「なんだ。あの映画は」

降りしきる雨に打たれながら、緑髪の美女が俯いていた。
その長い美髪が頬に張り付き少し鬱陶しそうにしながらも彼女は屋外に入ることをしない。

「……私への、当てつけか」

彼女はC.C.は自分を嘲るように笑いながら呟く。
あの映画に於ける主人公、森嶋帆高のやっていることは個人的なエゴで我儘だ。
天野陽菜は自らが犠牲になることで、世界を……少しばかり過剰な表現になるにしても優先し、本人も納得した。
だが、森嶋帆高はそれを良しとはせず、彼女のために、いや自分の我儘で救い出そうとしている。

「なあ、まるで私みたいじゃないか……私の我儘でお前を生き返らせてしまったことと何も変わらない」

かつて世界の憎しみを自らに集め、その命に幕を下ろすことで世界に安寧を齎したルルーシュ。
きっと、その死を以て完結することを望んでいたルルーシュに、望まぬ新たな生を与えてしまったのは他ならぬC.C.だ。
もし、悪逆皇帝として名を馳せたルルーシュに生存がバレれば世界の安寧は崩れるかもしれないのに。
彼の死に酷く傷心した者達にも、何も告げないまま勝手な行いをした。

「……そうだ。ルルーシュ、ルルーシュは!?」

当然返事などないが、C.C.はその名を呼ばずにはいられない。
ルルーシュは一度死んでから、確かに生き返りはしたものの、その精神までは戻らなかった。
肉体だけは完全に復活し、だがその肉体に宿る心は元のルルーシュとはかけ離れた存在となっている。
元の記憶もさることながら、物事に対する決断力も殆どなく、大人の体を持った赤ん坊のようなものだ。

「もし、あんな状態のルルーシュがここに居るなら……」

C.C.はルルーシュの身の回りの世話のために常に傍にいた。
この場の呼ばれる前も、彼に食事を用意していたのをはっきり覚えている。
だとすれば、C.C.をこの場に攫った際にルルーシュを放置するだろうか。
以前ならまだしも今なら、何の力もなくこの催しの脅威にはならないにしても、ただ放っておくなど考え辛い。

いっそ二人一緒に連れてこられたと考える方が自然だろう。

そうなれば、以前ならともかく今のルルーシュには何の力もない。悪意のある参加者に会えば、どうなるか……。
一刻も早く探して保護しなければならない。


「何処だ。ルルーシュ……ルルーシュぅ!!」


「まるで母親気取りだな」


その悲鳴にも懇願にも聞こえる悲痛な声の先、針金が入ったかのように裾が重力を無視し逆立っている白銀のコートを纏った男がいた。



―――――



「ふざけおって、あのババア……この屈辱許しはせん……!」


海馬瀬人は激怒していた。
この下らない催しもさることながら、強制的に鑑賞させられたあの映画にもだ。

武藤遊戯に敗れ、冥界へと還った王(アテム)。
しかし、奴を葬らねばならなかったのが海馬を於いて他にはいない。
だが実際は海馬の知れない遠くの異国で奴は敗北し、その姿を現世から消した。

その後、海馬コーポレーション社長という地位、権力、財力、全てを投入させ遊戯を冥界より呼び寄せる為にありとあらゆる手段を講じた。

だが結果としては失敗した。
人々の集合意識を集め、冥界へと行く方法は寸前で辿り着かず。遊戯を完全再現したAIは所詮は偽物の道化でしかない。
千年パズルを再完成させ、その器に再び魂を呼び戻す方法も、だがその器の遊戯にパズルには魂がないと否定された。

「おのれぇ……この俺に下らん茶番へと興じろとでもいうのか」

はっきり言ってどうでもいい小僧と小娘の馬鹿げたラブドラマにも反吐が出そうになったが、消えた小娘を取り戻そうとする姿に更に癪に障った。
あの小僧のように情けなく叫びながら、ふざけたゲームに乗り遊戯との再戦を果たせとでも言っているのだろうか。

「認めん。認めんぞ……」

餌を吊り下げ、それに無様に縋り付くと考えているであろうあの老婆も。
つまらん雨を降りしきらせ、生贄などを求める神とやらも。

両親もなく、唯一の家族であるたった『一人の弟』を置き去りにし姿を消したあの天野陽菜という小娘も。

「何より……奴は、アテム……貴様はこの俺が引導を渡してくれるわ!!」

そして遊戯を倒すべきは、この海馬瀬人でなければならない。



――――



海馬がC.C.を見つけた時、確かにこう言っていた。

私の我儘で生き返らせたと。

神子柴も一度殺めた年増の女を蘇らせていた。
何かしらのトリックの可能性もあったが、願いを叶えると言っている以上、その証明であることに違いはない。
そしてこの目の前の女も生き返らせたと言った。

「貴様、冥界へと干渉できるのか」

「冥界?」

C.C.も冷静さを取り戻し、迂闊さを悔やんだ。あんな大声を張り上げていれば誰かに居場所を知らせるようなものだ。
それがルルーシュならばまだしも危険な思想を持った相手ならば、C.C.とてどうなるか分からない。
一応は不死ではあるが、その大元のCの世界も不安定であり完全な不死かは分からない。万が一ルルーシュを見つける前に死ねば、それこそ本末転倒だ。

「生き返らせたと抜かしていたな。それは冥界から、死者を呼び戻したということか」

事情は知らないが、男の要求を聞く限り死者の蘇生に関心があるのは間違いはないだろう。

「……お前にも、どうしても会いたい者がいるのだな」

感傷に浸っていた時に自分と似たような願望を秘めた相手に会ったと思ってしまったからか、相手の腹を探るような交渉ではなく一種の共感からの一言だった。

「貴様……!」

「すまない。気を悪くさせる気はなかった」

「チッ」

謝罪し、C.C.も我に返りながらこの男にどう対応するか思案を巡らせる。
ルルーシュの名に反応しなかったことから、考え辛いが悪逆皇帝のことを知らないのだろうか。
だが、どう見てもこの男は日本人だ。それはあり得ない。
自身の宿願を優先しているのか、それとも聞こえなかったか。

だが、現状C.C.には人手がいる。

居るかも分からないが、もしルルーシュがいるのなら人手がある方が見つけられる可能性も上がる。
しかもこの男は死者蘇生に関心がある。ルルーシュが居て、それが害されることは恐らく好ましくはないはず、C.C.とも利害は一致する以上、早々裏切りはしないだろう。

「お前が望む情報かは知らないが、いくつか教えてもいい」
「ふぅん」

ある程度、大まかにではあるがCの世界にまつわる事象、コード、ギアスについて口にする。
今、置かれている現状が異常時であるとはいえ、C.C.が考えているよりも海馬はそれらを素早く理解し、猜疑心から口を挟むことはなかった。
お陰で説明がスムーズに進んで助かったが、やはりルルーシュの名には一切反応していない。

「――C.C.とか言ったか、大体は理解した」

ギアスという異能とそれを極めたものが受け継ぐコード。それらは今はどうでもいい。
重要なのはCの世界と呼ばれるそれだ。
集合無意識の空間、神とやらが居座るとされるそれは考え方によっては天野陽菜が消えて行き付いた先と仮説を立てることも出来なくはないだろう。
そして、そこでは死者との対面も可能となる。ならば、そこに冥界へと至る鍵があるのではないか。
奇しくも集合無意識を利用した方法は、海馬が冥界を明確に認識したきっかけでもある。一概に無関係とはいえない。

「お前、ルルーシュに興味があるのだろう?」

「貴様のお守りに手を貸せとでもいうのか」

「死人の蘇生……その成功例として実物を見ておきたくはないか? ……精神はまだ戻らないが。
 それに私達は利害が一致する」

C.C.の言うように、サンプルとしてルルーシュとやらが居るのであれば接触はしておきたい。同じように最初に殺されて蘇った年増もだ。
更にこの場で雨を降らし続ける神とやらを粉砕するのに、この女の力も要らないとは限らない。
そして両者ともに共通するのは、神子柴の持つ願いを叶える力に興味があること。

馬鹿正直にゲームに乗る訳ではないが、その力が本物であるのならお互いの悲願を達成するのに大きく近づくことになる。

「……よかろう、今は手を結んでやる」

「決まりだな。これは契約、私とお前は……」

共犯者と言いかけて、止めた。

「仮の……契約だ」

「なんでもいい。ふぅん、さっさと行くぞ」

この長い時を生きてきた中で、そんな特別な言葉ではなかったのに。

「……一つ聞いていいか」
「なんだ。時間が惜しい」
「これは、私の我儘だ。あいつは……ルルーシュこんなことを知らない……お前の、大切な相手は……」

私とはC.C.であり、帆高であり、あいつとはルルーシュであり陽菜のことでもあるのだろう。
気付かないうちに帆高という少年にC.C.は自分を重ねてしまったのかもしれない。
許されないと知りながらも、我儘の為に身勝手を働くどうしようもない自分を。

「ふぅん、誰が何をほざこうが俺は俺のロードを往く」

遊戯に否定された死者蘇生。だが海馬はそれを断じて認めず、新たな道を見つけた。

「そのロードが果てなき闇ならば……闇にも染まろう!!
 死したる王にとどめを刺すのはこの俺だ!!」

ならば後はひたすらに突き進むのみ。





「ワハハハハハハハハハハハハハ!!」





全速前進DA!!



【C.C.@コードギアス 復活のルルーシュ】
[状態]:健康、心労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:ルルーシュが心配
1:ルルーシュが居るなら探す
2:ルルーシュを完全に復活させる
[備考]
復活のルルーシュでカレン達と合流する以前からの参戦です。



【海馬瀬人@遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS】
[状態]:健康、アテムに対する執着(異常)、目が血走っている
[装備]:青眼の白龍、遊戯の死者蘇生@遊戯王
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:アテムを倒す
1:アテムと再戦する方法を探す。
2:主催と雨を降らせる神とやらも潰す。
3:一応、帆高は止める。
4:居れば天野陽菜の弟(凪)は保護しておく。
5:Cの世界か……。
[備考]
遊戯とのデュエルで死者蘇生を受け取った直後からの参戦です。
Cの世界に関してある程度把握しました。


【青眼の白龍@遊戯王】
攻撃力3000の強いドラゴンのモンスター。
実体化する
今ロワではスタンドのように出し入れ可能。
しかし海馬のその時の精神力や体力で強さが変動する。
例えば瀕死の状態で召喚すれば、攻撃力は0になるかもしれない。

【遊戯の死者蘇生@遊戯王】
デュエルを通じて、遊戯から受け取ったカード。
死者は現世に居てはならないというメッセージを込めていると思われる。
カードゲームとしてはモンスターを一体復活させる効果がある。
しかし、このロワでのリアルファイトでは効果を発揮しない。
最終更新:2021年01月24日 07:48