「そうか...かりんも知り合いが巻き込まれてるんだな」
「そうなの。アリナ先輩も連れてこられてるみたいなの。炭治郎もなの?」
「うん。神子柴に爆弾を投げて斬りかかった人がいただろう?あの人も俺の知り合いなんだ」
「あのきらきら筋肉男?」
(きらきら筋肉...宇髄さんのことか)


月光に照らされる路上に、少年少女の影が浮かんでいる。
竈門炭治郎と御園かりん。
この殺し合いで、互いに初めて会った者同士、行動を共にしていた。

かりんはこの殺し合いに恐怖を覚えていた。がたがたと、無意味に建物の隅で震え続けていたほどに。
彼女は魔法少女としてそれなりの修羅場は経験してきたが、それはあくまでも魔女という人外相手にだけ。
対人関係に関しての命のやり取りは皆無に等しい。
それも、魔法少女としてあまり強い部類ではない彼女だ。恐怖するのも無理はないといえよう。

そんな中、炭治郎と出会えたのは幸運だった。
彼がゲームに乗っておらず、彼女を気遣い優しく宥めてくれたお陰で、気持ちもどうにか落ち着かせることができた。
そしてようやく彼女は名簿に目を通し、知人もまた巻き込まれているのを知った。

七海やちよ。
かりんと同じく神浜市の魔法少女であり、7年の経験を有する超ベテランだ。
彼女とはグリーフシードの扱いにおいてひと悶着あり、険悪ではないものの苦手な人物だが、少なくとも言われたことは正しかったし、悪い人間ではないため合流しておくべきだ。

そして、アリナ・グレイ。
彼女もまた魔法少女であり、かりんの中学校の先輩でもある。
彼女は芸術思考の高い人間であり、良く言えば唯我独尊、悪く言えば自己中心的。傍から見れば、作品こそ素晴らしいものの、人格面に問題ありの狂人と烙印を押されることだろう。
けれどかりんは知っている。彼女が落書きと吐き捨てる絵を持ち込まれても、厳しい意見と共に納得も出来る評論を下してくれることを。
何度持ち込まれても、ただ見もせずに突っぱねることだけはあまりしなかったこと。
そして、なにより『怪盗少女マジカルきりん』を読み命の尊さを知ってくれていることを。

そう。誰に何を言われようとも、かりんにとってのアリナ・グレイは揺るがない。
例え世界がアリナを侮蔑の目で見ても、かりんはアリナを信じ続けるだろう。

絶対にアリナを死なせない―――かりんはこの殺し合いにおいてようやく前を向けるようになった。


一方の炭治郎もまた、かりんと出会えて幸運だと感じていた。
彼は全てに怒っていた。普段の彼らしくもなく、一目で怒っているとわかるほどに怒りの形相を浮かべていた。
こんな催しを開いた神子柴に。この会場に漂う血と怨念の匂いに。あの時、なにもできなかった自分に。
あのセレモニーで、どこかで見たことのある気がする鬼殺隊の青年が死んだ。
彼は無残にも首輪で爆死させられたが、しかし蘇生された後も勇敢に斬りかかってみせた。
その刃こそ届かなかったものの、死してなおこの殺し合いを止めたいという想いがあったのだろう。

宇髄と丸メガネの男もそうだ。
鬼殺隊の青年より遅れての到着ではあったが、彼らも己の命すら厭わず殺し合いを止めようとしていた。
それなのに自分はなんだ。
状況の把握で行動が遅れ、神子柴が隙を見せてようやく動くことができた。
判断が遅い。もしも自分も真っ先に檀上に上がれていたら、宇髄達よりも先に攻撃出来ていたら、彼らが神子柴を討ち、こんな催しも始まらずに済んだかもしれない。

ここに至るまでの全てが許せず、思考も冷静で無くなっていた。
そんな折に鼻孔をついたのが、建物の隅から漂ってきたかりんの恐怖の匂いだった。
炭治郎は鼻が利く。匂いを嗅げれば、その人がどういう感情なのかがある程度わかる。
その恐怖の匂いを嗅いだ時、一般市民までも巻き込んだのかと炭治郎の怒りは更に高まったが、一方でなんとしても守らねばとも思った。
それから一拍置き、『でもこんなに怒った人がいたらもっと怖がらせるんじゃないか』と彼の中の理性が働き、まずは自分が落ち着くように呼吸を整え、頭を冷やしてから彼女に接触することができた。

その甲斐もあり、こうしてかりんと和やかに接する時間が作れたのだった。

(かりんのお陰で名簿を確認できる余裕ができてよかった。ここにいるのは宇髄さんだけじゃない。善逸に伊之助、玄弥に時透君もいる。それに...鬼も)

この会場には鬼殺隊の面々が自分以外にも呼ばれている。
善逸はきっと寂しがっているだろうな、伊之助は無暗に強さを見せびらかしていないといいけれどと心配はするものの、誰も殺し合いには賛同していないのは確信していた。
一刻も早く合流し、共に剣を並べたいと思う。

そして、鬼舞辻無惨率いる『鬼』。

彼らの討伐は鬼殺隊の悲願であり存在理由だ。
例え己の五体が砕けようとも鬼を斬り悲しみの連鎖を断ち切る。それが、数多の隊士の共通の想いだ。
恐らく鬼たちはこの殺し合いでも人を殺すだろう。必ず倒さねばならない。

ある程度の方針が定まった二人は、荷物を纏め立ち上がり、歩き出す。
不安にならないように声を掛け合いつつ、しかし目立たぬように声を潜めつつ。

そんな折だった。

「―――っ!」

炭治郎の鼻をつく、強烈な異臭。
近づいてくる。
何者だ。
いや、覚えがある。
今まで嗅いできた、血と臓物の臭い。

これは

(―――鬼)

「貴様らもこの宴の贄か」

現れたのは、炭治郎の知る鬼、鬼舞辻無惨はおろか、妓夫太郎でも猗窩座でもなく。
しかし、彼らと遜色ない気配を放つ巨漢だった。

炭治郎は咄嗟に刀を構え、かりんを己の背に隠す。

「小僧。貴様は中々の手練れのようだな。そこの小娘とは面構えが違う」

男は炭治郎を見下ろし、愉悦に顔を歪める。

「ひとつ手合わせを願おうか。我が名はゾッド。不死者(ノスフェラトゥ)の通り名で呼ばれている」

男と視線が交差した瞬間、炭治郎は理解した。この男に、言葉は通用しないと。

「俺は鬼殺隊の一人、竈門炭治郎。...かりん。離れるんだ。俺がこいつを食い止めているうちに」

炭治郎は匂いで感じ取っていた。
この男は強い。少なくとも自分の知る柱の面々に匹敵し得るほどに。
戦えば、間違いなく自分はただでは済まないだろう。なんとしてもかりんだけでも逃がさねばならない。

「見くびるな小僧」

だがしかし、返答は今までの大人しめなものではなく。
今までとはうってちがい、強い語気だった。

「我はハロウィンが生んだ魔法少女、マジカルかりん。弱者の為に戦うのは我の役目!下がるのは貴様なのだ小僧!」
「駄目だかりん!その男は―――」

ずい、と前へと進み出たかりんに炭治郎は呼び止めようとするも憚られる。
変わっていた。かりんの姿は、いつの間にか摩訶不思議な衣装に包まれていたのだ。

(えっ?)

困惑する炭治郎を他所にゾッドはかりんへと目を向ける。

「その衣装...貴様、魔女か」
「魔女ではない。魔法少女だ!怪盗だがな」
「前線に出てくるのなら女子供といえど容赦はせんぞ」
「貴様こそ我が魔鎌、ジャックデスサイズの錆にしてやろう。それが嫌ならお菓子を渡して立ち去るがいい」
「よくぞ吼えた。ならばこれ以上の言葉は無粋!いざ、尋常に!」

ゾッドが駆け出し、炭治郎とかりんは覚悟を決める。

(恐いの...でも、私だって魔法少女なの。炭治郎を見捨てることなんてできないの!)
(かりんは強がっているだけだ!けど彼女を逃がしている暇はない!俺がどうにか彼女を助けつつ、ゾッドを倒す!)


ゾッドの刀と炭治郎の刀が交差し、戦いは始まった。


響き渡る金属音。
それは一度で終わらず、ゾッドが剣を振るう度に鳴り響き、早さを増していく剣劇はまるで小さな竜巻かの如く余波を広げていく。

「わわわっ」

その余波に押され、後退をよぎなくされるかりん。
一方の炭治郎は、ただひたすらにゾッドの剣風を捌きどうにか耐えていた。


やがて始まる鍔迫り合い。
技術のみならず、純粋な力も大きく左右するこの状況に、ゾッドはホゥ、と小さく感嘆の声を漏らし、炭治郎は汗を流しながら歯を食いしばる。

「やはり貴様は筋がいい。我が剣をよくぞここまで受けられたものだ」
(くあああああ!重い!手が震えて仕方ない!俺は守りに専念してやっとなのに相手はまだ余裕だ!それにこの男の刀は...!)

炭治郎の目に映る刀身は燃え滾るように赤く、『悪鬼滅殺』の四文字が刻まれていた。
間違いない。ゾッドの持つ刀は鬼殺隊の炎柱、煉獄杏寿郎の日輪刀だ。

とはいえ、炭治郎の刀とてただの刀ではない。

純粋な日本刀―――しかし、ただの日本刀ではあらず。
人の身でありながら、数体の悪魔族(デーモン)と戦い、その身と引き換えに討ち果たし、見事守るべき者を守った教職員、大柴ソウスケの刀である。

持ち主の五体砕けようとも原型を留め続けたその刀、間違いなく日輪刀に勝るとも劣らない業物であろう。

刀の差はない。あるのは使い手だ。

剣術とは腕力がすべてではない。しかし、片手でも余裕があるのと両手で受けるのがやっとでは、確実に前者が有利である。
それも、炭治郎のように達人の手解きを受けてはいなくとも、数多の戦場で培ってきた技術があるのなら猶更だ。


(考えろ!考えろ!俺がこの男に勝つには―――!)
「むぅん!」

ゾッドの筋肉に筋が走り、さらに力は籠められる。

(まずい、押される!このままじゃ―――)

「もらった!」

ゾッドの背後にまわったかりんが、跳躍し斬りかかる。
その速度こそ炭治郎とゾッドには及ばずとも、充分に人を超えている。

「ムゥン!」

ゾッドは剣から片手を放し、かりんへと裏拳を放つ。
跳躍しているため、後退することもできず、鎌でゾッドの拳を受けたかりんは、そのまま後方へと飛ばされ壁に衝突した。

「かりん!」
「大丈夫なの!」

すぐに返された返事に焦燥は消え、この隙に反撃の準備へと入る。

ス ウ ウ ゥ ゥ ゥ

炭治郎の呼吸が変わる。
呼吸。この動作が、鬼殺の剣士の『型』の根幹を為す。


(この状況から出せる型はこれしかない!)

刀の角度を逸らし、ゾッドの剣をわずかに滑らせ、身体を捩じることで僅かな空間を作る。

そこから放たれるは

―――水の呼吸、陸ノ型 ねじれ渦

渦巻のような太刀筋をゾッドは剣を逆手に持ち返ることで難なく受け止める。

(まだ終わるな!止められるのはわかっていたんだ!)

―――水の呼吸、弐ノ型 水車

刀を打ち付けた反動で浮かび上がり、宙返りからの回転斬り。それも防がれる。

―――水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き!

着地し、間もなく繰り出される、炭治郎の持つ型の中で最速の突き。尚も防がれる。

(何度防がれても構わない。何度も同じ個所に衝撃を与え続ければいつかは折れるんだ)

己より格上の相手にも武器破壊は有効である。剣士である以上、剣が無ければ殺傷力はどうしても落ちるからだ。

(折る。このまま攻め続けて)

『俺は俺の責務を全うする!!』

炭治郎の脳裏に不意に過った煉獄の影。
もしも彼がこの場にいれば、自分に構うことなく折れと断じるだろう。
だが、刀は持ち主の信念が込められたものだ。炭治郎の目に焼き付いたあの大きな背中に、信念に刃を振るうこと自体に一瞬だけ微かな拒否感を抱いてしまう。
そう。瞬きにも満たぬ一瞬だ。けれど、その一瞬が勝負の明暗を分けてしまう。

「―――ヒノカミ神楽」
「ヌゥン!」

ゾッドが身を捩じり、刀身の角度を変え炭治郎の突きを逸らす。
先の炭治郎と似たような受け流しだが、しかしゾッドは余力を充分に残していたのに対し、炭治郎は全力の突き。
それが逸らされれば嫌が応にも態勢は大きく崩れてしまう。


がら空きになった炭治郎の胴体目掛けて、ゾッドは刀を振り下ろした。

―――トリックアンドトリート

炭治郎の身体を切断するはずだった刀は、音もなく消え去った。

「ぬっ」
「ははははは!貰ったのだ!」

高笑いを上げるかりんの手には、ゾッドが握っていた筈の日輪刀があった。

魔法少女には個々の固有魔法がある。
魔法少女・御園かりんの固有魔法は窃盗。対象の意識さえ逸れていれば、大抵のものを盗めるのである。

(と...盗れたの...私、やれたの!)
「すごい...凄いぞかりん!」
「フハハハハハ!マジカルかりんに盗めないものなどないのだ!!」

魔法のことを知らない炭治郎は純粋に驚愕と称賛を抱き、それを受けたかりんはエヘンと胸を張る。

「さあ、ぼさぼさ筋肉お化けよ。もはや貴様に戦う術はない。大人しく我らに従うのだ」

高揚した気持ちのまま、かりんはゾッドに降伏を迫った。

「...なるほど。個々で劣ろうとも、貴様ら二人が合わされば、俺より剣士としては一枚上手というわけか」

淡々と、悔しさなど微塵も見せぬほど平静にゾッドは一人言ちる。

「然らば貴様らであれば我が渇きを埋めることが出来るのか...試させてもらう」

―――ゾワリ

炭治郎とかりんの全身に怖気が走り産毛という産毛が瞬く間に逆立つ。
彼らは感じ取っていた。
ゾッドから放たれる気配が今までとはまるで別物になっていくことに。
かりんは魔女の、炭治郎は上弦の鬼と相対した際の感覚を覚える。

メキメキとゾッドの身体が変化していく。

ただでさえ巨体だった身体が二回り以上大きくなり、全身が黒く硬い毛に覆われていく。
人間の様相を象っていた顔からは1対の巨大な角と牙が生え、臀部からは巨大な尻尾が生えていく。

その姿は、まさに悪魔。見る者全てに抱かせる感情は、恐怖。

「さあ...ここからが真の戦いだ。俺を失望させてくれるな」


メキメキと身体が軋む音がする。
振るわれた剛腕は獲物を捉え、勢いよく吹き飛ばしていく。

「炭治郎!」

吹き飛ばされた炭治郎に駆け寄る間もなく、ゾッドの巨腕がかりんへと振るわれる。

「わわっ」

咄嗟に回避するも追撃は止まらない。
休む間もなく振るわれる腕は、徐々にかりんを死へと近づけていく。

(このままじゃ駄目なの。どうにか反撃を...!)

痺れを切らしたかのように、ゾッドの両腕がかりんを挟み込むように振り下ろされる。
好機。
かりんは跳躍し、ゾッドの頭上を飛び越した。

(これなら振り返る前に間に合うの)
「キャンディーデススコ」

放とうとした魔法は、しかし腹部を襲う衝撃に中断される。
尻尾だ。ゾッドの鞭のように長くしなる尻尾がかりんの腹部を叩いたのだ。
かりんの身体は地面を跳ね、態勢を整える隙すら与えられず、ゾッドの殴打がかりんを襲った。

吹き飛ばされるかりんはそのまま立ち上がろうとしていた炭治郎へと衝突し、互いの骨を軋ませる。

「どうした。これまでか?これで終わりなのか貴様らは」

足音を響かせながら歩み寄るゾッドに、炭治郎はふらふらと身体をよろめかせながらも立ち上がる。
チラ、とかりんへと目をやれば、魔女っ子染みた衣装は元の服装に戻り、頭部と口端から血を流しくるくると目を回していた。
これ以上彼女を戦わせれば命に関わってくるだろう。
退くわけにはいかない。炭治郎は、刀を強く握りしめゾッドを見据えた。

「そうだ。それでいい。俺を退屈させてくれるな」

ニイィと口角を歪め、ゾッドは嗤う。
その笑みに、炭治郎の腹部が煮えるように熱くなっていく。

「退屈...?お前はなにを言っているんだ」

この閉鎖空間で強制された殺し合いに怯え、己の命を守る為に神子柴の言葉に従うのならばまだわかる。
だが、この男は『退屈』などと宣った。炭治郎にはそれが理解できなかった。

「戦いこそが我が愉悦。強者の血こそが俺の渇きを埋めるのだ。容易く散る命であるならば、せめて微かにでも俺の渇きを埋めてみせよ」

放たれた言葉は私欲そのものだった。
一方的で、横暴極まりない我欲。
炭治郎の腹部に留まっていた感情は、一気に脳天にまで噴出した。

「命はお前の玩具じゃない。失われれば二度と戻らないんだ。ゾッド、俺は命を踏みつけにするお前を絶対に許さない!!」

響く怒声に、しかしゾッドは微塵も怯まない。
愉悦の笑みも止まらない。

「グハハハハハ!俺を許さない?ならば貴様は何ができる!?」
「お前に誰も奪わせない!罪なき命がお前の欲に踏みつけられる前に、俺がお前の首を斬る!!」
「ならばこれ以上の問答は不要。俺の屍を踏み越えてみせよ!」

ゾッドの口上が終わると同時に、弾けるように炭治郎が駆け出す。

ス ウ ウ ウ ゥ ゥ ゥ

炭治郎の呼吸が変わる。
放たれるは、水の呼吸ではなく、もう一つの呼吸。
持久力と引き換えに破壊力を手に入れた、父から授かった呼吸法から放たれるは、攻撃の威力を一点に集中させる突き技。

―――ヒノカミ神楽 陽華突

高速で迫る炭治郎の突きに、ゾッドは両腕を盾のように構えることで迎え撃つ。
剣が、ゾッドの右腕に突き刺さった。

(このまま型を切り替えろ!腕を斬るんだ!)

「ヒノカミ神楽―――」

炎舞。放たれる筈だったそれは、しかし剣が動かず。
ゾッドの筋肉は、貫かれてなお衰えず、炭治郎の剣を挟み込んでしまったのだ。

「この俺に守りの型を取らせるとは...貴様の命、渇きを埋めるに値する!」

ゾッドは空いた左腕で、炭治郎の腹部を狙う。

躱しきれない。炭治郎は己の死を覚悟する。

ドスリ、と鈍い音が響き炭治郎の腹部が赤く染まる。

が、しかし

「......!?」

ゾッドの手に、肉を割く感触は感じられなかった。当たったはずなのに、なぜ。
ドサリ、となにかが落ちた音がその答えを彼に伝えた。

落ちたのは、ゾッドの毛深く太い左腕だった。

ゾッドの腕の切断面から遅れて血が流れ、それを押し付けられた炭治郎は蹲り大きく息を吐く。

(いつの間に斬られた...?この小僧ではなく、あの小娘でもない。ならばこれは...)

ゾッドの視界の端で、バサリ、と白の外套がたなびいた。

(乱入者か。俺の意識外からとはいえ、斬られた感触すら与えんとはな)

ふらふらと立ち上がり、事態を遠目に見ていたかりんはぽつりと呟いた。

「ヒーロー...なの」



堂島正はヒーローに憧れていた。
子供の頃にテレビで見た、世のため人の為に戦うかっこいいヒーローに。
それに一番近いのは医者だと思っていた。
どんな人間の命も救う。そんな正義の象徴のような人間がいるだけで、きっと世の中は良くなると信じていた。
けれど、事はそんな単純ではなかった。
医者とは命を扱う仕事である。当然ながら、手術のひとつとっても全てが成功するとは限らない。
難病の治療に成功したところで、同じ治療法で全ての人が救えるわけではない。
99%成功する手術でも、予期せぬ出来事で残りの1%を引き当ててしまうこともある。
あと数秒早く手術を始められれば助かったというケースもある。
結局のところ、人が一生のうちに救える人間の数など数えられる程度だ。
だから、救える時があれば救えない時もあると割り切るしかなかった。
とある少年が抱えていた、手術の成功率が5割の病気を治した時だって、特別嬉しく思えなかった。

その少年、佐神善との出会いが、堂島の価値観を少しだけ変えた。

最初は彼に対してもなにも感じていなかった。
退院してからも、病弱の幼馴染、糸葱(あさつき)シスカに会いに病院に通っていたのを見かけた時だって、時期に来なくなると思っていた。
けれど、彼は何度も足を運んでいた。毎週必ず、雨の日でも雪の日でも。小学生から中学生に、高校生になってもずっとお見舞いに足を運び続けた。

そんな彼に次第に興味を持った。
どうしてそこまで気を配ってやれるのか、食事でもしながら話を聞いてみたかった。
聞けば、大層な理由もなかった。『シスカに元気になってほしい』。ただそんな優しさだけで彼女のもとへ足を運んでいたと分かった時、堂島は嬉しくなった。
優しさに溢れた命を救うことが出来たんだという、医者の喜びに改めて向き合えた。
シスカに対してもそうだ。
彼女の病気は何度手術をしても治らなかった。堂島自身、先も長くないとどこか諦めていた。今でも完治する確率は低いと見立てている。
けれど、確信していた。
善の優しさがシスカの支えとなっており、ある晴れの日に彼らが手を繋いで退院してくれることを。

割り切っていたはずの感情が、再び蘇ってきた。
彼のような優しい命を救いたい。その優しさで傍の人を救ってほしい。そんな者がいれば、きっと世の中は綺麗になるんだと。
それが医者である自分の本来の願いだったのだと。

その一方でこうも思う。
彼らと真逆の、その一人がいることで何人もの命を害する者がいる。
そんな者達がいなくなれば、どれだけの命が救われるだろうと。
医者である以上、そういった者たちが運び込まれてくれば手術もするが、これから悪党に奪われる命を見捨てていいものか。
否。
悪という病巣は野放しにできない。
一人で全てを狩りつくすのは無理だとしても、恐怖を植え付けることで抑制することはできる。
だから、堂島は偶然手に入れた吸血鬼(ヴァンパイア)の力を使い、悪人を切り殺してきた。
悪に奪われるであろう命を穢させないために。悪事を働けば殺されるという恐怖を病巣共に植え付けるために。

『医者』という正義と『悪党狩り』という恐怖。その二つを象徴する存在であり続けることこそが、彼の望む『ヒーロー』の在り方だった。


そしてそれは殺し合いに巻き込まれても変わらない。
老婆の語った報酬、死者の蘇生には微かに心が傾いた。愛する家族を取り戻せるんじゃないかと。
けれど、そんなものはまやかしだ。所詮は老婆の掌の人形でしかない。
だから堂島の方針は変わらなかった。『悪を斬る』。当然、その悪にはあの老婆も入っている。

名簿には知った名が幾つかあった。

ドミノ・サザーランド。狩野京児。加納クレタ。芭藤哲也。そして―――佐神善。

クレタと芭藤は確かに死んだはずだが、この殺し合いの為にわざわざ蘇らせたのだろうか。なんにせよ、彼らは間違いなく人々に危害を加える。斬り捨てておくべきだ。
ドミノと狩野京児は燃然党の中では残忍残酷と評判が悪いが、民間人には被害を及ぼしたという話は聞かない。あの老婆を討つ為に手を組むことも考えよう。
再三警告しても善を戦いに巻き込む以上、一時休戦、以上の関係は作ろうとは思わないが。

そして善。彼は死なせない。必ず生かして返してみせる。

方針を定めた堂島の耳に、ほどなくして戦闘音が届く。
彼はすぐに吸血鬼の姿に変身し、急いで現場へと足を進めた。
もしも善がそこにいれば必ず戦っているだろう。死なせる訳にはいかない。

やがてたどり着いた先に見たのは、巨大な怪物に刀を構え対峙する少年。その背には傷ついた少女が倒れている。


「命はお前の玩具じゃない。失われれば二度と戻らないんだ。ゾッド、俺は命を踏みつけにするお前を絶対に許さない!!」

声が聞こえた。怪物に臆することなく響く、少年の声が。

「お前に誰も奪わせない!罪なき命がお前の欲に踏みつけられる前に、俺がお前の首を斬る!!」

遠目に見ていてもわかる。少年と怪物には如何ともし難い実力差がある。
あのまま戦い続ければ、確実に少年は死ぬ。
けれど、彼は立ち向かうのだろう。
剣を振るうことで救える命があるのなら、彼はその身を傷つけても戦うのだろう。

彼のように―――佐神善のように。

「...ハッハッハッ」

思わず笑いがこぼれる。
果たして生涯のうちに、あそこまで他人の為に身体を張れる人間に何人が出会えるだろう。
自分は幸運だ。善のような少年に二人も出会えたのだから。

「だったら、死なせる訳にはいかないな」

堂島は駆け出した。己の正義を貫く為に。『善』を摘む悪を罰する為に。
そして彼は―――怪物の左腕を斬り落とした。


「素晴らしい剣技だ。俺の腕をこうも容易く断つとはな」

ゾッドは斬り落とされた左腕を拾い、切断面同士を合わせた。
すると、たちまち皮膚と筋繊維が修復され、左腕はあるべき場所へと戻った。

(ドミノと同レベルの再生能力か...吸血鬼ではないようだが)

堂島自身、吸血鬼という異端だが、ゾッドから発せられる禍々しい気配は今までに感じた類のモノではなかった。
ならば一体これは...

(なんにせよ、思ったよりも手強そうだ)


「ありがとうございました。俺は竈門炭治郎と言います」

突然の異形の来訪者に面食らった炭治郎だが、ひとまずは助けてくれた礼を言おうと頭を下げた。

「あの、あなたはいったい...?」

困惑する炭治郎の問いに、堂島は仮面の奥で笑顔と共に返した。

「ヒーローさ」

【F-6/1日目・深夜】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2、右腕に刺さった大柴ソウスケの日本刀@デビルマンG(炭治郎の支給品)
[行動方針]
基本方針:本能の赴くままに戦う
1:乱入者(堂島)と戦う

※参戦時期は15巻くらいからです


【堂島正@血と灰の女王】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3 
[行動方針]
基本方針:悪を滅ぼし正義を生かす。
1:炭治郎たちを救う。
2:善を生還させる。ドミノと狩野とは積極的に争うつもりはない。

※参戦時期はドミノと内通の契約を結んだ辺りです。

【御園かりん@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]頭部出血(中)、全身にダメージ、気絶寸前、疲労(大)、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃(ゾッドの支給品)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3 
[行動方針]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:アリナ先輩を探すの。七海やちよも恐いけど探すの...
1:炭治郎と行動するの。
2:ぼさぼさ筋肉おばけ(ゾッド)、恐いの...
3:ヒーローが現れたの...!

※参戦時期はアリナがマギウスに所属しているのを知る前からです


【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]出血(中)、全身にダメージ、打撲(中)、疲労困憊
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[行動方針]
基本方針:殺し合いを止める。
0:ゾッドに怒り。被害が出る前に倒す。
1:善逸、伊之助、玄弥、時透、天元との合流。
2:かりんと行動し知人を探す。
3:鬼舞辻無惨を斬る。鬼を斬る。


※参戦時期は柱稽古の辺りからです
※鼻が利く範囲が狭まっています。

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[[]]

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コイントス

前話 名前 次話
START ゾッド [[]]
OP 堂島正 [[]]
START 御園かりん [[]]
OP 竈門炭治郎 [[]]
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