「凄い雨だな……」
雨の冷たい空気が肌に突き刺さる中、桃園ラブは呟く。
一見すると、どこにでもいる普通の女子中学生である彼女だが、実は伝説の戦士プリキュアだった。
全パラレルワールドの支配を企む管理国家ラビリンスを相手に、フレッシュプリキュアとなって戦って、本当の平和を取り戻した。幼馴染の蒼乃美希や山吹祈里、親友の東せつなと力を合わせて何度も危機を乗り越えた。
その矢先にこんな大事件が起きてしまい、ラブば落ち込んでしまう。天真爛漫な彼女でも、この一大事では笑えるわけがない。
「イースと……せつなとぶつかり合ったあの日も、こんな大雨だったね……」
窓ガラスにぶつかる大量の雨水を見て、ラブはひとりごちる。
ラブの脳裏に浮かび上がるのは、今でも忘れられないあの日の出来事。かつて、せつなはラビリンスの幹部イースであり、友達のふりをしてラブに近づいていた。
せつながイースと知って、大きなショックを受けたけど……ラブはイースと戦った。イースの悪事を、そしてせつなの目から流れる涙を止めるために。
あの日の大雨は、まるでせつなの悲しどんな願いでも叶えると謎の老婆は口にしたけど、ラブには信じることができない。みのようだった。
「……あの帆高さんって人は、陽菜さんのことを探しているのかな?」
いつの間にか連れてこられた劇場で公開された映画では、『森嶋帆高』と呼ばれた男の人が『天野陽菜』という女の人を取り戻す為に走っていた。
帆高が陽菜の為、精一杯頑張る姿がたくさん映し出されていて、ラブも胸が高鳴った。自分を信じて、完璧になろうと頑張る人は応援したいし、幸せゲットできるお手伝いをしたいと思う。
だけど、怪しいおばあさんはこの世界に集められた人達に、帆高の命を奪わせようとしていた。しかも、帆高と陽菜が再会したら、ラブを含めた大勢の人を犠牲にしようとしている。
絶対に許せない。
「帆高さんと陽菜さん……それに、みんなが幸せゲットできるように頑張らないと!」
ラブは自分に言い聞かせる。
どんな願いでも叶えると謎の老婆は口にしたけど、とても信じられない。一方的に人の命を奪う程に冷酷だから、明らかに罠としか考えられなかった。
これまで、キュアピーチとして多くの幸せを守ったように、みんなで幸せになれる方法を見つけたい。ここでも、その気持ちを変えるつもりはなかった。
「とにかく、まずは帆高さんを探さないとね!」
まずは帆高を見つけて守ることが最優先だ。
彼が多くの人から命を狙われるなら、キュアピーチに変身する必要がある。リンクルンはこの手にあるから、どんな敵が来ても帆高を守ることができる。
「できれば、傘があるといいんだけどな……ん?」
手元に置かれていたデイバッグのファスナーを開いた瞬間、真っ先に出てきたのはフィギュアだった。
可愛らしいコスチュームや髪飾りを身に身に纏った女の子で、プリンセスと呼べるイメージがある。女の子はもちろん、幅広い年齢層にも高い人気がありそうだ。
何よりも、ラブもそのフィギュアから目が離せない。初めて目にしたフィギュアなのに、強い親近感すら抱いた。
まるで、自分自身を見ているかのようにも錯覚する。
「えーっと……プリストロベリーの激レアフィギュア。人気アニメ、フラッシュ☆プリンセスの主人公……アブちゃんの変身した姿……?」
「そ、そのフィギュアは……!」
「えっ?」
備え付けられていた説明書を読んでいたラブの耳に、男の声が響いてくる。
振り向いた瞬間、金髪の男の人がいつの間にか立っていた。ややつり目で、背丈もそれなりに高く、帆高とほぼ同い年に見える。
そんな彼は、頬に汗を流しながら震えていた。
「……ぷ、プリンセスストアに朝一で並んでも手に入るかどうかわからない、鬼激レアフィギュアじゃないスか……!?」
「知っているんですか? この子のこと」
「……オレ、大ファンなんス。何があっても、己の道を突き進んでみんなのために頑張ったプリンセスが。俺だけじゃなくて、極道さん……俺の大事な友達(ダチ)も、プリオタなんスよね」
「……なら、よろしければ差し上げましょうか? そんなに大切に想っているなら、このアブちゃんって子も喜ぶと思いますし」
「マジスか!? えっ……お気持ちはありがてーんスけど、めっちゃ鬼激レアフィギュアっスよ!? たぶん、今を逃したらもう手に入らないかも……」
「レアなら、尚更ですよ! あなただけじゃなく、あなたのお友達もアブちゃんを大切にしてくれるなら、あたしだってプレゼントしたいですし!」
「……マジサンキュっス!」
アブちゃんのフィギュアを渡した途端、男は背筋を伸ばしながら敬礼をしてくれる。
見た目はちょっと不良みたいだけど、いい人であるのは確かだ。
「私、桃園ラブって言います! あなたは?」
「……多仲忍者。"忍者"と書いて忍者(しのは)って読むっス。ただの高校生(コーボー)っスよ」
「忍者!? カッコいいお名前ですね~!」
「あざっス。ラブちゃんも、キュートっすよ」
金髪の男……多仲忍者を前に、ラブは目を輝かせた。
だけど、忍者は自分の頬をペタペタと触っている。
「……やっぱり、笑えねー」
「えっ?」
「オレ、昔から笑うのが苦手なんス。今だって、激レアフィギュアを譲ってもらったのに、全然笑えねえ……ラブちゃんに失礼なのはわかっているのに、笑えねえんスよ」
忍者の表情は固いが、悲しみに染まっていることはラブも察する。
「無理して笑わなくていいと思いますよ」
だから、ラブは微笑みを向ける。
「誰だって苦手なことはありますし、無理をしたら余計に笑えなくなりますって。それに今は、こんな状況ですから」
「確かに、今はこんな訳わかんねーことになってるっスね。ラブちゃんはオレのことを警戒しねーんスか?」
「うーん、いきなり声をかけられた時は驚きましたけど……忍者さんは私を傷付けてないじゃないですか! だから、優しい人だと思っています!」
忍者を前に、ラブは自分の気持ちを叫んだ。
彼が悪人であれば、いつでも不意打ちを仕掛けることができた。でも、忍者はアブちゃんのフィギュアに心を躍らせていたから、優しい人のはずだ。
忍者の手の中にいるアブちゃんは、今も元気よく笑っている。この笑顔が、忍者の支えになっているはずだから、彼を疑うことはできなかった。
「いい子なんスね、ラブちゃんは。アブちゃんみてーっス」
「そうなんですか!? いや~! 私も、そのアブちゃんに親しみを持っちゃうんですよね! なんだか、他人の気がしなくて……」
「なら、オレのとっておきの曲を聞かせるっス!」
忍者は懐からスマホを取り出す。
軽やかに操作をした瞬間……
『フラッシュプリンセ~ス!』
「わあっ!?」
明るくて、前向きなテーマソングが流れ始める。
「これが、F(フラッシュ)☆プリンセスのOPテーマっス!」
熱く語る多仲忍者の表情は変わらない。だけど、瞳からは純粋で真っ直ぐな輝きが放たれていると、桃園ラブは感じた。
◆
多仲忍者は忍者(にんじゃ)であり、プリオタである。
国民的人気アニメプリンセスシリーズは全話欠かさず視聴しており、内閣総理大臣・愛多間七にプリンセス達を布教する程のプリオタだった。
そして同時に、アコギな真似をやらかす極道(ごくどう)たちと殺し合う忍者(にんじゃ)でもある。故に、忍者にはこの殺し合いを許すことはできなかった。
許可もなく、人に映画鑑賞を強制した挙句に、出演者の命を奪えと戯言を口にするクソババアになど従える訳がない。だが、あのババアは只者ではないことも事実だ。
もしかしたら、極道の連中もどこかに潜んでいるかもしれない……そう思った矢先、桃園ラブという少女を見つける。
彼女は撫子アブとは正反対で、天真爛漫で前向きな少女だ。それでいて、オタに理解がある……もう少し年齢が上だったら、オタクに優しいギャルになっているだろうか。
だからこそ、彼女の命を奪えるわけがない。
(見ているか、ババア? オレはテメーの思い通りにはさせねえ……テメーも、汚え極道どもも、オレの手でブッ殺してやる。このオレを呼んだのが、運の尽きだと思え)
能面のような表情の裏で、地獄の業火の如く殺意を忍者は燃やす。
決してラブには悟られないように。彼女のようなJCは、血生臭い世界など知る必要はない。
極道みたいな連中は帆高を殺そうとするだろう。故に、早急に帆高を保護し、彼を狙う連中を殺さなければいけない。
ババアは帆高を殺さなければ、忍者達が死ぬと脅しをかけてきたが、関係ない。
(オレは迷わねー! ラブちゃんも、帆高も殺させねえ……そうしねーと、オレの今までが嘘になるし、極道さんもガッカリさせちまう……
極道さんも、こうするっスよね?)
フラッシュ☆プリンセスのOPが響く中、忍者は偉大なる友達(ダチ)である輝村極道(きむらきわみ)の優しさを思い出していた。
彼は立派な大人だ。こんな不愛想なガキを前にしても、満面の笑みをいつも見せてくれるし、時には一緒に涙を流してくれている。
もしも、ラブや帆高を守れなかったら、極道を失望させる。彼の期待を裏切らない為にも、迷う訳にはいかなかった。
友達(ダチ)と信じた大人の、本当の顔を知らないまま……
「忍者さん、素敵なテーマソングですね!」
「こんなもんじゃないスよ? アブちゃんの親友にして宿命のライバル、ヒース様のキャラソンだってマジパネエっスから!」
桃園ラブという優しい少女を守り、そしてプリンセスシリーズを布教する。
今はまだ、笑うことができなくとも、多仲忍者の真っ直ぐな想いは変わらなかった。
【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:みんなを守れる方法を見つけたい。
1:まずは忍者さんと話をする。
※最終回後からの参戦です。
※キュアブラック、キュアホワイトについて知っているかどうかは不明です。
【多仲忍者@忍者と極道】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、プリストロベリーの鬼激レアフィギュア@忍者と極道、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:あのクソババアの思い通りにはさせない。
1:まずはラブちゃんや帆高を守り、そして二人を襲う奴らをブッ殺す。
※少なくとも、愛多間七をプリオタにした後からの参戦です。
最終更新:2021年01月18日 23:28