8000字以上あるのでまったり推奨。

前提

TWCのビンゴマッチでthpracを使うことについて、TWC2022のでぃすこーど鯖で少しばかり議論が起こった。
それを受けて、7月11日に箇条書きでこのページを作り、そのまま放置していた。何回かに分けて書いたが、最終的にまとめたのは2022年10月中旬。

結論

TWCは「プレイヤーのための大会」であって欲しい。
TWCには「プレイヤーは、練習のために改造ツールを使い己を高め、スポーツマンシップに則り競技を行っている」ということを発信する責任があると思う。
「不正ができること」と「不正をすること」は違うということを広めたい。

改造あれこれ

改造に対する考え方」という記事を6年ぐらい前(2016年6月)に書いた。この記事とかなり重複するところがあるが、それらも含めて今の言葉で書き直そうと思う。

Vパッチ

これは「東方の描画を改善し入力遅延を減らす改造ツール」である。なお、このツールでは作者の意図から、ゲームスピードを(上げることはできても)落としてプレイすることができない仕様となっている。
そういう点もあってか、かなり昔(それこそ2010年ぐらい)でも、さほど叩かれるようなことはなかったと思う。当時のPCスペック環境で、配信で東方を安定させる、という点からかなり歓迎されていた。一方、スコアボードではこれを禁止しており、それに関しては厳しかったが。
そして今、スコアボードもなくなり、紅魔郷に至ってはVパッチなしでの正常な起動が困難な時代となっている。上の記事で書いた6年前もそうだったが、私としては「Vパッチはスタートライン」という扱いで、足並みを揃えていくのがいいのではないか、と思っている。

SpoilerAL

私はこのツールをまともに使用したことがないので、よく分かっていないところもあるが、メモリ操作の汎用ツールである。要は、東方に限らず使用できる改造ツール。SSGファイルというものを本体のプログラムと分離することで、法的な黒度を下げる意図が見える。「汎用的なツール」と「別のユーザーが作成した謎のファイル」だから。
記憶が定かではないが、当時(2010年ぐらい)だと、知ってる人だけがこっそり使っていたように思う。その辺のコミュニティ風潮については下で書く予定。

専用のプラクティスツール

今ではthpracが主流だと思う。これに関しては、特定のプログラムを標的にしているという点で、法的な黒度が上がる。ただ、下にも詳しく書くつもりだが、このような動作をするプログラムというのは(表には見えないが)とても多く動いており、動作自体は問題ないと私は考えている。

adonis

adonisというのは花映塚のネット対戦を行うツールで、花映塚ネット対戦民は恐らく100%使用している。ほかのネット対戦手段(例えば花映塚本体に内蔵されているネットワーク機能)よりも快適に対戦ができるというのが大きな理由。
これもまたth09.exeを標的とした改造ツールである。使用すると分かるが、タイトル画面を自動入力ですっ飛ばして、対人戦の難易度選択へとたどり着く、いかにもな挙動をする。

WriteProcessMemory

ここで急に東方から話が離れる。上記様々な改造ツールは存在するが、それらは十中八九「WriteProcessMemory」というWindowsAPIを使用している。このAPIでできることは、「実行中の他のプログラムのメモリの書き換え」である。これはプログラムの改造にほかならない。(実際にはほかのAPIも組み合わせて上手く使う)
そして、WindowsAPIというのは、プログラミングをする人のために「Windowsが用意した」道具である。言い換えよう。Windowsは他のプログラムの改造の道具をわざわざ用意してくれている。
実際のところ、このような他のプログラムのメモリの書き換えは(少なくとも現代の)コンピューターでは、大っぴらに広く使われている。

自分のメモリ上の情報は誰のもの?論

改造ツールが書き換えているのは「他のプログラムが使用しているメモリ」であって、プログラムのファイルではない。(ノイマン型の)コンピューターは、プログラム実行時必ず、プログラムのファイルを読み込んだあと、メモリ上に展開して実行している。
で、このメモリ上のデータは誰のもの?という議論がある。私のコンピューターの、私のメモリの、私のデータ、というものだ。ここら辺が、プログラムの改造ツールが法的に黒ではない、の主張によく含まれると思う。

作者による解析への言及

ソースを探すのが面倒だが、どこかの配信で、通称ビールコード(キャラやエキストラが解放される裏技)について、神主自体が触れていたかと思う。簡潔にまとめると「もっと前に解析されてるものだと思った」というような反応であった。ここで解析について禁止しようだとか、そういった動きがないのは事実。
一方で、実は最近のコンシューマーゲームでは、利用規約に解析や改造を禁止する旨が書いてある。これへ触れると間違いなく黒になる。
まとめると、解析や改造について、作者が禁止するかどうかが重要、ということだ。現在(2022年8月)のところ、東方に関してはそれに関する言及はない。これは私の想像だが、神主自身も古くからのプログラマーであり、そういった技術に関してはかなり知見が広いため、言及したくない、のだと思う。我々ユーザー側からわざわざ藪を棒でつつく必要もない。

リソース差し替え

BGMの差し替え、グラフィックの差し替え、そして翻訳を「リソース差し替え」として扱う。これらに関しては、大体のケースでゲームファイルを書き換え/差し替えているため、実を言うと法的な黒度は上記メモリ書き換えより高くなる。
BGMの差し替えについては、ゲームプレイへの影響はないと言える。ゲーム本体のBGMを切って別に流すのと大差ないため、わざわざリソースを書き換える必要があるのかは疑問だが。
一方、グラフィックの差し替えに関しては、ゲームを有利に進められる可能性がある。この可能性があるというだけで、使用すべきではない。
そして翻訳についてもだが、こちらもスペルカード名の表示が変わることで弾幕の視認性が変わる。特に画面上部を使用する、スコアアタックの一部の動きにおいて確実に有利となる。この点から、翻訳も使用すべきではない。ただ、他国へと東方を布教したいという思いや、自国の言語で遊びたいという気持ちも汲み取りたい。そのため、競技性のあるシーンでは使用すべきではない、という辺りに、私の意見は留めておく。

フォント

ところで、フォントについてはどうだろう。一部海外プレイヤーのフォントが異なることが気になり、私は一度問題提起したことがある。その際に、詳しい海外プレイヤーから教えてもらったのだが、東方は特定のシステムフォントを探し、そこからフォントスプライトを生成しているとのことだった。これが示すことは、日本語の特定フォントがインストールされてない環境では表示が異なってしまう、ということである。個人的には、表示が異なるという状況を避けたいのだが、お国事情含め環境によって不可能な場合もあり、悩ましい。

読み取るだけのもの

さて、ここでメモリの話に戻す。上では改造する、つまり書き込むことに焦点を当てたが、読み取りについてはどうだろう。書き込みと同様に、この行為自体は現代のコンピューターでは広く行われている。
実行中のゲームプログラムのメモリの読み取りを行うことで、場面場面の数値を自動で記録したり、本来見えない数値を見たりすることができる。例えば、メモリ読み取りを上手く使用すれば、スピードランにおいて自動でラップを切ってくれるタイマーを作ることができる。この用途だと、人力でもできることを補助しているだけで、ゲームプレイには直接影響を与えないと思う。ただ、後者の「本来見えない数値を見る」行為は言うまでもなく不正である。このように、用途による白黒の差があるため、メモリ読み取りに関しても一概に白黒は判断できない。
ちなみに、RTAで利用されているラップを取るツールには、画像認識を用いているものもあり、そちらは他プログラムのメモリの読み取りを必要としない。一応追記しておく。

不正ができることと不正をしないこと

「不正ができること」と「不正をすること」の混同を、私はとてもとても恐れている。
東方における不正は誰にでもできる。これは事実だと思う。メモリ書き換えにしろ、メモリ読み取りにしろ、リソース差し替えにしろ、特別な技術ではないのだから。自分自身がそれに疎くても、協力者の存在だったり、ネットに落ちてるもののダウンロードでおおよそ可能になると思う。
かといって東方プレイヤー全員が不正をしているか?答えは否だ。
そしてこの話は、6年ぐらい前(2016年2月)に書いた「チート行為について」という記事へと繋がる。これに関しては、今も変わっておらず、諦観のような、そして宗教じみた考え方を持っている。

コミュニティ文化的なこと

概要
  • 改造を使用するだけで倫理観を疑われるコミュニティ文化があった。全てがそうではなかったが、それなりにポピュラーな認識だったと思う。
  • 改造とチートの混同。練習環境そのものへの「ズルい」という感覚。
  • 一部のトップスコアラーは昔からSpoilerALを使っていたが、あまり大っぴらにはしなかった。
  • 海外コミュニティのMOD文化。
  • そして現在の海外と日本の混じったプレイヤーコミュニティ。

まず、2010年辺りの話であるが、「不正に使えない」改造コードの類であっても、それを使用するだけで倫理観を疑われるコミュニティ文化があった。もちろん全てがそうではなかったが、それなりにポピュラーな認識だった。そういった認識がポピュラーだったため、疑わしきものへ非難が集まる、という雰囲気もあったと思う。
で、この背景にあったのが「改造とズルの混同」だ。上に「不正ができることと不正をしないこと」という項目を書いたが、この「不正ができる」という認識がかなり甘く、(不正ができない)ツールの使用がすなわち不正である、といった空気が確かにあった。今思えば馬鹿馬鹿しい。だって「誰にだって」「当時でも」不正はできたのだから。
そしてそれをさらに補強したのが、「改造コードを使用して練習環境を整えることそのものがズルである」という風潮だ。これに関しては文字通り、というしかない。色んな考え方はあると思う。公平とは何か、みたいな議論に発展させることもできる。でも、今現在の「プレイを最高に洗練させたい」という、コミュニティ文化とは異とする。なんにせよ、そういう風潮はあった。
その中で、SpoilerALで「有利な」練習環境を使っていた人はいた。少なくとも妖々夢のトッププレイヤーはそうだったと思う。でも、上のような風潮があったため、あまりおおぴらにはしなかった。波風は立てない方がいい。狭いコミュニティで有意義に使っていけばいい、そういう方向性になっていたと思う。
ここまでが、2010年辺りのニッポン東方界隈に対する、私のおぼろげな記憶である。
そして話を現代(2022年)に戻していこう。
私はマインクラフトのベータ時代からMODに親しんできた。EE2とIC2(そしてそれはGregへと発展する)とBCとRP辺りが組み合わさった、根幹から改造された世界で高みを目指す世界だ。だから知っている。他の文化圏ではMOD文化が古くから浸透し、今もそれは続いているということを。きっとそういった文化の陸続きだろう、thpracの台頭は。技術的なベースは違えど、やっていることはさして変わらない。そして東方の競技的な側面、もちろん極めて限られた人口ではあるが、そこと噛み合った。誰もが?いや、東方を競技的に遊ぶ我々が、その「練習用」ツールを待ち望んでいたのだ。
元々部分的には交わりがあったのだが、TWCによってプレイヤーコミュニティの国境壁が遥かに下がった。同じ大会を運営する者として、こういった改造ツールに対して、ひとつの答えを出さなければならない。そして、下の議論が起こった。

TWC運営鯖で議論があったことについて

記憶が少し曖昧なので、私からの主観としてまとめる。
まず、本戦の日程が全て終了し、ボーナスマッチとしてビンゴマッチをすることになった。ビンゴマッチが行われることは、TWCの参加者(競技者・解説者)の殆どは知らず、メイン運営からのサプライズという形になった。
そして、このサプライズを受けた参加者の間で、ビンゴマッチは「改造ツールを前提としたお題になるのでは」という話が出た。そもそもTWCのルール規定には、(練習用の)改造ツールの使用には肯定的な内容が書いてある。本戦の途中で改造ツールを使い練習をしているプレイヤーが居たことを、覚えている人もいるだろう。
ただ、ここで次の意見が出た。「TWCを今後より大きな大会にして、準公式大会のようにしていくのであれば、運営が改造ツールを推奨するような真似はやめた方がいいのではないか。」
まず、大会をより広く認知してもらって裾野を広げていくと、自ずと作者の目にも留まる。そこで非公式の改造ツールを使うのはよろしくない、ということだ。
もう一つ、この意見の背景には、上に書いた、「不正ではなくても改造ツールを使用するだけで倫理観を疑われる時代があった」の辺りもある。これはかなり強い風潮だった。破ろうものなら炎上して村八分になる、それぐらいの恐怖感である。実のところ、今でも、改造ツールそのものに疑問を抱いている人はそれなりに居る。なので、そこをむやみに刺激したくないという考えだ。
この辺りの感覚の共有が上手くいかず、少しばかり議論のすれ違いが起きた。それらの過程は省略するが、結論としては、プラクティスツールを使用してビンゴマッチを行うこととなった。
なお、この意見を出したのは私ではない。ただ、議論の場に居て、なんとも違和感が多かったものだから、それらの考えを整理するため、この文書を作るに至った。

この議論から私が色々考えたこと

さて、この議論の中で出てきたり、それに関連したりする内容で、個人的に重要だと思うものについて触れていこうと思う。

TWCは「誰のための大会」であるか

個人的には、「プレイヤーのためのもの」だと思っている。より正確に言うなれば「東方STGのスキルを磨きたいプレイヤーのためのもの」ぐらいか。
実際、TWCが開催されるだけで、参加者のみならず、東方STG界隈全体が活発になるのを感じた。プレイ頻度が増え、意見交換が活発になり、新たな交流が生まれ、そして世界記録がどんどん更新される。この状態を見て、誰が一番得してるだろうかと考えると、やはりそれはプレイヤー自身なのである。そして私は今のこの状態がとても良いと思っている。だから、TWCには「プレイヤーのための大会」であり続けて欲しい。

大会としてのスタンス・視聴者のターゲット

TWCの視聴者がより増えていく未来を見据えると、改造ツールに対する姿勢はブレない方がいい。改造ツールは無きものとしてふるまうのか、改造ツールを不正ではなく練習に使っていることを世に広める、のどちらかだ。
まず、「改造ツールは無きものとしてふるまう」という方向性だ。ここで裏方の話をするのだが、TWCの日本語配信の実況解説陣の配信前チェックリストには、「数年後に大会がもっと大きくなってから動画が視聴される可能性もあるので、一般視聴者に配慮した発言をお願いします。」という内容があった。さらに、ツール類に対しても、言及を避けるよう、具体的に釘を刺されていた。これに関しては特に反対意見もなかったし、「余計な波風を立てない」という方向性は(TWC日本クラスタで)共有できていたと思う。(なお私は花映塚解説のときadonisについて発言してリアルタイムで指摘をもらったのだが(ご迷惑をおかけしました))
一方、TWCには、「これが現在のプレイヤーコミュニティのスタンダードである」ことを広い視聴者層へ発信していくという方向性もある。プレイヤーは、不正ではなく、練習のために改造ツールを使い、己を高め、スポーツマンシップに則り競技を行っている。ということを発信するのだ。もちろんこれは、様々な誤解を招きかねないもので、正しく説明する責任は重い。ただ、より広い視聴者に見て貰う大会とするには、避けて通れない道だと思う。
私としては、後者のスタンスを取り、より広い視聴者からの理解を得ながら、「プレイヤーのための大会」であり続けて欲しい、というわがままな気持ちがある。

私の立場

書きたいことをおおよそ書き切ったところで、私の立場について整理しておく。ついでに自分語りもする。

花映塚ネット対戦でadonisを愛用している

私は、mixiで知り合った友人から教えてもらい、2009年の初夏シーズンから、東方花映塚ネット対戦のための改造ツールであるadonisを使用している。逆に私は、「前時代」である花映塚本家に実装されているネット対戦機能を使用したことがない。
それほどまでに、花映塚対戦では改造ツールを使用するのが王道になっている。既に当時なっていた。より遅延が少なく、安定した対戦が行えるということは、ネット対戦において極めて重要だからだ。
これは余談だが、th7.5の格闘アクションゲームである萃夢想にはネット対戦機能がない。しかし、adonis同様の動作をするネット対戦ツールが作られている。というよりも、この萃夢想のツールを参考にし、同様の技術を用いadonisが作られた、という方が正しい。

スコアボードに上げるもの(妖々夢Ph)は使わなかった

妖々夢は特に、本家ゲーム自体が持つ遅延が大きく、Vパッチの恩恵を受けやすい。しかしながら、スコアボードが禁止している以上、妖PhのスコアアタックだけはVパッチを使わずプレイしていた。
一方、ネタ避けで遊んでいた永夜抄ではVパッチを使用していた。
宣伝→【東方永夜抄】深弾幕結界左右封印 - ニコニコ動画

誰も調べてくれないから大戦争を解析した

少なくとも大戦争ノーマルのスコア全一を持っていた身として、自らの手で解析をすることにかなりの抵抗があった。上で書いたように、それと不正とはまったく別ベクトルなのだが、混同されることをとても恐れていた。ただ、待っていたところで大戦争なんていうニッチな作品を解析して詳しく調べてくれる人なんて一向に現れない。だから自らその領域へ踏み込むことにした。
もっとも、解析に対する憧れと強い好奇心があったことは間違いない。解析の世界を某wikiを通じて教えてくれたことに対し、L氏に感謝している。

誰も作ってくれないから自分専用の大戦争プラツールを作った

大戦争にはステージプラクティスすらなく、区間での練習が困難だという欠点があった。そのため、プラクティスツールの需要は高かったのだが、なんせ大戦争のためにそこまでする人は現れなかったのである。だから(稚拙な実装ではあるが)自分で作った。なお、公開はしてないので、直接渡した数名以外は私のツールの存在すら知らないと思う。
今ではより精巧なプラクティスツールが作られて公開されているため、そちらを使うのが良い。私はまだ使ったことがないが。

神霊廟のステージプラクティスの初期値を変更するミニツールを作った

当時神霊廟クラスタとの繋がりがあったため、簡易な実装で作れるプラ初期値変更ツールを作って提供した。2面以降の神霊ゲージや欠片数を設定できる。また、ステージプラクティスの初期値はリプレイファイルへ書き込まれるため、無改造の神霊廟でもリプレイ再生できるというメリットがあった。
なお、こちらに関しても今はより精巧なプラクティスツールが作られて公開されている。

私の技術は未だ稚拙だが、それでも不正をするには十分なほどであること。

「不正ができること」と「不正をすること」の混同を恐れずに言うと、今の私は不正が可能である。例えば敵のライフを数字で表示することもできるし、ボスが画面端で必ず内側に移動するかどうかの判定もできる。が、そんなことをして得た栄光に何の喜びもないからしない。
一方、そういう不正がしやすい立場にいる、という責任のようなものも強く感じる。だからこそ、このような機会で、より正しい考え方を伝えていきたいと思っている。

以上








最終更新:2022年10月17日 01:18