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冬馬先輩の筋トレ講座も一息ついて、私はテーブルで少しずつ水を飲んでいた。
時計の秒針が聞こえそうなほど静かに時間が過ぎる。

(そうだ。冬馬先輩に聞こうとしていたことがあったんだ)

「冬馬先輩」

テーブルの対面に座っていた先輩に声を掛ける。

「どうしました?」
「あの……聞きにくいんだけど……修二くんって本当にクローンなの?」

昼休みには聞けなかったけど、ずっと気になっていた。
でもクローンという言葉自体は以前聞いた事がある。

数日前、隆の中に眠るもう一つの人格と少しだけ話した。
その子は隆が事故で大怪我したときに隆の一部になったと言っていた。
そして僕は隆のクローンだったと話してくれた。

「そうです。彼はクローンです」
「でも……どうやって……」
「この町には一つしか産婦人科の病院がありません。それをご存知ですか?」
「そうなの?」

まだお世話になった事のないからピンと来ない。

「それなりに大きな町です。人口に対して産婦人科が一つしか無いのは異常です。
しかしそれには理由があります。何者かが圧力をかけていたからです」
「それって……まさか高村……」
「そうです。高村総合病院しかこの町に産婦人科は存在しません」
「でも……どうしてこの町なの?」
「前身の巫女がこの土地に次世代が生まれると予言したようです。
高村は元々は中国地方にいたようですが、何世代か前に関東地方に移り住んだようです」
「だからこの町なんだね」
「神器は巫女の元に集います。能力者も格段に多い。ですから、都合がよかったのでしょう」

(この町の産婦人科か……)

あまり詳しくはないけれど、産婦人科といえばお義母さんが定期健診に行っていると言っていた。
主に婦人系の病気を診たり、妊婦が赤ちゃんを出産したり……。

「あっ」
「どうたのですか?」
「まさか……新生児をってこと?」
「その通りです」
「だけど……毎日何人もの赤ちゃんが生まれているんだよね」

沢山の生まれてきた子供をみんなクローンにしているのだろうか。
そんな、人で溢れてしまいそうだ。

「本来、能力というのは自我と共に発現していきます。
ですが極まれに、生まれた瞬間……いえ、生まれる前から能力を持つ者がいます。
また優秀な者ほどその傾向があります」
「まさか赤ちゃんを……」
「宗像兄弟まではいきませんが感知にすぐれた者が常駐し選別していたようです。
その新生児の細胞の一部からクローンを作り、ナンバリングして成長させていました」

私が生まれた頃、行われなくなったと美波さんが言っていた。

「どうしてそんな事していたの? 何か目的があるからだよね」
「目的は大きく二つです。一つは巫女の生まれ変わりを探し出すため、もう一つは手駒を増やすためです」

(手駒?)

「手駒って一体どういう意味?」
「そのままの意味です。高村が各方面に発言権があったのは従順な能力者を育て、世に送り出していたから。
思い通りに事を運ぶための手段でした」

(でも修二くんがクローンなら……)

「修二くんがクローンなら、どうして冬馬先輩を剣だと見抜けなかったの?
だって私が見た夢では一郎くんと亡くなった修二くんが見つけていたよ」
「あなたがよく知る宗像修二。彼のようなクローンはオリジナルの劣化コピーだからです」
「劣化なんて……」
「また鏡は対である事が求められます。片側だけでは本来の力は出せません」
「じゃあ……修二君のように……私のクローンも居るのかな」
「居ません。高村は巫女を神聖化していましたから、弄ぶような真似はできなかったのでしょう」

(私のクローンは居ないんだ。でも恐いし、嫌だな……)

「それも過去の話です。今は当時とは状況が全く違います」
「過去? ……今は違うって事?」
「はい。僕の引き起こした事件や周防が中心に行われた反乱などで研究者も能力者もバラバラになりました。
内輪揉めなどもあり、高村の権力は大幅に失われています」

(復権のためには早く私の力が必要……って訳か)

「でも……どうして私が巫女の生まれ変わりだと知っていながら、普通に生活させていたんだろう。
早く自分の手元に置いて思い通りにした方が都合がいいと思うけど」
「幼児の能力者は使い物になりません。ですから、よく就学時検診が利用されていました」

(就学時検診?)

「その検診って何?」
「小学校へ上がる前。全国すべての年長児が身体検査を行います。この町の検診は高村の病院が行っています」
「その時に私も……」
「おそらくその予定だったと思います。しかし、検診の少し前に愛菜の能力が突然消えました」

私には能力を使っていた記憶が無い。
これはお母さんのおかげだった。
能力自体の消失、これは勾玉の仕業だと以前聞いた。

「原因が分からない以上、泳がせておく他なかった。おそらく勾玉はそれを見越していたのでしょう」
「なら、勾玉さんのおかげって事?」
「自分の能力すら完全に消し、普通の人になりすましていて特定も不可能。かなりの切れ者だと言わざるを得ません」

(そっか)

私がこうやって普通に暮らせていたのは、まだ知らない勾玉の人のおかげらしい。
もし会うことが出来たら真っ先にお礼が言いたい。

そう思っていると、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。


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最終更新:2020年06月17日 15:18