身体が崩れ朽ちていく。
己を殺した者には適わぬ、ならばせめてと手を伸ばした先に倒れ伏していた弱者は、傷ついた身で尚、家族を庇うように被さっていた。
そんな背中を見て思い出す。
かつて自分にもあった『絆(つながり)』を。犯した罪を共に背負って死のうとまでしてくれた愛情を。
その繋がりを己の手で断ち切ってしまったことを。
倒れ伏した身体に、陽の光のような優しい手を乗せられて、己の犯した罪を自覚する。
そして、もうかつてあった絆には永劫に届かないと諦めたその時。
信じられないものを見た。
突如放り込まれた謎の空間に思わず目を瞬かせる。
次いで、斬られたはずの己の頭部と身体が元に戻っていることに気がつく。
なぜ。どうやって。いつの間に。
なにがなんだかわからないが、とりあえず用意されていた椅子に座ると、突如、白の幕に妙な頭部の男たちが能にも似た舞を踊り狂う。
確か、あのお方がほんの少しだけ聞かせてくれたことがあった。『映画』。何枚ものフィルムを使うことで動く写真を作り作品として成り立たせるものだ。
初めて見るソレに特に感動は無かった。でも、見せられたソレは違った。
ふとしたことで出会った少年が、日常を通じて少女と惹かれ合っていき。少年は少女を護るために全てに抗おうとした。
大人も。知人も。神様も。
自分たち以外の全てを敵に回してでも、少年は必死に少女を救おうとしていた。
その無垢な愛情を。決して諦めない背中を。彼らの間に確かにある絆を目の当たりにした俺は―――感動で震えた。
☆
雨の中、傘も差さずに曇天の空を見上げる少年が一人。
「......」
先の光景は夢か現か。それすらも断じられぬほどに不可解な状況だった。
映画を途中で切られたかと思えば老婆に殺し合えと言われ、また別の場所に送り飛ばされて。
なにより殺し合いに生き残るルールが先ほどの映画の人物を殺せという妙なもので。
「...どうでもいい。興味がない」
生への執着などもはやなかった。
既に、欲した絆は戻らないと悟ってしまったし、頸を斬られ殺された時も死自体への恐怖もなかった。
もしこの場であの主催者に首輪を爆発させられても「そうかこれで終わりか」と済ませてしまうだろう。
けれど。
けれど、生への執着の代わりに得たものはあった。
「...あいつらは家族じゃない。なのに、なんであんなに戦える」
映画で流された『絆』。例え全てを敵に回しても守ろうとする本物の『絆』。
少年はあの絆が羨ましかった。眩しかった。
敵対していた少年たちや自分の両親のように、家族ですらない者があそこまで頑張っていたことに感動し打ち震えた。
「どうしてあの子は護ってもらえる。どうして想って貰える。僕とあの子の何が違うんだ」
同時に、あそこまで想いを寄せられる天野陽菜が疎ましかった。
あの娘も、己の欲で天候を操り、消えなければ降り続く雨であの都市を水に沈め多大な損害を生む存在だ。
人を食う鬼を悪鬼と見るのなら、存在が不特定多数の他者を害する彼女も悪鬼そのものだ。
なのに彼女は愛された。『森嶋帆高』から、世界を敵に回しても救いたいほど想われた。
自分は違った。
両親との絆はあった。けれど、彼のように共に生きるのではなく、鬼となった自分を殺した後に自分を死ぬという心中だった。
鬼となった自分をああも想ってくれる人は誰もいなかった。
「...僕にはもう手に入らない絆」
わかっている。彼女は自分とは違い罪を重ねなかった。
彼女たちの欲は人の為になってはいたがそれ自体が害を為すことはなかった。
だから自分には絆を紡ぐ資格がないのだと。
「...欲しい」
だからこそ。
「きみの絆が欲しいよ、天野陽菜」
だからこそ、汚れなき絆を欲さずにはいられなかった。
彼らの絆と自分の絆を比較して思う。いや、思わずにはいられなかった。
どうして父さんは彼のように最後まで頑張ってくれなかったんだろう。
どうして母さんは彼のように手を引いて逃げ出してくれなかったんだろう。
例え自分が人食いの鬼でも、力が及ばずとも、帆高のように全てを敵に回してでも一緒に生きてほしかった。
私たちだけはあなたの味方だと励ましてほしかった。人食いが悪であるなら一緒に人を食わなくていい方法を探してほしかった―――と。
両親が悪くないのはわかっている。
けれど、彼らとの間に在った絆は、自分が欲しかった絆ではなかった。
血のつながりが無くともあそこまで必死に守ろうとしてくれる帆高との絆こそが、自分の欲したものなのだろう。
だから少年は望む。
自分もあの絆が欲しいと。家族以上に、『森嶋帆高』にとっての『天野陽菜』になりたいと。
その為に必要なのはこの"お題"だ。
帆高を殺した後に制限時間以内に主催本部へ留まるというこのお題。
帆高は一度死ななければならないが、それはこの褒美で解消してもらえばいい。
「帆高...きみならくれる筈だ...僕の欲しい『絆』を...!」
誰もいない曇り空に少年は手を伸ばす。
頸を斬られ。最期に温もりを与えられ。過去を思い出し。
しかし冥府への道を奪われた少年には、もうかつての『絆』たちの声など届いてはいなかった。
【累@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~3
[行動方針]
基本方針:本物の絆を手に入れる。
0:帆高を殺し、お題をこなして願いを手に入れる権利を得て帆高を蘇らせ自分が『天野陽菜』となる。
1:太陽の問題は後回し。
参戦時期は家族との一件を思い出した直後です
最終更新:2021年01月18日 23:30