それぞれのブランチ ◆Jnb5qDKD06



 白銀の世界。真夏の雪原。
 白レンの世界であり、唯一存在を許される場所だ。
 人の闇を具現化するその世界は知的生命体にとって悪夢に他ならない。
 ある時は殺人鬼、ある時は魔獣、ある時は魔導士の暗黒面(ドッペルゲンガー)。
 シルバーカラスとの戦いを終えた後もその白銀の世界は悪夢を生み出し続ける。そして今悪夢を生み出している白レンは────

「今日はマサチューセッツ州の人間から新鮮なアサリを使ったクラムチャウダーが取れたわ」

 炬燵に足をいれ、両手を合わせてご飯を食べていた。
 炬燵の上には白いスープと茹でたロブスターが積まれており、反対側にキャスター……ドッペルアルルが座っている。

 クラムチャウダーはアメリカ東海岸のニューイングランド、つまりマサチューセッツ州発祥の料理であり、牛乳をベースとした白いクリームスープである。
 アサリとタマネギ、ジャガイモを細かく刻んでバターで炒めた後、小麦粉と牛乳を入れてクリーム状になったら上からパセリを載せるものがオーソドックスであるが、夢の主はこれにニンジンとキャベツを加えたアレンジを行っている。

「カニではないけど新鮮なロブスターが取れたのも幸運だったわ。流石にここならあのブサイクネコに喰われないし!」

 ロブスターは日本の食卓には馴染みの薄い食材であるが、日本でいうところのカニに近い。触感もカニに近いらしく茹でたロブスターをバターにつけて食べたり、レモン汁に付けて食べるという。
 他にも炬燵の上にはタラやマグロの刺身、アサリをふんだんに使ったパスタなどが並んでいる。
 いっただきまーすと挨拶をして食器を持った白レンにキャスターは至極当然の疑問を口にした。

「キミ、本当に猫なの?」
「猫よ。厳密には違うけど」
「猫がタマネギとか海鮮類食べて大丈夫なの?」
「あのブサイクネコは食べてたし大丈夫でしょ」

 そういって白レンはクラムチャウダーを手に付け始めた。
 作り立てなのか温かく、木製のスプーンで一口、二口と口へ運んでいく。
 ドッペルゲンガーアルルもぱく、ぱく、ぱくとロブスターを口にしていく。

「カレーの夢は無いの?」
「カレーライスの悪夢ってどんな夢よ」
「それを言ったらこの食卓そのものがアウトじゃない?」
「失礼ね。漁に不安を持つ漁師はたくさんいるのよ。漁業の神様なんてものまで作られるくらいにね。このあたりにも確か古い神様を信仰している漁村があるらしいわ」
「カレーの神様はいないのかい?」
「そんなもの聞いた事無いわよ。いたとしても信仰しているのはせいぜいあのシスターくらいよ」
「あのシスター?」
「何でもないわ、こっちの話よ。それよりどうしましょう?」
「ボクはホタテとタラをいただくよ」
「違うわよ! 聖杯戦争の話よ!!」

 先ほどマスターの一人と戦闘し、今は魔力と体力を回復するために休息を取っている。
 これからどうするべきか。他に協調性がありそうな走狗(マスター)を探すべきなのだが、生憎とそんなに簡単には見つかりそうも無い。
 いや、それよりも急を要する事案がもう一つ。

「タタリの真似事をしている奴がいるわね」
「マスターより強力じゃない? 昼間に出てくるし、サーヴァント並に強い奴もいるし」
「失礼ね! あれは強力じゃなくて見境が無いっていうのよ!
 あんな何でも作るようなはしたないのなんて格下よ!」

 誰かが悪性情報を具現化している。おそらく力の大きさからしてサーヴァント。そのせいで真夏の雪原にも影響が出ていて「現実化するほど明確な悪夢を呼び起こす」レンの能力が発揮できないでいる。
 猫は自分のテリトリーを荒らされるのは気に入らない。荒らす者を許さない。

「誰だか知らないがこの迷惑料は高くつくわよ」

 クラムチャウダーのアサリを飲み込んでレンはまだ見ぬ誰かに呟いた。


【???/1日目 午前】
【白レン@MELTY BLOOD】
[状態]まあまあ
[精神]すっきり
[令呪]残りみっつ
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:
1.回復したらどうしようかしら
[備考]
※固有結界は、魔力があるなら勝手に出入りできるみたい。マスターだけ閉じ込めるのは難しいかも。
※シルバーカラス及びそのキャスターと宝具『反魂蝶』を目撃しました。
※アーカム全域を覆うタタリの存在に気付きました。

【キャスター(ドッペルゲンガーアルル)@ポケットぷよぷよ~ん】
[状態]ばっちり
[精神]かれー食べたい
[装備]装甲魔導スーツ
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
[備考]
※シルバーカラス及びそのキャスターと宝具『反魂蝶』を目撃しました。




       *       *       *



 白い少女とやり合った彼、シルバーカラスはスシ屋に入った。

「Hey ラッシャイ!!」

 黒人のイタマエが来店したシルバーカラス=サンに声を掛ける。勿論、日本語でだ。
 キャスターの花見の場所取りと、白い少女の追撃を防ぐために寂れたイーストダウンからダウンタウンに入ったシルバーカラス=サンは魔力の補充と少々の休息のためにスシ・バーに入った。
 無人スシ・バーでも回転スシ・バーでもない。

(もしやオーガニック・スシか? そんなに金持ってねぇぞ)

 オーガニック・スシ。魚の切身をネタにしたスシだ。
 シルバーカラス=サンのいたネオサイタマでは高級品である。庶民は粉末状になった魚をネタにしたスシを食う。

(おいおい、イクラ・キャビアが200円とかあり得ないだろ。ここはぼったくりバーか?)

 そう思って席を立とうとした瞬間、声をかけられた。

「隣よろしいですか?」

 振り向くとそこには東洋系の顔をしたマッポがいた。



       *       *       *



 タタリを倒した後、亜門鋼太朗はロウワー・サウスサイドでもう一つの惨状を目のあたりにした。
 砕かれたコンクリートの破片。散らばる肉片。溜まった血。瓦礫の下から聞こえる呻き声。
 サーヴァント同士の戦闘があったのは明らかだ。

「ふざけるな」

 亜門は激怒する。
 この惨状を生み出したことに対してではない。この惨状を放置したことだ。
 戦闘が終わって既に数十分は経っただろうこの場所にレスキューも呼ばず、怪我人を捨てて去ったのだ。
 確かにそれが戦いのセオリーとして正しいと理解はできるものの人として間違っている。
 携帯電話を取り出し乱暴に911のボタンを押した。



       ▼       ▼       ▼



 レスキュー活動が終わり、第一発見者としてダウンタウンの行政区に証拠資料を提出した後、署を出た時には既に午前の終わりが近付いていた。

(少し早いが食べるか)

 早朝より戦闘を行った体はたんぱく質を求めていた。ならば、ハンバーガーショップやホットドッグを食べるのが良いのだろうが、今は日本食が食べたい。
 もしかしたら知っている敵と戦って日本が恋しくなったのかもしれないなと半ば自嘲しながら適当に歩き回ると寿司屋が目に入った。

「マスター! 是非スシが食べてみたい」
「興味があるのか?」
「ああ。生きている時は調和された肉体を保つために食事が制限しててね。スシを食べる機会には恵まれなかったんだ」
「そうか。しかし幽霊に味覚はあるのか?」
「実体化していればね。もしかすると私が実体化して魔力消費が多くなるのは困るか」
「いや、それより他のサーヴァントに見つかる可能性がある方が問題だ」
「あーなるほど確かに…………駄目かな?」

 ランサーが上目使いで指をもじもじする。
 これで鎧と武器が無ければ端から見てマネージャーにねだるアイドルに見えただろう。
 ふーと息を吐く。フェミニストでは無いが、これだけ頼んでいる女性を拒否するのは亜門にはできない。

「店の外から見てサーヴァントの気配が無ければ実体化していい。一応、俺も目で確認しよう」
「了解!」

 破顔するところから察するに本当に寿司が食べたいんだなと亜門はランサーの以外な一面を確認して寿司屋の暖簾を潜る。
 店内の客人はやはり欧米人が多い。
 東京に住んでいたため寿司屋に外国人というのは見慣れているが日本人と外国人の比率が見事に逆転している。

(とりあえず空いているカウンター席に座るか)

 二人しかいないのにボックス席を使うのはしのびない。丁度壁際が隣あって空いている席を発見した。

「隣よろしいですか?」

 隣にいた中年男性に許可を取る。

「…………」

 しまった。つい日本語で話しかけてしまった。
 相手が日本人とは限らないのだ。亜門も日系アメリカ人として通っている以上、相手も同様の可能性を考慮すべきだった。
 反省して英語で言い直そうとすると……

「ドーゾ、お構い無く」

 流暢な日本語が返ってきた。
 日本語が通じてよかったと安堵していると、暖簾を潜ってきたランサーの姿が見えた。

「ランサー、こっちだ」

 そう呼ぶと隣の男性がブッと茶を吹き出した。



       *       *       *



 シルバーカラス=サンは飲んでいた水を吹き出す。
 まさかのアンブッシュだ。まさか他のマスターとサーヴァントが同じスシ・バーに現れるなど予想できようか。
 ランサーと呼ばれた妙齢の女性がこちらへ向かってくる。

(まずい、バレたか)

 流石に今のはイディオット。
 向かってくるサーヴァントはそのまま、シルバーカラス=サンの前に立ち

「大丈夫ですか?」

 心配の声をかける。誰に? 勿論、シルバーカラス=サンにだ。
 右手を上げて制止と大丈夫というジェスチャーをするとそうですかと言って座る。
 念話でキャスターに連絡する。

(おいキャスター)
(なぁにマスター)
(今どこだ?)
(あなたの自宅だけどどうしたの?)
(スシ・バーにはいったら隣にサーヴァントが来た)
(寿司、いいわねぇ)
(イディオットかてめぇは。そこは重要じゃねぇ、サーヴァントの方だ)
(マスターだってバレてないんでしょ?)
(バレる要素はあるか?)
(無いわ、多分)
(そうか、じゃあ一旦切るぞ)
(お土産にお寿司を買ってきて頂戴)
(ボッタクリ・スシ・バーで買うわけねぇだろ)
(私が行ってもいい?)
(来るな)
(来るなと言われると余計行きたくなるわ)
(令呪を使ってやろうか)
(ふふ、冗談よ)

 念話を切る。
 隣ではマグロ、ガリ、ロブスターのオーガニック・スシを食う音が聴こえる。

(今の内にズラかるか)

 三十六計逃げるにしかずと古事記にもそう書かれている。
 アンブッシュでマスターを殺るというのも手だが、このマッポは全く隙が見当たらない。

(いや、待てよ。何も食わずに出るとそれこそ不自然か?)

 スシ・バーに入ればスシを食うのがルールである。
 幸い、横のマスターはマッポだ。ボッタクリ・スシ・バーでもマッポは相手にしたくないだろう。

「タイショー、マグロ一つ」
「ヨロコンデー」

 そう言って一分後くらいにやってきたのは赤いルビーの如き切身を乗せたオーガニック・スシ・マグロだった。
 それを口に運ぶ。ウマイ。ニンジャ味覚が本物のマグロだと言っている。
 一皿、二皿と食していき、三皿目を空にするところでランサーのマスターとは逆の隣の席に青年が座った。
 顔は日系。上から下まで黒く、独特の神秘アトモスフィアを纏っている。

「マグロ一つ」

 ヨロコンデーというイタマエの声がして一分くらい後にスシが青年の前に置かれた。



       *       *       *



 ────話は約数分前に戻る。

 空目恭一とアサシンは戦闘後そのままノースサイドを一通り歩き回り、隣のダウンタウンで休息と軽めの朝食を取るためにカフェに入った。
 カフェでコーヒーを飲んでいる空目にアサシンが念話で話かける。

(マスター。右斜め前方にいるアレ。そう、鎧来ている彼女。サーヴァントですわ)

 見てみると背中に大きなバイオリンを背負った女が寿司屋の中を覗いていた。何を睨んでいるのか、もしや他のマスターが寿司屋にいるのだろうか。

(どうする?)
(どうするも何も無い。放置だ)
(いいの? あの中にあやめちゃんがいてサーヴァントが狙っているかもしれないのに?)

 確かに可能性はある。あやめは『異界』の存在だ。サーヴァントと間違われて襲われる可能性もあるだろう。
 しかし、あやめが一人で寿司屋に向かうヴィジョンが浮かばない。しかし可能性はゼロではない。

「行くか」

 可能性がある以上、席を立つ。
 暖簾を潜るとイラッシャイマセーというカタコトの日本語が空目を迎えた。
 ざっと見渡してみればカウンター席に何人かの欧米人に紛れて日系人の男二人とその奥に先程のサーヴァントが座っていた。
 とりあえずあやめはいないようだ。サーヴァントの3つ隣のカウンター席に腰掛けマグロ一つと注文する。
 寿司が来る間にアサシンとの念話を開始する。

(どうやらあやめはいないらしいな)
(で、どうしますマスター。あれの隣にいるのマスターらしいですわよ)
(戦う必要は無い)
(いえいえ、そうではなくて警官ということはあやめちゃんが保護されている可能性があるのでは?)
(無論、その可能性もある。しかし、あやめのような人間とも英霊(オマエタチ)とも異なる存在の関係者という時点でマスターであると言っているようなものだ)
(同盟を結ぶというのは?)
(……相手に依るだろう。この蠱毒で積極的に相手を殺そうという相手には通じん)
(一応、警官みたいですわよ?)
(経験上、権力のある機関に人格を求めるのは間違いだと知っている)
(それでは現状は放置かしら)
(一応の接触は試みる。だが、決裂したらお前の宝具でサポートしろ)
(了解ですわ、魔王閣下)

 念話を切って茶を啜る。
 聞き耳を立ててサーヴァントとそのマスターの会話を盗み聞きすることにした。



       *       *       *



「美味い。美味いぞマスター!」
「日本の食べ物を喜んでもらったなら何よりだ」
「ああ、日本にいたことはあったんだが。スシを食う機会に恵まれなくてね。ネコ缶やら廃棄するハンバーガーばかりさ」

 流石に最後のは冗談だろうと思って流しつつ、亜門もエビを注文する。

(そういえば日本食も久しぶりだな)

 このアーカムは北米らしい。そのためいつもホットドッグやハンバーガー、フランクフルトなどを食べていたから久しぶりの寿司は楽しみだ。
 もしかしたらランサーじゃなくて自分が来たかったのかもしれないな
 そう思いながら茶を入れ、醤油を垂らし、箸を割って握られたエビの寿司を口へと運ぶ。

「かッ────!!」



 そして亜門は思い知る。



 自分の慢心を、こんな寿司屋で何も起きないだろうとタカを括っていた自分の油断を。



(なんッ……だ……これッ……は……)



 いや亜門は知っている。



 与えられた衝撃で体中の体液が頭部へと凝集し、遂には体制御を振り切って涙腺から溢れ出し、苦悶が苦痛へと変容する。



 聖杯戦争の知識として与えられ無かった亜門を追い詰める最悪の天敵。



「マスター?」



 ランサーがマスターの様子に気づくがもう遅い。
 彼は食らってしまったのだ



 『ワサビ』を!!



 亜門は忘れていた。寿司にはワサビが塗られることを!
 亜門は知らなかった。アメリカではワサビが人気でこの店では大量にワサビが塗られることを。
 日本食というホームグラウンドにいた慢心がもたらした緑色の辛味は甘党の亜門の味覚を破壊する。

「──────!」

 発作的にガバッと茶を飲み、今度は茶の熱さに悶絶する。
 淹れたて熱々の茶は舌を、というか口を蹂躙し喰種ではない人間の亜門はこれに耐えられない。

「グッ!!!」

 コントの如き滑稽な状況だが、本人に取っては大真面目だ。火傷と辛味に耐えて、絞り出すような声で寿司を握っている職人に告げる。

「大将……」
「ワッツアップ?」
「水を…………ください」
「ヘイ、おまち」

 今度は差し出された水を一気に飲んだ。



       *       *       *



 シルバーカラス=サンはイクサの気配が無いと分かると席を立った。
 隣でワサビショックしているマスターとそのサーヴァントは特に害は無い。ワサビショックしている今ならアンブッシュの一撃で殺せるだろうが、そんなことよりタバコだ。


 ────というのはタテマエだ。問題はその逆。
 シルバーカラスの危険信号はランサーのマスターと反対側に座った少年に向けられていた。ニンジャ第六感が逃げろと言っている。
 この場で最強の存在は間違いなく右2つ隣に座ってオーガニック・スシを食っているランサーだ。それは間違いない。
 なのに何故、モータルにしか見えない少年にニンジャ第六感がアラートを鳴らすのか。
 理屈は不明。理解は不可能。しかし、シルバーカラスとしてはこの第六感を信じる。


「全部で6$ドスエ」
「ハイヨ」
「アリガトウゴザイマシタ」

 雨が降り出しそうな曇天。キャスターへの土産のオーガニック・スシ・パックを持ってアパートへ向かった。


【ダウンタウン・スシ・バー/1日目 午前】
【シルバーカラス@ニンジャスレイヤー】
[状態]平常
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]「ウバステ」
[道具]スシ
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。
1.陣地構築のため、候補となる地点へ向かう。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァント(リーズバイフェ)を視認しました。名前や正確な情報は持っていません。
※空目恭一を見ました。空目恭一に警戒を抱いています



       *       *       *



 西行寺幽々子はマスターの指示通りイーストタウンのアパートで待機していた。

「今日は多いわねぇ」

 死霊が増えていた。それも十や二十ではきかない。凡そ3桁に近い数の死者が街全体から出ている。


 この時、西行寺幽々子は知りもしないが『固有結界タタリ』によって各地で大なり小なりのタタリが登場していたのである。
 無論、他のマスターが撃滅したことで被害を防げた例もあるが、それでも倒されなかったタタリによって犠牲者は出続けていた。


 NPC達はこの聖杯戦争に用意された駒であるが、同時に本物の人間である。
 死ねば死霊が生まれるし、無念を宿せば怨霊となる。

「南東ね」

 幽霊であり冥界の統率者である彼女はそういったものがどこから溢れているか理解できる。つまりどこで大量の死者が出たかが分かるということだ。
 無論、死者というものは生者がいる限り産み出されるものであるし、不幸な事故ということもあるだろう。しかし、怨霊が明らかに局所に偏っていればそれは他殺であり同時にそこで殺戮が起きたと言ってもいいだろう。

 『西行妖』は血を啜ることで条理から外れた妖怪桜である。故に魂や魔力を養分として開花するため生やすならば数多の死者が出た場所が良い。
 もしも、そこでサーヴァント同士の戦いがあったならば当然、飽和した魔力が漂っているはずだ。なお条件として優れている。

 マスターの帰ってきたら南東────すなわちロウワー・サウスサイドへ行ってみよう。



 この時、もしも西行寺幽々子がもっと死霊達を細かく見ていれば不自然な死霊が混ざっていることに気付いただろう。
 〝異界〟の出身にして死者である彼女を。



【イーストタウン/1日目 午前】
【キャスター(西行寺幽々子)@東方Project】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]扇
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーカラスに付き合う。
1.妖怪桜を植える場所の候補にロウワー・サウスサイドを挙げる。
[備考]
※各地に使い魔の死霊を放っています。



       *       *       *



 隣の男性がいなくなった席に一人の少年が座った。
 無論、食事の後はまだ残っているし片付けなどされていない。
 礼儀にうるさい日本人として、ましてや今は警官である亜門はこの若者に何か言ってやらねばなるまいと口を開きかけた時────

「黒髪で臙脂のケープを着た少女を見なかったか?」

 少年が先に口を開いた。そして亜門は眉をひそめ、怪訝な眼差しを少年に向ける。
 前置きも無く質問する少年の口調、そして態度は図々しさを通り越して相手の状態に対する無関心と言っていい。
 だが、それ以上に異常なのは質問の内容だ。この北米のアーカムで黒髪に臙脂のケープの少女のNPCなどそうそう出てくるわけも無い。
 日本のアイドルグループがいるらしいが、彼らとて日本の伝統衣装で出歩いているという話は聞かない。
 ならば、この質問が意味するところはつまり────いや、待て。まだ決まったわけじゃない。
 必死に慣れない作り笑顔を浮かべ、少年に返答をする。

「知らないな。その子はお友達かな? 一体どうしたんだ?」
「ここ数日ほど行方がわからん。アーカムにいることは確実だから警察に保護されているかと思ってな」
「すまないがそんな特徴の少女を保護したとは聞いていない」

 事実だった。亜門はこの聖杯戦争で魂喰いをする者を倒すと決めた時に手配犯や聖杯戦争に関わると思しき事件の関係者を洗ったが黒髪で燕尾服の少女などいなかった。

「そうか、見つけたらこの番号に連絡をくれ」

 そう言って電話番号を渡すと少年は全く興味を無くしたというように席に戻った。
 そして亜門はいつの間にか自分の右手がクインケの入ったトランクを掴んでいることに気付いた。



       *       *       *



 席に戻ると未だに怪しむ警官の視線を無視して食事を再開する主へ八雲紫は念話で囁いた。

(魔王閣下は豪胆ですわ)
(何がだ?)
(彼女。いつでも飛び出せるように臨戦状態でしたよ)
(そうか)
(マスターの方も何か持ってますわ。武器かしら?)
(興味ない)

 今、銃口よりも危険な物が自分に向けられていたと告げられていてもあるのは無関心。その様子に八雲紫は苦笑する。
 言うまでも無いが空目恭一は撃たれれば死ぬし、飯を食わなければ餓死する。それどころか女と力比べで負けるほど華奢だ。
 そして空目はそんな自分の脆弱さは理解している。大丈夫。何とかなる、などと都合の良い妄想や危機感の麻痺に陥ってなどいない。
 つまり空目恭一という男は自身の生死すら無関心なのだ。死んだ? ああ、死ぬべくして死んだのだろうな。そう割り切って生きられる異常者。
 改めて述べるが諦観や妄想の類で精神状態を維持しているのではない。強いていえば達観、或いは狂気だろう。幼い頃に〝異界〟という世界の裏側を知ってしまった彼は心をあちら側に置き去りにしてしまっている世界不適合者である。
 そして実質、〝異界〟側の人間である彼はこちら側の事に興味を抱けない。ましてや他人の心情等に気づくはずも無い。
 彼の周りにいた人間はさぞかし苦労させられたでしょうねとここにいない彼の仲間に同情の念を送る。

(あやめが警察に保護されていないことはわかった)
(それじゃあもうお開き?)
(そうだな、一度睡眠が必要だ)

 生まれた時から妖怪であった八雲紫には分からないことだが、未明の時刻から今まで歩き通したマスターの体は休息を要求しているのだろう。
 わかりましたわと呟いて念話を終了した。

 そして空目は最後に皿に残っていたイクラを食べて勘定を払いに席を立った。




       *       *       *



 一体先程の少年は何だったのか。
 ランサーことリーズバイフェ・ストリンドヴァリはあの少年に対し確かに危機感を感じた。これが聖杯戦争だから、怪しい人物だから警戒したと済ませてしまえば単純だがリーズバイフェの勘は否と断じた。
 あの華奢な四肢から推察するに身体的な戦闘能力は極めて皆無。機械の戦闘義肢でないことは足音や動きから確認できた。
 ならば魔術師かと言うとそれも否。魔力は感じず魔術・概念礼装らしきものは見当たらない。
 血の匂いなどしないし何より敵意も殺意も無い。本当に聞きたいから聞いたという事務的な口調だった。

 しかし、しかし、しかしだ。
 何か無視出来ない違和感を感じたのは間違いない。
 起源覚醒者、ただの魔眼保有者、或いは魔術を全く知らぬ異端者を相手にしているような感覚でありながら、そのどれとも違う。
 リーズバイフェは職業柄膨大な数の異端と神秘、奇蹟を扱ってきた。だからこそ、この少年の〝知識では拭えぬ何か〟を見過ごすことが出来ない。
 つまりあの少年は〝計り知れない〟のだ。現実に存在しながら現実に当て嵌める枠組みが存在しない者。
  だからこそリーズバイフェは臨戦体勢に入っていた。視線も表情も変えず、だがいつでも飛び出せるように。
 しかし結果は何も起きらず肩透かしを食らった気分である。

(私の勘も鈍ったかな…………)

 そう思って最後のマグロを注文した。これで十四皿目だった。


【ダウンタウン・寿司屋/1日目 午前】
【亜門鋼太朗@東京喰種】
[状態]正常
[精神]落ち着いてきた
[令呪]残り3画
[装備]クラ(ウォッチャーによる神秘付与)
[道具]
警察バッチ、拳銃、事件の調査資料、警察の無線、ロザリオ
[所持金]500$とクレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:アーカム市民を守る
1.他のマスターとの把握
2.魂喰いしている主従の討伐
3.白髪の喰屍鬼の調査
[備考]
※調査資料1.ギャングの事務所襲撃事件に関する情報
※調査資料2.バネ足ジョップリンと名乗る人物による電波ジャック、および新聞記事の改竄事件に関する情報。
※神秘による発狂ルールを理解しました。
※魔術師ではないため近距離での念話しかできません。
※警察無線で事件が起きた場合、ある程度の情報をその場で得られます
※シルバーカラス、空目恭一を目撃しましたがマスターだと断定はしていません。
※空目恭一の電話番号とあやめに対する情報を得ました。あやめを保護した場合、彼に連絡します。

【ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]健康
[精神]寿司うめぇ
[装備]正式外典「ガマリエル」
[道具]なし
[所持金]無一文
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと同様
1.タタリを討伐する
2.キーパーの正体を探る
[備考]
※女性です。女性なんです。
※秘匿者のスキルによりMELTY BLOOD Actress Againの記憶が虫食い状態になっています(OPより)
※『固有結界タタリ』を認識しましたがサーヴァントに確信を持てません。
※空目恭一に警戒を抱いています

【空目恭一@Missing】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]学生レベル
[思考・状況]
基本行動方針:あやめを探す
1.ノースサイドでも探す
[備考]
※邪神聖杯戦争の発狂ルールを理解しました
※既に人ではない彼はSANチェックに対して非常に有利な補正を得る。
 あるいは、微細な異常ならばSANチェックを無視できる。(ただし、全てのSANチェックを無視する事はできない)
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
 四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァントを目視しました。

【アサシン(八雲紫)@東方シリーズ】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]番傘、扇子
[道具]牛王符(使用済)
[所持金]スキマには旧紙幣も漂っていますわ。
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.マスターの支援
[備考]
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
 四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァントを目視しました。



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008:Horizon Initiative 白レン&キャスター(アルル・ナジャ(ドッペルゲンガーアルル) : 
シルバーカラス&キャスター(西行寺幽々子 :
004:アーカム喰種 亜門鋼太朗&ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ 021:Pigeon Blood
010:妖怪の賢者と戦姫 空目恭一&アサシン(八雲紫 :

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最終更新:2016年10月16日 00:33