「無い…無い……どうしてっ!?」

土砂降りの天気の下。
栗花落カナヲは全身が濡れるのも意に介さず、必死に支給品袋を漁っていた。

袋をひっくり返してみても、奥まで手を突っ込んでも、
自身の懐を探ってみても、目当ての物は見つからなかった。

「なんで……薬がないと……」

姉が残してくれた、鬼を人間に戻す薬。
炭治郎を救える唯一の手段だった。
確かに持っていたはずなのに、今は影も形も見当たらない。
考えられる理由は一つ、あの神子柴なる老婆に取り上げられた。

「そ、んな……」

薬が無い以上、炭治郎を人間に戻す手段は存在しない。
もう一度同じ物を作ろうにも、珠世と胡蝶しのぶは両名共に死んでいる。
あの2人がいないなら、薬は二度と手に入らない。

最早どうやっても炭治郎を救う事は不可能になってしまった。

「あ……」

それ以前に。
カナヲが戦場から連れ去られ、見たくも無い映画を見せられて会場に飛ばされるまでに、大分時間が経ってしまっている。
死に物狂いで体を動かそうとし、何度も何度も「私を炭治郎の所へ戻して」と懇願した。
しかし無情にも指一本動かす事はできず、声も出なかった。

その間、戦場にいた者たちはどうなった?

「いや……」

鬼と化した炭治郎は日輪刀でも太陽の光でも殺せない肉体になった。
対して、生き残った鬼殺隊の面々は大半が満身創痍。
鬼ではなくなった禰豆子に戦える力は無い。
そんな中で、唯一炭治郎を人間に戻せる薬を持った自分が消えたらどうなるか。

嫌でも分かる。
炭治郎はきっと皆を殺してしまった。

「あ…あああぁぁぁぁ…………」

仮にもし、炭治郎を人間に戻す方法が見つかって、元のいた場所に帰れたとして。
それで炭治郎が救えるだろうか。

否である。
人間に戻すという事はつまり、鬼になっていた間の記憶をハッキリ思い出させるということ。
兄弟子を、同期の仲間を、唯一残された家族を、大勢の人々を殺した罪を自覚させる。
そんな事をしたら、炭治郎の心は本当に壊れてしまう。

「うああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

自分に出来る事は何もない。
全てが手遅れなのだと、理解してしまった。

カナヲはただ、残酷な現実に泣き叫ぶ事しかできなかった。


…………


泣いて、泣いて、泣き叫んで。
手の皮が擦りむけるくらいに、地面を叩いて。
そのうち声を出す気力も無くなって。
髪も服も雨でぐしょぐしょになって。
指一本も動かさず、その場で蹲って。

どれくらいそうしていただろうか。

やがて、雨で濡れた顔をゆっくりと上げる。


「…………さない」

「………ゆるさない」

「絶対に、許さない」


あの老婆が。
神子柴が自分をここに連れて来たせいで、炭治郎は人間に戻れなかった。
神子柴のせいで皆は死んでしまった。

神子柴だけではない。
森嶋帆高と天野陽菜。
そもそもあの二人が出会っていなければ、互いに関りを持とうとしなければ。
こんな馬鹿げた殺し合いなんかに、自分が参加させられる事も無かったかもしれないではないか。

無論それは八つ当たりでしかないと分かっている。
しかし、それでも帆高たちへの悪感情は抑えられない。

「お前は絶対に殺してやる……神子柴……!!」

血走った左目で虚空を睨み、ありったけの恨みを吐き出すその顔は、
まるで鬼のようだった。



【栗花落カナヲ@鬼滅の刃】
[状態]:全身ずぶ濡れ、神子柴への激しい憎悪、帆高と陽菜への不快感と怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:神子柴を殺す
0:?????
[備考]
※参戦時期は鬼化した炭治郎に薬を打つ直前。
最終更新:2021年01月25日 22:42