する
1 : ひと段落したら、あの老婆を懲らしめに主催本部に乗り込みますか
2:道中で穂高君を見かけたら、保護してあげましょう
【一色いろは@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:死にたくないし、こんなゲームには乗りたくない
1 : こ、怖かった…
2:まずは目の前の魔女さん?と会話する
「ハァハァ……」
ここは雨降りやまぬ市街地の一角にある喫茶店。
閑散とした店内で、膝をついて呼吸を整えている人影が一つ。
羽黒刑務所の「所長」こと間久部は、魔女を名乗る少女から逃走してから間もなく、この喫茶店へと行きつけ、休息をとっていた。
「ク、クソッ!!! 何故私がこんな目に!」
間久部はここに至るまでの記憶を思い返す。
あれは「第11次殺人実験」の最中であった。
所長室で尿の香りが漂う甘城千歌のパンツの匂いを楽しんでいたところ、突然目の前が真っ白になりーー次に気づいたときには、見知らぬ場所で座らされ、穂高なる少年と陽菜なる少女が出演する映画のようなものを鑑賞していた。
これも仕事の疲れによるものかと、夢見心地のまま映画をそのまま鑑賞。
作中に出てくる「天野陽菜」や「須賀夏美」を凌辱したいな、と思いながらぼんやり眺めているとーー。
あの神子柴なる老婆がでてきてーー。
そこから次に気づいたときには、雨降る市街地のど真ん中に立っていてーー。
そこで、あの女子高生に遭遇してーー。
今へと至るわけだがーー。
身体に残る雨水の冷たさと、先程の魔女による攻撃の痛みが、自身の置かれている状況が夢などではなく現実であることを悟らせる。
「これが夢ではなく、現実であるならば早急に対策を講じなければなるまい!」
本来自分は駒を操る側の人間であり、決して盤上に出て行く側の人間ではない。
したがって、ここにいてはいけない存在なのだ、とーー。
間久部は、パンティを口に含み、その味を強く噛み締めながら、自身の生存のための策謀を巡らすのであった。
【間久部@サタノファニ】
[状態]:健康、腹部ダメージ(中)
[装備]:ブリーフ一丁
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3、甘城千歌のパンツ@サタノファニ
[思考・状況]
基本方針:生存優先。何故私がこんな目に…!
1 : まずは服を探す
2:先程の少女(いろは)は、中々良い身体付きをしていたな…
※「第11次殺人実験」中からの参戦となります
【甘城千歌のパンツ@サタノファニ】
「第10次殺人実験」中に甘木千歌が履いていたパンツ。
実験中に千歌が失禁したものをそのまま回収したため、匂いが残っている。
間久部は「第11次殺人実験」中、これを被り続けていた。
最終更新:2021年01月18日 23:27