時は大正、新発見と発明の時代!
古きものが新しきものとすれちがう、まさに夢と希望の変革の時代!
されど、時代の境目には犯罪と騒乱も特徴となるのである。
これからはじまる奇想天外奇妙奇天烈なる冒険の数々をご照覧あれ!


◇◆◇


仄かに昏い森の中にたたずむ妙齢の女性。


――――妙なことに巻き込まれた。

それが彼女――高城 秋生の抱いた最初の感想だった。

いつものようにカフェで働き、いつものようにご飯を食べ、いつものように寝る。
そんな当たり前の一日を終え、さあ新しい朝が来たと目を覚ましたら、椅子に拘束されていた。

身体の自由を奪われ絶体絶命。
どんなひどい目に遭わされるかと身構えてみれば、始まったのはあり得ないほどに美しい活動写真。
それもつい最近、仏蘭西だか亜米利加だかで一般公開されたという「発声映画(トーキー)」だ。

秋生の知る最新よりもさらに先を行く技術で作られているらしい映像が終わり、一体何のパーティーが始まるのやらと期待してみれば、告げられたのは殺し合いの始まりだ。
冒険探偵さんと行ったどんな冒険よりも奇妙な事態に巻き込まれ、どうしたらいいのかと肩を落としたのだった。

「雨……やっぱり、嫌な天気ね」

空を見上げて呟く秋生。
降りやむことはないという雨を見ていると、嫌が応にも苦い記憶が蘇る。


◇◆◇


カフェの扉が開き、見慣れた人物が入ってきた。

「あ、いらっしゃいませ!
 なに?美咲。嬉しそうね?」

入ってきたのは親友の美咲だった。
その表情はいつにもまして明るく、嬉しそうだった。

「聞いて秋生!私の力が世の中の役に立つかもしれないの!」
「美咲の力って…」
「うん。鬼の力を調べてみたいんだって。
 雨を呼ぶ力が研究の参考になるらしいの」

無邪気に喜ぶ美咲。
しかし、美咲の力は不安定なもので、日常生活の中でもしばしばあふれ出しそうになり、そのたびに彼女は抑制のための薬を服用しなければならなかった。

それを知っている秋生としては、不安を覚えずにはいられなかった。

「本当に大丈夫なの? その……抑えられなくなったりしない?」
「もしそうなっても、秋生が止めてくれるんでしょう?」
「そういうことじゃあ…!」
「うん。わかってる」

声を荒げかけた秋生を美咲が制して笑う。

「私が力を使うわけじゃなくて、研究員の人たちが調べるだけだから大丈夫よ」

そう言って、美咲は帝都を離れていった。


ひと月程経った頃、秋生は奇妙な噂を耳にした。


「おい、知ってるか? 1か月以上も雨が降り続いてる村があるらしいぞ。
 それがどうも鬼の仕業なんじゃないかって噂なんだ」

詳しく聞いても客はそれ以上のことは知らず、鬼の目撃談があるわけでもない。
噂をしていた当の本人たちは与太話だろうと笑っていたが、秋生は胸騒ぎが収まらなかった。


翌日、すっかりカフェの常連になっていた冒険探偵に調査を依頼。
真相を知るべく秋生も同行し、研究施設と思しき洋館を調べることになった。

研究施設は鬼がおり人間の死体を貪っていた。
そして秋生たちに気付くや否や襲い掛かってきた。

一度は倒したものの、再び立ち上がる鬼に秋生は語り掛ける。

「美咲。私がわかる?」

しかしやはり声は届かない。
雄たけびを上げ、再び襲い掛からんとする鬼に、秋生は独りで対峙する。

冒険探偵は退かせた。

親友を葬る様を見られたくはなかった。

「美咲。つらかったでしょう? いま、楽にしてあげるわ。
 …高城流鬼操術! いきます!」



―――そうして雨は止んだ。

帰ってきた秋生に冒険探偵が言いよどむ。
「あの怪物……いや、その……」

「あれは鬼よ」
きっぱりと言い切る。

「鬼には天候を操る力があるの。施設のやつらはその超自然的な力に目をつけたんでしょうね。
 ま、研究サンプルってとこかしら」
なるべく客観的に、なるべく中立に。なるべく感情を込めず、他人事のように。
訊かれてもいない、今回の事件の顛末を、秋生の推測を交じえて話す。

その事実に目を向けてほしくはなかったから。
目を向けてしまえば彼が負い目に感じてしまう。

けれど探偵というだけあって、彼は誤魔化されてはくれなかった。

「……美咲ちゃん、だったのか?」

「人の心をなくしてしまったらただの化け物だわ
 それにもう終わったことよ……」

冒険探偵は自責の念をありありと顔に浮かべる。

バレてしまった以上は仕方がなく、彼をよそに秋生は美咲に語り掛ける。

(あなたとの約束は守ったわよ。
 だから、ゆっくり休んでね……)


こうしてこの事件は解決した。
秋生の心に、傷を残して。


◇◆◇


そして現在。
このゲームに於いて己の為すべきことを考える。

ゲームの終了条件は三つ。
①森嶋帆高を制限時間まで天野陽菜と出会わせない。この場合、森嶋帆高は死亡する。
②森嶋穂高と天野陽菜が出会う。この場合は森嶋帆高以外の参加者全員が雨により溺死する。
③制限時間よりも前に森嶋帆高を殺害する。


しかし秋生はもう一つの終了条件があるのではないかと考える。

天候を操り雨を降らせる鬼の存在を知る彼女は、ここに降りしきる雨もまた、美咲のような鬼、もしくはかの施設で研究されていた気象兵器の力によって人為的に引き起こされた超常現象であると考えていた。

つまりそれは雨を降らせている元凶を止めて雨を降りやませることに成功してしまえば、森嶋帆高と天野陽菜が出会ったとしても森嶋帆高以外の参加者が死ぬことはないということだ。

特にこの雨の原因が鬼であるならばその抑止は高城流鬼操術を使う秋生にしか成し得ないことだ。

森嶋帆高には、それが成されるまでは天野陽菜を迎えに行くのを我慢してもらおう。
あの活動写真を見る限り無鉄砲なところはあるようだが、好き好んで不要な犠牲を求めるタイプの人間ではないだろう。


やるべきことは決まった。あとは動くだけだ。

冒険、戦闘に於いて愛用している鉄の爪は没収されたようだが、高城流鬼操術で手を鬼乃手に変化させることは問題なくできた。
万一襲われても十分に戦える。


美咲の時のような、誰かが傷を負う終わりにはもうしない。

強く決意し、歩き出す。


【高城秋生@パワプロクンポケット7 大正冒険奇譚編】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:雨を降らせている元凶を特定、抑止し雨を降りやませることでゲームを破たんさせる。
1:雨を降らせている元凶を発見、抑止する。
2:1を達成するまで天野陽菜に会わないよう森嶋帆高を説得する。
[備考]
高城秋生の参戦時期は『やまない雨』をクリアして生還以降、帝都最後の日(関東大震災)よりも前です。
最終更新:2021年01月24日 07:54